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魔王の懐刀  作者: 節兌見一
妖物たちの世界
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蟲の王

 イゾウが奇奇怪怪と遭遇する日の前の晩。聖なる壁から30キロほど離れた森において、数十億匹、数億種類のありとあらゆる蟲が集まる一大サミットが起こった。もちろん、この怪奇現象はバグの仕業である。

 バグは蟲を支配する。バグは蟲の暴君なのである。暗殺者としての分を弁えてはいるが、彼は従来の蟲のヒエラルキーの頂点を媒介として蟲世界の半分以上を水面下で征服していたのである。彼の存在自体が蟲社会の支配体制であり、彼の体は蟲の共有コロニーなのだ。

 蟲の王になる。この新しい形での蟲の支配は、バグが大師匠の元で学んでいた頃に考案したものであった。自分の命令に絶対服従する分身の呪いをかけた蟲を他の種と交配させて勢力図を増やすという単純な奴隷栽培システムであったが、世代交代が恐ろしく早い蟲の社会においては爆発的かつ絶対の方法であり、さらにバグが考案した、自らの肉体の要所要所を蟲のコロニーへと改造する術と相まって色々と恐ろしいことになっている。

 そのためにバグは思いつきで背中から羽も生やせるし、体から甲虫や寄生虫を射出できるのだ。

 バグのこの方法はかつての蟲術界の(超マイナーな)常識を覆した。従来の蟲術師はあくまでも暗殺に有益な特定の蟲しか使わず、持ち運んでもせいぜい百匹程度だったのだ。汎用性、量、質、全てにおいて圧倒的であったバグは、永い間蟲術師たちの神の座に座り続けた。

 しかし不思議なことに、バグより後にこの術を使用した者は魔界にはいないということになっている。何か決定的な欠点、もしくは何か他の仕掛けがあるかもしれないと提唱する学者もいるが、単に、誰も蟲の穴蔵にはなりたがらなかったからではないかと作者は思う。戦闘に関してならば、強くなる方法は他にいくらでもあるし、蟲は道具だという意識までは彼らの中で払拭し切れなかったのである。どちらかというとバグはやはり異常者であった。

 さて、バグは見事に片腕を勇者に焼き切られてしまっていたが、重症のベクトルを半日かけて近場の安全な巣に移送し終える頃には、体から湧き出した働きアリ達の突貫工事によって腕の骨組みのほとんどが再生されていた。これでも勇者の退魔の魔力によって相当回復が阻害されているらしい。バグの算段によればこのまま患部に繭を張り、血管や神経を繋ぎ直し、肉と皮を再生するという手順を踏んで、完全回復にはあと一月というところである。通常ならば十日で完了する工程であった。

 そういった具合でバグは短い間の片輪をなんとも思わなかったが、問題はベクトルの胸の穴である。戦いの結果は全くの敗北であったと言う他ない。

 ベクトルがあっさりと胸を突き破られてしまったのでやむなく退却したが、バグ自身はまだ戦えたという未練でいっぱいであった。

 しかし、バテレンの謎の術に対して何の抵抗も出来ずに退散してしまったのも事実であり、現に大師匠もあの術の餌食になったのである。加えて、ああいうタイプは恐ろしい奥の手を平然と二つ三つ隠し持っているに違いないのである。

 仮にバテレンが何か奥の手を一つでも持っていたら、バグには一対一では勝ち得ないことをバグは自覚していた。嬲り殺しは必至である。実際、あの場にはバテレンと勇者以外に四六も透明状態で潜伏していたので、その判断は正しかったと言えよう。

 寝台でぐったりと動かないベクトルを見て、バグは自らの無力さを呪った。ベクトルが毒や致命傷で死ぬような男ではないのは分かっているのだが、バグの心に渦巻くのは熱の籠った呪いであった。

「わしも老いぼれたか。失ってばかりではないか」

老いという絶対的な諦観を背負いつつも、バグは語気にはまだ復讐の炎が燃え滾っていた。

 そしてその時のために、バグは脱皮をせねばならなかった。長年独自の研究を続けてきて完成間近の秘術を使い、蟲の神のさらに上の座に上り詰めなければならぬ。

 しかしその前に、目の前のベクトルを何とか助けないことには何も始まらないのだ。バグは一応ベクトルの体内に蟲を放って回復に奔走させているが、そこから先は何もできないのが実情であり、実に困っていた。

 しかし、そんな折にベクトルは胸に穴が開いたまま、突然起きだしたのであった。

忙しくてしばらくは更新が遅れるかもしれません。

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