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魔王の懐刀  作者: 節兌見一
妖物たちの世界
28/128

帝国

遅れました。次回も遅れるかもしれません。

 時を少しとばす。

 バテレンが魔界の奥地に隠された『魔法使いの海』に進入した日から一週間が経過した。

 この時、バテレンは人間帝国教会の神祇官執務室で、魔界遠征中に溜まった雪崩のような事務をこなしていた。もちろんバテレンの魔界遠征は非公式の行動であり、自らの休暇を使って出向いたのである。その間に溜まった仕事に文句を言うことはなかった。

 バテレンが所属する組織は『人間帝国』という新興国家である。役職は『神祇長官』、いわゆる幹部の地位であった。

 魔法が存在するこの世界において、宗教と学問、そして技術はほぼ三位一体といった具合に混ざり合い、地球上では既に失われてしまった「身のある」神権政治が行われている。帝国教会はその実権のおおよそを握っており、大まかに『治安部』、『兵部』、『(魔法技術の)研究部』等のセクションに分かれている。

 バテレンは上記の三つのセクションそれぞれの特性をかねた特殊部隊『クルセイダー』を創設し、無理やり『神祇長官』という役職に滑り込んだ成り上がり者であった。上層部の仲間入りをどうにか果たしているが、まだまだ、といった具合である。だが、帝国上層部の誰からみてもバテレンは野心に滾った男に違いないはずなのに未だ生きながらえているのは、単に運がいいとかそういった類ではなく裏工作において彼の右に出る者がいなかったためである。

 『クルセイダー』。創設してまだ十年も経っていないこの小さな部隊が人間帝国のジョーカーとなるのはそこまで遠い未来ではない。

 さて、『クルセイダー』副隊長であり、科学者でもある『源内(ゲンナイ)』が、バテレンの執務室を訪れた。ゲンナイはひょろりと長い背に白衣と眼鏡を纏った研究者風の禿げ男である。ゲンナイは何枚かの印刷物をバテレンに渡し、バテレンが命じた『研究』についての成果を述べ始めた。だが、その顔は成果を誇るような表情にはとても見えないものであった。

 「申し上げます。例の魔物の首から例の情報を盗み出すのは失敗、失敗でありました。申し訳ございません」

 バテレンは表情を動かさずに、しかし「、やっぱりか。」と言わんばかりの雰囲気の中、口を開いた。

『詳しく』

 ゲンナイは白衣の薄汚いポケットからフィルムのようなものを取り出した。このフィルムは人間界で新開発された『対象の脳から情報を引き出す』魔法がこめられている。

「こちらが例の『大師匠』の脳髄を記号化した結果です。ご覧の通り、魔法技術に関する知識を司るマホツーカイ領域の65パーセントがきれいにだめになっています。恐らく例の魔法の記憶はここにあったものと思われます。『月の書』の解析結果から予想される魔法的情報量と近似しています。」

『なぜ、例の魔法に関する記憶だけが駄目なんだ?』

 バテレンは食いかかるようにゲンナイに問い詰めた。大師匠を『殺してしまった』バテレンにとって、奪い取った大師匠の首(正確には脳髄)だけが『例の魔法』へのとりあえずの手がかりである。

「ここから先は推測の領域に甘んじることになりますが、恐らく例の魔法は大師匠によって何者かに既に継承してしまったのではないかと思います」

『継承だと?』

「はい。魔物の魔法使いがよくやる手で、自らが生み出した魔法に『それを使う権利』と言う概念を発生させるシステムです。かいつまんで申し上げれば、魔法の製作者、及び許された権利者以外の術者を跳ね除ける結界、まあ、魔法版の著作権のようなものですな」

ほんの少しだけバテレンの口元がゆがんだ。悔しさに顔をしかめたのではなく、口元がにやけたのである。

『と、言うことは、『例の魔法』に関する情報は未だ断絶はしていないのだな。』

「はい、恐らくは読み取れた記憶の中に登場するベクトル=モリアと言う弟子がそれではないかと思われますが、こやつ、情報によれば魔王候補のようです』

『モリア!』

「何か心当たりが?」

『奴の息子だ、ゲンナイ。あの馬鹿な魔導師の息子だ。一度会った事がある、そう、『ベクトル』、『ケミカル=モリア』の息子……』

ほんの少しの沈黙の間、バテレンの中でバラバラだった情報のかけら達が指向性を持って動き始めた。そして、とうとう一つの結論に行き着いたのである。

『結局これは私とケミカルの戦いだったのだ。そうか、奴の息子……』

 ケミカルと言う男を知らなかったゲンナイは、ただ指示を仰ぐことしか出来ない。

「いかがなさいます?。神祇長官殿?」

バテレンは即答した。

『今すぐ勇者を呼べ。出来るだけ早く、私はもう一度魔界へ行かねばならないようだ。』

「しかし、勇者は無理です。先日の怪我の治療中でまだ動かせません。こんどこそ洗脳が解けてしまいます」

『だったら『死神』君を起こしてつれて来い。今すぐにだ』

「はい、直ちに!」

バテレンからただならぬ気迫を感じたゲンナイは、『死神』という男の眠る冷凍室へと向かった。

 執務室にはバテレンの力に満ちた独り言が響く。

『奴の、ケミカル=モリアの息子……。フフフ、私は今度こそ手に入れて見せるぞ、究極にして至高の禁断魔法、『異世界召喚』を!』

今回は魔物の定義、種族的な構成についての設定の補足をしようと思っていたのですが、さっき思いついたアイデアのせいで大幅に変わってしまいました。という訳で、今回は補足をお休みさせていただきます。すいません。

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