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魔王の懐刀  作者: 節兌見一
妖物たちの世界
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老魔

ちょっと早めの更新です。あと、本文が三万字を超えました。

 ベクトル=モリアの館の一つはエルフ人種の里が点々と広がる深い樹海の中にあった。

 エルフとは智慧と礼の民であり、古くから魔界の勢力の一端を担ってきた有力民族である。魔界の中で唯一人間との微かな交わりがあり、魔界と人間界において貴重な中立者である。容姿は人間に近く、肌の青白色さえどうにかすれば人間に化けることも可能なほどである。

 魔物には人間憎しの思想を持つものが多く、エルフを快く思わない輩が多くいる訳であるが、彼らを攻撃することは魔界での声望を落とす行為となる。人間と交わりがあろうと、賢く気高く強い者が畏敬されてしかるべきが魔界の掟なのだ。また、そもそもエルフは長寿である上に強力な魔力と優れた魔法技術を持っているため、里そのものと争うことになれば、ただではすまない。例えそれがベクトルであっても、結果は分からない。

 ベクトルがエルフの領地である森林に館を構えられるのは、ベクトルがエルフの血を引いていたためである。ベクトルの白い肌、青い髪はエルフ由来の典型的な遺伝である。エルフは同族の血に対してフレンドリーであり、ベクトルが初めて森に訪れたときも難なく受け入れられた。

 ただ、イゾウやククリのような他種の魔物かつ、危険な能力を持つものは歓迎されない。ククリがエルフの森に入ったときには、鬼の郷からククリの返却を求める使いが訪れて外交問題が発生しかけたということもあり、ベクトルとしては慎重に取引をしなければならない相手であることには変わりない。エルフの森は一度受け入れられれば魔界でもっとも安全な場所とも言えるため、拠点とするためにどうしても手放す気にはならなかった。

 エルフの森は侵入者を嫌い、排除するように出来ている。木や川、空気のような自然物の働きすらもがよそ者を嫌うつくりになっているのだ。道を知らないものにとっては木は無限の壁となり、川は入り乱れて方向感覚を蝕み、植物の吐き出す清浄過ぎる空気は、強制浄化を発生させて毒ガスのごとく身体のあらゆる働きを殺す。天然の要塞といっても差しつかえのない強固で排他的な土地であった。


 さて、何故このような話をしたかというと、その天然の要塞を外から越えて、ベクトルたちのいる館に向かっている訪問者がいたからである。その訪問者にとっては、どこが目指して然るべき場所か手に取るように分かるようであった。エルフですら気付かないような最適の道を的確に選び取っていたのである。

 そして、この訪問に対して最初に気が付いたのはイゾウであった。

 その何者かは不規則な軌道を描きながらゆっくりと館に近付いていく。まるで竹馬でスキップでもしているような軌道の浮遊移動である。

 中庭にてゴーレムの相手をしていたイゾウはその異変に気が付いて、即座にゴーレムの首を落とし、迎撃の邪魔にならないようにしてしまった。エルフですらベクトルの館には近づかなかったため、異常であることに違いなかった。

「誰だ。」

言葉が通じる相手とは、その移動の軌道からは予想できなかったが、お約束である。

 イゾウの言葉に耳を貸すようなこともなく森の暗がりから出てきたそれは、老人のような魔物であった。少なくとも人型、イゾウはそう認識した。ただ、四肢を天から糸でつるされているような奇妙な体勢で空中浮遊をするような老人は未だかつて見た事がなかったから、老人のような姿かたちは仮の姿ではないかと本能的に悟ったのである。

 老人のような者の口がもごもご動く。人間のするような発声法には聞こえなかった。

「ヴィクターのテのモノか?。もしそうならば、ヴィクターにヨウがあるからアンナイしろ。」

しゃべった。正体不明の人物はイゾウの正面斜め上三十度の空中でピタリと止まり、まるで道でも聞くようにイゾウに話しかけた。

 イゾウはヴィクターという名を聞いたことはなかった。

「ヴィクターなど知らん。ここはベクトル=モリア様の館である。」

 気味の悪い場所違いの訪問者にはさっさと去ってもらいたいとイゾウは思っていた。だが、その老魔物は引かなかった。

「ナンだ、やはりヴィクターのヤカタだったのではないか。おいコゾウ、あまりふざけたことはイわないことだ。」

 イゾウはこの老魔物が痴呆であると勘違いした。知らないと言っているのにかえって納得されてしまっては、困るばかりである。

「ふざけているのはお前だ。お前のようなジジイをベクトル殿に合わせられるかっ。」

ベクトルがそう言って魔剣の切っ先を老魔物に向けたとき、老魔物の腕は大きく弧を描いてイゾウに何かを投げつけた。握りこぶしほどの大きさすらないが、確かにイゾウに向かって真っ直ぐ飛んでいった。

「ア、アゥア……。」

老魔物の投げた何かはイゾウに当たったが、投擲して武器になるような重さも速さも感じられなかった。で、あるのに、イゾウはそれを喰らって茫然自失と立ったまま何かを呻いている。

 老魔物は、呆れたような顔をしながら地に降り立った。

「オロかモノのイナカモノめ。あやつのVECTORというナは、ベクトルともヴィクターともヨめるではないか。どうしてワタシがイナカモノのハツオンにアわせてやらねばならんのか。マッタくもってフユカイだ。」

 イゾウの意識は先程よりも覚醒の方向に戻りかけていたが、もはや老魔物に逆らう気が起きなかった。

(何か術を仕掛けられたらしいが、もう手遅れだろう。抵抗する気が起きん……。)

 老魔物はイゾウに最後の一押しを加えた。

「ハヤくアンナイしろ。」

 イゾウはもはや自分の言葉を自分の意思でコントロール出来なくなるほどに、正体不明の術に支配されていた。

「か、……かしこまりました。」

 イゾウはこの言葉を吐き出したあと、操り人形のように老魔物を館に引き入れた。

 勝負あり。イゾウ、鉄鬼に次ぐ二度目の敗北であった。


 

 今回出てきた老魔物についてですが、彼のカタカナ交じりのセリフはどうだったでしょうか?。もし、読みにくいとのご意見をいただくことがあれば、修正させていただきます。

 

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