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魔王の懐刀  作者: 節兌見一
妖物たちの世界
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五里霧中の男

 呪術による洗脳とは得てしてこのようなものだ。反復、反復、また反復。意味など無くてもいい。とにかくヤスリをかけるように何度も何度も繰り返すことで相手の心を真っ平にしてしまうのである。


 俺は『奇奇怪怪』だ。

 私は『奇奇怪怪』です。

 ぼくは『奇奇怪怪』だった。

 アタシこそ『奇奇怪怪』よ。

 わしが『奇奇怪怪』である。

 我は『奇奇怪怪』かも知れぬ。

 お前は『奇奇怪怪』か?

 誰もが『奇奇怪怪』だろう。

 どうせなら『奇奇怪怪』がいいよな。

 あなたも『奇奇怪怪』でしょう?

 『奇奇怪怪』だって認めちまえよ。

 『奇奇怪怪』が怖いか。

 『奇奇怪怪』について考えてみましょう。

 『奇奇怪怪』が来たわ。

 『奇奇怪怪』万歳。

 『奇奇怪怪』にならなきゃずっとこのままだぞ。

 『奇奇怪怪』を受け入れろ。

 『奇奇怪怪』が嫌だなんて言わないわよね。

 『奇奇怪怪』だったら良かったのに、……。

 『奇奇怪怪』が嫌いなら許してあげようよ。

 『奇奇怪怪』ならどうするだろう?

 『奇奇怪怪』は君のためだ。

 

 『奇奇怪怪』がよもや『奇奇怪怪』だと『奇奇怪怪』ですら『奇奇怪怪』で『奇奇怪怪』のために『奇奇怪怪』で『奇奇怪怪』が『奇奇怪怪』で『奇奇怪怪』が『奇奇怪怪』で『奇奇怪怪』が『奇奇怪怪』で『奇奇怪怪』が『奇奇怪怪』で『奇奇怪怪』が『奇奇怪怪』で『奇奇怪怪』が『奇奇怪怪』だ。


 お前はもう『奇奇怪怪』さ。


 もう『奇奇怪怪』でしょう。

 『奇奇』、『怪怪』、『奇奇怪怪』。

 明日はきっといい『奇奇怪怪』だな。

 悲しいか?

 悲しいわよね。

 『奇奇怪怪』は悲しまない。

 『奇奇怪怪』だったらこう笑え。

 『奇奇怪怪』なら楽なもんさ。

 ほーれ、一丁あがり。

 『奇奇怪怪』


 おい、『奇奇怪怪』。こっちにまだ自我が残ってるぞ。

 了解。



 副首領コントンは、魔界においても異様な光景を誇る奇奇怪怪の死霊呪術を見ていた。

「おーい、終わったかい、奇の字よう?」

『おう、『奇奇怪怪』が『奇奇怪怪』だ。』

「馬鹿野郎、俺にそんなこと言ってどうする。洗脳は終わったか?って聞いてんだよ」

『『奇奇怪怪』だ』

 意味不明。どうやら、まだこっちの世界に帰ってきていないらしい。エクスタシー系の術者にはよくあることである。

「ああ、そうかいそうかい」

 コントンはふてくされてタバコを吹かした。

 奇奇怪怪は砦を大したわけもなく飛び出してから数時間後、ぼろぼろの雑巾のようになった一匹の狗の死体を持って帰ってきた。『魔王のしるし』の表示されたその左頬のような部分から、『狗夜叉』という魔王候補の一人であった剣客であると判断できた。もちろん、奇奇怪怪が殺したのである。殺した理由は特にないだろう。

 奇奇怪怪はずっとその死体に幻術を試みている。あまり見ていて気持ちの良いものではないが、それでもギャラリーというものはいる。

「副首領殿、頭領殿と言えどあんなボロクズを操るなんて無茶じゃないですかい?」

 部下の若干引いた目にコントンは不機嫌を押し付けた。

「馬鹿野郎。奇の字がそれに成功したらよう、おれたちぁ不死身の軍隊にだってなれるかも知れねえんだぜ。出来たら儲けだ」

「どういう意味です?」

「奇の字は正真正銘の不死身だから死なねぇんだよ。もちろん分かっているよな」

「ええ、分かってますとも」

「あいつは不死身なんだから、あいつが幻術で生き返らせ続けてくれたら俺らも不死身だよな?」

「あ、成る程」

「おうよ、無敵だぜ、そうなったら」

「でも、成功するんすかねぇ?」

「知るか」


 この盗賊たちは奇奇怪怪という男無しではとても成立しない集団である。副首領のコントンでさえ、今ではほとんどの指揮を奇奇怪怪に任せてしまっている。そこには、かつて奇奇怪怪に挑み、敗れた策士『渾沌』の面影はないかのように思える。コントンの頭脳が未だ全盛期に比べても少しも劣ることのない状態であると知るものは少ない。ただ、奇奇怪怪の圧倒的実力に任せてしまうのが楽だったからそうしていただけなのだ。 

 彼らが盗賊として生き延びていられるのは単に奇奇怪怪のおかげであるが、奇奇怪怪にとっては魔王をめざすことと子分の面倒をみることはほぼ同義であり、どちらもお安い御用と謳っていられるほどの実力と余裕を持っていたのだ(もちろん、無知ゆえの余裕というのも多分に入っているのだが)。

 この適当さが奇奇怪怪の特徴であった。

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