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魔王の懐刀  作者: 節兌見一
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どうしようもない閑話 十字塚歌劇団

夢で見た話を小説化してみました。イゾウがメインになるとこうやって逃げたくなるんですよ

 この頃、床に伏せりながらも完全復活を控えていたバテレンが面白い事をしていたのでここに記しておく。

 人間帝国は勇者を擁して来るべき魔界への進軍、および魔王との決戦に備えて力を蓄えていた。そんな中勇者の教育担当であるバテレンが急に病と称してひきこもったのは人々に不安を起こさせるものがあったが、最近では勇者が百万の帝国軍の面前で光魔法の演武を行うなどしてそれも大分払拭されたようである。

 そんなある日、人間帝国の朝議においてアッと驚く提案がなされた。

「何、芝居をやる? しかも、監督はバテレンがやるだと!?」

人間帝国皇帝ガイウスノオオキミは目をまん丸くした。今まで親衛隊のエリートたちの防護術によってアリス達のハニートラップや情報操作、薬物の害を今まで遠ざけてきたが、バテレンの今度の手はなんとなく今までとは異色である。権謀術数の限りを尽くしてガイウスノオオキミを楽しませてくれるかと思いきや、今度は本当にただのお楽しみをするつもりなのか。

「それは…… バテレン本人が言い出したのか?」

「ええ、病床に就いているときに不意に類稀なる脚本を思いついたとかで……」

 そして、何故かこれを提案するのは例によってアリスに手名付けられた傀儡大将軍ナルビナであった。もはや操り人形どころかクルセイダーの広報係か何かのようになっている。

「ええ。今まで実情を伏せていたクルセイダーを我らが帝国臣民に(面白おかしく)知らしめるべく、魔女部隊や実験隊をも総動員した演劇をやりたいそうです」

この時点でガイウスノオオキミは腹を抱えて笑い死にしかけている。バテレン、ますます訳の分からない男である。一応バテレンの地位は文科省と厚労省の業務のそれぞれ半分ぐらいを受け持つような立場であり、ぎりぎりわからなくない事も無いが……

 ガイウスノオオキミは、まだバテレンの毒が回りきっていないでこの状況にちょっぴり苦い顔をしている末席の若手幹部たちを見やって苦笑する。まあ、国家、ひいては人間界の事を思うのならば不安でも仕方あるまい。だが、

「まあ、いいだろう。朕が許可する。我が帝国の作家たちにも劣らないものを見せてもらいたいものだ」

ガイウスノオオキミも芝居は好むところである。特に最近の代の勇者の獲得が上手くいっているおかげで人間帝国は人間界の諸国に比べて文化先進国を名乗るにふさわしい盛況ぶりを見せている。三国志で言うならば魏、現代地球で言うならばアメリカぐらいノッている。そのおかげでエンターテイメントの発達も著しいのだが、こんなプロパガンダでは済まされ無さそうな危険な香りのする演劇の知らせなど初めてである。本当にクルセイダーの地位向上ならそれはそれでもいいが、ガイウスノオオキミはさらに空想と期待で胸を膨らませた。ガイウスノオオキミはどこまでもバテレンをピエロとして見て、愛でるように面白がっていた。

 その満悦な様子を見て、ナルビナはほっと溜息を吐いた。もしこの話を通せなかったらアリスに「遊び」を打ち切ると脅されていたのだ。


 (ククク、あの道楽好きの馬鹿皇帝め。せいぜい楽しみにしているがいい)

バテレンは、許可の知らせを聞いて意地悪くニヤついた。ゲンナイによる臓器移植手術が順調に進み、例の術を解いても死なない程度には体を回復していた。大黒天から受けた吸血鬼ウィルスの攻撃はどうしようもなく体を蝕んでいるが、もはやそんなことはどうでもよかった。


「バテレン。あなた、この世界に来てからなんだか投げやりじゃない? 成り行きをただ楽しんでいるというか…… もしかしてさ、もうすべてを諦めちゃったわけ?」

 どこからともなく媚魔女アリスが、バテレンの伏せるベッドの傍らに現れては言った。確かに、バテレンが真面目にやればこんな深手を負う事自体そもそも有り得ない。まるでチェスの打ち手がクイーンの駒を敵陣深くまで気持ち良く突撃させた挙句あっさりと絡め取られてしまうような、拍子抜けな何かが感じられた。その違和感は罠にかけたはずの大黒天ですら感じていたことだった。

「ふふ、ふふふ」

 バテレンはゲンナイと共同開発した如何わしい薬湯で喉を湿らせてから口を開いた。最近はこれをしないと声が出ないのである。

「元々はこちらの魔物だったお前にはわからんかもしれんが、こちらの世界は面白い。向こうの世界をかつて極めつくした私だからこそ、なおさら面白い。魔物、魔法、魔王、勇者、そして彼らを統治する半神達…… 不思議に楽しく、何だか馬鹿らしく感じられる時があるのだ。まあ、一時の気の迷いのような物だろうが、それに、私がもともと気ままな放浪者だったのは知っているだろう? 外道七師の連中とつるむようになる前などはもっとひどかった。いつ密林や大海の真ん中でのたれ死ぬとしても本望だと考え、実際に何度もそうなりかけた」

「いつになく向こうの話をするのね」

「永遠の命を持つお前にはわかるまい。たまに、確かめたくなるのだ」


 バテレンは激しく咳き込み、再び薬湯を喉に流し込む。

「爺臭い事言っちゃってさ。ああ、やだやだ」

「どうとでも言え、この年増の枯れ木婆め」

「言ってくれるわね。…… で、本題に入るけど、今度演劇なんて物をやるらしいじゃない? ナルビナが「宣伝させられた」って鳴いてたわよ?」

バテレンは頷いた。

「誰が主役?」

「四六」

「くすくす、本気?」

バテレンは再度頷いた。

「奴も、そろそろ俺を裏切りたくなる頃だ。ここで頭の狂うような目に遭えば化けるかもしれん」

「化けるって…… そもそもどんな芝居をするのよ? あいつの顔じゃロマンスも英雄譚もちょっと無理だわ」

「まあ見ていろ。ちなみにお前も出るからな」

「えっ」

「くくく。もちろん眠っているアリスにも出てもらうからな。いいか、今度は俺に術なぞ使わせないで変わってやれ。あの子にも苦労を掛けているからな」

「くすくす、楽しい劇になりそうだわね」

アリスはバテレンの頬に口づけし、その場を後にした。続けざまに呼びつけてあった四六が、憐れな「今回の被害者」四六が、代わりにバテレンの前に立った。

「なんでしょう、旦那?」

もしかして最近陰口をたたいているのがばれたか、などと不安がる四六であったが、

「お前、今度やる芝居の主役を張れ」

という指令に最早頭のネジが吹っ飛んでしまった。

 

「アメンボイッピキアイウエオ、カメノコタワシノカキクケコ……」

 その晩、訳が分からなくなって一人寝床でブツブツと流行り歌の暗唱をしたり発声練習したりする四六の声が、低くクルセイダー詰所に響き渡ったという。

 そして、クルセイダー中が「これから何か始まるんだろうなあ」と、察した。

 

 さて、バテレンの書いたあらすじはこのようなものであった。

『魔界珍遊記』

 昔々ある所に、若くして出世街道まっしぐらのイケメンエリート将校がいました。屋敷には娘と妻とたくさんのメイド、そしてくたびれた庭師の男が屋敷には居ましたが、なんと、彼は政変に巻き込まれて才能に相応しくない惨死を遂げてしまいます。すると、屋敷中の女性たちの性の捌け口が庭師の男に集中してしまいました。主人のように性的超人ではなかった使用人は、四苦八苦苦労しながらどうにかこうにかごまかし相手をしようと努めます……


 という喜劇調の話である。

 クルセイダーが誇る魔女部隊がやたらと性的なメイド達を演じたり、四六演じる主人公(召使)が精力を増強するために古今東西の秘境を巡り怪物や英雄たちを尋ねるくだりではクルセイダーの人造魔人たちが何人か登場したりと、お色気、バイオレンス、笑いのエンターテイメント三原色が揃ったテイストとなった。

 バテレン自身、くりいむれもん(黒猫館)と西遊記を混ぜ合わせたようなこの話はヨーロッパに持ち帰っても大うけするのではないかという自信があった。何故こんな話を思いついたのかは本人にも全く分からないのだが、たまにはこういうのもいいだろう。


 教会内特設劇場において、監督バテレンが半ミイラ姿をさらしながらダブルキャストを含めた百八人の演者たち、および裏方を褒め称える。人間帝国の特殊部隊クルセイダー勢ぞろいである。


「四六、素晴らしい振り回されっぷりだ。くくく、アリスも可愛らしくてよろしい」

「へい、おかげさまで」

四六は今ではまんざらでもない様子だ。何だかんだでこういうのは楽しい。


「あら、珍しく褒めてくれるのね」

恐ろしい方のアリスなどは頬を両手で押さえて恥じらうように喜ぶが、

「お前じゃない、代われ」

と言われ、しょんぼりして清く可愛い方のアリスに代わる。すると、嬉しいような、引っ込んだ方のアリスに申し訳ないような、そんな仕草をした。


「バテレン殿、色の切り替えができる照明を発明しました。演出にお使いくださいませ」

と誇らしげに謳うのはゲンナイである。他にも速着替えに適したマジックテープ式の衣装など、後の戦争での残虐非道な発明のことを考えると笑ってしまうようなアイデア商品を様々に開発していた。クルセイダー三怪人はかたぎの世界でも何だかんだでやっていけただろう。

「ご苦労。天才ゲンナイなくして今のクルセイダーはない」

ゲンナイは礼をして下がった。その挙動には明るいものが満ちていた。


「次に魔女部隊の諸君。君たちはアリスによく学び、見に来る客共も虜になるだろう。クリムゾン姉妹などは特に年少ながら蠱惑的であった」

「光栄にございます隊長様。やったわね、エミリア」

「うん、フレンお姉さま♪」

アリスがプライベートにおいて可愛がったのは医烏の所に居候する現代人紫子であったが、魔女部隊で師匠として特に手を掛けたのはこのクリムゾン姉妹であった。アリスが才能を見込んで直々に拾ってきた農奴上がりで、幼少のころから魔女部隊で可愛がられていたので、このようにバテレンに特に褒められたりしても嫉妬を被るようなことは無かった。だが、誰から見ても彼女らの器量と才能は非凡であったという。


「そして、人造魔人部隊……」

バテレンは最後の最後で四十人ほどの人間離れした容姿の者共を前に出して声を暗くした。

「お前たちだけはまだまだ未熟だ。身中の魔性を克服して見せろ」

 要は、まだ体のコントロールや演劇芝居の技術、そして気持ちの入れ方がまだまだであったのだ。しかし、当の人造魔人たちは無茶な注文を突き付けられたように感じていた。裏切って出て行ったネクロのような努力家かつ余程の天才でない限りは魔物と人間が混じった体などは容易に操作できたものではない。事故や病、刑罰で死にかけた体を復活させてくれたバテレン達に感謝こそしていたが、無理なものは無理、と大半のものが感じていた。

 バテレンは、演劇が自分にも人造魔人たちにとってもちょうどいいリハビリテーションになるかと思っていたが、半端な魔人たちの不甲斐なさに立ち上がった。元は四六のように闇社会でどうしようもない仕事をしていた極悪の一歩手前の連中が、バテレンの前では頼りないばかりなのである。

「私の身体を見てみろ」

上着を取り払った上半身は継ぎはぎだらけで、最初に比べて血色は良くなったものの、様々な部分が他の生物から拝借したものだと見て取れた。これはどの人造魔人よりもひどい状態で、彼らからしてみればバテレンがどうして魔性に発狂しないのかが不思議で仕方ない程である。必要以上、まるで装飾をするかのように魔を取り入れているように見える。

「これなど、元は魔王のものだぞ」

バテレンは自ら右目を指す。人間界で勇者と共に命を散らした魔王の死体を人間帝国が回収していたらしい。そんなものを脳に直結したら……

 あまりの恐ろしさに人造魔人たちは冷や汗をかいた。放射性物質を脳に注射される方がまだましに思えた。

「魔性を飼いならすのだ。そして、演技はちゃんとやるのだ。いいな?」

バテレンはそう言って徒に右目の魔王眼の魔性を開放しようとしたが、アリスに止められた。何だかんだでバテレンも少し調子づいているきらいがあった。


「皆さーん、お茶が入りましたよ」

と、バテレンが暴走気味で何となく気まずい気分になっていたところに介入したのは、手伝いに来ていた現代少女紫子であった。医烏も人間の姿で付き添って来ていた。

「あ、どうも(助かった、か?)」

「ありがとう紫子ちゃん(危なかった……)」

 周りが紫子の放つ雰囲気とお茶で和んでいる、いや、場を和ませようと努めていたにもかかわらず、バテレンは未だ暴走気味でその矛先は医烏に向いていた。

「くくく、お前も劇に出してやろうか医烏?」

流石医烏、バテレンの魔性に一歩も引くことは無い。

「冗談ではない。こんな不安定な魔人たちを劇場で人に見せるのは不可能だ。悪い事は言わぬ、私が処方する薬で魔性を抑えて臨むがよい」

これをバテレンは鼻で笑い飛ばした。基本的にバテレンは医烏を骨の髄から馬鹿にしている。似た様な手合いの石頭を地球で散々虚仮にしてきたからである。

「薬? それでは意味が無い。堅物め、そんなだから未だに俺を殺せないのだ」

「貴様……」

形式的には隊員と隊長であるが、人と魔、というよりむしろまず敵同士である。


 この後バテレンの挑発と医烏の強かな反撃が繰り返され、やがて舞台を舞台にして(?)戦闘が始まった。要は喧嘩である。

「貴様のような佞物につける薬はない。さっさと死ぬのがこの世のためだ!」

「腐れ藪医者め、貴様のような三流など今まで数えきれぬ程踏み潰してきたわ!」

 物理戦闘力に関してはクルセイダーにおけるナンバー2と3である。彼らがぶつかるたびに黒羽が乱れ、空気が歪み、瘴気が溢れ、もうどうにも止められない。

 余波に煽られて吐き気を催したり魔性が疼いて頭がくらくらする者が続出した。


「むう、バテレン殿はどうなされたのだ?」

ゲンナイは、バテレンの地球での妖艶極まる知的怪物としての有様をよく知っていたから、今の何だか浮ついた様が少々不思議であった。

「賢そうに振る舞ってるけど所詮はあんなもんよ。政治にかまけててストレスでも溜まってたんじゃないの?」

と、恐ろしい方のアリスは流した。

 しばらく超レベルの戦闘を恐る恐る見物した後、魔女部隊、魔人部隊、その他特殊部隊と紫子は彼らを放って休憩に入った。


 ちなみに、売り文句に買い文句のような形で喧嘩になったが、医烏はいたって冷静だった。何だかんだで魔王の肉体パーツを移植した影響で興奮状態のバテレンのクールダウンに付き合ってやっているのである。下手をすれば死人が出そうであったし、腰巾着のゲンナイ如きには止められまい。そこは医者として手を打たねば、という所だろう。バテレンはその事を知ってか知らずか、戦闘を思いっきりに楽しんだ。


 そんな調子で公演なんてできるのかと思われるが、そこはバテレンの腕の見せ所。はねっ返りややる気のない男子はねじ伏せ、伸び悩む者にはきっかけを与える。教育とか指導とか、そういう事に関しては後の宿敵ベクトルとは比べられないほど熱心に務めた。バテレン自身、アリスとほんの一握りの友人以外に物を教えるようなことをしたことは無かったはずなのに、才能が開いた。


「くくく、やはりここは現実ではない、何処かの幻想なのではないか。この私が、外道七師にして術を極めし放浪者の私が…… 実に、滑稽」


公演を間近に控えると、バテレンはそういった事ばかりを考えた。今に始まった事ではない、いつからか、自分がひどく現実離れした存在になってしまった。今まで気付かなかっただけで……


 そして、公演である。

 人間帝国教会特設劇場には人間帝国を動かす実力者やら名のある賢者までもが集まる盛況ぶりとなった。バテレンですらどうしてこんな劇を始めたのかわからないのだから、周りにはもっとわからない。バテレンの裏工作を知っている者にとっても、知らない者にとっても興味深い催しであった。


 幕の内には戦闘集団クルセイダーが集結していた。

「四六さん、汗が凄いですわ」

アリスが手拭いを持ってくると、四六は申し訳なさそうに汗を拭った。緊張のし過ぎというものである。

 四六は館中の女性の相手をしなくてはならなくなって冒険に出る憐れな庭師の役、すなわち主役であった。

 アリスは亡き館の主人が残した一人娘役で、序盤は可愛い方が愛想を振りまく役どころである。


 劇が始まると、まずは庭師とお嬢様の何気ない会話から話が展開される。

「ねえ、私のパパってメイドさんたちの間でもモテモテなの、凄いでしょ? でもね、よく分かんないけどママはあんまり焼きもち焼かないの。変よねぇ」

「へえ、そうですかいお嬢様」

まずまずの演技力、というか二人ともほとんど素でやっている。これは現代の演劇、特に学校の文化祭などでよく用いられるテクニックであるが、演劇には、脚本のキャラクターを素でやっている人物を抜擢する、もしくは脚本そのものを役者の素に合わせて変更することで演技力を水増すという裏技がある。バテレンの原作も恐らく実際に誰がこのキャラクターを演じることになるかなどを意識して書いたに違いない。


 さて、この二人の絡みが終わると次に出てくるのは十数人の魔女部隊隊員からなるメイドたちである。ある者は歌い、ある者は踊り、ある者は家事を演じながらしっとりとした視線を振りまき観客の心に矢を射かける。もちろん架空の話の上でのことだが、妖艶な彼女ら全ての相手を一身に引き受けたという館の主人は最早バテレン級の超人だと思われた。


 そして、その主人が政変に巻き込まれて謀殺されるシーン(どうでもいい)を挟み、ここからが本番とばかりに暴れ出すのが、

 一人娘のもう一つの人格役のアリス(魔)

 館の主人の未亡人役のフレン=クリムゾン

 メイド長役のエミリア=クリムゾン

の三人である。彼女ら三人が四六演じる庭師を絞りかすになるまで誘惑するその姿は、一本のアダルトビデオが成人男性に分泌させる脳内物質の量を遥かに超えたとんでもない官能であった。

 元々好き者の助平や物好きはこれを素直に楽しみ、こういうのに自分は興味が無いと見栄を張る堅物たちは四六に同情するようなやれやれ系の気持ちを楽しんだ。


 女の園への至上の喜びよりも先に生命の危機を感じ取った庭師は、精力を高める秘法を求めて魔界へ旅立つことを決意する。ここから物語は全く西遊記チックな冒険活劇へと転調し、暴力と笑いが支配する何とも馬鹿げた、ちょうど作者がこの作品で書きたいような(?)世界が展開された。


 ここからの主役は魔人部隊が演じる魔界の奇妙奇天烈な魔物たちである。

「俺は魔王様からこの地を預かった狼男将軍! ここを通りたくばこの俺を倒してから行くがよい!」

みたいな連中がうようよしているおっかない、けれどちょっと笑ってしまうような魔界がそこにあった。


 途中で名のある妖怪に自らを魔物であると偽って同行するようになってからはいよいよ西遊記染みてくる。

 狼男だけではない。人間から変化する大怪鳥やキマイラ人間が次々と現れ場を盛り立て、四六演じる庭師は笑いを誘いながらも物語をしっかりと突き進んでいく。


 しかし、事情を知る者は中々この楽しい展開を笑う事が出来ない。舞台を舞う「演じられている」化け物たちが、その実正真正銘の化け物であることを知っているからである。

(バテレンめ、これが狙いだったか?)

当然見物に来ていたガイウスノオオキミは、戦慄する一部の目ざとい家臣たちを見てひとりごちた。

 すなわち、化け物の製作発表会である。

(魔女部隊の存在はよく知っていたが、こんな化け物たちをいつの間に…… これは宣戦布告とも取れるなあ。本当に、何時の間にここまで研究を進めたのやら?)


 正直に言えば、ガイウスノオオキミとて策が無いことも無い。本人の目算からすればバテレンレベルの術師が人間界に三人、その内彼の手札にはあと二人いる。彼らとその優秀な部下たちに任せればクルセイダーとて敵ではないはずである。

 だが、逆にその切り札を使わなければ倒せないレベルまでバテレンとクルセイダーは力を蓄えているとも言える。それはガイウスノオオキミ自身の油断に満ちた過失でもある。


(だが、バテレンの真意はやっぱりわからん。そして、知りたい…… 出来れば朕が生きている間にその芽を見ることができればよいがな)

と、難しい顔をした後、

「ま、詳しい事は劇の後にでも考えよう。はっはっは、左右の者共よ見てみろ、庭師が吸血鬼とトマトなんぞを食ってるではないか、はっはっは」

ガイウスノオオキミはわざとらしく大笑し、舞台上で生き生きとドギマギする四六を眺めながら考えるのをやめた。


 閑話 紫子の日記 につづく

クルセイダー達は魔物との戦いで惨たらしく殺したり殺されたりする予定なので、こういう側面をもっと書けたら書きたいものです。

 

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