我流七大超律禁呪第二種『亜空』
2chに晒しまして、アドバイスを参考に色々と過去改変を行いました。話数が変わっていたりしますが内容に大きな変化はありません。
七大超律禁呪とは、かつて大師匠が若かりしベクトルへと語って聞かせた『行うべきでない魔法』の概念である。
例えば第二種『空』は「物質、半物質、非物質を無に帰しこの世から取り除く事」と定義され、世界全体の質量を減らし調和の崩壊に繋がるということでご法度とされてきた。
とは言ってもこんなものは我々の世界における『永久機関』のようなSFに過ぎず、大師匠とて魔法使いのための情操教育の一環としてベクトルに伝えたに過ぎなかった。
空間に線が走る。それは、幅が一ミクロンあるかないかというほどの小さな小さな亀裂であった。亀裂とは言ったが、その軌跡は工業加工刃が迷いなく滑ったかのように滑らかで、遠目にはベクトルの杖先から一本の髪の毛が生えたようにも見えるだろう。
狗公方は狗神術によって得た超常的な感覚からその異常を察知した。そして、それ故に過敏に恐怖した。もちろん公方本人にはその具体的な恐ろしさなど皆目見当がつかないのだが、彼の中の魔神は震えあがっていた。
「公方殿、術を解いて魔神をお戻しになってください。この術は永久を生きる半実体の方々には刺激が強すぎます故」
大怪物を目前にしたこの状態で術を解くのはかなり危ない。だが、公方はベクトルに賭けることにした。
「任せたぞ」
公方の身体から狗神が抜け出す。魔神は地へと還ったかと思うと遥か西方の妖怪の山の氏族の祠まで逃げ帰ってしまった(霊存在に移動距離や時間などはほとんど有って無きが如きである)。狗神術は解け、公方は通常の走狗雷鳴剣へと構えなおす。魔神としてはこのような撤退は神格を落とすことにつながるからあまり気分の良いものではないが、今、全くそんなことが気にならないような恐ろしい事が起ころうとしていた。
(何だ、何が起こるんだ?)
大怪物は公方への追撃の手を止め、ベクトルが何食わぬ顔で構えている後方を見やる。
(いつの間にあんな場所に…… だが、この不死身の大怪物の前にはどんな術もこけおどしよ!)
大怪物のコントンは先程キラージャイアントを蹴り上げた時のように巨大な馬の下半身を持ち上げ山ごとベクトルの術を吹き飛ばそうと試みる。
だが、
(げ、動けねえ!)
何者かが砦の内部で大怪物の膝を砕いたらしい。ただでさえ山のような巨体が一瞬でも支えを失えばそれは災害的な事態をもたらす。
「ぐおぉ」
大怪物は倒れそうになって両の腕でバランスを取ろうとするが、そうしている間に四つの馬脚の内の二本目の膝が破壊された。とてつもない力を秘めた何かが恐ろしい速さで砦、ひいては大怪物の要所を破壊している。大怪物は本格的に態勢を崩した。
「よし、よくやっているな」
ベクトルは一人満悦の笑みをスッと浮かべたが、それがコントンは気に入らない。
「まだまだぁっ!」
大怪物は常日頃のコントンがするようにひらりと(メガトン級のひらり)宝剣を取り出すが、宝剣の柄は大怪物が握った途端みるみる伸び、ネクロの得物、すなわちまるで塔のような見事な宝槍が出来上がった。
「大怪物、そしてこのコントンの術は天下無敵の大秘術。奇奇怪怪の全身幻術支配を得た今、恐れるものなど何もないのだ!」
宝槍は瞬く間に二本に分裂し、一つを杖代わりに体を支えながら大怪物はベクトルを狙う。
「骨片の一切れまでこの雨傘山の土くれと雨に混ざるがいい!」
拳は電車の突撃だが、槍ともなれば新幹線である。ネクロの技巧が合わさって宝槍は天を裂くような唸りと共にベクトルの元へ振り下ろされる。
「逃げろベクトル=モリア!」
公方は思わず叫ぶが、轟音はベクトルは動じない。
そして、一言
「我流七大超律禁呪 第二種、『亜空』。とくと見よ」
次の瞬間、ベクトルの杖より伸びる亀裂から、暗黒が、いや、暗黒というのもおこがましいような何かがその口元をのぞかせた。