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魔王の懐刀  作者: 節兌見一
魔界入門
108/128

大怪物の誕生

 鼻のよく利く参謀が狗公方に渋い目を向ける。

「先陣を切っていた十数名から死の匂いがしています。恐らくは全滅かと」

狗の部隊全体としては快進撃を遂げていたが、その先端がすっぽりと奇奇怪怪の幻術に飲まれて死んだ。予想はしていたが、妨害呪術を張ってもここまでできるのか。たかが盗賊風情が。

公方は前線へと上がる途中である。狗神術を纏って完全な戦闘態勢である。

「ネクロは?」

「同様に連絡が取れません。狗たちの死に塗れて匂いがつかめませんが」

「ちっ。嫌な予感はしていたがネクロめ」

狗夜叉の事がある。彼もまた、奇奇怪怪の傀儡として襲い掛かってくる側になるかもしれない。

「その時は斬るしかないが……」

 ネクロは(恐らくバテレンを無意識に真似ての事だろうが)普段は知的に、実力や武器を押し隠すように振る舞ってはいるが、一回元の性格にスイッチが入ると若く逸る気性が目立つ。その狭間を行き交う不安定な人造魔人、とても奇奇怪怪の幻に耐え切れはしないだろう。


 狗公方は奇奇怪怪という男の底知れなさのようなものに一抹の不安を覚えていた。泥仕合になればなるほど不利になるのはこちらだ。


 その時であった。

「逃げろおぉ!」

「嫌だ、いくらコントン殿でもそれは嫌だぁ!」

中から奇奇怪怪の山賊たちが逃げまどって出てくる。

「?」

「公方様、斬りますか?」

「いや、私一人で十分だ」

公方は雷鳴剣の居合を構える。そして驚異的な集中力で走狗疾風剣を併用して稲妻と化し、十名ほどいた賊たちの首を、一人の物だけを残してすっぱりと斬り刎ねる。賊たちは狗神術の浄化を受けて喚く間もなく蒸発した。

「ひえぇ!」

そして、公方は残った一人の首に雷鳴剣を当てた。

山賊は吠える。

「クソ、狗っころめ。お前たちのせいだ!」

「死にたくなくば答えろ、中で何が起こっている? 奇奇怪怪の居場所は?」

雷鳴剣に軽く力を入れると2,3ミリほど首筋に抵抗なく剣は食い込んだ。

「へへへ、言うもんか。だが一つだけ教えてやる。中によ、すっげえのが居るんだぜ。突撃してって皆でくたばっちまうんだなぁ!」

公方はそれだけ聞くと賊の首の残りを刎ねた。


 公方の部下たちは諫言する。

「これは異常でございます。術に詳しい者がいた方が、そう、あの魔導師ベクトルをここに呼びつけるべきと存じます」

 狗公方は頷きかけたが、それを遮って

「もう来ているよ」

と、物陰からベクトルとククリがひょっこり顔を出した。魔導師にとって神出鬼没の一つや二つは花である。

「どうも狗公方殿。アレ、ご覧になりました?」

「?」

「あれですよ、あれ」

ベクトルは遥か彼方、雨傘山の頂上、いや、頂上だった場所を指さした。

 

 そのほんの数分前、コントンの魔法実験室にて

「奇の字、お前を安全に逃がす方法を思いついた」

「本当か?」

「しかも、外の奴らを皆殺しに出来る」

「そいつぁ、すげぇな! ……待てよ、もしそれができるんだったら逃げる必要がそもそも無いじゃねえかよ?」

「いや、お前には逃げてもらう。でねえと、俺が、俺たちが、お前を殺しちまうからな」

「!?」

奇奇怪怪はコントンの秘策に夢中になりながらもどこか不安を感じていた。

「お前、何をする気なんだ兄弟……」

コントンはくすくすと笑いながら実験室の隅の木箱からあるものを取り出した。

「アッー! それはっ!」

「そう、材料に拾ってきておいた。こいつを首に据えて鵺と一緒に大怪物を作り上げる」

それは、鉄鬼の首であった。ベクトルの館への襲撃に際してちゃっかり盗み出していたのだ。

コントンはそれに自らの宝剣を突き刺すと、宝剣はその物体を首代わりに伸びて変形し、背骨、肋骨の形を形作っていく。

「さあ、ちょっと離れてな奇の字。この骨に触るとこれに取り込まれちまうぜ」

「ひえぇ!」

コントンは怯える鵺の手を引いてそのまま宝剣の肋骨部分に触れさせる。

「あ、あぁ」

宝剣が鵺の手からどこぞの寄生生物のようにめり込んでいく。

「怖がるこたぁねぇ。みんな一緒だ。この俺も」

コントンも肋骨に触れて剣に浸食されていく。

「さあ、手の空いてるやつはどんどん死体を投げ込んでくれ」

コントン直属かどうかに関わらず、山賊たちは何も考えずにコントンに従って、狗や使い物にならなくなった弓兵の身体を投げ込む投げ込む。その中にはネクロの首もあったし、幻術漬けになって口をパクパクさせているパライゾウの姿もあった。

「うーん、イイじゃねえか。これなら魔王候補3人分は下らねえ魔力が集まる。」

コントンは悦に入って侵食されていない方の手から剣を出して今の今まで死体を放り込んでいた直属の弓兵に突き刺す。

「お前も来いや」

「ひえぇ、嫌ですよ!」

慌てて剣を抜こうとするも剣から生えた触手が根を張ってしまったようで引き抜けない。

「おい、誰か引っ張ってくれ! こんなのに吸収されたくない!」

「『こんなの』だとぉ? 馬鹿野郎、いいから来いってんだよ!」

狂乱して何とか抜け出そうと試みる弓兵に手を貸そうとする者たちにも、剣の触手は伸びていく。果てには百か二百か、鉄鬼の首、そしてコントンと鵺を中心にした死体たちの肉団子のようなものが出来上がっていった。

「ぎゃあ、化け物だ!」

残った一部は逃げ出した。この者たちが狗公方に斬られた。


 さて、視点を、ベクトルと狗公方のいる砦の入り口辺りに戻してみよう。

 ベクトルは、雨傘山の頂上に突如立ち上がった巨大な怪物の顔を見てそれらしく驚いて見せた。

「あの顔は鉄鬼ですな! 私が殺したんですが、この前コソ泥に首を持ち去られまして……」

「聞いてはいた。敢えて問うまい、奴とはすでに袂を分かった身だ」

妖怪の山のつながりの事である。


「さて、ではあの大怪物を……」

ベクトルは「仲良く倒しましょう」と続けようとしていた。その時

「グモモォー!」

生まれたての巨人は腕をぶるんと振るって何かを遥か彼方に投擲した。地響きが走り、山が崩れる程の投擲であった。

「驚異的な力だな」

「これは手に負えるのか?」

 大物の覚醒に戦く狗公方の傍ら、ベクトルは予定通りと言わんばかりに三体のゴーレムを呼び集めた。


 さて、もしこの小説がRPGゲームならばこの大怪物との戦闘が最初の『大ボス戦』になるのではないかと思う。迫りくる大怪物、迎え撃つベクトルと公方、なかなかの場面である。

 だが、一つ間抜けているのは、先程大怪物に投擲されて遥か彼方に飛んで行った物体が奇奇怪怪の本体だという事に誰も気が付かなかったという事である。

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