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魔王の懐刀  作者: 節兌見一
魔界入門
106/128

狗夜叉霧散、さらば神速の魔剣士よ

格好いいサブタイトルでしょう?

こういう題名をつける時のわくわくと言ったらありませんね(自己満足)。

 狗公方の必殺魔剣術『走狗雷鳴剣』は疾風剣と対を成す。速さを追求した疾風剣に対して一太刀の効果を極限まで高めた一撃必殺の魔法剣である。


 狗夜叉=奇奇怪怪は公方の首筋まで数十センチという所まで瞬間移動をして見せたが、そのたった数十センチの隙間こそが奇奇怪怪らしい甘さ、仇となった。もしも狗夜叉本人が自身の意志で戦っていれば手段も結果も違っただろう。

 狗夜叉と何百回も手合せした公方にとって、これしきの間合いは全く命に届かない。

 狗公方自身、この突撃の甘さがつらかった。弟の剣はこんなに温くない。目前に迫る夜叉は弟の姿をした何かなのだと確信した。

「この甘い太刀筋は、お前が既にこの世にない事を物語っているな、夜叉よ」

居合の構えから放たれた公方の一閃は、まず、狗夜叉=奇奇怪怪の魔剣と正面衝突した。

(流石に見慣れた弟の剣てことか。いい反応しやがる)

狗夜叉と同化している奇奇怪怪はその程度にしか感じていなかった。だが、狗の兄弟はすでに決着を確信していた。

 狗公方の魔剣は夜叉の魔剣に、まるで融けかけたバターに切り込むかのようにズブズブと食い込んだ。

「何っ!?」


そのまま雷鳴剣は夜叉を、彼の魔剣ごと胴から真っ二つにした。しかし、それだけでは済まない。

「奇奇怪怪。かつて、魔界の創成期に名を馳せた不死身の大妖怪。そんな伝説の名を名乗ったんだ。こんなぐらいで死ぬタマじゃないんだろう?」

縦に真っ二つ、2×2で四つ。さらに首を斬る、二つ増えて六つ。実の弟の姿に対しやることとしては惨い。

「あが、あががががががっ!」

狗夜叉=奇奇怪怪もしぶとい。腕で無理矢理ばらけた部品を集めて、引っ付いた。ずれた切断面は醜く爛れていたが、当の本人は存外元気であった。最早狗夜叉の気など微塵も感じられない。

「見抜いたぞ! 斬られて分かった! 貴様の剣は『動』の疾風剣の真逆、『静』の魔剣だな!?」

 狗公方は答える。

「そうだ」

公方は眉一つ動かさずに、今度は自らの拳で狗夜叉=奇奇怪怪の鳩尾を突いた。すると、胴の切断面から血が噴出、奇奇怪怪は崩れかけの積み木のようにぐらついた。奇奇怪怪は続ける。

「お前の魔剣は、馬鹿なことだが、魔力の半分を剣を『振動』させることに使い、もう半分を剣を『静止』させることに使っている。そうだな!?」


 狗公方は答える。

「そうだ」

公方は下段回し蹴りを繰り出し、狗夜叉=奇奇怪怪の下半身をだるま落としのように排除した。当然残った上半身がボトリと地に落ちる。それでもやっぱり奇奇怪怪は口をきき続ける。

「そして、二つの相反する魔力は魔剣の各所で無数の衝突を繰り返して破裂し、その数えきれないほどの超微小の破裂がその異様な切れ味を生み出している。そうだよな!?」


 狗公方は答える。

「そうだ。……そして、もう貴様にはそんなおしゃべりをする余裕も無くなる。死ねよ奇奇怪怪。貴様は確かに不死身のようだが、不死身には不死身の殺し方がある」


 公方のもう一つの、最終の奥義が顕現した。狗氏族の正統な主が使う事の出来る一族の力、積み重ねてきた伝統が織りなす不動の力、現代地球では失われつつある『ロスト・マジック』……

「ご先祖様に魔神様、どうかこの不届き者の浄化に力をお貸しくださいませ」

 狗公方は天にいます魔神に、地におわす祖先に、かしずいた次の瞬間、吠えた。ただの威嚇や連絡のための咆哮ではない。もっと崇高なパワーの塊の放出、邪悪を吹き払うための、実に純粋で強力な魔法攻撃なのである。いわゆる『虎嘯』であった。

「ひえええええ」

狗夜叉=奇奇怪怪の顔が、奇奇怪怪憑依体に転生してから初めて恐怖に引きつった。


 最終奥義『狗神術』によって狗公方の行動は神格を付与されていた。例えば『古事記』において伊弉諾の命が黄泉の国から帰った後の禊から新たな神々が生まれたケースのように、神が何かをすれば、良くも悪くも何か凄い事が起こる。神とはそういう存在であり、今の狗公方は限られた範囲内においてそれができる。だから、生半可な作法では間違いが起こり術者を死に至らしめる事すらもあり得る、恐ろしく厳かな術でもある。

「や、やめてくれ!」

流石の奇奇怪怪も怯んでしまう。今までは粘ついてどうにも取れないガムの地面にこびり付いたもののように余裕をかましていたが、突如ガムの組織ごと溶かしてしまう薬品を塗られたようなものである。幻を払い邪悪を粉砕する、そういったものが奇奇怪怪は大の苦手なのである。

「もしも、この術を帯びた雷鳴剣で貴様を粉微塵にしたらどうなると思う?」

言うまでもない。剣を用いてできる行為を神格化すれば、それは敵を滅することである。如何にしぶとい奇奇怪怪の魂も空気に溶けて消えてしまう。

「やめろクソ狗、おいやめろ、やめて、やめてくれ、やめてくれ兄貴、頼む兄貴、死にたくねえ!」

いまさら狗夜叉の声色を引っ張り出して必死に命を乞うが、狗神と化した狗公方には届かない。


「クソ、覚えてやがれ!」

存在の危険を感じ、咄嗟に疾風剣の魔力を展開した狗夜叉=奇奇怪怪は再び頭から光波へと変換され始めた。もちろん逃げる為である。再び再変換される頃には狗公方と十分な距離がとれ、確実な逃亡が約束される。


 だが、狗公方は尚勝利を確信し、剣をすら収めた。

「疾風剣には致命的な弱点がある。何だかわかるか?」

「知るか、馬鹿!」

「そうか」

 公方は予め用意してあった『球』を取出し、地面に投げつけた。すると球は弾け、中から灰色の煙が噴き出した。

「馬鹿め、目くらましのつもりか!」

間一髪で逃れた奇奇怪怪=狗夜叉は、煙の中で尚ぼんやりと輝く公方の姿を捉え、再度突撃の構えを取った。この煙からは聖なる気配は感じられない。突っ込んでも問題ないはずである。

(今度は首筋から0,1ミリも離れないところに剣を出現させてやる。で、0,0001秒もしねえうちに首を刎ねてやる)

 最後の走狗疾風剣が煌き、夜叉の身体が光波となって煙に飛び込んだ瞬間。全ては、終わった。


 奇奇怪怪=狗夜叉という存在はこの世から完全に消滅した。奇奇怪怪らしい「うぎゃあ!」とか「イテェ、苦しいぃ!」などのような無様な声も全く聞こえず、疾風剣発動を知らせるスタングレネードじみた破裂音が残響するのみである。

 そして、やがて煙は晴れ、公方は術を解いた姿で現れた。彼には全てが分かっていた。

「疾風剣の弱点、それは速すぎる事。いくら魔力と帯びた光波と言えど光速の世界で無数の粒子と何度も衝突するうちに拡散し、掻き消え失せる。夜叉よ、こんな決着を兄は望まなかったぞ」

 最後に公方は吠えた。弔いの遠吠えである。

次回予告

 一進一退の攻防の中、コントンは奇奇怪怪達を連れ脱出の一計を案じる。攻める公方軍の前に全てを背負って立ちはだかるは、鵺と融合したパライゾウ!


 次回『魔王の懐刀』第百十一回、『大怨霊怪物の誕生』


作者が二浪の憂き目(?)に遭いました。例によって例の如く次の投稿はいつになるやら。

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