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魔王の懐刀  作者: 節兌見一
魔界入門
103/128

幻術空間首狩り地獄

私は戦闘や会話、刻一刻と変わるシーンの描写がどうにも下手くそのような気がします。だから、と言うわけでも何でもないんですが、武侠小説とかを研究してみたい、というか書いてみたい気分です。むしろこの小説がいつの間にか武侠小説みたいなノリになっていたりして……

 さて、パライゾウと狗夜叉が切り結んだ辺りの参道長階段。狗公方の突撃隊を迎え撃つは、奇奇怪怪によって復活を遂げたコントン直属の弓兵たちである。

 彼らの基本戦術は変わらない。巧みな連携を取って遠巻きに射撃し、戦況によって魔法矢を使い分け敵を弱らせ包み殺す。前回は予想外のイゾウの反撃に遭って壊滅の憂き目を見たが、魔人の身体を戦闘不能になるまで矢を打ち込んだことを忘れてはいけない。しかも、今の彼らは半死半生(?)のリビングデッド。一度や二度殺された位では止まらない、さらに恐ろしく厄介な存在となって帰ってきたのである。

「こやつら、死なんぞ!」

と、突撃隊に警告が走ったのは割とすぐであった。頭部を抉られても、腹を裂かれても、高台から転げ落ちて首の骨を折って眼が飛び出ても、彼らは苦悶の呻きと共に立ち上がり続ける。その様は修羅場においてですら異彩を放つホラーである。

 だが、それも焼け石に水というもの。そうとわかれば四肢を切断して身動きできないようにしてしまう者や刀剣を釘のようにして体を岩に打ちつけてしまう者が現れだし、苦悶の声は一層濃くなるばかりである。死なないだけならば魔界では弱能力なのである(お得ではあるが)。

 コントンはそんな様子を陰で覗き見しており、前に部下たちと話して盛り上がった『奇奇怪怪の不死の帝国』は文字通り夢物語のようだなあと眉をひそめて嘆息した。狗部隊の突撃力には目を見張るものがあったし、不死身というものの脆さを再確認した。死なない者が強いのではない、強い者が強い。

 狗部隊の中でも精鋭十数名は既に弓兵の領域を突破し、砦の門へと辿り着いていた。砦は、参道の奥ゆかしい妖気とは裏腹に無機質かつ武骨な作りであった。これは、参道の雰囲気に起因する何らかの術の領域を踏み超えた事を示している。

「ウオォーン(突入いたしますか狗公方殿?)」

「ウオオォーン(突入を許可する)」

という遠吠えでの高度なやり取りが成されたや否や、門は破壊され、部隊は中へと殺到した。

 一方その時、

「だがな、本当の勝負は今からってことよ」

と、奇奇怪怪は嘯く。どうにも幻術への妨害魔術が山の周りに漂っているらしいが、それすらも焼け石に水のたとえに相応しい狂気の幻術が展開された。

 すなわち、門の内側には歴史的小宇宙が展開した。歴史的小宇宙とは何か。『His Storical Space (そのまんま)』である。奇奇怪怪が経験したであろう捻じ曲がった喜怒哀楽の感情が石造りの砦の壁をスクリーンとして大上映するという、自己の内面を外界と融合させる奇奇怪怪幻術の真骨頂である。石の壁に映るそれぞれの色が無茶苦茶に混ぜ合わされた絵具のように気味の悪い、カメレオンの肌の様な質感を演出していた。

「怯むな、所詮は幻よ!」

 彼らの言うとおり、幻は所詮幻である。だが、そこにコントンがほんの少しの真実味を加えると話は違ってくる。

「ぐぇっ」

狗の精鋭の頸が一つ、チョンと刎ねられた。突然の出来事であるのに加え、その呻きや血しぶきを奇奇怪怪が幻術で上手く隠し、その場に潜む狗夜叉、コントン両名の独壇場を作り上げた。彼らは透明になったも同然である。

「狗っころめ、鼻も効かねえだろ」

「へっへっへ、死ね死ねオラッ」

二幹部は雑草でも狩るかのように状況を把握しかねる狗たちの首をカットしていった。

 狗夜叉に至っては兄の部下、すなわち同胞にも限りなく近い狗たちを何のためらいも無く斬殺していく。やはり彼は元の狗夜叉とは全く異次元の存在なのである。これぞ魔界の戦闘、と言わんばかりの酸鼻たる光景に違いない。

「どうよ、かつての同胞を踏みにじる気持ちは?」

こう聞くのは外道コントンである。

「へへへ、コントン殿。自分が今何をやっているかは分かりますが、これはいけない。ピクリとも心が動きませんよ」

狗夜叉は首狩りを手早く行いながら嘆じた。しかし、殺しの作業は止まりやしない。狗夜叉の身に残された僅かばかりの情けも空しく、血の海に沈もうとしていた。

 だが、ここに憤怒する男がいた。

「ああ、知らない仲でもない奴らザクザクが死んでいk・・・ゲハっ!?」

狗夜叉の喉に突如、深々と黒槍が突き立てられた。

「仁義の『狗兄弟』もこれまでか。狗公方殿もさぞや嘆かれることだろう、落ちぶれたな狗夜叉!」

そこに現れたのは黒騎士の魔導鎧を身に着けたネクロである。精鋭の突撃部隊を後ろから援護していたネクロが異変を察知したのだ。

「ヒュー、ヒュー。コントン殿の首を貫いたというのはおのれかヒュゥ」

首から息が洩れる狗夜叉だが、この前のコントンのように倒れ伏したりはしない。元々生きていないからである。

 狗夜叉は自らを光のように飛ばす走狗疾風剣の構えを取る。だが、コントンはそれを制止する。

「俺の客だ。お前の客は今に来るだろう? 妖怪の山の不始末のけじめをつけにお前の兄がよ」

「……了解したコントン殿」

狗夜叉がそう言うか言わないかという所で狗の死体の一つから狗の霊が飛び出して夜叉の肩にかじりついた。狗公方お得意の、バテレンを襲う時にも使った霊魂使役の術である。幻に死した狗たちの魂は全て狗公方の力となる仕組みである。

「公方の兄貴、大分近くに……」

怨念に従って夜叉の肩に食らいつき、自らの身体を捻じって肉を抉り取ろうとする狗の霊魂の運動も意に介さず、夜叉は走狗疾風剣に乗って何処かへと消えて行った。

次回予告

 奇奇怪怪の幻術を味方に新しい術で襲いかかるコントン。対してネクロはヘイクロイナの新たな形態と共に挑む。

 次回『魔王の懐刀』第百八回、『コントン空間対黒竜騎士』。

 と言いつつ次はいつになるのやら。

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