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魔王の懐刀  作者: 節兌見一
魔界入門
102/128

ベクトル軍の三体

お久しぶりです。

 二百弱の狗公方の私兵の内、包囲網を維持する役目の第三隊が七十、魔術、呪術によって兵を支援する第二隊が四十、そして狗公方を含む城塞攻略の第一隊が九十という内訳であった。規模は大小様々ではあるが、魔界ではこれが標準的な集団戦闘のスタイルである。ネクロは第一隊、ベクトル一派は保険として第三隊へと振り分けられ、いよいよ攻城戦が開始された。

 「始まりましたなあ、ベクトル殿」

 雨傘山は依然しとやかな雨に閉ざされてたままではあるが、殺し合いに独特の金属音の如き緊張の波長が木々の間を伝わってくる。イゾウとバグは匂いでも嗅ぐかのようにそれを感じ取り、ククリも何となくその雰囲気を認めて戦慄していた。しかし、

「ん、そうなのか?」

と、ベクトルはけろりとしている。場慣れしているのか、むしろその逆なのか。少なくとも魔導師とはそういう、戦士には違う‘もの‘で戦う者である。

「バグさん、イゾウも、そういきりたってはいけない。今回の仕事はこの一筋縄ではいかない包囲網をさらにお手伝いすることだ。中の事はネクロ君と狗公方が何とかしてくれているはずだし」

などとお気楽なことを言っている。

 恨みのある奇奇怪怪を目と鼻の先に置いてこの態度である。もしかすると、ベクトルはベクトルなりにククリとイゾウに適度なレベルの演習場でも選ぶつもりで、こういった役目を得ることを見込んでネクロと契約を結んでいたのかもしれない。あくまで推測の域を出ないが。

「だが、ベクトルよ。傭兵の契約金の如き駄賃でこんなところに居ていいのか? 大黒天を出し抜いて魔王になるとほざいていた割には手ぬるいことだな」

とバグは悪態をついた。バグの場合、魔王を目指す身の上ならばこんな安穏とした(?)包囲網の外などに構えているのではなく、今からでも山中に突っ込んで行って奇奇怪怪一派も大黒同盟軍もまとめて皆殺しにして各地の関係者に首を送り付け、諸勢力全てを敵に回して大立ち回りするぐらいの度胸が必要だとでも思っているのかもしれない。実際、歴代魔王の中にはそういう者もいた。

「耳の痛い事ですがね、まだ私が動く時ではない。来る日の下準備だけはとても忙しいんですが」

フフンと笑み、ベクトルはおもむろに跪いて両手を地面に当てた。

「まあ、せっかく表に出てきたんですし、働きますよ?」

ベクトルが手を当てた部分の地面が盛り上がって裂け、その下から読者には見覚えのあるだろうゴーレムが姿を現し、聳え立った。先日ベクトルが封印を解いたケミカルの遺産『三体の護衛体』が一体、『キラージャイアント』の巨体である。そして、その背から二体の新手、小柄なゴーレム達が彼に舞い降りた。一体は痩せこけた老人の様なゴーレム、もう一体は獅子のような見事な鬣を蓄えた偉丈夫のゴーレムと見て取れた。

「これは!?」

バグには見覚えのある兵器たちであった。大物達の突然の目覚めにイゾウやククリ、第三隊の兵たちも心底驚いた。

「でかい!」

などと、イゾウは何故か喜んでいた。赤ん坊は鉄鬼よよりも一回りも二回りも大きく、味方とするならば圧倒的な心強さをもたらす物であった。現代地球的に言えば、裸一貫でゲリラ戦をやっているところに戦車と無人航空機と武装ヘリコプターが支給された位の頼もしさである。

「『三体の護衛体』の完成品です。あの屋敷の地下に眠っていたのを起こしてきました」

「ああ、驚いた。こんな懐かしいものが今になって出てくるとは……」

バグは懐かしさに胸いっぱいになりながらも殺人兵器然とたたずむ人形達にただならぬ凶暴性を感じていた。この兵器たちとは若かりし頃に一度模擬戦をやった覚えがあったが、しかし、その時はここまで殺人的な雰囲気はなかったような気がする。ケミカルは人間界で狂い殺されたと聞いていたバグは、ケミカルの最期と目の前のゴーレムとの因果を薄らと見た。

「確かに温い仕事です。ですから、我々で地獄を作りましょう? 仮にここまで奴らが抜け出してきたとしても、ここで……」

紙をくしゃくしゃに丸めるかのようなジェスチャーを示す。

 ベクトルの合図と共にゴーレムたちが本格起動、三者三様、赤ん坊はアーと声を上げ、老人は主人を見つめ、偉丈夫は跪いた(奇しくもイゾウ、バグ、ククリ三人組と同じ構成である。ククリを赤ん坊とすれば、だが)。悲しい事に、これが現在のベクトル最強の布陣である。

「逃げる者は殺せ。追う者は襲うな」

ベクトルがそれに一言二言加えると、ゴーレムたちはそれぞれの足で自らの持ち場らしき場所へと向かっていった。第三隊からしてみれば、こんな怪物にうろつかれるのは迷惑でしかない。


「……こんなのが居たら僕たちの出番無いんじゃ?」

「確かに、圧倒的に強そうだし、格好もいい」

ククリとイゾウがこんな感じの事をひそひそとものしていた。もちろんまだまだ彼らはヒヨっこでしかなく、ベクトルが暴れ出すのに何とか彼らはそのレベルに追いつかなくてはならない。ゴーレムに任せて楽など、とんでもない。そういう意味ではイゾウとククリにとっての戦場が魔界で最も過酷かもしれなかった。ベクトルはそういう事を意識していたのだろうか?

 次回予告

 さて、何処から描こうか。ネクロか、狗公方か、パライゾウか、鵺か、それとも……?

 次回『魔王の懐刀』第百七回、『やっぱり予定は未定』。気長にお待ちください

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