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異世界あるある短編

新しい学校を建てますのよ!

作者: 川崎悠
掲載日:2026/09/06

「学校を建てますのよ!」


 ルベリア・ヴァーミット侯爵令嬢、十歳。

 突然の提案だった。


「ルベリア? 何を言っていますの?」

「国外に逃げるとか嫌ですもの! ですので、学校を! 建てますのよ!」

「ルべリア、ちゃんと説明しなさい」


 ルベリアの父母である侯爵夫妻は十歳の娘に聞いた。

 なんでも天啓を得たとか、予知夢を視たとか。


 (いわ)く、ルベリアはあと三年後に王子と婚約することになるらしい。

 しかし、二、三年の交流期間では優しかった王子は、王立学園で出会う平民の特待生に骨抜きにされるのだとか。

 そこからどんどん関係は悪化し、王子の側近たちも役立たずとなり、挙句の果てに卒業パーティーでは冤罪で処刑されるとか。

 その被害は侯爵家にも、派閥の寄子にも飛び火するのだという。


 十歳の戯言、または悪夢にすぎないと信じはしない侯爵夫妻。

 流石に荒唐無稽すぎたのだ。


「ええ、信じなくてかまいませんわ! お父様、お母様!」

「……いいのかい?」

「私もこんな話を信じていただけると思っていませんの! でも、お父様とお母様だから、正直に理由を話しておいたのですわ!」

「では」

学校を(・・・)建てますのよ(・・・・・・)!」

「……それはなんだい?」

「私が通う学校を建てますの!」

「……この国にはすでに王立学園があるが」

「ええ! でも学校が一つしかだめな理由はございませんの!」

「それは……」

「私の本音は、先ほど話したことが理由ですが、そんなものは建前で塗り替えられますの!」

「建前で?」

「新しく学び舎を作り、教育の多様化を目指せば、いずれ、それが王国の財産になりますわ!」

「…………」

「優秀な平民を招く学校でも、逆に高位貴族のみを招く学校でも、はたまた専門的な学習をする学校でも、どれでもかまいませんの! ただ別の学校があることで……私はそこに通いますわ!」


 あながち否定し切れない提案を添えてくるルベリアに侯爵は苦笑する。


「つまり、ルベリアに言いがかりをつけてくる殿下やその平民の特待生から距離を置く場所がほしいと」

「そうですの!」

「その新しい学校に、問題の生徒たちが来たらどうするんだい?」

「即座に退学して、転校しますわ! もう一つの学校へ!」

「……留学するという手もあるのでは」

「そんな! 私、お父様やお母様、お兄様と離れ離れにはなりたくありませんの! ですので留学は嫌ですわ!」

「ルベリア……」


 侯爵は甘えてくる娘をとても可愛らしく思う。


「お父様、お母様、お金が必要なら私、我慢しますわ。誕生日のプレゼントもこれから五年間は要りませんの。ですから五年分の誕生日や、いろいろな費用を全部、学校を建てるのに使ってくださいまし!」


 国内でも有数の資産家でもある侯爵家では、ルベリアへの誕生日プレゼントとなると、相応の額が動く。

 それを五年分。

 もちろん、他家からの贈り物などは資金に換算できるものではないが、派閥内の調整なら。

 侯爵の頭の中で、それなら学校を一つ建てるくらいは……などと世迷い事が浮かんでしまう。


 それをしたら資金難だと思われてしまうだろうか、いや、学園を新たに建てるのは秘匿することではない、理由も並べて、ルベリアが熱心に王国の学問向上を思っているなどと公表すれば……。


「貴方……」

「そうだな……。確かに我儘を叶えるには代償、もといお金が必要だ。それでもいいのかい、ルベリア」

「はい! お父様、お母様! 学校を! 建てますのよ!!」



 そうして五年後、王都には新しい学校が建っていた。

 王立学園の制服とは異なる制服。

 教師陣も意欲的な人材を集め、最新の設備を充実させ、王立学園では受け入れ切れなかった平民にも門戸(もんこ)を開く。


 今まで王立学園では、試験で優秀な成績を収めた一部の平民を特待生として迎える制度があったが、新学校では、そういった制度はなく、多くの平民が通えるようになった。


 二つの学校は気風の違う学校として、王都で共存することになったのだ。

 立地も王都の端と端にあり、普段は交わることはない。


 歴史と伝統ある王立学園。

 新時代と可能性を求める新学園。

 新学園の名は、ルベリア学園と名付けられた。


 ルベリアたちの世代が二つの学校に別れて通うようになる。

 平民に門戸を開いたことで、貴族子女から通う者がいなくなるかと思われたが、王子の婚約者であるルベリアが新学園を建てるように動き、また通うと決まっていたので、彼女と交流を望む家がいくらか流れることになる。


 ある意味で、通う生徒達が同派閥に近く、学園内の雰囲気は良好。

 また新設の学園であることから年上の先輩生徒なる者がまだおらず、すべてが手探りで進む様子が、新鮮に感じられたようだ。


「校舎が綺麗なのよねー」

「新設だものね!」

「こっちにしてよかった!」

「それに制服が可愛いわ!」


 また、二つの学園間で編入試験制度を設けている。

 制服などは別途、用意する必要が出てくるが、就学期間中に他方の学園へ移ることができる制度だ。

 とはいえ、コロコロと就学先を変更されては管理がままならないことを理由とし、編入は一年に一度という制限を設けている。


 一年間、ルベリアは新しい学校、ルベリア学園で楽しく、問題なく、充実した日々を過ごすことになった。


 そうして一年が経過し、二年生に上がった初日。


「ルベリア」

「あら、殿下?」


 ルベリア学園に、ルベリアの婚約者である王子デイビッドがいた。

 それもルベリア学園の制服を着た状態でだ。


「どうしましたの、その制服」

「私も今日からこちらの学園に通うことになってね。編入制度を使わせてもらった」

「まぁ! そうでしたの!?」

「ああ。これからよろしく頼むよ」

「そういうことでしたら、どうしましょうか」

「ん? どうとは」

「私、実は……」


 二人が会話している、そこへ。


「デイビッド様ぁん! あう!」


 突然割り込むように来て、ぶつかってきた女子生徒がいた。

 それはルベリア学園の制服を着ている。


「だ、大丈夫かい?」

「は、はいぃ」


 ぶつかって転んだ女子生徒を助けあげるデイビッド。

 その瞬間、二人は目と目が合った。


「「…………」」


 しばらく見つめ合う二人。その様子を見て、ルベリアは。


「…………」


 無言でその場を下がり、離れていった。


 翌日から、ルベリア学園でルベリアの姿を見る者はいなくなった。



「ルベリア!」

「あら、殿下。お久しぶりですね」


 それからさらに半年。

 侯爵家で休日を過ごしていたルベリアのもとへ先触れなしにデイビッドがやってくる。


「君はいつまでこんなことを続けるんだい?」

「はい? こんなこと、とは」

「不登校だよ!」

「不登校」

「学園に通わず、そんなことで将来の王妃になれると思っているのか!?」

「はぁ……?」


 ルベリアは首を傾げる。


「学園には毎日、通っておりますが……?」

「嘘をつくな! この半年間、一度も君の姿を見かけていない! 他の生徒たちだってそう言っているんだぞ!」

「……他の生徒? あ、もしかして」

「なんだ!」

「殿下、私の姿をルベリア学園でお探しになられているのでは?」

「当たり前だろう! 君が通っているのはルベリア学園だ!」

「違いますわよ?」

「は!?」


 デイビッドはルベリアの言葉に怪訝な表情を浮かべる。


「私、今は王立学園に通っておりますの」

「は!? な、なぜ……」

「なぜって。殿下だって二年生からルベリア学園に編入されたではありませんか。私も同じでしたのよ」

「なっ……! だ、だが、君は二年生の初日、確かに……」

「はい。あの日がルベリア学園で最後の登校日でしたの」

「な……」

「殿下とは同じようなことをすることになりましたけど、入れ違いになってしまいましたわね」 

「そ、そんな……。相談してくれれば」

「殿下だって私に相談なく、編入されたかと?」

「いや、それは! その……」

「まぁ、ですが編入してしまったのでは仕方ありません。一年間は互いに、それぞれの学園の気風というものを存分に堪能し、健やかな学園生活をお送りしましょう」

「だが、それでは婚約者同士の交流が……」

「それはこうして、家で会えばよろしいのでは? 去年はそうしていたではありませんの。……この半年、お誘いなどはございませんでしたけれど」

「う……」


 デイビッドは気まずくなり、目を逸らす。

 だが、あることに気づく。


「待ってくれ。では、ルベリアは半年、あの新学校……ルベリア学園にいなかったのだな?」

「ええ、違う学園に通っておりますもの」

「では……」

「何か?」

「い、いや……。……いい。今日は出直す」

「はい。殿下、久しぶりにお顔が見れて嬉しく思いますわ」

「あ、ああ……」


 デイビッドは気落ちしたように肩を落として去っていく。

 ルベリアは、彼が見えなくなるまで、その後ろ姿を静かに、ジッと見つめ続けた。



 三年生。

 前例のないことではあるが、デイビッドはまた編入制度を利用した。

 ルベリア学園から王立学園へまた移ったのだ。


 しかし、それをしたのはデイビッドだけではなかった。

 デイビッドの側近である高位貴族の男子生徒たちもだ。


 また同じようなことをしようとした生徒がいる。

 それは平民の女子生徒だったのだが……。


「君の身分で王立学園への編入を認めるには、厳しい試験を通らなければならないよ」

「は、はい……」


 王立学園からルベリア学園へ移る際、身分はあまり問題にならない。

 しかし、ルベリア学園から王立学園へ移る場合、平民であるならば特待生試験を通る必要があった。

 これは伝統を重んじる王立学園側の譲れない一線でもある。


 女子生徒は、しかし難しい試験をどうにか通ってみせる。

 それはひとえに彼女が恋をしていたからだった。

 好きになった人とどうしても一緒にいたい。

 たとえ、相手に婚約者がいたとしても、自分ならば彼を振り向かせることができるとそう思っていた。

 どんなことをしてでも。


 彼女には他にもそれが上手くいく自信がある。

 否、彼女の自信は、かろうじてあった、というのが正しい。



「ルベリアは……」

「いらっしゃらないですね……」

「なぜ」

「そのぅ、言い辛いのですが、殿下」

「なんだ」

「ヴァーミット侯爵令嬢も……我々と同じように、また編入試験を受けられ、ルベリア学園に移られたようです……」

「そんな……」


 ガクリ、とその場で膝を突くデイビッド。


「い、嫌な予感がしたんだ……」

「嫌な予感ですか」

「今回は、侯爵夫妻に再三に渡って確認した。ルベリアはきちんと王立学園にいるかと。だが、曖昧な返事をするばかりで……」

「ああ……。誤魔化されたのですね」


 三年。結局、婚約者とは一度も同じ学舎に通うことがないと決定した。

 それはまるでデイビッドとの交流を拒むかのようで。


「それにしてはどうやら動きが……」

「なんだ?」

「……傷口を広げるようですが、一応は調べておきましょう」



「ルベリア!」

「あら、殿下。お久しぶりでございます。久しぶりの久しぶりですわね」

「君、なぜあんなことをするんだ!?」

「あんなこと?」

「君は編入試験を受け、新学年に移ってから数日間だけ籍を置くという暫定処置を通している!」

「ああ、そのことですか」

「他の誰もそんなことはしていない!」

「そうでしょうね。えへ☆」

「えへ、ではない!」


 ルベリアは毎年、編入試験を通っている。

 それに不正はない。

 ただし、次の一年間、どちらの学園に籍を置くのかを新年度に入ってから、数日間の猶予を置いて決める、という特例を認めさせていた。

 もちろん、バリバリに親のコネを使い、権力を振りかざしてのゴリ押しである。


「これではまるで私から逃げるようではないか!」

「別に殿下から逃げているわけではありません」

「そ、そうなのか……?」

「はい。でも、殿下」

「な、なんだい、ルベリア……」

「私が同じ学園に通わなかったことで、見えてくるものもあったのではありませんか」

「な、何を?」

「たとえば、私が同じ学園にいると思い込んで、それを前提にした、明らかに分かる嘘を吐いてきた者が……貴方に寄ってきませんでしたか」

「……!」


 デイビッドはハッとする。

 その表情だけでルベリアは察するものがあった。


「しかし、私にはアリバイがございますわね? だって同じ学園に通っていませんもの」

「それは……」

「殿下。どうか、正しい道を歩みください。嘘を嘘だとわかっていながら、それに身を委ねることなどありませんように」

「…………」


 デイビッドは、またうなだれて侯爵家をあとにする。


 その半年後。

 王立学園では、ある女子生徒が退学することになった。

 理由は公にはされていない。

 だが、侯爵家が調べたところによると、それは王族への虚言が理由だったそうだ。


 その女子生徒はデイビッドにすり寄り、彼の婚約者であるルベリアの悪評を何度も吹き込もうとした。

 しかし、同じ学園に通っていないルベリアができることではない話も多く、信用がまるでなかった。


 彼女の言動は、実は長い期間続けられていた。

 ルベリアとデイビッドが二年生の時にも半年間ほど、ルべリアの悪評を口にしていたのだ。

 だが、それもやはり同じ学園に通っている前提であり、すべてが信じるに値しない虚言だと明白だった。


 一年と半年、デイビッドはその女子生徒に抗えない魅力を感じていて、処罰が遅れた。

 だが、頭が冷えるには十分な期間が過ぎた。

 嘘だとはっきりわかっている言葉を延々と繰り返す女子生徒を、信用することができなかった。


 そうして三年間の学生生活が終わる。

 ルベリアはルベリア学園を卒業し、デイビッドは王立学園を卒業した。


 学園を卒業し、大人への仲間入りを果たした二人は、今度はしっかりと約束した上で侯爵家の庭で同じテーブルを囲い、座っている。


「ルベリア」

「はい、殿下」

「君には未来が視えていたのかい?」

「……なんのことでしょう」

「侯爵に聞いたよ。どうして新しい学校を建てることになったのか、その本当の理由を」

「…………」

「実は」

「はい、殿下」

「学園を卒業した瞬間、なんだか頭の中のモヤモヤしたものが晴れたような感覚があったんだ」

「……!」

「ルベリア」

「……はい、殿下」

「今まですまなかった。この三年間の私のことを信用できなかったことだろう」

「……殿下」

「だが、今は……。今の私なら、君を大切にできると誓える。君への悪意から、君を守ってみせると誓える。だから」


 デイビッドはそこで一呼吸置いて、続ける。


「どうか、私と結婚してください」

「────」


 ルベリアは少しだけ驚いた顔をしてから、フッと優しく微笑みを浮かべる。


「デイビッド殿下、私たちは元から婚約者でしてよ?」

「……そうだね」


 それから一年後、ルベリアとデイビッドの結婚式は滞りなく行われた。

 二人は互いを信頼し合っている様子で、微笑み合う姿が目撃されたという。


 ~FIN~

破滅フラグ回避!

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― 新着の感想 ―
タイトルで平成の漫画『きん◯ょ注意報!』を思い出しました(歳がバレる)。果たして同じ人はいるのだろうか。 (両親の死で金満家から貧乏人へと転落した中学生のヒロインが、三千万円の遺産を受け取り中学校を建…
 殿下が気持ち悪いです。どうも無理だ。  主人公の財力を使った作戦はすごいです
この手があったか! とても楽しく読ませていただきました。着想に脱帽!
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