第11話「手応え」
二週間が過ぎた頃、ソウマの手元にそれなりの形のものができていた。
残骸から取り出したエネルギーケーブル。戦場で拾った制御基板の欠片。廃棄区画で見つけた出力調整ユニットの残骸。それらを組み合わせて、剣に取り付けるアタッチメントを作った。
能力が暴走した時の出力を、少しだけ剣に逃がすための仕組みだ。
完璧じゃない。ルドルフに見せたら「素人工作だ」と言われた。でも「動くか動かないかで言えば動く」とも言われた。
戦場で試した。
能力の熱が上がった瞬間に、アタッチメントが反応した。出力が剣に流れる。アーマーへのダメージが減った。剣への一撃が、前より重くなった。
完全な制御じゃない。でも——手応えがあった。
《おっとォ!新参者の動きが変わってきたぞォ!なんか武器に変なもんつけてるな!自作か!?》
「なにあれ」「自作ガジェット?」「動いてるじゃん」「面白い奴だな」
コメントが少し変わってきていた。
「また出てきた」「今日は何体仕留めるかな」という声が混じるようになっていた。名前は出ない。でも「あいつ」として認識され始めていた。
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その日の戦闘が終わった後、声をかけられた。
「少し、いいか」
振り返ると、知らない男が立っていた。
三十代くらいだろうか。刈り上げた黒髪に、無精ひげ。使い込まれた軍服を着ていた。スポンサーのロゴはいくつか入っているが、派手さがない。実用一点張りの装備だ。
目が鋭かった。値踏みするような目じゃない。ただ真っ直ぐに見てくる目だ。
「なんですか」
「お前の動きを見ていた」男が言った。「名前は」
「ソウマです」
「ガレットだ。このエリアの上官をしている」
上官という言葉に、ソウマは少し身構えた。
上官というのは、戦闘員の配置や作戦を管理する立場だ。Re:cordには直接映らないが、戦場の動きを仕切っている。ソウマはこれまで上官との接点がなかった。スポンサーもなく、組織にも属していないから、管理される立場でもなかった。
「何か問題がありましたか」
「問題はない」ガレットが言った。「あのアタッチメント、自作か」
「はい」
「どこで覚えた」
「独学です」
ガレットが少し黙った。ソウマの剣に取り付けたアタッチメントを眺めていた。
「能力の出力を逃がす仕組みか」
「そうです」
「なぜそれを思いついた」
「暴走した時にアーマーが壊れたので、別の場所に逃がせないか考えました」
ガレットがまた黙った。
何かを判断している顔だった。
「廃棄区画出身だと聞いた」
「そうです」
「残骸漁りをしていたのか」
「十年くらい」
「だからか」ガレットが言った。「パーツの目利きが素人じゃない。あのアタッチメント、材料は全部拾い物だろう」
「そうです」
「使えるものを見つける目がある」ガレットは腕を組んだ。「スポンサーはまだないのか」
「ないです」
「当分つかないだろうな」ガレットが率直に言った。「あの装備を見ていれば、企業は警戒する。いつ壊れるか分からない自作品に名前を乗せたくない」
「分かってます」
「……そうか」
ガレットが踵を返しかけた。
「あの」とソウマは言った。
ガレットが振り返った。
「上官が新参者に話しかけてくるのは、珍しいですよね」
「珍しいな」とガレットは認めた。
「なぜですか」
しばらく沈黙があった。
「十年前に、廃棄区画出身の戦士がいた」ガレットが言った。「スポンサーなしで、自作の装備で、死ぬほど不格好な戦い方で——気づいたら俺の隣にいた。そういう奴だった」
「その人は今も」
「死んだ」
短く、それだけ言った。
ソウマは何も言わなかった。
「お前を見ていると、少し思い出す」ガレットが続けた。「それだけだ。別に何かしてやれるわけじゃない」
「それでも、話しかけてくれたんですね」
ガレットが少しだけ、表情を動かした。
何と表現すればいいか分からない顔だった。照れているのか、困っているのか。ただ、さっきの鋭い目と少し違う顔だった。
「……うるさい」
それだけ言って、今度こそ踵を返した。
ソウマはその背中を見送った。
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その日の夕方、廃棄区画に戻る途中で声をかけられた。
「やあ」
振り返ると、銀髪の少年が立っていた。
カラムだった。
Re:cordで何度も見た顔だ。穏やかな笑顔。サラサラの銀髪。仕立ての良い服。ソウマとは全てが違う人間が、こちらに向かって歩いてくる。
「ソウマ、だったよね」
「……そうです」
「僕はカラム」カラムが笑った。「もう知ってると思うけど」
「知ってます」
「少し話せる?」
用件が分からなかった。カラムがわざわざ自分に話しかけてくる理由が思い浮かばない。値踏みされているのかと思ったが、その目は少し違う気がした。
「なんですか」と聞いた。
「君の戦い方を見ていて、面白いと思って」カラムが言った。「自作のアタッチメント、あれは独学で作ったの?」
「そうです」
「能力の出力を剣に逃がす仕組みだよね。よく思いついたね」
「壊れたくなかっただけです」
カラムが少し笑った。
「正直だね」
「嘘をつく理由がないので」
カラムがソウマを見た。
笑顔はそのままだった。でもその奥の目が、何かを考えているのが分かった。
「君、スポンサーはないんだよね」
「ないです」
「困ってない?」
「困ってます」
「正直だ」カラムがまた笑った。「装備の質が上がれば、もっと戦いやすくなると思わない?」
「思います」
「なら——」
「でも」とソウマは言った。
カラムが少し眉を上げた。
「スポンサーがついたら、スポンサーの言うことを聞かないといけない場面が出てくるでしょう」
「まあ、そうだね」
「俺は人の言うことを聞けないことがあります。それはスポンサーにとって困ると思うので」
カラムが少し考えてから、また笑った。
今度の笑顔は、さっきと少し違う気がした。
「君は面白い」
「そうですか」
「うん」カラムが言った。「損な生き方をするね」
「よく言われます」
カラムが踵を返しかけた。
「カラムさん」
「なに?」
「何が目的で話しかけてきたんですか」
カラムが振り返った。笑顔は変わっていない。
「さあ」カラムが言った。「面白い人間を見つけたら、つい声をかけたくなる性分なんだ」
それだけ言って、今度こそ歩き去った。
ソウマはその背中を見送った。
何を考えているのか、まったく読めなかった。
ガレットとは違う種類の、掴みどころのなさだった。
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廃棄区画に戻ると、ルドルフが待っていた。
「今日はどうだった」
「アタッチメントが動きました。上官に話しかけられました。カラムにも話しかけられました」
ルドルフがしばらく黙った。
「……順番に説明しろ」
ソウマは修理屋の椅子に座り、今日起きたことを順番に話した。
ルドルフは黙って聞いていた。
全部話し終えると、ルドルフが茶を一口飲んでから言った。
「カラムに面白いと言われたのか」
「はい」
「それは……まあ、悪くないかもしれんな」
「そうですか」
「あの男は頭がいい。面白いと思った人間を手放さない」ルドルフが言った。「ただ——付き合う時は気をつけろ」
「何に」
「笑顔の意味が分からない人間は、信用するのに時間がかかる」
ソウマはカラムの最後の笑顔を思い出した。
さあ、と言って歩き去った時の笑顔。
「分かりました」
「分かったなら茶でも飲め。冷める」
ソウマは差し出された茶を受け取った。
今日も、廃棄区画の夜が始まった。




