表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
占奈さんの占いは当たりすぎる!  作者: ゆきのあめ
1章 水晶玉デート編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/14

おまけ 白羽の道しるべ

 家に帰って、自分の部屋のベッドに腰を下ろした瞬間、張りつめていた何かがぷつんと切れたみたいに、全身の力が抜けた。


 窓の隙間をすり抜けた外気が、走って火照った肌をなぞっていく。体はぐったり重いのに、胸の奥だけはまだ落ち着き場所を見つけられずにいた。


 制服のボタンに手を伸ばしかけて、指が止まる。

 代わりに胸ポケットからスマホを取り出した。


 公園で撮ったはずの動画。白いカラス。占奈さんに見せるための「証拠」。

 ……の、はずだった。


 カメラロールを開き、さっきの一本を選んで再生する。


 画面が揺れる。足音。荒い息。葉擦れ。

 ぶれる視界の中で、遊歩道や池や鳥居が流れていく。


 そして、唐突に画面がぐっと近づいた。

 路地の角から何かが飛び出してくる。


 占奈さんの顔。


 驚いて目を丸くして、頬が赤くなりかけていて、目の縁がうっすら潤んで見える距離。


「……うわ」


 情けない声が漏れて、反射で停止ボタンを押した。

 動画は止まったのに、胸の鼓動だけが加速していく。


(なにこれ……)


 顔から火が出そうなくらい恥ずかしい。

 なのに、どうしようもなく嬉しい。


 白いカラスを撮るつもりだった。

 「ほら、本当にいたよ」って見せるつもりだった。


 でも今、もう一度再生したくなってる理由は、白いカラスじゃない。


 占奈さんの顔が、もう一回見たい。


 そう認めた瞬間、胸の内側がくしゃくしゃにかき回される。


 だめだろ、これは。

 理性がブレーキを踏もうとするのに、すぐ隣で「一回くらいなら」と甘い声がささやく。


 僕は小さく息を吸って、結局、もう一度再生を押した。


 揺れる視界。走る足音。

 角を曲がる。ぶつかる。


 そして、占奈さんの顔。


 驚いて、目を見開いて。

 何かを言いかけて、言葉になる前にぶつかって。


 見慣れたはずの流れなのに、心臓だけが勝手に次の拍を早める。


 慌てて一時停止を押す。

 画面が、占奈さんの表情を切り取ったまま静かに止まった。


「…………」


 しばらく、言葉が出ない。


 ぶつかって、痛い思いをさせた。

 水晶玉に、ひびまで入れた。


 本当なら、この動画だって消してしまうほうが誠実なのかもしれない。

 そう分かっているのに、指は削除マークへ動かなかった。


 代わりに、ほんの少しだけ巻き戻して、ぶつかる直前で止める。


 画面の中で、占奈さんがこちらを見ている。

 驚きと、次の瞬間を知らない目。路地で見た、あの近さのまま小さな四角に閉じ込められている。


 僕は迷う。


(いや、さすがにこれは……)


 人としてどうなんだ、とか。

 誰かに見られたら死ぬ、とか。


 それでも、明日の朝また会うまでのあいだ、手の届くところに一枚だけ置いておきたい、と思ってしまった。


 目を閉じて、短く息を吐く。

 覚悟をごまかすみたいに、指を動かした。


 スクリーンショット。


 動画の一瞬が、一枚の写真になる。

 驚いた顔の占奈さんが、新しいサムネイルとして並んだ。


 その小さな一枚をしばらく見つめてから、僕は息を吐いた。


「……ちょっとだけ、だから」


 誰に言い訳しているのか分からない。

 それでも、その画像を「お気に入り」に入れるマークをタップした。


 親指が画面から離れても、胸の奥では、さっき路地で聞いたはずの心臓の音が、まだしぶとく続きのリズムを刻んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ