オカルト倶楽部
「ねえ、これが火鉢オーナーの別荘なの?」夏希がめちゃくちゃ古い洋館を指差し楊世、ヒロ、サキに聞く。
「え〜っ、確かコテージって聞いたのに!違う!」サキは頭を振る。
「これじゃあ〜オバケ屋敷だよ〜
絶対何か出る!」ヒロがニヤニヤする。
「だよね〜?絶対とうとう会えるかも?」夏希がホクホクする。
「…いいな、僕はもう会いたくないし見たくないよ。
2人はあんなに恐い思いしたのに…忘れられるんだね。」楊世が深い溜め息をつく。
(オカルト倶楽部、夏編終了後の夏休み後半です。火鉢オーナーの事故物件の霊騒動を解決した後です。)
耕三のレンタカーに乗り込み、動画で有名な心霊スポット玄岳ドライブインを激写してきたら、着いた先にはもっと寂れた洋館が待っていた。
「もう!人様の別荘をオバケ屋敷みたいに言うのは失礼よ!
ここは由緒ある大正時代の豪商のお屋敷なんだから!
火鉢オーナーが観光ホテルもやりたいと買ったらしいわ。
まだ、水周りと大広間しか手を入れてないらしいけど。」月子さんが言いながら屋敷の大きな扉を叩く。
「良くいらっしゃいました。新しいオーナーから聞いております。」メガネを掛けたスーツの女性が中から出てきた。
「私はボランティアで地元の文化遺産を守る学芸員です。
取り壊しの話が出て、それは勿体ないと仲間数人で篤志家の方を募ったのです。そしたら、東京のホテル業されてる火鉢さんが名乗り出て下さって。」メガネの女性はハンカチで涙を拭う。
「それも傷みがヒドかった大広間と水周りを直して下さって。こういう昔の物は、新しい建物建てるより
直すのにお金が掛かるんですよ。」入ってすぐの大広間の壁は全て美しい緑のアラベスク模様のシルクの壁紙で覆われている。
ほぼ同色の薄い錦糸でアラベスク模様が浮かび上がるように織られている。
「外はオバケ屋敷みたいにボロかったけど、中はスゴい綺麗!」サキが嬉しそうな声をあげる。
「また外壁も修復と清掃すれば、翡翠の使われた飾りが大谷石とのコントラストで美しく浮かび上がる『翡翠宮』の名に相応しい姿を戻すと思います。
でも、それにはここもホテルとして機能していかないと!」学芸員のメガネのお姉さんの目が光る。
「支配人として、最初のお客様であるオカルト倶楽部の皆様に満足していただきます!」メガネのお姉さんが手を叩くと建物に相応しいメイド服の女性がズラリと並んだ。
「大正時代の文献を元に出来るかぎり忠実に再現しました。大正時代、タバコ商人として成功した宗谷吉右衛門が伊豆に造った避暑の別邸です。
翡翠をテーマに内装に凝りました。
正妻と2人の愛人も連れて、ここで夏を楽しんだそうです。」緑色の大広間には豪華な調度品がしつらえられ、ソファやテーブルがランダムに置かれている。
「エエっ、愛人も!」月子さんが驚く。
「はい、そこは様式ではなくアジア式で。最上階の3階を正妻と吉右衛門が使い、2階を2人の愛人と子供達が使ったそうです。
奥様には子供が出来なかったので、歪な家族の形となりました。」学芸員支配人が説明する。
「昔は世継ぎとか大事だったからなあ〜奥さんが子供産めない以上そうするしかないか!イテテテテッ」耕三が言うと月子さんに腕をつねられたようだ。
「まあ、大正天皇も側室が産んだ子だしね。
そんなの普通だった時代なんだよ。イタイイタイって!」楊世が言うと何となく夏希も気が悪くなって膝で楊世のお尻に蹴りを入れる。
急に支配人の携帯に電話が入る。
「申し訳ありません!」と言いながら大広間のバーカウンターのほうへ行く。大広間の脇にはバーカウンターも用意され、バーテンダーが立っていた。
「エッ、そんな!無理です!部屋数はありますが…
火鉢オーナー様!
私達も全て初めてなので、それは…はい!はい!
いえ、やります!やらせていただきます!」半泣きでメガネ支配人が帰ってきた。
「申し訳ありません!オーナーが観光会社の社長に泣きつかれたとかで、別荘地のお客様もこちらでご宿泊する事になりました。」頭を深々と下げる。
月子さんの電話にもオーナーから電話が入ったみたいだ。
「観光会社の社長は、東京のホテル業の仲間だそうで
断れなかったとオーナーからも謝られたわ。」月子さんも仕方ないと言う顔で戻ってきた。
「こんだけデカいから、特に狭くはならないと思うけど。スタッフさんも、私達6人には多すぎるし…」夏希があまりの壮麗さと重厚なおもてなしに圧倒されてたので少し安堵する。
「そう言っていただけると助かります。
とにかく翡翠宮の復興が掛かっているので頑張らせて頂きます!」メガネの支配人が汗を拭きながら答えた。