出会い
本当は怒鳴って怒りたい!
顔面を殴ってやりたい!
が、母が急に倒れた。昔からアスピリンは偏頭痛持ちなので飲んでるが、それで倒れた事なんて無かったのに…
でも医者は長年のアスピリンによる中毒だと言っていた。
そして、薫の母も風邪で飲んだアスピリンで中毒症状を起こしアスピリン脳症となり多機能障害で心不全で亡くなってる。
こんなの絶対おかしい!
おかしいが証拠が無い。飲んだのは本人だし。
とにかく今、薫の心証を悪くする事は出来ない。耐えるしかない。
父と話しながら器用に薫の手が内ももに回り込むともう限界が来た。車のドアを開けて外に出る。
とにかく深呼吸をする。
「きしょ、しね、きしょ、しね、きしょ、しね…」もうこの頃は呪文みたいにこの言葉を唱えてる。
「どうしました?気分でも悪いんですか?」急に頭上から声が降る。
マリアは165cmある。ほとんどの男性は視線の位置はあまり変わらない。
声が上から降るとか珍しい。
ふと顔を上げると190以上あろうかと思える真っ黒な長い髪に真っ黒のシャツにスボンの男が立っていた。
「ヒッ!!」マリアの後から車から出てきた薫が驚く。
この真夏にその憂鬱な姿は、まるで死神のようだ。
確かに恐い。
が、今のマリアには救いの死神だ。
「ちょっと車内の空気がこもってて、息がしづらかったのです。大丈夫です、もう。」ひきつり笑いで答えた。
「どなたかな?」父も車を下りてきた。
「ふうふう、お兄さん、足が速いんだよ~」タクシーの運転手さんが戻ってきた。
「前のタクシーの客ですよ。なんで止まってるのかと思ったら、道路が水浸しで。
このお兄さんが調べたら、どうも別荘地に入る水道管から水が漏れてると…」タクシーの運転手さんが息を切らしながら話す。
「地下茎が道路下の上下水道管を破損してる可能性があります。
今、管理会社に連絡したので水道局と一緒に来てくれます。
しかし…すぐに修復は無理だと思います。
別荘は…使いもんになりませんね〜多分。」真っ黒な死神が理路整然と話す。
掘って見た訳でも無いのに、染み出してる水だけでそこまで分かるのか?
「ふむ、君の見立てが合ってたら別荘を使えるのは一月後だね。お盆時だし、調べて修理するのがまず来週以降になるだろう。」父は少し嬉しそうに話す。
聡明さが、この短い会話でも分かる。
「まあ、予想だよね。もしかしたら古くて接続が緩んでるだけかもよ?」薫がいちゃもんをつける。
「交通量が多い場所ならそれもあるだろうけど、ここは極端に車が少ない場所だし、こんだけ森の中だと根が道路下にも張り出してきた可能性が高い。」死神は道路の両脇の雑草がアスファルトを突き破って道へ侵食してきてる様子を見る。
「そうだね。ウチの車もアスファルトを持ち上げてる根につまづいたしね。」父が後ろを振り返りながら道路がボコボコになってる様子を見ながらうなづく。
「私はキャピタルデータの大河だが、君は?」車から名刺を探して出してきた。
根がビジネスマンなので、こんな時にも持ってきてたのだろう。
「すみません、まだ学生で。名刺を持っていないのですが、王麗明と申します。」死神は恭しく名刺を両手で受け取り、丁寧にお辞儀をした。