時は、廻りて(3)
「それじゃあカイト君、身体を楽にしてくれ」
「ういっす」
ジェネシス本社には様々な施設が存在する――。例えばレーヴァテインの戦闘行動をサポートする司令部。レーヴァを格納するハンガー。武器、装甲などの生産工場。社員の一時的な生活の為の部屋や食堂、シャワールームなど最低限の生活必需施設……。そして、精密検査が可能な最新の設備を取り揃えた医療施設。カイト・フラクトルがそこを訪れるのは凡そ丸一月ぶりのことだった。理由は様々だが、彼があまり検査などを好まない事が最大の理由だと言えるだろう。
検査台の上に腰掛けながらシャツをはだけるとジェネシスお得意の精密機器たちが身体につながれていく。痛みは無いのだが、中々盛大な違和感があった。検査は長時間に及び、一度始まれば全て終わるまで開放される事は無い。カイトは先の長い苦労を重い、渋い表情を浮かべた。
「毎度毎度これだけは慣れないぜ……」
「他のところではやらないような検査だからね。それじゃあちょっと待っててくれ」
端末を操作しながら肉体の構成情報を調査する医師。無精髭と、一応括られてはいるもののぼさぼさに伸びきった髪からしてあまり爽やかな印象は持てないが……。彼はレーヴァテインのパイロット――通称“適合者”専属の医療スタッフである。名前はアルバ・アルドリッヒ――。少年少女で構成される適合者たちと比べると随分と歳が離れているのは言うまでも無い。
カイトはアルバという人物の人柄自体は気に入っていたのだが、検査の度に自分の体内構成を調べられるとなるとここを敬遠してしまうのも仕方のない事なのかもしれない。しかし検査を受けねばイリアが何を言うかわかったものではないので……我慢するしかないのだ。しばらく調査が続き、いてもたってもいられなくなったカイトは苦し紛れに口を開いた。
「アルバさん、どんなカンジだ……?」
「ふむ……? これは……そうだね……」
少々険しい表情だった。その表情にカイトは思わず息を呑む。しかし端末から顔を上げたアルバは優しく微笑み、ペンを指先で回しながら椅子を回転させて言った。
「一ヶ月も検査に来なかったからどれだけ悪化しているものかと冷や汗物だったけど、これならどうやら大丈夫そうだ。君の場合、やはり体力的に優れているのが良い方向に影響しているのかな」
「マジっすか!? うお〜〜っ、こええ〜〜〜……! いっつもおっかねえんだよな、この瞬間……」
「但し、相変わらず君の構成情報の連結が緩くなり始めているのは変わらない。ただ、新しい適合者の彼……リイド・レンブラムが仲間に加わった以上、君も少しはゆっくり出来るだろう。一ヶ月か二ヶ月の間出撃を控えていれば順調に回復すると思うよ」
「一月二月か……。そんなに休まなくちゃいけないのかよ? いざって時どうするんだ?」
「本来ならばもう戦闘行動は継続不能な筈だよ? まだ戦えるだけありがたく思わないとね。君も、僕たちも……。それに君のお姫様を余り心配させない方がいい」
適合者である以上、その肉体への負荷から開放される事はない。しかし暫くの間レーヴァとの接触を避けて休み続けていれば、状態はある程度回復する……。完治する事は在り得ないのだが、それでもそれはカイトにとって希望の言葉だと言えた。彼にとって戦えなくなるという事は自らの死よりも重い意味を持つのだから……。
「当分はリイド君に任せるとしよう。それじゃ、検査終了……もう上がって構わないよ」
アルバが席を立ち、機器を操作する。シャツを着て立ち上がったカイトは、しかし部屋を出て行こうとせず黙って片手をズボンのポケットに突っ込み考え事をしている様子だった。アルバがそれに気づき、言葉を促すように微笑みかける。カイトはそれで頷き、意を決したように語り始めた。
「あの……。差し出がましい事かも知れないんスけど……」
「なんだい?」
「イリアの事なんですけど……あいつ、大丈夫なんですか?」
イリア・アークライト……。カイトと同居し生活している彼のパートナーで、最も信頼し合っている間柄の少女。彼にとっては家族であり、仲間であり、そして支え合うパートナーである。イリアは自分に身体に気をつけろだとか検査しろだとか口やかましく言うが、当の本人はどうなのか……。不安げなカイトを見つめ、アルバは白衣の内ポケットに忍ばせた煙草に手を伸ばした。
「その質問は漠然とし過ぎていて答えに困るけれど……。恐らく君が言う“大丈夫なのかどうか”……と言う事であれば、君同様休んでいれば回復する問題だよ。彼女はレーヴァへの適正も体力も優秀だからね」
「そうっすか……。それじゃ上がりますけど……。あの、イリアのことでなんかヤバいってわかったら――」
「ああ、真っ先に君にも知らせよう。安心してくれ」
「はい! ありがとうございました!」
深々と頭を下げて部屋を出るカイト。その表情はとても晴れやかで、アルバの胸中は複雑だった。カイトが出て行くのを確認するとアルバは溜息をついて先ほどの検査の結果を吟味し始める。薄暗い部屋の中、モニターに青白く男の顔は照らし上げられていた。
煙草に火をつけ、禁煙だという事も無視して煙を吐き出す。子供をその気にさせ、子供を騙し、子供を闘わせる……。一人の大人として最低な仕事に関わっているという事実のモヤモヤは、煙と一緒に吐き出す事は出来なかった。満杯の灰皿に捻じ込む吸殻……男は次の一本に手を伸ばした。
「肉体情報の欠損……治るかどうかは怪しい所だな……。尤も、リイド・レンブラムが適合者になった以上、これまでのような無理な稼動はなくなるはずだが」
しばらくその情報とにらめっこを続けた後、デスクに設置されていた電話を手に取る。内線のボタンを押すと、数度のコール音の後耳慣れた応答が聞こえた。
「ヴェクター、医務室です。少しカイト君の体の事でご相談したいことがあるのですが――」
自らに起きている異変に気づきもしない少年は一人ジェネシスの廊下を悠々と歩いていく。今日の昼食は、イリアに何を作ってやろうか――。冷蔵庫の中には何があっただろうか? そんな事を考えながら……。
時は、廻りて(3)
僕の世界が変わってはじめての休日は、朝からてんてこ舞いだった……。
まずは一番初めから説明するとしよう……。まず目覚めてベッドから出て、着替えを済ませて部屋を出たところで問題が発生した。もうである。部屋出て直ぐどころか、起きて直ぐである。誰がそれを予想出来たであろうか……。何も考えず寝ぼけ眼で廊下を歩いていると、何かに躓いて盛大に階段の上から下までストレートに転落してしまったのである。起き抜けの頭に響く、階段の段差の傷み……。悲鳴を上げながら僕は上下逆様の状態で玄関口を眺めるハメになった。
相当痛かった上本気で死ぬかと思いながら何に躓いたのかとよろよろと階段を上って確かめると、そこには――何故か、エアリオの姿があった。そういえばこいつ、いたっけ……そんな事を思い返す。既に怒りは遠く、むしろ呆れのようなものがふつふつと湧き上がってくる……。へそを出しながら涎を垂らし、気持ち良さそうに眠っているエアリオに駆け寄り、ボクはその胸倉を掴み上げた。
「エアリオ……!? なんで廊下で寝てるっ!!」
「……んう?」
いやいやいや――!! エアリオと奇妙な共同生活が始まって数日が経過したのだが、一つだけ判った事がある。せっかく部屋を用意してやっても、こいつは眠くなるとその場で寝付いてしまうというとんでもないクセがあるのだ。
パジャマのまま廊下でぶっ倒れているところを見ると、恐らく部屋に向かう途中で力尽きたのだろう。昨日は階段で志半ばに倒れていたので、階段から二階まで移動距離が伸びた分進歩といえないことも無いのかもしれない……。何はともあれエアリオの朝は壮絶だ。まず、起きているのかまだ寝ているのかさっぱり判断出来ない。まだ目を瞑ったままぷるぷるしているエアリオ……。じんわりと妙な汗が滲んで来た……。
「んう……ねむい……」
「ほら、階段だぞ、階段! しっかりしろー……! 転落したらものすんげえ痛いんだ、ボクが保障する……! てか……なんかボク頭から出血してねえか……?」
うつらうつらしながら目の前で階段を降りられるのがこんなに心臓に悪いものだなんて思いもよらなかった。普段なら学校に通う為に更にバタバタしているのだが、今日が休日で本当に良かったと思う……。
わざわざ手を引いてやってダイニングに降りるわけだが、エアリオはまだうつらうつらしているので放置しておくと床の上でぶっ倒れて眠り始める。なので必死で声をかけたりテレビをつけたりしながらエアリオの興味を現実に引き付けつつ朝食を用意。ちなみにエアリオは朝やってる子供向けのバラエティ番組をかけっぱにしているといつの間にか起きている場合が多い……と、このあたりでだんだん腹が立ってくる。何故に居候の面倒をここまで見てやらねばならないのか……。
いくらレーヴァという力を操るためのデメリットとは言えこれはあんまりだ。あんまりにもひどすぎる。訓練で時間が取れないとかならともかく、何故介護しなければならないのか。もう面倒をみるというレベルは遥か超越している。これは介護……介護に違いない。腹が立ったので背後からエアリオの肩を掴んで激しく揺さぶりまくる。目を真ん丸くして驚いてボクを見ていたら作戦は成功だ。
「起きたか? ったく、君の神経を疑うよ……。図太いにも程があるだろ。マイペースにも程があるだろ。君はあれなのか? マイペース星からやってきたワガママ姫なのか……?」
最早我ながら何を口走っているのか若干意味不明だ……。こいつは何故人の家でここまでだらける事が出来るのか……。そして何故ボクはエアリオの分まで食事を用意しているのか……。まあ一人分作るのも二人分作るのも大して差はないし……あくまでついでなのだから特にこれといってどうにかしたいほど不服でもないのだが。料理は結構好きだし、親が不在なのが殆どだから自炊は日常茶飯事。専用のエプロンをつけたまま溜息を漏らした。
朝のエアリオは目が覚めても色々と酷い。寝癖はぼさぼさにも程があるし、パジャマのまま一日中うろつきそうな勢いだ。こいつは基本的に自堕落なのだ。学校でシャキっとして優等生で美少女だとか言われてるが、そんな風に考えてるやつらにこの惨状を見せてやりたいね……。
さっさと食事を終えるとパジャマを洗濯してしまうためさっさと着替えさせる。もうさっさと展開させるしかない。エアリオは飯を食うのもマイペースで、眠そうなままもぐもぐと食べる。とても美味しそうに微笑むので、作った人間としてはちょっとうれしくはあるんだけど……いやいや、何を言ってるんだボクは……。あ、ちなみにこいつはどこでも急に着替え始めるので注意が必要だ。ボクが居ようが居まいが、部屋だろうが廊下だろうがお構いなし……。
洗濯機を回してダイニングに戻るとニュース番組を真面目に見ているエアリオがいる。ここまでくれば大分意識もはっきりしてきていると見て間違いない。食べてる途中からシャキっとしてきてはいるらしい。ようやくボクは今日一日の予定について話し合う事が出来ると判断し、隣の席に座った。いや……つーかこいつ、朝起きてからマジで一切なにもボクの手伝いしてねえぞ。
「なあ、エアリオ……? お前、両親とかいるんだよな?」
「……どうしたの、急に?」
急にじゃないんだよ急にじゃ……。お前、ボクの家の隣で生きてたんだろ? 生活してたんだろ? けどこの様子じゃどう考えたって一人暮らしは無理だ。絶対に無理だ。断言してもいい、なんなら神様に誓おうか。まあ神様は人類の敵なわけだけど……ええい、そんなことはどうでもいい!
「わたしはずっと一人暮らしだけど」
「それはひょっとして冗談で言ってるのか――?」
「……? 冗談じゃない、本当の話。隣にあるでしょ、家……。幼馴染なんだし……」
幼馴染なんだしって言われても、うちは親はいつも仕事でいない……どころかジェネシス本社で寝泊りしてるんだし……。近所付き合いなんてウザったいものをわざわざするつもりもないし……。冷静に考えてみると、ボクは一体エアリオの何を知っているんだろうか……。
そもそもその幼馴染って設定も、昔“あの人”に聞いた覚えがあるくらいで、ふーん、そうなんだ……くらいにしか思っていなかった事だ。外見的には住宅団地ということもあり、うちの構造とエアリオの家の構造は殆ど一緒だと思うのだが……。
「……そういえばお前、一回自宅に必要品とか取りに戻ったよな?」
「戻った」
「……君の家は戸締りとか大丈夫なのか?」
「…………わからない。記憶が無い」
なんで記憶がないんだよ!? YESでもNOでもなくて“記憶が無い”ってお前……どんな答えなんだよ!? ああもう、ボクはこういうのが気になってしょうがないんだよ! そもそもこいつ、ご両親に連絡してあるのか!? あのヴェクターとかいう胡散臭い男がそのへんちゃんとフォローしている気がしないし……てか、冷静に考えてこれはいいのか……? この状況はいいのか? 母さんが帰ってきたらボクはなんて説明するつもりだったんだ……?
「リイド、どうしたの? ずっと難しい顔してる」
「難しい状況なんだよ……。あー……えーと……。エアリオ、君のご両親は……?」
「いない」
「いないって……」
「いないものはいないから分からない。気づいた時にはいなかった。それからずっと、一人で生きてきたから」
「あ……そうなんだ」
と、歯切れ悪く口にして思わず黙ってしまった。ずっと一人で生きてきた……そう口にした彼女の表情は眉一つ動かなかった。彼女にとってそれは本当に“当たり前”の事……それが痛いほど感じられたから。
別に、エアリオの家庭環境の事なんて知った事じゃないし、ボクには関係ない……。家が隣同士だってだけで、ボクらに直接的な関わりはなかったんだから。でも……なんとなく、思う。エアリオは……彼女は、この“だらしがない”所を、叱ってくれる人が誰も居なかったんじゃないか……と。
ずっと一人で、ずっとそれが当たり前で、エアリオはただ黙々と生きてきたのだ。彼女はもしかしたら寡黙なんじゃなくて……喋る相手がいなかったのかもしれない。実際、エアリオとボクとの間に会話は一応成立している。エアリオはテレビを眺めながらテーブルに頬杖をつき、眠たげに目を擦っていた。
「それじゃ、ボクと同じかもね」
「……同じ?」
「ボクも見ての通り殆ど一人暮らしみたいなもんだしね。母さんはずっとジェネシス勤務だし、父親は死んだらしい。家族はもう一人居たけど……あいつの事はあんまり思い出したくない」
「……好きになれないの? その人の事」
何でエアリオにこんな事を語ってしまったんだろうか……。自分でも良く分からない。でも、彼女のボクを見る金色の目が穏やかに言葉を促していた。長い睫を揺らし、エアリオは瞬きする。ボクは……椅子を引いて立ち上がった。
「そういうわけじゃない。でも、ただ…………。いや、それより今から出かけよう」
「どこへ?」
「決まってるだろ? 君の家に――だよ」
二人して家を出て、エアリオの家の玄関に辿り着くまで一分くらいだった。外観的にはボクの家とまったく同じ家……。ボクがここを訪れた理由は一つだ。
「……そんなに気になるの? 戸締り……」
「気になるに決まってるだろ! 君のそういうだらしがないところが我慢ならないんだよ、ボクは!」
「…………。リイドって、結構細かいね」
何とでも言うが良い……ていうかお前にだけは言われたくない。お前はもっとちゃんとしろ。せめて人間らしくしろ。
そうしてボクは玄関の扉を開け放った――。もうこの時点で玄関の鍵がかかってねえ……。そして……直ぐに感じられたのは異様な悪臭だった。脳裏を嫌な予感が過ぎる……。こいつは、ずっと一人暮らし……。そしてあのぐうたら具合……。まさか……まさか、この中は……。
「――――いらっしゃい、リイド」
エアリオが眠たげな様子のまま、まるでエレベーターガールみたいに手を上げてボクに言った。生唾をごくりと飲み込み、異様な雰囲気の家の中に足を踏み入れるボク……。数分後、ボクはこの家に入った事を猛烈に後悔し、絶叫と共にエアリオを連れて脱出するのであった……。
「……それでエアリオ、今日はどうするんだ?」
「どうするって……?」
「レーヴァに乗る以上、こう、パイロットとして色々訓練があるとかさ……。 秘密のアイテムの授与があるとかさ?」
エアリオの家であった事は全て見なかった事にして、ボクらは休日の予定を決める事にした。もうあの話題には触れたくないし、エアリオはもうこのまま一生うちで暮らせばいいんじゃないかと思う。
「そんなものはない。秘密のアイテムなんてものはもっとない。それをリイドが言い出した事が凄く意外……。非現実的すぎる」
そこまで完膚なきまでに言われるとは思っていなかった……。無論冗談なのだが、そこまでいうか普通? エアリオは目をぱちくりさせながらじっとボクの目を覗き込んでいる。なんだその顔は。なんだその、お前頭大丈夫か? 的な目は……。
「でも、訓練はしたほうがいいんじゃないのか……?」
「それはそう。でもリイドがしたいと言わない限り、わたしは訓練なんて持ち掛けない。わたしはリイドの命令に従うだけだから」
―――わたしはあなたの命令に従うだけ。あなたが死ねといえば死ぬし、生きろといえば生きる。
「――――?」
脳裏を過ぎった言葉。 それは確かにエアリオに言われた言葉のような気がするのに、どこで聞いたのかが不確かだ。エアリオに会ったのはいつだったか……。実際に言葉を交わしたのはクレイオスに襲われた日……。あの日以降のことは記憶にあるのだから、その日だと思うのだけれど……。
「……ま、いっか。そういえばあれからジェネシス本部に行ってないけど、行かなくていいの?」
「確かにそろそろ受け入れの準備が出来ているかもしれない。スタッフとの顔合わせも完全じゃないし」
「じゃあ本社に行ってみるか。スタッフと顔あわせなきゃいけないのは面倒なんだけど……」
「しょうがない。レーヴァは一人じゃ動かせません」
何故か偉そうにエアリオは無表情のままびしりと断言した。ボクは……こいつと本当にうまくやっていけるのだろうか……。無性に心配になってきた……。
そういえば、そもそもレーヴァについてもまだ何も教えてもらっていないわけだし……やはり最低でも一度は顔を出しに行く必要がありそうだ。もうめんどくさいとか言ってる場合じゃない。それに……めんどくさがってるとエアリオと同類になってしまう。それだけは本気で勘弁願いたい。
そんなわけで早々に仕度を済ませると午前中の賑やかなシティを抜け、ジェネシス本社直通のエレベータに乗り込んだ。クレイオス襲撃の日、エアリオがボクを引っ張り込んだエレベータだ。しかし前回とは大分ボクらの間に流れる空気は違うように思える。
まあやっぱり沈黙していると重いのはそうなんだけど……今のボクは彼女の事を以前より少し理解している。エアリオは不機嫌だからとかボクが嫌いだからとか、そんな理由で黙っているわけではない。ただ……しゃべるのがめんどくさいだけなのだ。
学園の中でもダントツの美少女の内心にあるものが“めんどくさい”の五文字だけである事を知ったらみんな驚くに違いない。そしてそれを知っているのが自分だけ……というのはちょっと不思議な感覚だった。じっとエアリオを見つめていると、きょとんとした顔で振り返ってくる。ボクは首を横に振り、肩を竦めてただエレベータがジェネシスに到着するのを大人しく待つ事に決めるのであった……。