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覇軍の、序曲(3)

「楽しんでいますか、リイド君?」


 SIC代表アレキサンドリアが主催する決起集会……そう言えば聞こえは良いが、要するにただのどんちゃん騒ぎの宴会。その席を遠巻きに壁際で眺めるリイド、そこへエルデが歩み寄る。

 琥珀色の液体が注がれたグラスを軽く掲げるエルデ。リイドは壁に背を預けたまま、新たな“仲間達”一人一人の顔を眺めている。


「全く、何が決起集会だよ……こんな事している間にもジェネシスは準備を終えるかもしれないのにさ」


「一時間二時間の差で何かが大きく変わることもないでしょう。それはリイド君も分っているはず。これもジンジャーエールですしね」


「そりゃあ、そうだけどさ……やっぱり焦るなっていう方が無理だろ」


 ずるずると座り込み、物思いに耽るリイド。目を瞑れば瞼の裏に広がる暗闇は忘れえぬ記憶を再現する。

 あの日、ヴァルハラから命辛々脱出した日。ジェネシスで起きたクーデターは楽園の全てを変えてしまったに違いない。

 もうあそこは絶対に安全な楽園ではなくなった。一部の特殊な思想を持つ人間の為に使われる、滅びの牙城。そこに取り残された一般人は今どうなっているだろうか。ジェネシスの人間にとって、彼らの存在は既に何の価値も持たないだろう。

 否、或いは人質として使うつもりだろうか。少なくともリイドは住民が残っていれば派手な攻撃は出来ないし、それをリフィルも知っているだろう。


「自分が何も知らないただの子供で、世の中はワケわかんない事で満ち溢れていて……急に与えられた真実って奴の大きさと責任の重さに、たまに押し潰されそうになっている自分に気付く時があるんだ」


「そうでしたか。人並みにプレッシャーを感じるとは、以外ですね。あんなに図太い性格だったのに」


 笑顔でそういわれると何と無く言い返せない。リイドは舌打ちし、髪を掻き乱す。


「ああ、そうさ。ボクは向こう見ずだった。でもそれは何も知らなかったから、何もなかったからだ。今のボクにはもう、守るべき物がある。背負う世界がある」


 残してきた物は名も知らぬ多くの人々だけではない。自分を逃がす為に、この背中を押してくれた人達がいた。

 命懸けで戦ってくれたオリカも、自分を逃がそうとしてくれたカグラも……ヴェクターやユカリ、ルドルフ……仲間達はまだ無事だろうか。そしてまだ戦っているのだろうか。

 何よりもケリをつけなければならない事がある。この世界がもしも仕組まれた戦いの世界で、自分が神という存在ならば。ここに人の心を持って生きている事に、意味があるのならば。

 確かめねば成らない。何故こうでなければならなかったのか。母を名乗ったあの女は何をしようとしているのか。そして、エアリオというもう一つの神の存在に何が出来るのか。


「その言葉は僕にも当てはまるのかもしれません。僕は最初、皆さんを場合によっては暗殺するつもりでした」


「ボクらがジェネシスの都合よく利用されて、世界征服が始まるのを防ぐ為だろ?」


「ええ。ですが今はそんな風には考えていません。尤も、僕にそんな事をする資格は最初からなかったのですが」


 眼鏡を外しスーツの内ポケットに仕舞い、顔を上げた。その横顔には清清しい微笑が浮かんでいる。


「僕は思うのです。僕はこの舞台にたまたま紛れ込んでしまった、偶然の存在だと。本来ならば皆さんと交わる事もなく散っていった、ただの脇役なのだと」


「エルデは確かに地味だと思うけど、そこまで?」


「僕には何も背負うものがありません。リイド君、僕には何も無いのです。家族も故郷も守るべき人も場所もなく、僕はただ戦い続けるだけの存在でした。君達のように世界にとって重要なピースを背負わされているわけでもない」


 アレキサンドリアに二重スパイを命じられた時には何も感じなかった。けれど今は違う。ジェネシスで本当の仲間達と出会えたから。


「今は心から戦いたいと願う。脇役に過ぎない僕でも、所詮主人公には程遠い僕でも、本当の“主人公”に道を作ることは出来る。僕はそれをとても誇らしく思います」


「……エルデ」


「大丈夫です。きっと全て上手く行きますよ。君が背負う物を僕は決して分かち合う事は出来ないけれど、君が進む道はきっと開きます」


 立ち上がり頷くリイド。エルデはグラスを掲げ立ち去っていく。恐らく浮かない表情である自分を励ましに来たのだろう、それがわかってリイドは苦笑を浮かべた。


「リフィル・レンブラム……そして“第七天輪”……」


 そんなもの、どうだっていいんだ。

 人間はもう、自分達で歩いていける。この世界に神なんて必要ないし、そこは永遠に空席で構わない。

 自分だってそうだ。神でなんてなくていい。エアリオもそうだ。神なんかじゃなくたっていい。人間でいい。未熟で愚かで間違いを繰り返す、そんな人間でいい。


「そうだろ、エアリオ。だからお前も…………人間で、いいんだよ」


 拳を握り締めるリイド。その様子を遠くから眺めるアイリスの姿があった。

 リイドはもう、沢山の歪を受け入れて戦う覚悟を決めている。しかし未だ少女は嘆きと迷いの狭間に身を置いていた。

 常に気を張り詰め強がり必死で戦う彼女だからこそ、一度折れてしまった時に立ち上がる事が難しい。必死に戦ってきたその全ての価値が逆転してしまった時、進むべき道を見失ってしまう。

 理不尽な現実に対する怒りは心を歪め、逆転した目的と手段は場合によっては他者へとぶつけられたかもしれない。しかしそれを抑えられる程度には彼女もまた成長を遂げていた。


「アイリス、ちょっといいか?」


「カイト……身体はもういいんですか?」


「ああ、ご覧の通りピンピンしてるぜ。それよりもお前の方が心配だ。聞いたぜ、リイドから」


 俯き明らかに顔色が悪くなるアイリス。カイトは歩み寄り笑みを浮かべる。


「俺もバイオニクルってやつの仲間入りだ。これでもう人間卒業! これまで以上にバッチリ戦えるぜ」


「……気休めのつもりですか?」


「つもり、じゃなくてそうだ。微妙に訂正すると気休めじゃなくて励ましな」


「ねぇカイト……カイトは、姉さんの事……好きですか?」


 突然の質問にきょとんとするカイト。しかしアイリスの悲しげな瞳が冗談ではないのだと告げている。


「……好き、だ。上手く言えねぇけど……つか、俺みたいな奴が他人を愛していいのかもわかんねえけど……好き、なんだと思う」


「何ですか、それ」


「知ってるだろ? 俺は沢山の仲間達と一緒に流浪の旅をしていた。そして膨大な難民の中から、俺と親父だけがヴァルハラに迎え入れられた」


 そこで親友であったキョウやマサキとは離れ離れになった。神の襲撃を受け難民が大虐殺を受ける中、カイトはその景色に背を向けたのだ。


「俺は家族と仲間を裏切って生き延びた。あんなに守りたいと思っていた物をまるで守れなかった。それより生き延びる事を選んだんだ」


「子供だったんですよね? 仕方ないじゃないですか、そんなの」


「ああ、ガキだった。だが今でもガキだ。ちょっとロボット乗れるだけの普通のガキだ。そんな俺がイリスを守ってやりてぇなんてよ、そんなのは傲慢だろ」


 寂しげに苦笑を浮かべるカイト。アイリスはその顔を見つめる。

 恐らくそうなのだ。きっとみんなそうなのだ。一つ一つ、罪と自責の念を抱えていて。

 納得の行かない過去に、納得の行かないこの世界に、納得の行くわけがないこの運命に抗おうとしている。

 どうしてなのだろう? 何故その中でカイトは笑えるのか。リイドは決意を胸に出来るのか。アイリスにはそれがどうしてもわからなかった。

 努力して努力して努力して、それでも報われなかったら? 努力する事でしかここに居られなかったアイリスにとって、それは余りにも惨い結末だ。

 自分が作り物の命である事も、この世界が呪われた宿命にある事も、裏を返してしまえばただそれだけの“設定”に過ぎない。価値を決めるのは自分自身で道を選ぶのも自分自身。結局明日を紡ぎだすのはこの細い両足だけなのだ……それはわかっている。だが――。


「……怖いんです。この世界に潜む底知れない悪意……それがどうしても、怖くて怖くて仕方ないんです」


「アイリス……?」


「私……私、これ以上前に進んじゃいけない気がする。これ以上本当の事を知ってはいけない気がする。それを知ってしまったら、私……っ」


 泣き出しそうな顔で唇を噛み締めるアイリス。その頭に手を乗せ、くしゃくしゃとカイトが撫でる。


「大丈夫だ。もしどんな事実を知ったって何も変わらねぇよ。俺が今でも……その、イリアが好きであるように、な」


 顔を上げるアイリスの頬を一滴の涙が伝う。カイトは咳払いし、両腕を広げる。


「ほれ、未来の妹よ。お兄ちゃんの胸に飛び込んでおいで。大丈夫だ、お前が泣き虫なのは知ってる。皆にはナイショにしといてやるよ」


 堪えていた表情がくしゃくしゃになり、アイリスはカイトの胸に飛び込んだ。少年は少女を抱き、その頭を優しく撫でる。


「怖い……! 自分が作られた命である事がじゃない! もっともっと奥に知っちゃいけない真実がある……それが怖い!」


「大丈夫だよ、アイリス。俺達はずっと仲間だ。お前が何を背負っていても、な」


 だけど、知っている。“あの日”、カイトは月の決戦で――。

 知らないはずの知識が段々と蘇り始めていた。知ってはいけない記憶も、徐々に。あの白い月で何が起きたのか、否――何が起こるのか。

 沢山の命が消えていく声が聞こえた。そしてそこで何か、知ってはいけない事実を知ってしまった。それから自分はどうなってしまったのだろうか?


「リイド先輩も……私を許してくれるでしょうか」


「ん? 許すって何を?」


 口を噤むアイリス。自分でも何を言っているのかはよくわからない。ただそれがはっきりする時は、恐らくそう遠くないだろう。


「……ありがとう、カイト。もう大丈夫です」


「そうか。俺は器のデカイ男だからな、泣きたくなったらまたいつでも来い」


 立てた親指で自らの胸を軽く叩き笑うカイト。そうこうしていると、パーティーホールにマイクを通した声が響き渡った。


「あーあー! 諸君、楽しんでもらってるかねー! ここで一つ、ちょっと今後の事について話をしておこうと思う」


 椅子の上に立ちマイクを握り締めるアレキサンドリア。そこへ仲間達は集っていく。


「えーまず、これから我々が始める事だが――」


「失礼します! 社長、緊急事態です!!」


 突然扉を開け放ち入って来た社員にアレキサンドリアの表情が曇る。開けたままの口をゆっくり閉じ、マイクを降ろした。


「何事だ」


「敵襲です!! ジェネシスが大部隊を率いて攻めてきました!!」


 どよめきが広がる。しかしその正体は主に困惑である。


「どういう事だ? 大部隊なんてジェネシスにはないだろう。あったとしても、同盟軍と同等程度のはずだ」


「は、それが……ジェネシスは、未確認のアーティフェクタと思しき機体を前線に出しています。それと……」


「それと?」


「か、神と天使の混成部隊が…………ヘイムダル、マステマ隊と“共に”こちらに向かって居ます……!」


 目を見開くアレキサンドリア。話を聞いていた者達の中、スヴィアとスオウだけが話を理解した。


「――来たか。予想より早かったな……トランペッター」


 一瞬で場のスイッチが切り替わり、再び視線はアレキサンドリアに集結する。次に彼女の口から飛び出すのは宴会の前口上ではなく、出撃命令である事だけは確かであった。




覇軍の、序曲(3)




「トランペッター、正常に能力稼働中……。一番から七番機まで部隊を引き連れ進軍中。ヘイムダル、マステマ隊は大型輸送機にてそれに追随しています」


 そう状況を口にしつつ、オペレートしているユカリ本人が意味不明な状況に納得が行かないままであった。

 トランペッター一機につき、200を超える天使と神の軍勢を引き連れている。その後方には合計300機のヘイムダル隊、250機のマステマ隊が続く。

 神を操り引き連れているトランペッターの能力にも、本体が残り六機のトランペッターを遠隔操作しているという事実にも、夥しい数の機動兵器の存在にも得心は行かない。


「一体いつの間にこれだけの兵力を……」


「いつの間にもなにも、最初から浮いていたじゃない。あの闇の空にね」


 冷や汗を流しながら呟くヴェクターに対し、リフィルは笑みを浮かべ真上を指差した。

 ヘイムダルとマステマ、合計550機。これは秘密裏に以前より対神兵器開発室、つまりソルトア・リヴォークの手で準備されてきた。ジェネシスが本来持つ兵器プラントを万全に稼動させれば、この程度の事は実に容易い。しかもこれはジェネシスの全戦力ではなく、全体の三分の一程度に過ぎない。

 そして何より問題とされる機動兵器と適合するパイロット。いくらジェネシスといえどもこれを即座に準備する事は不可能、しかし……。


「空には神の模造実験場があった。神のブレインであるアダムとイヴ、それを人為的に複製しようと言う恐ろしい計画の産物がね」


 これぞ正に天に唾するおぞましき研究。しかしそれは後のバイオニクル化技術などにつながり、人が神の力を制御する上で欠かせない物となった。

 宇宙に放置されたフロンティアはその一大研究施設であり、そこには大量の実験体が残されていた。神のブレインとしての能力を持たず、それどころか人並みの思考すら出来なかった模造品達。神の力を持ち、しかしそれを行使する知恵を持たない肉の塊……それもまた、使い様。


「トランペッターには“思考停止状態”の神を操る能力がある。ブレインの上位命令には逆らえないけど、命令未入力状態の神ならば全てをコントロールすることが出来るわけ」


「ま、まさか……」


「そう。肉の塊を機動兵器と一体化させ、それをトランペッターで操る……つまり、この軍勢に人間は一人も居ない。全てが神で構成された、“神の軍勢”ってわけね」


 思わず後ずさるヴェクター。女は低く笑い、突然狂ったように高笑いを始める。


「どうかしらヴェクター、面白い演出だと思わない? 最早この世界に神はいない。真の意味で神さえ従えるこの私こそ、神を凌駕する絶対存在――!」


「貴女は……狂っている……」


「最高の褒め言葉ね、有難う」


 額に手を当てヴェクターを見下すように笑う。しかし歯を食いしばり、ヴェクターは一歩前へ。


「だが、それも無限ではない! 神の軍勢は地上に残った神を結集させた物ですが、限界はある! ヘヴンスゲートが次々に封鎖されている今、それは……」


「別に問題ないわ。ヴァルハラのユグドラシルと月のユグドラシルをつなげれば、月から無尽蔵に神を召喚できる」


「な……っ」


「機動兵器のパイロットにはヴァルハラの住民を使うわ。彼らの身体に強制的にユグドラ因子を捻じ込み廃人にしてコントロールすればいい。この時の為にわざわざ生かしておいた“残機”だもの、使いつぶさない手はないでしょう?」


 いとも容易く告げられた非人道的な未来に運用本部は静まり返った。命を天秤に載せられここで働かされている彼らでも躊躇する悪魔の所業、それをこの女は歌うように体現する。


「反乱分子が一箇所に纏まっているなんて好都合じゃない。さあ、叩き潰しましょう。いいえ、これくらいで潰されちゃ困るわ。でも消えてくれた方がいいかもしれない……ふふ、さてどうしようかしら。貴方の出方を教えて、リイド」


 この世界の事なんてどうでもいい。全てはゲーム。現実も虚構も、連なる運命に縛られたこの世界にとって意味は同じ事なのだ。

 ならばこれこそは世界と言う盤上のゲーム。チェスだろうか、将棋だろうか? 王は知らない。自分達が盤上の駒である事を。ただ、使われるだけの駒である事を。


「盤外からの悪魔の一手――バツグンのチート。立ち向かって見せて、リイド。貴方が運命に逆らって足掻く姿が見たいのよ……あっはははははは!」




「リイド、セト! エクスカリバーに連絡はつけたが、到着までにはまだかかる! お前達が防衛の要だ!」


 スヴィアからの通信にレーヴァテインとトライデントは機動、二機は人工島であるSIC本社ビルの最端に並ぶ。


「同盟軍の部隊は殆ど出払っている。世界各地でヘヴンスゲート攻略を急いだツケだが、あの軍勢を前に意味はあまりなかっただろうな」


「大丈夫だ、スヴィア! あの程度の連中、レーヴァテインで圧倒してやる! いくぞ、アイリス!」


 叫ぶリイド、しかしアイリスの応答は無い。振り返ってみるとアイリスはぼんやりと虚空を眺めていた。


「アイリス?」


「――っ、はい! ここから遠距離狙撃で敵を迎撃します。大丈夫、オルフェウスの独壇場ですから!」


「ならこっちは突貫するぜ? くれぐれもスヴィアん時みてぇに背中撃つんじゃねーぞ!」


 舞い上がり海に落下するトライデント。そのまま海面で停止し、水飛沫を大量に巻き上げながら前進して行く。


「私もヨルムンガルドで出る。カイトとエルデも出撃準備を終えている、到着するまで持ち堪えて……何ッ!?」


 冷静沈着であるはずのスヴィアが上げた驚愕の声にリイドは眉を潜める。だがその理由はオルフェウスの高い索敵能力で理解できてしまった。

 ライフルを構えるその銃口の先、そこには会場を尋常ではない速度で吹っ飛んでくる機体の姿がある。そしてその片方には見覚えがあった。


「あれは……クサナギ!? そんな、この間完全にぶっ壊したはずだろ!」


「しかも明らかに速力が増しています。デザインもどこか違っている……パワーアップしたとでも言うの?」


 戸惑うアイリス。そして何よりそのクサナギの隣を進んでいるもう一機のアーティフェクタ、それが問題であった。

 それは漆黒。昼の下に切り取られた夜。闇を纏い、闇を進み、闇を食らう獣。


「……そんな……あの武装――イザナギなのか!?」


 海上を突き進む漆黒のアーティフェクタ。そのコックピットには歪な装置に取り込まれ虚ろな瞳で口から涎を垂らすオリカの姿があった。

 体中に突き刺さったコード。胸のユグドラ因子に無数に打たれた杭は彼女を取り込み、このアーティフェクタの中枢と成していた。

 最後にして最強のアーティフェクタ。その名はロンギヌス。ロンギヌス=イザナギ――。


「オリカさんが……乗ってるんですか……?」


 冷や汗を流すアイリス。凶悪な暴力性と悪意を隠そうともしないロンギヌスは雄叫びを上げ加速、真っ直ぐにSICビルに突っ込んで来る。


「……くっ!! アイリス、迎撃するぞ! 最大出力でケルベロスをぶち込む!」


「そんな事をしたらオリカさんが! オリカさんが乗っているかもしれないんですよ!?」


「バカッ、だからこそだろ!!」


 リイドは知っている。あれはこの世界で最強の干渉者であり、最強の適合者。

 その眼前に立ち塞がる敵は悉く破滅を迎える死を運ぶ神。生半可な攻撃が通用する筈は無い。

 急速に周囲のフォゾンを収束し放たれた光の一閃。海をかち割り大気を燃やすその熱閃をロンギヌスは胸から取り出した太刀で両断する。


「ノーダメージ……そんな!?」


「今ので確信した。あれは本当にオリカが乗ってるんだ。でもどうして……!」


 迷っている暇は無い。猛然と突っ込んできたロンギヌスはレーヴァテインに体当たりをかまし、そのままSIC人工島を一瞬で通り抜けてしまう。


「なんだこのパワーは……!? オルフェウスじゃ、押し返せない……ッ!!」


 ロンギヌスの咆哮。それだけで周囲の空間が爆ぜ、レーヴァテインは吹き飛ばされる。


「オリカ……オリカなんだろ! 何やってんだよ、お前! お前は……お前はそうじゃないだろ! オリカ・スティングレイ――ッ!!」


 ライフルを構えるレーヴァテイン。スコープの先、そこには空前絶後の最強が待ち構えていた。

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またいつものやつです。
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