業を、継ぎし者(3)
『これは一体どういう事だ……!? 何故ユグドラシルから我らが切り離されている!? エーテル通信システムは我らが生み出した物……それが改竄される……!?』
『だ、だめだ……。何が起きている……? リヴォークはどうした……!? 誰か、説明出来んのか!?』
闇に閉ざされたざわめく会議室に光明が差し込んだのは入り口の扉が左右に開かれたからだ。そこに浮かんだシルエットはしかし彼らが望んだものではなかった。紅い髪を靡かせ、女はハイヒールを鳴らして“第七天輪”へと歩み寄る。
『…………リフィル・レンブラム……。いや、アイリス・アークライト……! 貴様の仕業か……!?』
黒いジェネシスのロングコートのポケットに手を突っ込んだまま、女はゆっくりと頭上を見上げた。照らし出される部屋の中、天井から吊るされた生命維持装置に繋がれ身体の半分以上が機械化された人間達が円形に並んでいた。それこそがセブンスクラウンと呼ばれている者の正体、そして彼らがそこから動けぬ理由でもあった。
「こんにちは、哀れな人類の夢の残滓――。こうして会うのは何度目でしょうね」
口元にうっすらと笑みを浮かべるリフィル。セブンスクラウンは彼女を取り囲み睨み続けるが、リフィルはまるで動じる様子も無い。
『我々をユグドラシルから切り離し、貴様が支配者になるとでも言うのか……? この世界を救う、救世主にでもなると……?』
「支配者……? 救世主? ふふ……っ」
リフィルは片手を腰に、そしてもう片方の手を額に当てて低く笑い声を上げた。静寂の空間にリフィルの声だけが反響し、その不気味さにセブンスクラウンでさえ黙ってしまった。
「ははは! あははははっ! 中々面白い事を言うんですね、貴方達も……。成る程、それも悪くは無い。けれど私の目的はそんなチャチな事ではないんですよ」
『…………神を気取るか……』
「人間風情が私と同列などと思われては心外です。心配せずとも貴方達は送り出してあげますから、もう少しの間ここで我慢していなさい」
『我らが百年かけて培った計画……それを奪うつもりか!? この女狐め!』
「言葉で呪うだけならば誰にでも出来る……。貴方達は目の前に居るこの私一人殺す事すら出来ない。肉体の枷に囚われたままの存在で……貴方達こそ神には程遠いのでは?」
『貴様なら成し遂げるというのか……? 世界を渡り続ける永遠者ならば……』
リフィルは両手を左右に広げ、それから歪な笑顔を作ってみせる。沈黙する場の中、リフィルの笑い声が響く。変化していくこの世界の運命を嘲笑うかのように……。
「――エルデ、どうするんですか!? 隔壁が閉ざされていて、本部にも格納庫にも行けないんじゃ……!」
その頃アイリスはエルデの後に続いてジェネシスの通路を走っていた。入り組んだ地形を利用してこれまで戦闘をやり過ごしてきたが、それも長くは持たないだろう。エルデはカイトを背負っているので戦えないし、アイリスに白兵戦闘など出来るはずも無い。戦いに巻き込まれればそれで終わり……だというのに本部への入り口は隔壁で閉ざされ、格納庫へも同じである。しかも両方が現在クーデター派によって開放作業が行われており、あけてもらう事すら出来ないのだ。
細い通路に入ってエルデは足を止める。肩で息をするアイリスは自分がもう長くは持たないだろう事を確信した。そうしてゆっくりと顔を上げたその時、背後から伸びた何者かの手がアイリスの口元を抑える――。慌ててそれに抵抗しようとするが、そこに立っていたのは意外な事に専属医師のアルバであった。
「アイリスさん、落ち着いて……! エルデ君、よくここまで来られたね」
「ええ、予定通りです」
「ぷはぁっ!? 予定通りってどういう事ですか!? その……アルバさんは味方なんですよね?」
アルバの拘束から開放され、アイリスはそそくさとエルデの陰に隠れる。もし鉢合わせしていたら疑り深いアイリスの事だ、暴れてしまっていたかもしれない。それを予期しての行動だったのだが、アルバは煙草は苦笑を浮かべ頬を人差し指でぽりぽりと掻いた。
「酷いな、これでも一応君達の担当だよ? エルデ君から連絡を受けてね、ここで合流する事になっていたんだ」
通路の下にある何の変哲も無い壁、そこにアルバは手をかける。何度か壁を叩くと微妙なプレートのずれが発生し、そこに指を引っ掛けるとあっけない程に壁は外れてしまった。内側には何故か通路のようなものが広がっており、奥まで道が続いている。
「ここを通じて格納庫に向かえるはずだ。さあ、急いで行くんだ!」
「し、しかし……アルバさんはどうするんですか?」
「僕はただの医者だから、殺される事はないと思う。それに僕の技術は必要なものだからね。連中も、色々と利用したいはずさ……。アイリスさん、それとこれをカイト君に」
手渡したのは錠剤の入った小さな紙袋、それから注射器とアンプルであった。アイリスが顔を上げると、アルバはその肩を叩いて微笑む。
「今は逃げるしかないんだ、アイリス君……。それでも、君達が生き残れば希望は繋がる」
「そんな……! 姉さんは!? リイド先輩とか、エアリオ先輩とか……本部の皆さんは!?」
「勿論、このままにはしておけないさ。何とか脱出出来ないか策を練ってみるつもりだ。だがカイト君と違って干渉者の二人はクーデター派にとっては重要な狙いの一つだから、君と同じように直ぐに襲撃されているはずだ。もう間に合わない」
「…………間に合わないって……そんな」
俯くアイリス、しかしそれはもう薄々感づいていた事だ。アイリスが直ぐに狙われたように、イリアやエアリオも同じように狙われている事だろう。他の仲間達の事は気になるし、助けたいと思う。だがロボットが無ければ何の力も無いただの少女なのが現実であり、彼女に出来る事は何も無かった。そう、ここに居れば足を引っ張る事になってしまう。ただ邪魔をする事しか出来なくなってしまう。
だからゆっくりと顔を上げ、アルバの手を両手で握り締めた。何とかしてほしいと、想いを託すように……。エルデが隠し通路に入りアイリスの肩を叩く。それを合図に少女もまた薄暗い隠し通路へと身を躍らせた。
「アルバさんも、どうか……! どうか、ご無事で……!」
「――武運を」
僅かなやり取りの後、アルバは通路の壁を元通りにした。それから間もなくして武装した兵士が押し寄せ、アルバは両手を上げて投降する事になる。
アイリスとエルデが通路を走る頃、その遥か地下にあるユグドラシルの間ではリイドとカグラ、それを取り押さえようとする兵士との間で銃撃戦が繰り広げられていた。しかしカグラは兎も角リイドは銃器の扱いなど慣れているはずもなく、まるで命中する気配が無い。一応状況は拮抗しているが、このままでは人数差も後押しして一気になだれ込んでくるのは明らかであった。
「どうする、カグラ……!? 他に脱出する方法はないのか!?」
「格納庫に直通の運搬貨物用のエレベータがあるよ! ただ、格納庫までのルートは四十枚の隔壁で閉ざされてて、全部のパスコードを入力しないと上がらないッ!!」
「四十って、アホか!? どんだけ厳重なんだよ!?」
「ついでに最重要機密に精通してる人間のIDカードが必要。これはあたしのが使えるはず。問題はエレベータまでどう行くか……」
エレベータは視界に入っているのだが、飛び乗るというわけにはいかない。エレベータに付随している入力端末にパスコードを四十パターン入力しなければならないのだ。そこで足を止めていれば、遮蔽物の無いエレベータ周辺は攻撃に晒される事になる。
「無理だろどう考えても――ッ!?」
リイドがそう声を上げた時、ほぼ同時に背後で銃声が上がった。物陰から飛び出したオリカが側面から兵士達を攻撃し、懐にまで飛び込むと刀を取り出し一閃――敵を蹴散らしているのである。
「オリカ……!?」
「リイド君、逃げてっ! 早く……っ!!」
「でも、オリカ……お前一人で……!」
その言葉を遮り、カグラがリイドの手を引いて走り出した。カグラは端末にIDカードを通すと、そのままパスコードの入力を開始する。
「……12桁のパスコード……!? カグラ、わかるのか!?」
「――社長なめちゃいかんぜぇ、少年。ただのいたいけな乙女が――ジェネシスに君臨できるかッ!!」
一気に入力を開始するカグラ。眼にも留まらぬ速さでキーを叩きまくり、次々に隔壁を開放していく。12×40の数字の羅列を全て暗記しているカグラの記憶力に圧倒されつつ振り替えると、そこではオリカが人間離れした動きで武装した大の男を次々に切り倒していた。
「……普通の女の子って居ないのかな」
ぼそりと呟くリイドの前、エレベータが起動する。パスコード入力中ずっと息を止めていたのか、カグラが思い切り息を吐き、吸い込んで見せる。それから貨物用のそれに飛び乗り、行き先を格納庫に設定する。
「オリカ、こっちだ!! 早くっ!!」
絶叫と呼べるリイドの呼び声に反応し、オリカが走り出す。敵は倒しても倒しても沸いてくると言った様子で、オリカは背後から激しい銃撃を受けながらリイドへと向かってきた。リイドは身を乗り出してオリカに手を伸ばし、オリカもまたリイドへと手を伸ばした。
二人の手が触れ合おうとした瞬間、オリカの身体がぐらりと揺れる。そうしてオリカは前のめりに倒れてしまった。見ればオリカは背中を撃たれ、流れ出した血が白い砂漠を朱に染めていた。
「……オリカッ!! 立て! こっちだっ!! しっかりしろよ……オリカッ!!」
よろよろと立ち上がり、既に昇り始めたリフトへとジャンプするオリカ。その手をリイドが掴み――そしてその手をカグラが支えた。二人でなんとかオリカを引っ張り上げると、エレベータは他に何者も干渉する事の出来ない直通ルートへと入る。
「オリカ! 大丈夫か、オリカ!?」
「うん、大丈夫だよ……。ちょっと撃たれただけだから、別に平気……」
「平気なわけないだろ、馬鹿か!? なんで一人でそうやって……っ! 馬鹿! 馬鹿だよ、お前……っ」
力なく笑うオリカはリイドの頬を撫で、いつもと変わらぬ優しさを見せている。リイドはオリカのその手を握り締め、自然と涙を流していた。オリカはいつでもリイドを守ってきた。どんな時も傍に居た。苦しい時も近くに居て、何も言わずにただ傍に居てくれた。道に迷った時はその背中を後押しする味方でいてくれた。その存在の大切さが今頃わかって、その間抜けさに涙が溢れたのだ。
「どうして逃がしたんだよ……オリカ……。お前、ボクを連れ戻すつもりだったんだろ……?」
「……そうだね。なんで、かな……。大切な人を裏切ってまで……それでも、リイド君を守りたかった……。多分、それだけだと思う。難しい理由は、良くわかんないよ」
「馬鹿……。馬鹿野郎……っ! このド変態……! へこたれっ!! 最悪だよ、お前なんか……! 最悪だ……っ!!」
泣きながらリイドはオリカの身体を抱きしめた。優しく、傷を痛ませないようにそっと……。オリカはそんなリイドの思いがけぬ行動に頬を緩ませ、そっと目を瞑る。
「……最近、わかってきたよ。リイド君はね……きっと、ツンデレさんなんだよ……えへへ」
「くだらない事言ってないで、早くなんとかしろよ……! どうすればいい? どうすればいいんだ、なあカグラ!?」
「……スティングレイの力なら、多分簡単な傷は自己修復すると思う。けど、その出血量は……」
「助からないなんて言わせないぞ! 助けるんだよ、どんな手を使ったってッ!!」
カグラはリイドの隣に腰を落とし、オリカの顔を見つめた。肩で息をしながら朦朧としているオリカに眉を顰め、それから彼女は苦しい判断を迫られる事になる。
「オリカを死なせない為には、ジェネシスの設備が必要だね。だからリイド、オリカは……置いていくしかないよ」
「置いていくって……どういう事だ……?」
「リイド、これから格納庫に入ったら君は直ぐにレーヴァテインを起動してヴァルハラを離れるんだ。同盟軍に助けを求めれば、きっとスヴィアが何とかしてくれると思う」
振り返り、リイドはその瞳を揺らしていた。勿論カグラも告げるのは辛かった。だが今この世界が変わって行く中で、レーヴァテインの力は支配と同義となるだろう。その神の刃の力を悪用させない為に、リイドにはそれを守る義務があった。少年もそれはわかっていた。だが目の前で苦しんでいるオリカを置いて行けなど、そんな事を簡単に承諾出来るはずもない。
「オリカはどうなるんだ……? オリカはジェネシスに助けてもらえるんだよな……? こいつ、さっき反逆しちまったんだぞ……?」
「…………わからない。こうなった以上、あたしにもどうなるかは」
「あんた社長なんだろ!? だったらなんとかしろよっ!! オリカは……オリカはボクたちを逃がす為に……っ!!」
「社長にだってどうにもならないのがクーデターなんでしょうが!! それに言ったはずだ、あたしはただのお飾りの社長……! この会社全てをどうにかする力なんてない……!」
どうにもならないという事はわかっていた。だがそれでも叫ばずには居られなかったのだ。リイドは歯を食いしばり、オリカを見つめる。葛藤に押しつぶされそうなリイドの顔を見てオリカはにっこりと無邪気に笑って見せた。
「大丈夫……オリカちゃんなら、心配いらないから。大丈夫だよ、リイド君。大丈夫……」
「何が大丈夫なんだよ、ぐったりしてんじゃねえか……死にかけてんじゃねえか! “助けて”って言えよ、こんな時くらい! ボクにだってお前を助ける権利くらいあるはずだろうっ!?」
「その言葉だけで、もう十分すぎるよ……。えへへ、うれしいなあ……リイド君が優しくしてくれるなら、銃で撃たれるのもたまには悪くないかも……ね」
リイドはそっとオリカをエレベータの上に横たわらせる。そうして血のついた拳を握り締め、強く強く握り締め、それをエレベータを囲う手すりへと叩き付けた。カグラはオリカの傍に腰を下ろし、その容態を確認する。
「リイド、あたしがオリカを医務室へ連れて行く。だからリイドは言った通り、レーヴァテインを動かして」
「それじゃああんたまで……」
「でも、オリカを助けるにはそれしかない……。それしかないんだよ、リイド」
三人を乗せたエレベータは間もなく光の差し込む格納庫へと入るだろう。リイドは二人の姿をじっと見下ろし、己の無力さを嘆いていた。だがそうして泣いている暇はどこにもないのだ。やらねばならない事がある。その為に命を賭けてくれた人がいる。その責任を――まっとうしなければならない。
格納庫の床にあった扉が開き、エレベータが競りあがってくる。周囲を見渡すと格納庫内部では戦闘があったのか、あらゆるものが乱雑に散らばっていた。その奥でレーヴァテインはまだ静かに佇んでいる。ただその刃は静かに、主を待ち続けているのだ。
「…………オリカ、ごめん。ボク……。ボクは――――行くよ」
オリカは血に染まった手をそっと振り、笑顔を作った。リイドは袖で涙を一気に拭い、開かれた瞳には既に光と闘志が戻っていた。少年は沢山の苦しみを乗り越え、今一つ大きな壁に直面している。だがオリカは思うのだ。彼ならきっと、それを越えて余りあるほど高く高く、遠くまで舞い上がるだろうと。
「――行ってらっしゃい、リイド君」
「絶対に死ぬなよ。カグラも……絶対に無事でまた。必ず、助けに戻る。必ずだ」
「おう、男に二言はないな? 少年」
「当たり前だ。ボクを誰だと思っている。ボクは――レーヴァテインのパイロット、リイド・レンブラムだ」
上着を脱ぎ捨て、少年はネクタイを緩めながら歩き出す。どこからか現れたリイドを発見したルドルフが作業班に声をかけ、レーヴァテインの起動を警告する。
リイドがレーヴァテインのコックピットに乗り込んだのと同時、エルデとアイリスが格納庫に入ってきた。レーヴァテインが起動しようとしている様子を確認したエルデはアリイスの背中を押し、レーヴァテインを指差し叫んだ。
「行きなさい、妹さん! 今リイド君を支えることが出来るのは、貴方しか居ないんです!」
「で、でも……」
「守りたい物を守るために戦いなさい! 貴方にはその力と責務がある! 翼を持つのであれば――! 羽ばたかないのは、偽りなのですッ!!」
「エルデ……。わかりました、必ず追いついてください。必ずですよ……!」
アイリスは頭を下げ、レーヴァテインへと向かっていく。エルデはその背中を見送り漸く一息、その場に両膝を着いて休む事が出来た。背負ったままのカイトは相変わらず穏やかに眠り続けており、それがエルデの疲労を誘う。
「頼みましたよ、妹さん……。リイド君と、共に……」
業を、継ぎし者(3)
「思い出すよなあ、ルクレツィア……! ジェネシスでは仲間同士、仲良くなったもんだ! ははははっ!!」
「貴様と仲間になった覚えなど無い……! 貴様が私達に何をしたのか、忘れたとは言わせんぞ!!」
エクスカリバーとクサナギ、二体のアーティフェクタがヴァルハラを背景に空中で何度も刃を交える。その度に轟音が鳴り響き、火花が舞い散る――。
クサナギは両腕を伸ばし、エクスカリバーの両腕を掴んで見せる。そうして伸ばした腕を引き戻す要領で突撃すると、頑丈な額をエクスカリバーの額へと激突させた。衝撃に揺れるコックピットの中、シドは声をあげクサナギの胴体に蹴りを叩き込む。
もつれ合うように二機は落ちていく――。刃と刃とが高速で打ち合う戦いは全くの互角。キリデラは挑発するようにクサナギを後退させ、その首をひねってみせる。
「だはははははっ! 三年経って弱くなったか、ルクレツィアァアアッ!? まあ無理もねえな、テメェは何の後ろ盾も無く一人で頑張ってきたんだもんな~! 未調整の干渉者がどうなるのか、テメエだって知らないわけじゃあるまいよ!!」
「……それでも、貴様の息の根を止めるまでは持たせるさ……!」
「無理無理、絶対無理だっつ~の! テメエと俺とじゃ天と地ほどの差があるんだよ!! わかんないかねぇ、どーもッ!!」
長く伸ばした脚部で側面からエクスカリバーを蹴り飛ばすと同時にその胴体に足を絡める。人間の形に拘らない変幻自在な動作を繰り返すクサナギに翻弄され、シドもルクレツィアも素早く反応する事が出来ない。
「ほらほらどうした!? もうちょいシャキっとかかって来いよ……って、あ? なんだ、この反応は……」
ヴァルハラへとモニターを望遠すると、そこにはカタパルトエレベータを競りあがってくるレーヴァテインの姿があった。黒いマントにて覆われたレーヴァテインへ一斉にスサノオ隊が近づいていく。
マントの中から左右に両腕を突き出したレーヴァテインはその中に二丁の拳銃を構築し、それを連射する。狙いは的確で、次々に近づくスサノオのコックピットを射抜いていく。コックピットだけを破壊されたスサノオはただ転倒するだけで爆発する事も無く、弾丸はスサノオを貫通して背後のビルを壊す事も無い。完全に調整された狙撃である事は明らかだった。
次々に放たれる弾丸はマントに接触すると同時に叩き落され無力化されてしまう。可視の結界であるその布の向こう、反撃の弾丸が赤い軌跡を残してスサノオを食いつぶす。跳躍したレーヴァテインは高層ビル群を離れ、一度プレートの外へと飛び出した。洋上に展開していた空母からミサイルと砲弾が降り注ぐが、レーヴァテインは逆様に落下しながらその手の中に巨大なライフル、“ケルベロス”を構える。
放たれた巨大なビームは海を焼き、一撃で無数の艦隊を沈没させていく。更にロングバレルをパージすると、本社ビルのある108番プレートシティへと舞い込み、そこを外部から制圧していたヘイムダル隊とクーロン隊を次々に撃ち落していく。突如現れたレーヴァテインになすすべなく打ち倒されていく機動兵器を見やり、一通り掃討を済ませると真紅の機体はその身を覆っていたマントを剥ぎ取り、雄雄しい姿を晒した。
レーヴァテイン=オルフェウス――。それはアイリス・アークライトが干渉者として搭乗した際に構築されるレーヴァテインの名である。だがその機体は以前彼女が乗り込んだ時とは外見が若干異なっている。何よりその落ち着いた挙動からは以前とは違うアーティフェクタへの理解と自信を感じ取る事が出来た。
「出てきやがったか、レーヴァテイン……! キョウ、奴を仕留めるぞ!」
「くっ!? 待て、キリデラ!!」
エクスカリバーを追い抜き、クサナギは真っ直ぐにレーヴァテインのいる108番プレートへと向かっていく。リイドはそれに反応し、自らもクサナギへと移動を開始した。
オルフェウスの放つビームライフルの攻撃を回避しつつ、クサナギは腕を伸ばしてカウンターを狙う。しかしレーヴァテインは途中で制止するとその手の中にマントを再構築し、伸びてきた腕に絡ませるとそれを掴んでクサナギを強引に引き寄せた。
「何――ッ!?」
「調子の乗ってんじゃねえぞ……ッ!! 緑色のアーティフェクタァアアアアアアアッ!!」
引き寄せたクサナギの胴体にライフルの銃口を叩き込み、そのまま銃身ごと押し込むようにしてゼロ距離でケルベロスを放つ。光に貫かれ、押し戻されるようにしてクサナギはヴァルハラの外に再び放り出される事になった。
吹っ飛んだクサナギを追いかけ、再びマントをまとってオルフェウスが飛翔する。バレルを再構築したケルベロスを構えるその機体は以前とは明らかに違っている。胴体の一部を貫かれぐらつくクサナギが恨めしげに見上げる視線の先、太陽を背に真紅の機体はその瞳を輝かせていた。
~しゅつげき! レーヴァテイン劇場~
*もしもリイド君が全て言いたいことを言っていたら*
リイド「どうして逃がしたんだよ……オリカ……。お前、ボクを連れ戻すつもりだったんだろ……?」
オリカ「……そうだね。なんで、かな……。大切な人を裏切ってまで……それでも、リイド君を守りたかった……。多分、それだけだと思う。難しい理由は、良くわかんないよ」
リイド「馬鹿……。馬鹿野郎……っ! このド変態……! へこたれっ!! ストーカー! 殺戮狂! 暴走女! 帽子が本体! ナンパ殺し! 変態! 変態! 変態!! ウザヤン! デレ要素一切なし! アンケート人気一位! どこからともなく刀出す! 生身戦闘能力がディアノイア級! うざい! うざい! うざい!! 最悪だよ、お前なんか……! 最悪だ……っ!!」
オリカ「……………………。オリカちゃん、もうゴールしてもいいよね……?」
カグラ「オリカが死んでしまう!?」
リイド「…………まあそれはそれで」
オリカ「まあ、リイド君に罵られるとちょっとドキドキしてくるんだけどね……っ」
カグラ「全然元気じゃねえか」