夢の、終わり(2)
「――カイト!」
第三学園がある81番プレートシティ……。夕暮れの紅い光を背に人気の無い通りを歩く少年の姿があった。少年の名前はカイト・フラクトル――。長身と金色の髪が印象的な、外見的には不真面目と呼べる十五歳である。
十五歳という年齢を考えれば彼の容姿は少々大人びすぎているようにも見えた。しかしこの人種という言葉が意味を持たない天空都市では彼のように身長が百八十センチ近い少年も少なくは無い。
声をかけられ振り返ったその視線の先には彼が良く見知った少女が立っていた。燃えるような真紅の髪を揺らしながら少年に駆け寄り、隣に並ぶ……。いかにも勝気な眼差しとスタイルの良さは一見するとまるでどこかのモデルのようである。
「なんだ、イリアか。わざわざオレが学校から帰るのを待っててくれたのか?」
というのも、そこは学園から市街地に向かう下り坂だった。生徒は殆ど下校してしまい、残っているのは部活動に勤しんでいる生徒達くらいである。逆にこの中途半端な時間にこの下り坂を歩いている人間は少ないと言えるだろう。
実は少年の予想通り、少女は少年が学園を出るのをわざわざ校門前で待っていたのだが……。どう声をかけたらいいのかわからなかった上、待っていたという事実を認めるのもなんだか納得がいかず、遅れてたまたま鉢合わせたかのように演出するようにしたわけである。
「そ、そんなわけないでしょ? 自惚れるんじゃないわよ、バカ」
ならばこそ当然少女が素直に事実を認めるはずもない。自分自身が気づいていないだけで、少女は赤面しながら髪を掻き揚げた。しかしそれに気づかないカイトはあっさり引き下がり、“そうだよなあ〜”などと口にしながらへらへら笑っている。それが少女は気に入らなかった。気づかれたくないのか気づいて欲しいのか……そこは二律背反な乙女心と言う物だろうか。
「……まあいいわ。今日はジェネシスに寄るようにってヴェクターが言ってたの、ちゃんと覚えてる?」
「あのなあ、いっくらオレだって昼間に言われたことを夕方に忘れるってのはないぞ? まあ……気は乗らないんだけどな」
「気は乗らないって……あんたねぇ。最近出撃多くなってるし……ちゃんと精密検査を受けた方がいいんじゃない?」
生返事をして前髪を掻き揚げ、困ったような表情を浮かべるカイト。そう、噂通り“ロボットに乗って戦って居る”彼は精密検査を受ける必要があった。その理由は兎も角、この際問題なのは彼がそれをもう何日も拒否しているというところにあるだろう。
そしてそれはイリアにとって何よりも不安な要素だった。カイトという少年が無理をしてしまう性格である事を理解していればこそ、尚更……。一見しただけではカイトの身体は健康そのものにしか見えない。無論、“それ”が分かっているイリアから見ても同様だ。外見だけでは影響を第三者が図り知ることは出来ない。だからこそ不安になるのだ。
「あたしも検査受けに行くからさ……。どうせ二時間くらいで済むんだし、いいでしょ? 少しは我慢しなさいよ、男の子なんだから」
「ああ……まあ、そうだな」
相変わらず気の抜けた返事を一つ。それから少年は思い出したかのように少女の頭の上に手を乗せ、ぐりぐりと乱暴に撫で回した。唐突な事で少女は何も口に出来ず、ただ顔を真っ赤にして口をぱくぱくさせるしかない。それは突然であるという事より、少女から少年に対する感情が理由していたと言えるだろう。何はともあれ唖然とする少女に対し、少年は屈託の無い――十五歳らしい無邪気な笑顔で言う。
「心配してくれてありがとな、イリア」
「あ、あのねえ……女の子の髪に気安く触るんじゃないわよ!」
「いぃいってえ!? わ、悪かった! ごめんってっ!」
照れ隠しに思い切り踏みつけたカイトの足が少々表現し辛い鈍い音を立て、彼の手は彼女の頭を離れた。涙目になりながら歯を食いしばっているカイトを置いてイリアは歩き出す。あからさまに置いて行くという、早足のモーションで。それが素直になれない少女なりの全力の照れ隠しであり……恐らく彼女の恋が中々成就しない理由でもあるだろう。
ご機嫌斜めな相棒の姿に慌てて駆け出した少年は隣に並ぶなり、急に真剣な顔つきで空を見上げた。その顔つきにまたドキドキしながら少女は上目遣いにカイトを見つめる。
「何よ……今更真面目な顔になっても意味ないわよ?」
「――――イリア! 上だ!」
「は? 上って――?」
少年が指差す真上を見上げてみるが、そこにあるのは一つ上のプレート……80番プレートであって、景色にそれ以上の意味はない。しかし少女にはそうとしか見えない景色も、少年にとっては何かを感じ取るに値するのであろう。厳密に言えば、“確かに彼には見えていた”のだから。
イリアの手を取り駆け出すカイト。その足取りは非常に速く、少女はつんのめりながらついていく。混乱しつつも普段とは違う慌てた様子の少年に少女は問いかけた。
「ちょ、ちょっと!? 急に何!?」
「天使だ! しかもちょっと今までの奴と違う! さっさとジェネシスにいかねーと!」
「ええっ!? 何でそんなこと分かるのよ……ちょっとお!? 少しは人の話をきけえええ――――っ!!」
必死に駆ける少年に少女の叫びは届かない。なぜならカイト・フラクトルという少年は思い立ったら一直線と言う絵に書いたような直情を行動原理としているのだから。
そして少年の読みは正しかった――。遥か上空約100km地点に視覚的には捉える事の出来ない一つの巨大な影があった。それは輪郭だけを僅かに大気と大気の間に揺らめかせながら実体も無く、音も無く、ゆっくりと漂う様にして舞っていた。
「い、今になってどうして……!? ヴェクター! たった今、熱圏に正体不明の反応を確認しました!」
その同時刻――。ヴァルハラの直上に漂う反応をようやく捉える事に成功したジェネシスは突然の反応にパニック状態に陥っていた。ヴェクターと呼ばれるスーツ姿の若い男は眼鏡を中指で押し上げながら鋭い目つきで映像を確認する。
「目視不能なのはともかく、全くフォゾン反応も無く大気圏を突破してくるとは……今までの天使級ではなさそうですね。これは“神話級”――ですかねえ?」
「恐らくはフォゾン迷彩のようなものだと思うわ。直接レーヴァで叩いてみれば正体を現すかもしれない」
ヴェクターが問い掛ける先、この司令部で最も高い位置にある空中の椅子に鎮座する女性が囁く。彼女の言葉はこの司令部の総意であり、この場に居る多くのスタッフ全員が耳を傾けるべき重要なものである。故に副司令官は彼女の言葉に微笑みを返し、手を振り翳して叫んだ。
「あなたの仰せの通りに――。対象を敵性の“神話級”と判定します。以後、対象を“クレイオス”と呼称。至急、レーヴァを出撃させて迎撃に当たりましょう」
「目標は既に大気圏内です! しかも後数分でヴァルハラに到達する予想です!」
「上部の迎撃用プレートで対応してください。足止めにはならないでしょうが、まあ気休めにはなるでしょう」
「ヴェクター! カイト君とイリアちゃんがジェネシス本社に到着したのを確認しました!」
「うーん、流石はカイト君……僥倖ですねぇ! 彼らに出撃指示を。それと念の為ヴァルハラ全域に警戒令を出してください。市街地防衛を最優先で」
薄暗く広がっている司令部、その副指令の座で男は足を組んで微笑む。空中に浮かび上がったホログラムに映し出される、目にも見えない空中に存在する何かの映像を眺めながら――。
ヴァルハラという都市はその存在そのものがひとつの巨大な要塞であるとも言えるだろう。108のプレートで構成されるその巨大な塔の上部に人は住んでいない。何故ならばこの世界では、“空に近ければ近いほど危険”だと言えるからだ。
ではなぜここまで巨大な、ただ真上に伸びる塔が必要なのか? 理由の一つとしてはロボットを空に打ち上げる必要があることが上げられるだろう。だが何よりもこの町に住む人々の安全を守る上でこの膨大すぎるプレートは必要なのだ。
そう、『脅威』は常に“上”から到来する――。上部にあるプレートは重火器を搭載し、空から迫り来る脅威に対応するためにある。プレートそのものを盾とし、空から到来する敵に対応するために108もの膨大すぎる数の“鋼鉄の傘”が必要なのだ。そしてそれは完全に自動的に操作が行われ、ロボット――“レーヴァテイン”が出撃するよりも早く脅威を攻撃する事が可能となる。
正体不明の敵――クレイオスは身体を透明化したままあっと言う間に20kmの距離を降下し、塔の最上部である1番プレートに近づいていた。待ち構えるように次々にプレート内部から飛び出してくる無数の砲台……。1番を含め上部のプレート十数枚は単純な戦略兵器として存在している。一斉に放たれる無数のプレートからの砲撃――。その一つ一つを避ける気配すら見せず、ただただその身に受け続けているクレイオス。
本来ならば、“多少の脅威”ならば、このプレートの火力だけで撃退する事が可能なのだ。無論、この驚異的な存在たちに対抗する事を前提として設置されているこの戦略用プレートの攻撃能力は秀逸であり、人間が作り出した通常兵器の中ではトップクラスの性能を持っていると言えるだろう。しかし、それは“多少の脅威”相手である事が前提……。“それを超える脅威”に対してその火力は時に無力だ。
空中に鳴り響く無数の爆音。しかしクレイオスにとってそんなものは“あっても無くても同じ事”。だから破壊もせず、自らも破壊される事も無い。直撃を受けていた――。しかしなんらかの目には見えぬ守護がクレイオスという存在から火力を退けていた。悠々と舞うように、しかし着実に加速しながらクレイオスは落下していく。それは最早プレートの防衛戦力では阻止不可能である事を意味していた――。
「こちらカイト、レーヴァに搭乗した! 出撃許可をくれ!」
『同席しているのはイリアさんですか? カイト君、それは……』
「ヴェクター……! 今はああだこうだ言ってる場合じゃない、そうだろ? とにかくカタパルトで出る! どの辺りで待ち伏せればいい!?」
カイトはパートナーであるイリアと共に巨大ロボット、レーヴァテインのコックピット内部に居た。騒動を聞きつけ、真っ先にハンガーに直行してレーヴァに飛び乗ったのである。準備も何もあったものではないが、この場合は止むを得ないだろう。
『対象はクレイオスと命名されました。クレイオスはかなり緩いスピードで降下中です。今からなら……30番プレート辺りで迎撃出来るでしょう』
「了解した! こちらレーヴァテイン、イカロスで出る! 色々な許可は後で貰ってくれ!」
ハンガー内でレーヴァを走らせ、カタパルトエレベータに滑り込む。40メートルを越える巨体が走り回るとハンガーは盛大に揺れまくり、積み上げられたコンテナや物資がガラガラと崩れていく。それでも誰もがその巨体を見送り、頑張れよと声をかけた。
しかし……当の本人のやる気はともかく、背後から少年を見守る少女は余り出撃に乗り気ではなかった。結局乗ってしまったものの、この状況が未だに納得がいかないのか少女は不安そうに少年の背中を見つめていた。その視線に少年は気づかない……。いつも前を見て、上を見ているカイトは背後のイリアがどんな気持ちで自分を見ているのか知る由も無かった。
それは無論、少女も理解していることだ。だから少しでも気持ちを切り替え、ならばこそ早く決着をつけねばならないと気を引き締める。彼の一番の理解者が自分であると自負しているのだから、せめてその無鉄砲をなんとか支えてあげなければならないと思う。
「ねえカイト……この出撃が終わったら本当に、検査受けなさいよ?」
「なんだよまだ言ってたのか? 大丈夫だ、判ってる。それにこのまま放っておいたらあいつはすぐ人が住んでるプレートまで辿り着いちまう……。ほっとくわけには行かないだろ!」
「それはまあ、そうなんだけどさ……」
そうやって決意に満ちた真っ直ぐな眼差しで言われるとイリアとしても返す言葉が無い。そういうところがカイトの長所であり、短所でもある。だから結局言い争っても折れるのはイリアの方なのだ。普段はともかく、いざこうなってみると……。だからイリアはいつものように頷いて深呼吸する。気持ちを切り替え……前を見据えて。
「……イカロス、行くわよ! さっさとケリをつける!」
「おう! レーヴァテイン=イカロス――行くぜっ!!!」
夢の、終わり(2)
「――ボクは行かない」
それは正に、正真正銘列記とした独り言だった……。
町中に鳴り響いている警報の音がまどろみの中にあったボクの意識を強制的に現実へと引き戻す。誰もが逃げ惑い、何が危険なのかもわからないまま逃げ惑い、次々と下のプレートへと避難していく。
そんなのはいつもの事だ。ロボットが出撃する時はいつもそうだ。だからボクは行かない。行って、やらない。だってどうせ今日もロボットは空に行って、戦いは空で行われる。そもそもこんな下の方のプレートが危険にさらされる事なんてあるはずもない。
なんだかんだ言っても結局何も変わらない。ここで寝ていたって、誰の迷惑にもならないんだし。そう考える人は少なくなかったのだろう。確かに少数ではあったが、窓から見渡すエレベータ付近には下に下りようとしない人間もいた。
とんだ迷惑なお祭り騒ぎだ。身に及ぶはずも無い危険から逃げ惑う事ほど愚かな事も無いだろう。被害妄想気質もいい所だ。そうやってベッドに寝転んで目を閉じようとした、その時だった。
突如、大地が大きく震動した。いや、厳密にはプレートか……。しかしそれはとんでもない事実を表している。プレートが揺れたということは――?
「な……んだあれ――?」
窓辺に駆け寄り、かじりつくようにして摩天楼に浮かび上がる半透明な影を凝視した。“そいつ”は空中を優雅に舞いながら美しい純白の翼を広げていた。一言で表現するのなら、天使か神か――そんな類の幻想的な存在にしか見えない。だからすぐにわかった。あれが“そう”なんだって。人類が恐れている、天に住む生き物なんだって――。
「あれが“神様”……なのか……!?」
生まれて初めて心が躍るという言葉の意味を理解した。興奮と驚愕の中、上着を羽織り階段を駆け下りて家から飛び出していた。エレベータへと逃げる為にこちらに向かってくる人々とは真逆、彼らが逃げてきた方向に向かって全力疾走する。
神が――。天の上に住んでいるという存在が。人類の脅威が、目の前に居る……。それは恐怖よりも戸惑いよりも何よりも、ボクの中にある好奇心を刺激した。胸がドキドキして、ワクワクして、ただ走った。美しかった――。輝きを撒き散らしながら羽ばたく姿。そいつは燃え盛る摩天楼の上、まるで人に罰を与えに来た神のように神々しくたゆたう。
「すごい……! あれが、空の上の存在!」
息を切らして笑いながらそれを見上げた。何故こんな事になっているのかわからないが、ともかくすぐ目の前に神がいる。これにワクワクしないやつはどうかしている。地球を制覇したといっても過言ではない人間が唯一恐れる自分達以外の生命……。それが天使。それが――神。
人類を圧倒するような存在が、すぐボクの手が届きそうな場所に浮かんでいるのだ。しかし胸の高鳴りは長くは続かなかった。その何かが羽ばたき、何とも言えない威圧感を放った瞬間――ボクは大地に膝を付く事になった。
「――――うっ……!?」
単刀直入に言うと……嘔吐だった。胃の中の物を全部道路のど真ん中にぶちまけ、それでも飽き足らず胃液を一滴残らず搾り出した……そんな気がするぐらい激しく嘔吐する。
突然のことで頭の中が混乱……違う、何も考えられない。ただただ気分が悪く、思考を働かせる事も出来ない。一瞬で思考を組み立てる脳のシステムがすべて破壊されてしまったような気分だ。考える、ということを今までどうやっていたのか思い出せない……そんな気分。
ただただ頭を抑えながら道端に倒れ、気づけば視界は真っ黒に染まっていた。眼球があさっての方向を向き、自分の視界を視界と認識できない。五感が次々とおかしくなっていく中、ただ耳にだけ……非常に高音の、美しい旋律だけが届いていた。そしてそれが原因であると気づくより前に、意識が途切れそうになり――――。
「――しっかりして」
顔を上げた。誰かの声……その声がボクの五感をボクに取り戻し、正常な状態へとゆっくりと導いていく。次の瞬間目にしたのは大空を飛翔し神に向かって蹴りを加えた巨大なロボットの姿だった。いや、その姿はむしろ機械で模倣した神のレプリカ……。本質的に二つの巨大なそれらは同じものであると直感的に理解出来る。だが、そのロボットはあくまでもロボット……神そのものではない。
ロボットは両手で神を大地に引き摺り下ろすと、まるで市街地から引き離すようにそいつをプレートシティの端にまで投げ飛ばした。轟音と共に突風が町を吹きぬけていく。動いている物のスケールが違いすぎて、発生している物理現象が何もかも桁違いだ。
真紅の機体は夜のプレートシティの輝きにうっすらと照らされながら壮大なその身体を隠す事も無く、そう――今までずっと目にする事も出来なかった、実在するかどうかもわからかったそれは、ボクを助けて神を放り投げていた。
「……生きてる?」
そうして視線をロボットから目の前に戻す。ロボットが町を疾走する激しい震動の中、目にしたのは鮮やかな銀色だった。
銀色の髪の少女――。非常に長い銀髪は巨体同士の戦闘が巻き起こす風に靡き、その隙間から金色の瞳がボクを見つめていた。吸い込まれそうになるほど幻想的なその容姿にまるで時が止まってしまうのでは無いかと思えた。それくらい、ボクは彼女の存在に見惚れていたのだ。そんな間抜けなボクに、彼女は語る。
「生きているなら、立って。今すぐに、ここを離れて。そうでないと、レーヴァが思うように戦えない」
「……あんたは……!? うっ、うわあああああっ!?」
絶叫した理由は少女にあったわけではない。ただ、ボクの周りには無数の……多分元々は人間だった……今はよくわからない何か――――。沢山の肉片が、道端に転がっていた。
理解出来ない。ただどれも、恐らくはさっきまで物見遊山でここにいたボクと同じような人々だろう。どれもまるで体内から爆発したかのように四肢と臓物をぶちまけながら道端で息絶えていた。
一体何が起きているのかわからない。先ほどすべてぶちまけてしまったせいか嘔吐はしないで済んだが、直視は遠慮願いたい様子だった。正に地獄絵図……。つい先ほどまでごく普通の日常だったのに、目の前に神が現れてロボットが現れてなんかされて死に掛けて、周りはみんな死んでいて……。
「……大丈夫?」
「――ああ、大丈夫……いや、最高だ……」
ゆっくりと顔を上げる。少女は怪訝そうに目を丸くしていた。それも無理は無い。立ち上がってロボットを見上げる。ボクは両手をそれに伸ばし、目を細めた。
「最高だよ! ずっと待ってたんだ……退屈な世界をぶっ壊してくれる何かを……!」
血の匂いが包み込む道路の真ん中で、悲鳴一つすら聞こえない皆殺された世界の一部で、諸手を上げて喜んだ。
「ボクは、これでいい! これでいいんだよっ!!!」
すべての世界をぶち壊して――。
おかえりなさい、ボクの世界。はじめまして、ボクの世界。
楽しくて仕方がなくて笑った。そうだ、世界はまだまだ……まだこれから始まるんだ。
「だから……!」
闇の中に浮かぶ二つのシルエット……。笑いは止まらず、今はもうそのことしか考えられなかった。そう、まるで今までの思考の全てを、焼き切られてしまったかのように――。
~しゅつげき! レーヴァテイン劇場~
*ついに劇場デビュー*
カイト「おっす! 二年ぶりの人は久しぶり! 初めましての方は初めましてだ! ようこそ、レーヴァテイン劇場へ!」
イリア「……てか、なんなの……劇場って……」
カイト「あのなあ、劇場は長編シリーズで伝統となった後書きキャラ崩壊スペースなんだぞ? 読者とのコミュニケーションを取れる大事な場所じゃねえか」
イリア「それなんか間違ってない……?」
カイト「まあいいんだよ細かい事は。そんなんツッコみだしたらキリねーから」
イリア「で、ここでは何をすればいいのよ?」
カイト「良くぞ聞いてくれました! ここではレーヴァテイン3ユニの裏話をしていく予定だぜ! 本当は主人公のリイドが出てくるべきなんだが……」
イリア「今の所あたしたちが主人公みたいよねー」
カイト「というわけで、中二病を絵に書いたようなリイドはひとまずおいといて……。この霹靂のレーヴァテイン~3rd Union~は、レーヴァテインシリーズの三作目にしてリメイクバージョンでもあるんだ」
イリア「前作既読の人は分かったかもしれないけど、ここまではただ前作部分を文章をちょっと直したりしたくらいなのよね」
カイト「あとは区分の仕方が変わったくらいか?」
イリア「とりあえず、前半部分は殆ど修正版くらいのものだと思うから、サクサク更新していく予定よ」
カイト「でも次話あたりからちょっと書き下ろしが増えるかな?」
イリア「戦闘シーンは全部書き下ろしにする予定みたいね。あと新設定部分は」
カイト「とまあそんなわけで、レーヴァテインなんか知らねえって人も二年ぶりに読む人も、それぞれ新たな気持ちで読んでくれると嬉しいんだぜ!」
イリア「殆ど使いまわしみたいなもんだから、初見の人も十分ついていけると思うわっていうか、まあ初見の人用みたいなところはあるけど……」
カイト「コアな読者はどこが変わってるのか見比べて盛り上がってくれよな!」
イリア「……そんなファン、いるの……?」
カイト「というわけで、リイドがここに出るまでは俺がここのマスターだ! みんな、いっちょよろしく!」
イリア「……それ、具体的にいつになるの――?」