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神話、狩る者たち(4)


 本社の中にあるレストランへはエレベータですぐに向かう事が出来た。そこは一度だけエアリオと共に来た事がある店だった。正面の席にスヴィア。その隣にエアリオがくっついたまま、向かいの席にリイドが座り料理を注文する。

 その間もずっとエアリオはスヴィアに寄り添ったまま、幸せそうに表情を和らげて腕にしがみ付いていた。今のエアリオの視界に自分は全く入っていない……。その事実はリイドにとって少なからず不服だった。理由は明白だが、少年はそれに気づけない。しかし妙に喉が渇いている事実には気づき、グラスを一気に空にして腕を組んだ。


「それで、どこ行ってたんだよ……? そもそもスヴィアがレーヴァの関係者だったなんて聞いてないよ」


「当然だろう、私がお前に告げていないのだからな。あの時のお前には関係のない話だった……それだけの事だ」


 久しぶりの兄弟水入らずの再会だというのに、それは感動的とはお世辞にも言えない物だった。何も言わず姿を消した兄、スヴィア……。その兄が唐突に現れた事も、レーヴァの関係者であった事も……。少年にとっては簡単に割り切れるような事ではなかった。


「まあね……。それで、どういうことなの?」


「そうだな……。端的に言えば、私は元々レーヴァテインの適合者であり一年前にジェネシスという組織を抜けた裏切り者だ」


 告げる唇に迷いはない。自らの弟にそれを告げることに何一つ感情も無く実行に移す事が出来る。無論そこに偽りは無く、嘘はなく、だからそれがただ一つの真実で、リイドはそれを真正面から受け止めねばならない。


「聞いてないよ……。あんたがレーヴァの適合者だったなんて……」


「当時は私がヘヴンスゲートの攻略も天使の撃退もメインで行っていた。その役割は今やお前に引き継がれたわけだがな」


 カイトやイリアしか今までに適合者がいなかったのだとしたら、二人はかなりの実戦経験者ということになる。事実それには間違いないのであろうが、それにしては二人は幼すぎる上にジェネシスという組織の事についても知らない事が多すぎる。

 しかし全ては別段おかしなことなどではなかったのだ。カイトしか適合者がいなかったわけじゃない。そうなったのは最近というだけの話で。それ以前には未熟な二人を大きく上回る、強力なパイロットが居たというだけの事なのだ。


「じゃあ序に聞いておくけど……。スヴィアがジェネシスを裏切ったっていうのはどういうこと?」


 カイトは笑顔でスヴィアを“先輩”と呼んだ。エアリオはリイドには見せないような心を許した態度でスヴィアに甘えている。イリアだけはスヴィアを避けているように見えたが、とてもではないが裏切り者への対応とは思えなかった。


「今も敵と戦い続けている事に変わりはない。ただジェネシスのやり方では世界を救えないと感じただけだ」


「ジェネシスのやり方では世界を救えない……?」


「私は今、同盟軍に居る」


 ウェイターが運んで来たコーヒーの入ったマグカップを手に取り、口元に運ぶ。そして男は一息ついて言葉を続けた。


「同盟軍は全世界で敵と戦う軍隊だ。だがジェネシスは違う……。金になることしかしない“私利私欲”を追求している」


「……同盟軍なら世界を救えるって言うのか?」


「いや。ただ、ジェネシスに居るよりはそれに近づけると思った。私は今の所その選択に後悔はしていない」


 コーヒーの暗い水面に映りこむ自らの顔を掻き消すように角砂糖を放り込む。ティースプーンでそれを掻き混ぜながら顔をあげるスヴィアの目に映るリイドは酷く困惑しているように見えた。

 それも仕方のないことだと男は理解している。だからリイドが話し始めるまで気長に待つ事にした。告げるべきことは既に告げたのだから。やがてリイドは盛大に溜息をつき、ガラス窓の向こうを眺めながら口を開く。


「じゃあボクは、スヴィアの居た場所にたまたま収まっただけなんだね……」


 自分は一体、何を喜んでいたのだろう? 少年はやるせない……虚しい気持ちを隠せないまま呟いた。

 力を手に入れた事。大事な仲間が出来た事。敵を倒して褒められる事。何もかも、ただ兄がそうして歩んだ道の後に続いていただけなのだろうか。

 エアリオと心を通わせた事も、イリアとの反発も、カイトとの友情も。そうした全ての、自分が自らの手で始めて掴み取ったと信じていた何かが、ただ後に続いただけの……。子供の模倣だったのだとしたら。

 全てが急に嘘っぽく見えてしまって、なんだか浮かれていたのは自分だけのような気がしてしまって。なんだか急に嬉しくなくなってしまって、自分自身が間抜けに見えて、気分が悪かった。

 エアリオは相変わらずリイドの事なんて見ていない。だからその事実は徐々に少年の心の中に染み渡り、拭い去れない程になった。それが寂しいという感情であると、少年はまだ理解出来ない。


「どうかな……。確かに積み重ねてきた時間はお前より余程上だろう。だが、仕方のないことだ」


 カップを呷り、静かに目を細める。告げられた言葉に少年は何も言葉を返さなかった。


「お前の記憶は、まだたった“二年間”しか蓄積されていないのだからな――」


 少年は額に手を当て、静かに眉を潜めた。そう、リイド・レンブラムという少年の過去は……ほぼ全てが空白で構成されている。その記憶に残っているのはたったの二年間だけ。スヴィアと家族として過ごしたのも、たったの一年間だけ。


「仲間にはまだ話していないのだろう? 記憶喪失の事は」


「別に、わざわざ話す程の事でもないしね」


 記憶の喪失――。それはリイド本人にとって大した問題ではなかった。自分自身の思い出がたった二年しかなかったとしても、これまで一度だって困ったことなんてなかった。

 “過去”がなくたって自分は変わらない。その先にあるものは“未来”で、それは自分には関係のない事……そう思っていた。だから誰にも語らず、誰にも理解されない。二年という記憶しか持たない故に、少年は孤独であり、誰からも理解されなかった。

 過去を知らず、知ろうともせず、それを良しとし、他者の思い出を否定してきた。その景色の中の一つに埋もれる事を、ただただ否定してきた。過去がないという事実は、足がかりが何もない事を示している。だから少年は常に独りであり、誰かを理解する事もなければ、しようとする事もない。

 孤独であることは少年にとっての強さであり美徳だった。失うものが最初からないのであれば、恐れるものなどなにもないから。けれど、失いたくないといつしか思うようになってしまっていた何かは、少年の僅かな記憶の中で確かに息づいていたから。


「そういうので哀れまれたりするの、嫌だしさ。生活に困るわけでもないし……だから、言う必要なんかない」


「相変わらずという事か……。お互いにな」


「世界を変えるような力も、誰も辿り着けないような場所も……。手にしてしまえばやっぱりなんともないもんだって気づいたよ」


「そうか」


「だからなんだって話なんだけどね。まあ、ボクが言いたい事はそのくらいだよ」


 会話は途切れた。それ以上兄も弟も口を開くことは無かった。食事を終え、レストランの前でスヴィアは立ち止まる。腕にしがみ付いているエアリオを引っぺがし、その頭に手を乗せた。


「他にも色々とやる事がある。続きはまた今度だ、エアリオ」


「……わかった」


 ぐりぐりと銀色の髪を撫で回しスヴィアは優しく笑った。幸せそうに片目を瞑っているエアリオの表情からリイドは目を逸らす。何故だろうか……。遠巻きに眺めるその二人の様子を見て居たくなくて。なんだか気分が落ち着かなくて。ざわつく気持ちを抑えるため、ポケットの中で拳を握り締めて兄を見送る。


「また近々会うこともあるだろう。お前も戦いの中に身を置くのであれば……な」


「ああ……。その時までお別れだ、スヴィア」


「……気をつけろよ」


「お互いにね」


 短い別れの挨拶だった。スヴィアは踵を返し、人ごみに消えていくまで一度として振り返らなかった。残されたリイドは溜息をつき、それから一人で歩き出す。エアリオはスヴィアを見送ると固まっているリイドに目を向けた。様子がおかしいのは気づいていたが、その理由がエアリオにはわからない。


「リイド?」


「ああ……。ごめん、何?」


「どうかしたの?」


 何もわかっていないという様子の普段通りのエアリオ……。いや、考えてみればそれは自然な事だったのかもしれない。リイドとエアリオは幼馴染なのだ。そしてそれは……エアリオとスヴィアが幼馴染であるという事も指し示している。

 もしかしたら、何も覚えていないのは自分だけで……。三人でいる景色は当たり前の物だったのかも知れない。エアリオは過去の思い出を語ったりしないし、リイドもそれを促したりはしなかった。けれど歴史は確実に子供の中にだって降り積もっているのだ。

 スヴィアに笑顔を見せたエアリオも、そんなエアリオを受け入れるスヴィアも……それは当然だったのだろうか。記憶がないリイドには何も判らない。それはなんだか自分だけが置き去りにされたような気分で、どうにも言葉に出来ないやるせなさを残した。


「……お兄さんの事、まだ苦手なの?」


 それは何度目の質問だっただろうか? ふと、リイドは以前エアリオと同じ話をした事を思い出した。エアリオは多くを語らない。けれどその言葉の意味はきっと前回とは違って聞こえた。

 少年は振り返り、そうして様々な事を思う。エアリオの事、スヴィアの事、記憶を持たない自分の事……。一年前、スヴィアが家を出て行った時少年はただ涙を流す事しか出来なかった。裏切りを叫ぶ事しか出来なかった。もしかしたら……裏切られたと感じていたのは自分だけだったのでは? そんな疑念が浮かんできたのは、エアリオがあまりにも自然だったからかもしれない。

 もしかしたら……スヴィアが同盟軍に居る事も。スヴィアが元レーヴァテインパイロットであった事も。知らなかったのは、知らされていなかったのは自分だけで……。カイトも、イリアも、エアリオも……。誰もがそれを知っていて。自分だけ、その事実から遠ざけられていたのかも知れない。


「……苦手だよ」


 何もかもを見透かすようなあの目が大好きで、けれど大嫌いだった。


「きっと……ボクは、苦手なんだ。スヴィアも……君もね」


 同じく、全てを見通すような無垢な眼差しを持つエアリオから視線をそらし、少年は歩き出す。エアリオは追いかけて来なかった。一人になりたかったのは事実だが、それさえ読まれているような気がして怖くなった。

 一体、自分はどれだけの真実を理解していたというのだろう? どれだけの事を知っていたというのだろう? 手に入れたと思っていた大きな力……。しかしそれはまるで全てが仕組まれていたかのように収束を始めている。少年は人ごみに身を任せ、思考を閉ざした。考える事が……今はとても苦痛に思えたから。




神話、狩る者たち(4)




「……旧アジア大陸奪還作戦?」


 ジェネシス本部に存在するブリーフィングルームに呼び出されたリイドはその作戦名を復唱した。ブリーフィングルームにはイリア、カイト、エアリオの姿もある。説明をしているのはヴェクターで、その傍らにはユカリが待機していた。

 急遽呼び出しに続き、唐突な作戦内容に四人は戸惑いを隠せない。それはヴェクターも同じなのか、困ったように苦笑を浮かべていた。しかし任務である以上それを拒否する権利は誰にもないのだ。迷っているリイドにも……それは同じ事である。


「現在アジア方面は殆どが敵に侵略されている状況にあるのはご存知ですか?」


 ユカリが地図を広げる。するとアジア大陸の殆どの場所が真っ赤に染め上げられていた。そこを指差し、ヴェクターは頷く。


「赤くなっているところが侵略されている地区ですね」


 殆どがそうだったので四人とも特に何も言わなかった。なんといえばいいのかわからなかったのかもしれない。こうして図で表さなければ自分達の星がどんな状況にあるのかすらわからなかったのだから。


「人類防衛同盟軍はご存知ですか?」


「ええ、まあ……」


 スヴィアが口にした組織の名前だった。勿論、リイドもジェネシスの開示情報で知っている事だ。人類防衛同盟軍、通称“同盟軍”……。地球に存在する人類により構成される大規模な同盟軍隊であり、対天使、神の戦闘、および掃討を目的とする軍事勢力である。

 そんなものが存在するのはごく自然な流れであり、地球人類が敵に対抗する為に抗い続ける為の軍隊が同盟軍であった。規模は世界各国からの同盟参加国家による軍事力の総合……。いわば世界中の戦力が集う現存する軍事勢力では最高峰と呼べるものであろう。

 ジェネシスは民間企業であり、あくまでも軍隊ではない。自らが経営する都市であるヴァルハラを防衛する戦力として軍事力を所持してはいるが、厳密に軍隊とは言えないだろう。仮にレーヴァテインを所持するジェネシスが軍隊であったとしても、その総合戦力は同盟軍には劣る。


「同盟軍が数日後に実行する旧アジア大陸奪還作戦の第一陣の補給、中継地点としてヴァルハラをご利用いただく事になりまして」


 ジェネシスは上記したように民間企業である。それも金になりさえすればなんでもするのがジェネシスという企業だ。軍隊に対する補給物資、スペースの提供なども金になるのであればいくらでも行う。それが多少街を危険にさらす事になろうとも。


「既に第一陣の先行部隊が本部の格納ブロックにて整備行動中です」


「ってことは、あたしたちもそのアジア大陸奪還作戦に加われって事?」


「いえ、違います。レーヴァテインに大陸を取り戻してもらうほど向こうはお金を出す余裕がないそうで。よって作戦行動そのものには参加しません」


 では何故呼び出されたのか? 当然四人の疑問はそこへ向けられる。ヴェクターはすぐにモニターの映像を切り替える。そこには先ほどの地図の上に矢印のマーカーが記されていた。


「これは同盟軍が旧アジア大陸へ進軍するルートです。台湾、香港を経由してベトナム方向へ進軍します。ジェネシスに立ち寄るのは北米大陸から遠征してきている部隊になるわけですが、その進路上には実はいくつかの問題が存在するのです」


「実は、旧フィリピン領北部に存在する“ヘヴンスゲート”の索敵範囲に艦隊が引っかかる可能性があるの」


 ユカリは地図を拡大し、フィリピン北部を映し出す。そこには“HEAVENS GATE”と記されたポインタが赤く点滅している。


「ヘヴンスゲートはいわば天使の一つの拠点……。彼らは地上の一地区を制圧し終わると、そこに月と直通する転移ゲートを作り出すの。それがこの“超時空転移光通路ヘヴンスゲート”」


「え……? 天使って、上から来るだけじゃなかったんですか!?」


 新事実の発覚に驚きを隠せないリイド。しかし冷静に考えてみれば頷ける話であった。ユカリはリイドの為、改めて説明を追加する。


「大気圏外からやってくるのは新しいヘヴンスゲートを設置する為の先遣隊ね。地上に被害を与えている敵の殆どはヘヴンスゲートから出現する増援なのよ」


「先ほども言いましたが、レーヴァは今回の作戦には参加しません。しかし、同時に別の作戦を依頼として同盟軍から頂戴する事になりましてね」


「……まさか」


 四人のパイロットの脳裏に嫌な想像が過ぎる。無論、そうなのだろう。その通りなのだろう。他にやることなど、ないのだから。パイロットたちの何とも言えない表情を眺めながら、ヴェクターは頬をぽりぽり掻き言った。


「今回の任務は旧フィリピン領ヘヴンスゲートの破壊です」


 やっぱり……という表情を四人同時に浮かべる。月と地球を結ぶ天使の転移ゲート、それを破壊するのが非常に困難なのかは火を見るよりも明らかだ。


「それでは作戦内容の説明に入ります……とは言え、やる事は一つなのですが」


 台湾へ向かう北米大陸からの同盟軍が移動を開始すると同時にレーヴァテインもフィリピン北部へ向かって出撃。同盟軍が台湾へ移動する中、囮を兼ねてヘヴンスゲートへ攻撃を開始。その後、ヘヴンスゲートを破壊しヴァルハラに帰還する。


「まぁ、最早何が来てもボクは驚きませんけどね……。この間随分ビックリさせられたばっかりですし……」


「その息でお願いしますよ。作戦開始まではまだ時間がありますから、ゆっくり休んでくださいね。あ、そうそう……今回は特に必要な装備もありませんので、レーヴァのタイプはご自由に。作戦開始までに選んで置いてくださいね~」


 ヴェクターは資料を抱えてそのままブリーフィングルームを飛び出していった。余程忙しかったのだろう、思えば早口だった気もする。続いて去っていくユカリを見送り四人は溜息をついた。人類逆転の大規模作戦、その一翼を担うにしては随分と軽いブリーフィングだった。


「さっきの様子を見る限り、カイトもヘヴンスゲート攻略はした事無いみたいだね」


「ああ……。ヘヴンスゲートの存在は知ってたが、俺たち自らヘヴンスゲートに攻撃を仕掛けた経験はない。そもそもヘヴンスゲート攻略作戦はそうそうあるもんじゃないし、昔はスヴィア先輩が担当してたからな」


「旧フィリピンゲートって言えば結構大規模なゲートだって有名よ? レーヴァ一機で落とせるのかしら。神話級一体相手にもてこずってるのに……」


 その辺りは行って見なければわからないわけで、リイドは余り考えないようにすることにした。どちらにせよレーヴァに乗り続ける限りは倒さねばならないわけで、逃げるなんて選択肢は最初からない。そしてまた、この間のように仲間を……パートナーを傷つける結果にしない為にも、せめて意思だけは強くあるべきだと思うから。


「思えばスヴィア先輩もこのミッションの話でこっちに来てたんだろうな。って事は先輩も前線に出てくるのか……?」


「だとしても、ゲート攻略作戦じゃなくてアジア奪還作戦の方でしょうね。それで、適合者の方は今の所出撃可能なのはリイドだけ……。リイド、あんたはイカロスとマルドゥーク、どっちがいい? あんたが決めていいわよ」


「え? それはボクが決める事なのか?」


「そりゃそうでしょ、あんたがメインパイロットなんだから」


 あっけらかんと言い放つイリアだったが、つい数日前までは険悪なムードだったのではなかったのか……。リイドは苦笑を浮かべ、何も言わずに頷いた。イリアに気を使っての事だったが、本当に彼女の事は理解出来そうにもない。


「今回のミッションは、俺としてはマルドゥークがオススメだな。わざわざ至近距離まで近づけば敵の包囲を受ける事にもなるだろうし、リイドはエアリオの方が相性がいいんだろ?」


 カイトの発言に腰に手を当て考え込むリイド。エアリオの方をちらりと見やるが、彼女はまるで普段と変わらない様子だった。逆にそれはリイドとしてはやり辛く感じる。エアリオとは随分仲良くなれたと思っていたのに、今は何故か大きな壁を感じている……。こんな状態で一緒に闘う事は果たして得策なのだろうか? そうリイドが思い悩んでいた時だった。


「むふふ、ここはオリカちゃんにお任せあれ~!」


 リイドの背後に音はおろか、気配さえなく立っていたオリカの声が部屋に響き渡った。慌てて前につんのめるリイドを受け止め、カイトが眉を顰める。


「オ、オリカ……いつからいたんだ?」


「最初からだけど?」


「最初からだけど? じゃねえよ!! お前そうやっていちいち気配を断つのやめろよマジで!! ビックリすんだろが!」


「だって……気配を断たないでリイド君の後付回してると、リイド君怒るじゃん」


「怒るに決まってんだろ!?」


 やや理不尽な回答であった。しかし当たり前のようにも思える。オリカの頭を両手で掴んで振り回すリイド……。二人のそんな様子をイリアは呆れた様子で眺めていた。


「まあ、あんたらのストーキング事情はあたしには関係ないんだけどさ……。オリカ、何か考えがあるんじゃなかったの?」


「あ、そうだったそうだった! リイド君、干渉者を誰にするのかで迷ってるんでしょ?」


「……ああ、そうだけど……お前には関係のない事だろ?」


「関係あるよ、大ありだよー! オリカちゃんはねぇ……三人目の干渉者でもあるんだよ! つまり、レーヴァテインの新たなモードが今ついに開放されるんだよーっ!!」


 拳を握り締め、声を大にして熱く語るオリカ。しかし注ぐ四つの視線は何故か冷ややかだった。オリカは目をぱちくりさせ、帽子を脱いでしょんぼりしている。


「……あれ? もっとびっくりするところだよ、ここ……」


「いや……お前が言うとマジなのか冗談なのか全くわかんないから……」


「え!? お、おかしいな……。オリカちゃん、毎日毎日一生懸命生きてるのになんで……? お、おほん……。リイド君、私は貴方の護衛であると同時にレーヴァの干渉者でもあるの。まあ三人目って言うのは言葉のアヤって奴で、私はエアリオちゃんやイリアちゃんよりも先にパイロットになったんだけどね」


 オリカ・スティングレイは卓越した戦闘技術を持つシークレットサービスであると同時にレーヴァテインのパイロットでもある。その実力はエアリオも、イリアも超える程なのだと言うが、だったらどうして今まで干渉者として活動していなかったのか、そもそもみんなの前に姿を現さなかったのか、それすらも疑問である。結論から言うと、リイドはオリカの事をまるで信用していなかった。


「……リイド君のその人を見下したような視線……。ぞくぞくするにゃー……♪」


「イリア、こいつ怖いんだけど」


「…………。あんたたちお似合いなんじゃないの……?」


「心外だよ! こいつとセットにされるのだけは心外だよ! 意外な言葉でボクを表現しないでよ!」


「リイド君に罵られるの、私結構嫌いじゃないな~」


 くねくねと頬を赤らめるオリカ。対照的にリイドは青ざめていた。そそくさとカイトの背後に隠れるリイドとそれを虎視眈々と見つめるオリカ……。二人の関係性は依然平行線である。


「で、あんた結局誰と一緒に出撃するのよ? 趣旨が変わってきてるわよ」


「あ、ああ……そうだった。えーと……じゃあイリアで」


「おい、ちょっとまて」


「そうだよ! なんでイリアちゃんなの!? 私も干渉者だって言ってるじゃんか!」


「…………いや、ボクは気づいたんだ。お前らの中で――イリアが一番まともだって事に」


 腕を組み、ウンウンと頷くリイド。イリアが勝ち誇ったようにふわりと紅い髪をかき上げると、オリカは帽子を齧りながら涙を流していた。エアリオは……何故自分が選ばれなかったのか判らず小首をかしげている。


「……まあ、リイドがそう言うなら俺は文句はねえが、大丈夫か? イカロスは遠距離武装を持ち合わせてないんだが……」


「ふん、小細工なんて必要ないわ。正面から正々堂々、ヘヴンスゲートを破壊してやればそれで済む事よ!」


 自信満々なイリアの様子にカイトは最早何も言わなかった。なんだかんだ言いつつ、レーヴァテインチームの結束は強まっているかのように思えたからだ。イリアとリイドも何とか共に闘えるようになり、オリカという新しい仲間(?)も加わった。今のリイドは仲間を守って闘える。今のリイドならば、きっと前のようには行かない……。そう信じられるから。


「……おし! そいじゃいっちょみんなで作戦会議と行くか! エアリオとオリカも、アイデアをどんどん出して二人をサポートしようぜ!」


「はうう……。オリカちゃんのレーヴァったらほんとに強いのに……! 使ってくれないどころか話題にすらならないってどういう事なの……」


「…………? マルドゥーク、今回のミッションに適しているはずなのに……」


 怪訝な表情を浮かべる二人。イリアはそんな二人の刺すような視線から逃れ、冷や汗を流しながら笑っていた。リイドもそれに釣られて笑う。戦いは過酷で現実は残酷だ。それでもそこに、彼らの中には確かに絆があるのだ。少年は前を向き、新たな戦いの為に気持ちを切り替えた――。


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またいつものやつです。
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