深紅の月
Grokとリレー形式でファンタジーを書いてきます。
1.
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真紅の月が照らす草原に、低い咆哮が響き渡る。遠くに白を引く山々にこだまし、地面を揺らす。
シルクが座るその丘に、巨大な影が落ちる。目を細めるが、その生き物の顔は、いつも月の光で見えなかった。
「時は来た」
頭上で、しわがれた声が告げた。
シルクはツリーハウスの寝室で目を覚ました。いつも見る、変な夢。数年前から全く同じ夢を見るようになったのだ。オルディン川の向こうの集落に住むマゼルダに聞いてみても、彼女は夢のことを何も教えてくれなかった。
でも、今日は何か違った。…そうだ。あの言葉。「時は来た」。そもそもあの影が喋る声を聞いたのも初めてだ。シルクは胸騒ぎを覚えながらも支度し、ツリーハウスを駆け下りた。
grok
シルクはツリーハウスの木製の階段を勢いよく下り、朝の冷たい空気を肺いっぱいに吸い込んだ。外に出ると、朝露に濡れた草原が広がり、遠くの山々が朝霧に霞んでいる。いつもと変わらない風景のはずなのに、どこか空気が重く、張り詰めたような静けさが漂っていた。彼女の心はまだ夢の余韻に囚われ、胸のざわめきが収まらない。
オルディン川の向こうの集落へ向かうため、シルクは革のブーツを履き、肩に小さな麻袋を掛けた。袋には干し肉と水筒、そしてマゼルダからもらった古い護符が入っている。護符は小さな石に刻まれた奇妙な紋様で、触れるとほのかに温かい。マゼルダは「これを持っていなさい」とだけ言い、詳しい説明はしなかった。
川沿いの小道を歩きながら、シルクは夢のことを考えた。あの巨大な影、しわがれた声、そして「時は来た」という言葉。毎晩見る夢の中で、影はただそこに立つだけで、何も言わなかった。それがなぜ今、急に言葉を発したのか。彼女の足取りは無意識に速くなり、川のせせらぎが耳に響く。
集落に着くと、マゼルダの家はいつものように木々の間にひっそりと佇んでいた。苔むした屋根と、窓辺に吊るされたハーブの束が、朝日を受けて柔らかく輝いている。シルクはドアをノックし、返事を待たずに中に入った。
「マゼルダ! いる?」
部屋の中はハーブと古い紙の匂いで満ちていた。マゼルダは暖炉のそばに座り、木の杖を手にじっと火を見つめていた。彼女の目は、まるで遠くの何かを覗き込むように曇っている。
「シルクか。早いな。」マゼルダの声は低く、どこか疲れているようだった。「また夢を見たんだな?」
シルクは頷き、夢の変化を急いで話した。「あの影が…喋ったの。『時は来た』って。マゼルダ、これって何? 何か知ってるよね?」
マゼルダはしばらく黙っていた。暖炉の火がパチパチと音を立て、部屋に不思議な緊張感を漂わせる。やがて、彼女はゆっくりと立ち上がり、棚の奥から古びた革の書物を取り出した。ページは黄ばみ、端は擦り切れている。
「シルク、お前が見ているのはただの夢じゃない。」マゼルダは書物を膝に置き、ページをめくり始めた。「あの影…それは『古の守り手』だ。草原の向こう、月が最も赤く輝く夜に現れる存在。お前がその夢を見始めたのは、お前が選ばれたからだ。」
「選ばれた?」シルクは眉を寄せ、護符を握りしめた。「何に? 私、ただの猟師の娘だよ。マゼルダ、何か間違ってるんじゃない?」
マゼルダは小さく笑ったが、その目は真剣だった。「間違ってなどいない。古の守り手は、均衡が崩れる時に新たな守護者を選ぶ。お前の夢は、その呼びかけだ。だが、シルク…その道は危険だ。受け入れるなら、覚悟が必要だ。」
シルクは息を呑んだ。外では風が木々を揺らし、まるで何かが近づいているかのようにざわめいていた。彼女は護符を強く握り、決意を固めるように目を閉じた。
「教えて、マゼルダ。私が何をすべきか。」
マゼルダは書物を閉じ、シルクをじっと見つめた。「今夜、月が真紅に染まる。草原の丘へ行きなさい。そこに答えがある。だが、シルク…何があっても、護符を離すな。あれはお前を守る唯一のものだ。」
シルクは頷き、心臓が早鐘のように鳴るのを感じた。今夜、彼女は夢の向こう側に足を踏み入れる。巨大な影と向き合い、「時は来た」の意味を知るために。