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ある村の儀式の話

作者: Ryll

***


 あるところに二人の少女がいました。一人の少女は、目が不自由で、もう一人の少女は、左腕がありませんでした。


 その少女たちは、同じ村で生まれた子供でした。少女たちは特段、変わったこともなく日々を過ごしていました。あの日までは。


 この村では、ある儀式が5年に一度行われるのです。

 その儀式は、遠い昔に怒りを買った大地の神への供物をささげる儀式でした。

 その儀式で生贄として12歳になる若い女の子を捧げる必要があったのです。


 もし、その儀式を怠れば、大地の神は直ちにこの村の田畑を完全に枯らしてしまうでしょう。


 しかし、誰が好き好んで生贄になりたいというのでしょうか。村娘たちは口ぐちに言うに決まってます。

 

「生贄になるぐらいならば・・・」


 そんなことをわかりきっていた。村の人々は、ある決め事をしていたのです。

 12歳になってから儀式まで最も近い村娘を差し出そうと。

 大地の神も最も新鮮な身体なら喜ぶだろうと考えたのです。そして、村の中では、このことを内緒にしようと、重職についているものしか知らないのです。


 しかし、重職の娘であった少女はその儀式を知ってしまったのです。

 父が無造作に散らべられた書類の山をかき分け、少女は探しました。

 その存在が神であるのか、否を。少女は、その知りようもない問に心を踊らされました。

 そして、知るのです。その存在を。

 どうして気が付かなかったのでしょうか。

 

 神ならば、祀ればいいではないか。

 祟りならば、祓えばいいではないか。


 少女はそこで気が付きました。後ろの父の存在に、父の目は、憐れむような眼をしていました。


 ただ、見たのかという怒りでも、気が付かれたという焦りでもなく、ただ私を憐れむ目をしていた。少女はその目に奪われてしまった。


 そうして、気を失っていきました。少女が目を覚ました時には、すべての記憶が失われていました。


 神も祟りも儀式に関しても。自分が儀式を受けるということ以外、全て。


***


 紫黒い煙に囲まれている祠に白装束をまとった少女は、一歩近づいた。


 ある少女は、そこに手を伸ばす。届かない、とわかっているのに。


 少女は、妬んでいた。生まれた境遇が良いのに関わらず、その境遇に満足せずにさらに求める彼女を。


 しかし、彼女は満足していたのではない。その境遇に飽きていたのだ。それは、すれ違う彼女たちにとって気が付くことのないこと。少女もそれに気が付いているからなおさら素直になれない。


 更に、境遇の良くない彼女にとっては、それは実に妬ましいことに見えるだろうし、少女のやっていることはとても真新しいことに彼女からは見えているだろう。

 だからこそ、逃げるのは許せなかった。


 だから、少女は彼女に手を伸ばした。


 そうして、少女は視線を交わした。その祠の真の主と。


 その主は、手を伸ばしている私をじっと見ていたのだ。応、舌なめずりをしながら見ていた。


 そこで彼女は無理やり起こされた。


 そうして、それはただの夢であったと気が付いたのだ。起こしたのは重職の娘なのであった。


 彼女は昔からの馴染みであったし、妬みの対象なのでもあった。


 しかし、少女も彼女の無限の探求心に感心していたし、見たことのない景色を見せてくれる彼女を好いていた。


 だが、今日の少女は一風変わっていた。目の焦点はあっているのに、どこか心がないような気がするのだ。


 少女はただの寝不足なのだろうかと、眠気眼を擦り、彼女を再度見上げる。


 しかし、彼女の表情はそこまで変わらない。


 何かを掴み損ねたようなそんな顔をしている。そんな彼女に


「今日はどうしたのさ」


 と声をかける。彼女は何も言わない。


 ただ目を開いてこちらを見ているだけなのである。


 こんなことは今までなかった。

 今まで本当になかった。


 だからこそ少女は気になった。

 何が彼女をそうさせているのか。

 今度はどんな新しい発見を見せてくれるのか。


 少女は、たとえそこが深淵でもついていこうと決めていた。


 だからこそ、じっと彼女を見つめた。彼女が夢から覚める瞬間を見るために。


 しかし、彼女が夢から覚めることはなく、夕暮れ時に彼女は家に帰ってしまった。


 どうしてだろう。


 なぜ、彼女は私を起こしに来て、そのまま帰ってしまったのだろう。


 わからないことしかない。


 しかし、それが答えなのかもしれない。


 少女は、彼女を追った。


 しかし、その瞬間、彼女を追いかけたことを後悔した。


 少女は聞いてしまったのだ。


 彼女があの祀られている祠に入ることを。


 そして、少女は知っているのだ。

 あの祠は空っぽな空洞になっていて、奥には何もないことを。

 いや、正確には、何もないのではないだが、見たのだ。


 少女は、昔から頭で考えることをしないで、気になったことは何でもする野蛮ば少女だった。


 だからこそ、あの祠に興味を持ったのだ。そうして、大人たちの見てない隙に中に入った。


 そうして、中身を見たのだ。


 その祠はいたって普通の空洞なだけで奥には何もなかった。


 少女は、もう一度祠に入ることにした。

 多分、彼女はその目で見ているのだ。

 真なるその姿を捕えているのだ。

 祠の中身を。空っぽな祠の奥底を。


 だから、少女も見ないと気が済まない。

 彼女が独り占めしているのは気に食わないから。


 少女は大人たちが眠りに落ちている夜中にそっと祠に近づいた。


 そこには、更に禍々しさが増した祠の入口が待っていた。


 何かがこちらを覗いているような妙な緊張感が走る。


 後ろから吹いてくる風が私を後押ししているのか、それともただ誘っているのかわからない。


 しかし、慎重にはしていられない。


 大人たちが起きてくるまでそこまでの時間がないからだ。


 そこで、少女は入るケツイを込めた。


 少女は息を潜めて入った。


 

 しかし、そこで何も見つけることはできなかった。


 ただ、視線と冷たい何かに腕を掴まれた感触だけあった。

 

 視線は、辺り一面から受けているが、一体何の視線なのか理解できない。


 ただ、圧を感じる。その圧は立ち去れなのか、ここに居ろなのか、全く分からないが。


***


 そうして、少女が彼女の見ているものを知るために奔走している間に儀式の日が来てしまった。


 そうして、まるで夢を再現するかのように、彼女は白装束を着て現れた。


 少女は、それを見て、何となく感づいてきた。


 夢と同じであるならば、あの祠に何かあるのではないのか。


 そう、少女は考える脳がないのだ。


 それは、彼女が散々注意してきたが未だに治っていなかった。


 彼女を横目に少女は、すこし物騒ながら、自分なりに使えそうな武器を持って先に祠の奥に待機しておくことにした。


 幸い今の時間は儀式のために村のみんなは、祠に全く注意を向けていない。そこで、おなかの痛いふりをして少女はその集団を離れた。


 少女は常に野草をつまみ食いするぐらい野蛮だったので、誰も気に掛けることなどしなかった。


 そうして少女は、無事に祠に入ることができた。


***


 少女は、歩いている感覚はあった。


 更に、重い装束を着せられている感覚も。


 しかし、目が見えない。あの日以降、目が見えないのだ。


 父の憐れまれた目を見てから見えない目の中で、記憶をなくした中でも、少女の探求心までは無くすことはできなかった。


 少女の探求心はそれほどまでにも強いものであったのだ。


 だからこそ、少女は、考えていた。どのようにして、彼女に伝えるのかを。彼女ならきっとわかってくれると信じているから。


 しかし、彼女はわかってくれるどころか、空回りしていた。


 その場所は祠であるけれど、祠が原因なのではない。


 それでも、彼女は信じている。


 その結論が愚かなものになってもいい。それでも、少女もまた、彼女を好いているから。


 少女は、祠に近づいていることに気が付いた。


 その時、少女は、誘い込むような風と、強く引っ張るような冷たい感触に襲われた。


 少女は、この腕をつかむような感覚は多分、霊的な何かで、きっとそれは恐怖から起きているものと考えている。


 そうして、これから自分に起こることも、今まで起きてきたことも、気が付いている。


 だからこそ、少女は、自分の目の前にある器に入っている液体を一気に飲み干した。


***


 儀式も終盤になってきたことを祠の周りに人が集まってくる音で気が付いた。


 少女は、今一度強く武器を構えた。


 多分、この匂いを私は知っている。

 

 彼女が祠の奥に連れて来られている。


 彼女の口から軽くそれと黄色いものがぶちまけられる。


 つまり、この匂いの正体は酒だった。



 さて、その存在は神なのか、祟りなのか。



 正解は、野心だった。


 鈍い音が鳴る。


 少女は、鈍器を野心に振るった音だ。


 野心はいとも簡単に壊れると少女は感じている。


 だからこそ、野心を育てるのだろう。


 少女は、野心を掃討した。


 彼女を守るために。


 しかし、ただでは守れないと知っている。


 少女の代償は左腕だった。


 彼女を守る左腕は使い物にならなくなってしまった。


 しかし、これで彼女の目は。


***


 少女は、気が付いていた。


 もう自分の目が元には戻らないことを。


 あの時、憐れむ目を向けられた時に。


 何をされたのかに気が付いているから。


 自分の体の中に入った異物に気が付いているから。


 それでも、わかってなくても、助けに来てくれたことがただ嬉しかった。


 だから、あとは、彼女にすべて任せよう。


 そう少女は思い、託した。


***


 小鳥のさえずりが聞こえる。


 まだ日が昇りきっていない太陽が二人の影を映す。


 二人は逃げ出したのだ。


 あの野心たちから。


 恐れ以上に、二人は飢えていたのかもしれない。


 だからこそ、この結末につながったのだと彼女は感じる。


 彼女は、見てるようで見えてない。


 夢を見てるままだ。


 と安心する彼女を横において、私は軽く息を吐いた。


 やっぱり、勘が鋭いだけの野蛮な子なのには変わらないのかもしれない。


 彼女は野蛮だ。


 で、私は。


「ねぇ、あの太陽の向こうには何があるの?」


 彼女は問いかけてくる。


 答えのない問い。


 彼女は自身の承認欲求を満たすためならば、なんだって聞こうと思っているのだろう。


「向こうには、人が住んでるところがあると思うよ」


 それに答えてしまう私も私だ。


 多分、この問題は一生解いてもらえないけれど、それはそれでいいと思っている。


 だって、これは私の嫌いな野心だから。


<<完>>

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