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ヴァイロ・ハザード

 「なぁ、なんでケンカしんるんだ?」


 「分からん。いきなりヘラクレスのプレイヤーが暴れ出したんだ」


 組み合っているプレイヤーは二人。一人は鎧にマントをつけた騎士のプレイヤー、もう一人は上半身裸で鍛えられた肉体を持つプレイヤーだ。


 もちろんゴーグルを外して見れば、普通の体型でよくある服装をしている。


 しかし、ヘラクレスのプレイヤーは雄叫びを上げて暴れ回っている。騎士のプレイヤーは必死で押さえ込もうとしているが苦戦している。


 遠巻きに見守っているとスタッフが駆けつけた。


 「何をしている!? やめろ!」


 スタッフの静止も聞かずに暴れまわっている。スタッフが手に持っているタブレットを操作すると、ヘラクレスのビジョンが消えて、元の男性の姿になった。


 恐らく強制的にゲームから排除したのだろう。ヘラクレスのプレイヤーは、その場に倒れて動かなくなった。


 スタッフがすぐに駆け寄り状態を確かめる。スタッフの様子を見る限り、死んではいないようだ。


 「あーあー、プレイヤーの皆様にご連絡です。緊急事態により、ゲームを一時中断致します」


 スタッフは頭に装備したヘッドマイクでプレイヤー全員に呼びかけた。スタッフからの連絡が終わると、ゴーグルに移っていたゲーム映像は消えた。


 その場にいたプレイヤー達は、壁際によってはいるが倒れたプレイヤーの事が気になっている雰囲気だ。しばらくすると救急隊が到着して、倒れたプレイヤーを運んでいった。


 結局、イベントはそのまま中止になった。他にも暴れたプレイヤーがいたらしい。獲得した報酬は、そのまま提供されたので俺は不満はない。しかし、獲得した報酬が少ないプレイヤー達からは不満の声が上がった。


 「今回のイベント中止における補填は追って連絡致します」


 不満を上げたプレイヤー達は運営から補填が提示された事で渋々納得して、それぞれの帰路についた。



 ◇



 「ただいまー」


 「あら? 早いわね」


 「イベントが中止になったんだよ」


 母さんにイベントで起こったトラブルについて話すと心配されたが、獲得したクーポンの話をすると子供みたいに喜んだ。


 「せっかく貰ったんだし使わないと損よね。いつにしましょうか?」


 「父さんの予定は聞かなくて良いの?」


 「大丈夫よ、もうメール入れたから」


 行動の早い母親に呆れているとメールの着信音がした。恐らく父親からだろう。


 「お父さん、次の休みは予定が空いてるそうよ」


 「分かった」


 父さんはターミナル駅近くでゲームショップを経営している。従業員は雇っているが基本的に休みなく毎日出勤している。帰ってくる時間も遅い。


 辛くないのか聞いた事もあるが、「大変だけど辞めたいと思った事はないな」と話していた。


 夕食を食べながらテレビを見ていると緊急速報が流れて来た。



 ー緊急速報ー


 世界中で遊ばれているVRゲーム「ワールド・アーカイブ」で起きている問題について、開発元の株式会社フロンティアが記者会見を開く事を決定しました。



 「記者会見? そんな大事になってたのか。……ごちそうさま」


 食事を終えて食器を片付けると、手持ちのスマホで記者会見について調べた。


 「どうなってるの?」


 母さんが洗い物をしながら聞いて来た。


 「イベント中に起きた暴力事件だけど、世界中で起こってるみたいだ。死者も出てる」


 「そんなに酷いの!?」


 「かなり酷いな。大使館に突撃したグループもあるみたいだ」


 想像を遥かに超える規模で事件が起こっていた事に衝撃を受ける。ただのゲームが、ここまで大きな事件を引き起こすとは考えられなかった。


 テレビで流れていた番組が中断されて、記者会見が放送される。



 ーこの度は、私どもが手がけるVRゲーム「ワールド・アーカイブ」のプレイヤーが暴力事件や暴動を起こした事に関して深くお詫び申し上げます。


 誠に申し訳ありませんでした。


 我々は今回の事件を"Virtual(バーチャル).Reality(リアリティ).Erosion(イロウション).Hazard(ハザード)"、略して『ヴァイロ・ハザード』と命名して対策を講じていきます。


 具体的には……



 会見では具体的な対策と今後の対応に関して話が進められた。


 「これ、会社潰れるかもね」


 「マジか!?」


 「世界規模の賠償なんて出来ないでしょうし……」

 

 ゲーム自体楽しいし、クーポンも大量に貰える。貰ったクーポンで旅行した事もある。サービス終了を考えるとショックだ。


 「会見もいいけど、お風呂入った来なさい」


 「……分かった」


 入浴が終わると部屋に戻った。手元のスマホでニュースを見ると、トップは「ワード・アーカイブ」関連で埋め尽くされていた。


 SNSでもニュースの閲覧数が数万を超え、憶測や陰謀論も飛び交っている。通知が来ていたのでメールを開くと友達からだった。


 「雄也からか」


 同じクラスの雄也も「ワード・アーカイブ」のプレイヤーだ。一緒にイベントに参加した事もある。


 ーニュース見たか、これからどうなるんだろうな?ー


 メールに返信してベッドに横になる。不意に机を見ると、宿題が残っていた事を思い出す。


 (宿題があったな、今のうちに済ませとくか)


 気を取り直して机に向かうと宿題に手をつける。


 翌朝、眠たい顔を擦りながらリビングに行くと、父さんが出勤する所だった。


 「おはよう、父さん」


 「あぁ、おはよう。まだ眠たそうだな」


 「少しね、今から出勤? 早くない?」


 「今日は新作のゲームが来るからね。売り場を完成させないと。いってくるよ」


 「いってらっしゃい」


 父さんを見送るとテーブルに用意されていた朝食を食べ始める。母さんがカフェオレを入れて持ってきてくれた。


 「おはよう、大翔」


 「おはよう」


 朝食を食べ終わると部屋に戻って学校に行く準備を始める。昨日のうちに纏めておいた荷物を持つと母さんに声を掛けて家を出た。


 学校までは電車と徒歩で1時間あれば少し余裕を持って到着する。いつも使っている駅ほ前では、議員が選挙演説をしていた。


 (あの人、確か現職の議員だよな。汚職疑惑でニュースになってた)


 十数人が立ち止まって演説を聞いている。うちは自営業だから選挙の時はいつも話題に上がる。まだ選挙権は無いが会話には参加している。


 (そういえば昨日も演説してたな)


 そんな事を思いながら通り過ぎようとした時、悲鳴と絶叫が聞こえた。振り返ると、さっきまで演説していた議員が地面に倒れていた。


 「きゅっ! 救急車!」


 「警察を呼べ!」


 俺も人混みを割って見に行くと倒れている議員の背中には包丁が突き刺さっていた。そばでは羽交い締めにされた男が叫んでいる。


 「お前らが不正するからこの国は良くならないんだ! 法律で裁けないなら俺が裁く!」


 「良い加減にしろ! 落ち着け!」


 「犯罪者に加担する国賊共め! お前らも同罪だ! 殺してやる!」


 呆気(あっけ)に取られているとサイレンが聞こえた。到着した警察に素早く犯人が拘束される。倒れていた議員も救急車に乗せられて病院に運ばれて行った。


 警察が集まっている人に事情聴取を始めたので人混みに紛れて、その場を離れる。


 

 ◇



 時間通り学校に到着すると雄也が声を掛けてきた。話題はさっきの議員が刺された事件に関してだ。


 「SNSで見たけど、この議員が刺された駅って大翔の最寄りだよな? 大丈夫だったか?」


 「俺は大丈夫だよ。ただ、駅に着いたタイミングだったから危なかったけど」


 「マジかよ!?」


 雄也の話を聞きながらSNSで調べてみると、議員が刺された事件が拡散されていた。演説を動画で撮っていた人もいた様で、刺された瞬間が映っていた。


 「なぁ、もしかして……だけど」


 「俺たちに出来る事は無いよ。警察に任せた方が安全だ」


 「そうだな」

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