ダンジョン攻略
リビングに設置されたテレビでは、番組が終わりCMへ移った。
ーー今! 世界中で大人気のVRゲーム「ワールド・アーカイブ」の大型イベントが開催! 場所は郊外のショッピングモール、丸々1日貸し切っての開催となります!ーー
テレビから流れて来たのはVRゲームのイベントを告知するCMだ。客が離れて店舗も入っていないようなショッピングモールを使ったイベントが行われる。
「大翔も出るんでしょ? すごい人が来るって聞いてるけど大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。俺は事前抽選に当たってるから参加確定してる。イベント中はモールが閉鎖されれから関係ない人は入って来れないよ」
500人規模のイベントで、郊外でゴーストタウン化したショッピングモールが会場だ。
当日の参加枠は50人だが、俺は事前抽選に当選しているから関係はない。悠々と会場入り出来る。
「それじゃ行って来るよ、母さん」
「いってらっしゃい、気をつけてね」
会場までは電車で移動する。最寄りの駅からは徒歩10分ほどで到着する。駅からはゲーム会社が参加者用に用意したバスも出ている。
事前抽選に当選したプレイヤーだけが利用出来るから、俺もバスを使って会場に入る。
◇
「ここが会場か、確かに広いけど店が閉まってると不気味だな」
1000店舗を超える店が入っていたショッピングモールは閉店が相次いで今では片手で数える程しか営業していない。
その数少ない店もイベント開催で閉まっている。全ての店が閉まっているショッピングモールは異様な雰囲気を漂わせている。
「まだ時間あるな……」
時計を確認すると、開催時間まで2時間ある。今のうちにトイレを済ませておこう。
トイレから戻ると、後続の一団が会場に着いた所だった。目算で100人ほどが会場に来ている。
スマホを触りながら時間を潰していると30分前になった。人も集まって来ており窮屈に感じる。
「それでは30分前になりましたので、参加者の確認に周ります。お近くのスタッフにログインIDを提示して参加登録をお願い致します」
30人ほどはいそうなスタッフ達が順番に登録を進めていく。
「……はい、これで参加登録が完了です。開始時間までお待ち下さい」
登録を済ませると、背負っていたリュックからVR用のヘッドギアを取り出す。ヘルメット型のVRギアで、屋外でのイベントを想定して頭部をガードする構造になっている。
今回のイベントも、ヘルメット型のVRギアが必須になっている。ゴーグルだけのタイプもあるが、最近ではヘルメット型でなければ参加出来ないイベントが増えて来ている。
「それでは、お時間になりましたので開会式を始めさせて頂きます」
司会者から開会式と称したルール説明が行われる。主なルールとしては
・プレイヤー同士での戦闘、乱闘行為の禁止
・探索時における侵入エリアの制限(店舗内など)
・探索時のドロップアイテムは最初に見つけた人に獲得権利がある
・エリアボスの討伐報酬は参加者全員に配られる物と貢献度に応じて配られる物がある
・その他、非紳士的行為の禁止
・有事の際はスタッフの指示に従うこと
などが説明された。
大まかなルールは他のイベントと同じようだ。
「エリア内にはスタッフが配置されております。分からない事やトラブルが起きた場合には迷わず頼って下さい。それでは! レイドクエスト"バイキング"スタートです!!」
スタートの合図と共にプレイヤーが歩き出した。
このイベントはショッピングモールを海賊の幽霊船に見立てて探索するゲームだ。VR上に表示されるエネミーや一定範囲ごとに設置されたエリアボスを倒すことで報酬が貰える。
報酬はコンビニで使えるクーポンから協賛企業が提供する家電製品や電子機器まで多くの種類がある。特に大規模なイベントでは報酬アベレージも高くなりがちだ。
「うぉりゃ!!」
目の前に現れたゾンビタイプのエネミーに向かって、手に持った剣を振り下ろす。
『ウォァァー』
うめき声を上げて消えるエネミーの後にはドロップアイテムが残った。手を触れてみると〈割引クーポン〉と出た。
「クーポンか、まぁ弱かったしな」
剣は実際に何かを持ってる訳では無く、登録した武器に合わせたモーションをする事で攻撃が可能になる。
その後も探索を続けながらエネミーを倒して行くが、手元には使わないクーポンが貯まっていく。
「家族でも使えないクーポンばっか出るな……」
使わないクーポンはイベント後にプレイヤー間で交換出来るから、無駄にはなりにくい。
そんな事を考えていると、建物の奥から咆哮が響いて来た。誰かがエリアボスに遭遇したようだ。
「今の咆哮はエリアボスか!?」
エリアボスは一撃入れるだけで報酬が確定する。さらに、貢献度に応じて報酬もグレードアップする。
貢献度はダメージ量だけじゃなく、バフやデバフ、回復なども合わせた総合ポイントで判断される。
戦うのが苦手でも支援が優秀であれば上位の報酬を狙えるのだ。
「間に合ってくれよ!」
咆哮を聞くやモールの奥に向かって走り出す。他にも走っているプレイヤーが前が目的は同じだろう。
モール内でも開けたエリアでは巨大なエリアボスとの戦闘が行われていた。ここのエリアボスは、海賊服を着た巨大なゾンビだ。ボスの頭上にあるHPバーが2割ほど減っている。
「少し出遅れたか!? が、ここからが本番だ!」
ボスに集まってるプレイヤーを避けながら接近する。振り下ろされる攻撃を避けながらボスの足に向かって剣を振り抜くと、勢いのままにボスから離れる。
『ガァァッ!』
足を切った瞬間、ボスが体勢を崩す。
「今だ!」
どこかのプレイヤーが叫ぶと、体勢の崩れたボスに向かってプレイヤー達が攻撃を集中させる。
「おっと、このままだとポイントを持っていかれるな」
追撃をかけようとするとボスが体を大きく捻った。
「ヤバッ!」
捻った体に勢いをつけて、ボスが手に持った剣を水平に振り抜いた。密集していたプレイヤー達が大ダメージを受ける。中にはゲームオーバーになったプレイヤーもいるようだ。
ゲームオーバーになってもリスポーンポイントで一定時間待機していれば復活できる。しかし、大幅なタイムロスになる。
俺は離れていたため攻撃を受けずに済んだが、中途半端に近づくのは危険なようだ。
再びプレイヤー達の攻撃が始まる。俺も負けじとヒット&アウェイでダメージを入れていく。
ボスのHPバーが半分を切った所でボスが咆哮する。その咆哮のあと、足元からゾンビが湧いてきた。