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第八輪:誘拐(前編)

今回と次回は…二人で町に出た直哉とシエル。直哉が目を離した隙にシエルが拐われてしまい、助けるために直哉が動き出す!ってのを企画しております。


前書きが長くなったけど…誘拐前編、どうぞ!

よく晴れた青空が何処までも続き、ちぎったわたあめのような雲がふわふわと浮いている。


そんな空を眺めつつ、直哉とシエルは城下町を歩く。相変わらず活気に満ち溢れていて、ときたま吹く風が運ぶ花の薫りが心を踊らせる。

そして――


「…ナオヤ、どうしたんですか?」

「いや、いつ見ても綺麗だけど、今日は特に綺麗だなぁって思って」

「えっ?!そそそそそんなっ、きっきき綺麗だなんてっ!!」


――シエルが猛烈に綺麗なのだ。


いつもは白いローブを来ていて動きやすさ重視なのだが、今日はおしゃれ重視の服装をしている。


淡いピンク色のキャミソールに、フリフリがついているモノを着ている。歩く度にふわふわとなびき、まるで天使の羽根のようだ。右手には水色のブレスレットをしていて、全体的に明るくて活発な印象を抱く。

実際に明るくて、一人で遠くのお花畑まで行ってしまう程行動的だから、見事にマッチしているのは内緒だ。


そんな娘が顔を真っ赤にして、両手をぐるぐる回しながら自分を見つめて来るのだ。反語の強調を通り越して、決定事項にして良いレベルの可愛らしさだ。


しかも、時折見せる大人っぽい仕草もプラスされて…お釣りで豪邸が建てられそうだ。


「もぉ~、ナオヤったらぁ!」

「いやマジで。思った事をそのまま言わせてもらっただけだよ」

「っ~~!!!!」

「町のみんなもシエルの事見てるしね」

「やだ、視線で穴が空いちゃう!」

「現実的に考えて空かねぇよ」

「見ないでぇ~!」

「嬉しそうに言うなよ、言葉の重みが感じられんぞ」

「はぅ~…変な視線を感じるよぅ」

「ついに被害妄想の域に達してしまったか…」


的確に突っ込む直哉だった。確かに道行く通行人は、歩を止めてシエルを見ているのだ。


だが、流石に道のど真ん中で騒ぐのは目立ちすぎるので、近くにあるカフェ(っぽい店)に入る直哉達。店に連れてく途中、無意識にシエルの肩に手を回していた事に、直哉は気付いてはいなかった。





戦争中と言うのが嘘のような平和っぷりを醸し出すエアレイド王国。だが、光在る所に影が在るように、平和とは口が裂けても言えないモノもある。


その一つが、裏通りから直哉達を見据えていた男共(A~C)である。

因みに、シエルが感じた"変な視線"はこいつらのモノである。


「あの娘…シエル・キャパシェンじゃねぇか?」

「あぁ…この国の国王、コラーシュ・キャパシェンの一人娘だ」

「あんなガキと町に降りてくるたぁ…自分等の政治に自惚れてる証拠だな」

「違いねぇな。さぁて、うまく掻っ払って国でも脅してみっか」

「妙案だな。どーせ金持て余してんだろーし、有効利用してやろーや」


これまたテンプレな考えである。もう少しくらいまともに考えてはどうなのだろう。


「うるせェ!俺らだって生きるのに必要なんだよ!」

「うわっ?!急にどうした、お前」

「いや…もっとまともな事考えれないのって言われたから」

「………誰に?」

「………さぁ?」


ナレーションにまでケチをつける男A。

言葉の内容はともかく、顔がニヤニヤしている。もちろん、本当に苦しい訳もなく、ただ働く事がめんどくさいだけだ。


結論から言うと、死亡フラグを設立したのだが…気付ける筈が無かった。





そんな危機は露知らず、直哉とシエルは服を見に来ている。


直哉が真っ黒のスウェット上下しか着てないのを見て、服を買ってあげると切り出したのがシエルだ。明らかに立場が逆だと直哉は拒否したが、シエルの涙目上目遣い攻撃を前に数秒で撃沈した。


《うぐぐ…女の子に奢ってもらうとは…》

『……元気出せ、直哉』

《うぅ……》

『一文無しなのは言うまでも無いだろ』

《その通りでございます…》

『諦めてシエルちゃんの着せ替え人形になるんだな』

《……え?》

『前見てみろよ』


言われるがままに前を向く。すると――


「よいしょっと!」

「………」


――自分の二倍は有ろう服の山を持って来るシエルがいた。


様々な模様の服の中に、フリフリの付いた女物まで紛れてる気がするのは、きっと直哉が疲れてるからでは無い。


「あー、シエル」

「はい?」

「このお山さんは?」

「ナオヤの服候補です」

「へぇー、これをどうするの?」


分かってはいるが、震えながら聞いてみる直哉。すると、シエルは直哉の目を見つめ、ゆっくりと頬をつり上げて笑う。頬がつり上がる毎に、直哉の顔に絶望の色が広がってく。


「着せます」


予想通りの言葉が帰ってきた。


「この量を?」

「男の子の服を決めるのって初めてで…どれがいいかなって考えてたらこうなりました」

「この短時間で良くもまぁこんなに持ってこれたな」

「えへへー」

「比較的呆れてる訳で、褒めてる訳じゃ無いぞ」

「いいからいいから、ちゃっちゃと着やがりなさい(はぁt」

「………」


これ以上抵抗しても無駄だと分かってしまった直哉は、渋々服を脱ぎ始める。

スウェットの上を脱いだ所で、シエルを見てみると、頭から湯気が出ている。


「……?」

「なっなななおなおなお…ナオヤ……服は……あそこで……」

「……マジで?」


黙って首を縦に振り、俯くシエル。顔は真っ赤で、陽炎が出ているようだ…少しゆらゆらしている。


そして、早とちりして服を脱いでしまい、シエルを始めとした周りの視線を独占する直哉は


「僕は露出狂なんかじゃない!信じてくれよぉぉ!!」


その場に膝から崩れ、頭を掻きむしりながら空(天井)を見上げ、泣き叫んだ。


この後、先に正気を取り戻したのはシエルだった。店員に頼み、崩れ落ちた直哉を見て赤くなったりひそひそ話をしたりぶっ倒れたりしてる人と言う人全てを追い出し、シャッター(っぽいもの)も降ろしてもらった。姫様は強いものである。


急いで直哉の元へ駆け寄るシエル。直哉はぶつぶつと独り言を連ねていた。


「あぁもう俺はダメだ…人として、いや生き物としてダメだ…不敬罪で捕まって即刻死刑が確定して、王国の晒し者として首と胴が泣き別れするんだ…」

「………」

「ハハッ、たった十八年の人生か…短かったなぁ…親父にお袋、それにみんな…ごめんよ、俺は一足先に鳥になる必要があるみたいだ…」

「ナオヤ…」

「折角なら、爆弾抱えて吹き飛びたかったな…あれ、三途の川、それにお花畑が見える…パトラッシュ、僕もう疲れたよ…鳥になって――」

「だめぇっ!!」


そう言いながら抱き着くシエル。分からない単語が多かったけど、聞いてて胸が苦しくなってしまったのだ。


「死んじゃやだ…ナオヤ、死んじゃやだよぉ…グスッ」


自分の胸で泣きじゃくるシエルを見て、ようやく正気に戻る直哉。


「はっ…ご、ごめん…ちょっと星の彼方に旅行してたよ…」

「ナオヤぁ…じん゛じゃ゛や゛だぁ゛…」


すがり付くようにして泣くシエルを見て、戦争中である事、シエルが何のために治癒魔術を学んだのか、直哉は思い出した。

鬱モードに突入した時の事は覚えて無いけど、シエルにとってよっぽど辛い事を言ってしまったのだろう。


黙ってシエルを抱き締める。そして、脳内で自分を戒めた。店員の顔が赤く染まってるのが横目で見えたが、川の流れのように流してしまう事にした。


「ごめんよ、シエル…俺、どうかしてたみたいだ」

「もどがらだよぅ…」

「………」


そう言いながらも直哉の背中に手を回して、ぎゅーっと抱き着いて来るシエル。せめて上着を着てから……そう思った直哉。

もちろん、その願いは叶う訳が無い。


密着して泣くシエルの涙が、ぽたぽたと直哉の胸に滴り落ちる。その度に「おぉうっ」とか「おふっ」とか奇声を上げながらびくつく直哉であった。


『初だなぁ』


ウィズの呟きは虚空に消えた。





シエルも泣き止み、落ち着いたらしい。空色の瞳は充血して、薄紫色に見えた。普通に可愛い。


そして、魔の着せ替えタイムが再開された。もちろん、今度は試着室でだが。

直哉も観念したらしく、大人しく応じている。フリフリの付いた女物の服を渡された時は流石に戸惑っていたが、シエルを泣かせた原因は直哉にあるので、渋々着用した。


そして、カーテンを開けてシエルにお披露目したら


「わぁ~、可愛いー!」

「?!」


と返ってきた。

そして――


「それも買いましょう!あと、ナオヤが選んだこれ!」

「え、これも買うの?!」

「姫様命令」

「ぐ……」


――直哉の服が決まった。


一つは黒っぽいTシャツに黒のジーパンっぽいもの。黒が好きな直哉ならではのコーディネートだ。

もう一つは"可愛い"ワンピース。黄緑色の生地に、シエルのキャミソールに付いているようなフリフリが付いている。


るんるんとスキップしながらレジ(っぽいもの)に向かうシエルを見て、直哉は深い溜め息をついた。因みに、現在はスウェット上下を着用だ。


会計を済ませたシエルが帰ってきた。店員が考慮して、半額にしてくれたらしい。

心の中で店員に感謝し、店を後にした二人。服を直哉に押し付け


「んー…喉渇きませんか?」

「言われてみればそうだな」

「ふふ、飲み物買ってきますね。ナオヤはそこのベンチで座っててください」

「むぅ…分かった」


シエルは楽しそうに笑い、人混みに溶け込んだ。直哉は自分が行こうとも考えたのだが、荷物をシエルに押し付けるのは失礼だし、方向音痴が発揮されるのだけは避けたかったので、任せる事にしたのだ。


「女の子って、元気だなぁ」


近くにあったベンチに座り、直哉は呟く。

服を見て、着せ替え人形になっただけでくたくたな直哉に対して、たくさん泣いても飲み物を買いに行く余裕まであるシエル。畏敬の念を抱く直哉だった。





「ん……」


気が付くと、シエルは真っ暗な世界の中、椅子に座っていた。


飲み物を買いに来て、裏通りらへんで引っ張られて、気が付いたら今に至る。


キョロキョロと回りを見渡す。明かりと言う明かりは無く、うっすらと光が射す場所が幾つかあるだけだった。


得たいの知れない恐怖がシエルを襲う。


急いで立ち上がろうとして、動けない事に気付いた。身体と椅子をロープが繋いでいた。

手は後ろで縛られ、足はそれぞれ椅子の足と縛られ、口には猿轡。俗に言う軟禁状態だ。


ガタガタと椅子を揺らすシエル。抜け出せるかと思ったのだが、そう甘くは無かった。

ガタン!と椅子が倒れ、シエルは地面に叩き付けられる。だが、痛みは恐怖には敵わなかった。


涙を堪えていると、下から話し声が聞こえてきた。


耳をすますと


「…やったな!これで金を吸い上げちまえば、一生遊んで暮らせるぜ!」

「こうも上手く行くとは思わなかったぜ」

「あの黒尽くしの護衛も居なかったし、チョロいもんだな」


などと聞こえてきた。


そして、シエルは気付いた。

自分は誘拐されてるのだ、と。


助けを呼ぶにも猿轡が邪魔し、声が出せない。しかも、声が出せたとしても…下の階から男達が来るのが先だろう。


絶望的な状況に置かれたシエル。だが、望みを捨てた訳では無かった。


『ナオヤ…助けて!』


心の中でナオヤに助けを求める。彼なら…ナオヤなら、きっと助けてくれる。


そう信じれる程、シエルの中で直哉は大きく感じれるのであった。

PVアクセス3000、ユニークアクセス500突破記念!(謎


違いが良く分からないけど、読んでもらえて光栄で御座います!

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