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第七十八輪:慌ただしい日常

凡そ二週間の間があいてしまいました。

冬期講習やら遊びやらて時間が無かったんですprz


内容はいつもに増して劣悪なものになっています。

それ相当の覚悟がある人のみお進みください。

コンコンッ。


「「………」」


二つの寝息が木霊する室内に、ドアをノックする音が鳴った。

明かりの無い室内の端にあるベッドに眠る直哉とシエルは、そんなノックの音に気付く事は無い。


コンコンコンッ。


「すみませーん………」

「「………」」


一回目のノックから暫くして、中からの反応が無いのを確認してから、ドアの外の人物は二回目のノックをする。

呼び掛ける声は女性──セラのものだ。だが、中からは依然として反応は無かった。


ドンドンドンドン!


「すみませぇぇぇん!?」


二回目のノックにも反応を示さない事に若干の危機感を感じたらしいセラ。ドアをノックする事を〝ドアを強く叩く事〟に進化させ、呼び掛ける声にも必死さが滲んでいる。


が、しかし。


「「………」」


中からは相変わらず反応が無い。


そして、セラの脳裏に一つの妄想が過る。



《ぐふふ………今宵も美しい身体よのぅ、シエルや………》

『やぁん、そんなにまじまじ見つめないでよぅ、あなたぁ………』

《可愛らしいシエルが悪いのだ。お陰で俺の(自主規制)は(自主規制)だぞ?》

『あん、相変わらず素敵なのね、あなたの(自主規制)………つんつん』

《あっ、こら、突っつくな!こいつぅ!!》

『やっ!あなたぁ、優しくぅぅ////』

《問答無用!そりゃ!》

『あぁぁぁぁーーーーー(はぁと)』



この妄想は完全にフィクションだが、セラを狂わせるには十分な威力を秘めていたようだ。


「ああああああたあああああしいいいいいもおおおおお!!」


ドアノブを女性にあるまじき握力で掴んだかと思うと、それを女性にあるまじき破壊力で捻った。ドアノブは耐えられずに砕けたが、ドアは〝押す〟か〝引く〟か〝スライド〟させれば開く状態となった。

そんなドアに向けて水平飛び蹴りを放つセラ。直撃を受けたドアは軋み──何も起こらなかった。


「何ッ?!」


ドアの強度に驚愕を示し、セラは自らの蹴りに耐え抜いた強者へと称賛の眼差しを送った。


「お主、私の蹴りを何食わぬ顔で受け止めるとは………〝デキる奴〟──」


当然の如くドアに顔は付いていない。臨界点目掛けて凄い勢いで突っ走っているセラが幻覚を見ているだけだ。

何か意味の分からない事を「良きライバルと出逢えて、我が人生に一時の悔い無し!」とでも言わんばかりの恍惚とした表情でのたまう変態である。


「──しかし、私とて何の訓練も積んでいない訳では無い!私の持てる全ての力で!!ドア!!!貴様を討つ!!!!」


その訓練が役立つ場面がシエルや直哉の部屋への不法侵入なのだから、目的が180度ねじ曲がっていると指摘されても仕方が無い。

そして何より、擬人化され、解せない敵愾心てきがいしんを持たれているドアが可哀想である。


そんな事はお構い無しに、セラはドアから距離を置いて謎の構えを取り、そのまま魔力を練り上げた。


「集え、森羅万象の力ッ!私の野望に力を添えろッッ!!」


後ろに引いた右腕に茶色の光が纏わり、セラの拳が二回り程巨大化した。

それを振り被り、ドアに向かって走り出す。


「はぁぁぁぁあ!!」


そして、欲望の塊となった拳を振り下ろし──









ガンッ!









「えぶっ」


──突然内側から開かれたドアにぶつかり、壁とドアの間に挟まれた。拳がドアにめり込む代わりに、セラが壁にめり込んでいた。

そう、ドアは内から外に開くタイプだったのだ。しかも、セラが過去にドアをぶち壊しているので、普通のそれの数倍の強度へと強化されている、だ。そこに内側から積み荷を重ねてあるので、外側から〝押して〟開かせるのは相当の怪力が必要だろう。


「うぎゅぅ………」


そして、現在は開かれたドアと強化された壁の間で押し花もとい〝押しセラ〟となっている。


暫くすると、凄い勢いで開かれたドアの奥──暗闇に包まれた部屋の中から物音がした。


「ふぁぁ~………」


欠伸を噛み殺したような喚き声だ。

そして、次に聞こえてきたのは驚きを露にした声。


「あふぁ~………あれ?どうしてドアが開いてるの?」

「ん、何か物凄い悪意を感じたから………ドアに向かって魔術をぶち当てた気がする………気のせいかもしれないけど」

「へぇ~………私も背筋に冷たいモノを感じたの。だからきっと気のせいじゃ無いよ」

「笑顔で水銀浮かべながら言うなよ………俺はシエルに冷たいモノを感じたぞ」

「あら、そう?うふふふふ」

「………」


その恐ろしい台詞に沈黙したセラは、シエルのお上品且つ何か危ない成分を含ませた笑い声をBGMに意識を途切らせた。

──余談であるが、動かない(動けない)セラが発見されたのは、真夜中に巡回の騎士が欠伸をしながら歩き回っている最中だった。









夕食でセンティスト王国で起こった出来事を詳細に話した直哉──シエルは終始、何かに必死に耐えるように俯いたままだった──は、シエルの頭を励ますかのように撫でた。


「──って訳で、生き残ったのは俺達だけです………俺が居ながら、黙って殺されるしか無かった………これじゃあ殺された騎士達に示しが付きませんね」

「「………」」


やつれた表情で儚げに笑って見せる直哉に、コラーシュとフィーナは言葉を失ってしまった。


今すぐに「ナオヤ達のせいじゃ無い」と言ってやりたかった。泣きそうなシエルを抱き締めてやりたかった。

しかし、それをしたら二人が余計に罪悪感を感じる事になる。だから二人は何も言わないでやった。


「………取り敢えず、今日は二人とも休んでくれ。これ以上〝無理〟をしても〝心の毒〟になるだけだ」

「えぇ、私もそうしてもらうと助かるわ。〝心身共に〟疲れを癒してちょうだい」

「………」

「すいません………」


その代わり、僅かな気遣いを乗せた言葉を送る。それを読み取った二人は、思い思いの言葉を返し、コラーシュ夫妻の部屋を後にする。


二人の手は、お互いの手をきつく、そして優しく握り締めていた。

──まるで「どこにも行かないで」と訴えるかのように。









暗い空気のまま入浴を済まし、夕食は食べずに二人は寝室へと向かった。

直哉が自室に向かおうと手を離すと、シエルが袖をきゅっと摘まんで、涙目で見上げてきたのだ。普段なら発狂しそうになる直哉だが、今回ばかりは事情が違う。優しく微笑んでシエルの頭を撫で、再び手を繋いで共に歩いてきたのだ。


自室のドアを開けた直哉は、久し振りに感じるその雰囲気に、身体から妙な強張りが抜けるのを感じた。


「ふぅ………」


シエルを中へと招き入れ、直哉はドアを閉める。廊下から射し込んでいた明かりが遮断され、室内を彩るのは黒と僅かな星明かりだけとなった。

──しかし、今はその薄暗さが二人には心地好かった。


「………」


シエルをベッドに座らせ、自分はテーブルに備えられていた椅子を引っ張り出し、ベッド脇に置いて腰掛けた。

そのまま暫くはお互いが口を開かず、室内に満ちる音は微風の音と微かに聞こえる呼吸音だけだ。


しかし、5分程経ってからだろうか、シエルが唐突に口を開いた。


「………ねぇ、ナオヤ」

「ん」

「人って、亡くなっちゃったらどうなるんだろうね」


直哉がシエルへと顔を向けると、当の本人はベッドに寝転がっていた。

強化された視力によって可視となったぼんやりと浮かぶシルエットからして、シエルは天井を仰ぎ見ているようだ。


「結局皆は救えなかったし、お葬式もしてないから………何だか、もう会えないって実感が沸かないの………」


声を震わせつつ淡々と語るシエルは、自分の左腕に嵌められた腕輪を擦る。


「叔父様みたいに幽霊になってるのかな?それなら夜だけ会えるかも………ちょっと怖いけど」


ふふっ、と笑い、シエルは身体を起こす。そして、直哉へと顔を向けた。


「でも──」

「ちょっと待っててな」


口を開こうとしたシエルを遮り、直哉は窓に歩み寄る。そのまま窓を開き、夜風を室内に満たした。

そして、へりに足を掛けて夜空へと跳躍をする。


「ナオヤ?」


過去に何度も自殺未遂をしていた直哉なので、シエルもそれに関しては驚かなくなっていた。それよりも〝何故飛び降りたのか〟が分からないでいた。


暫くすると、背中に紫色の翼を生やした直哉が浮かび上がってきた。

そして、シエルに向けて手を差し伸べる。


「おいで、散歩に行こう」

「………うん」


直哉はその手を掴むシエルを引っ張り上げ、しっかりと抱き抱えた。シエルもシエルで、水銀で翼を作ったりはせず、直哉に身を預けている。

それを確認してから、直哉は翼を大きくはためかせて浮上し、そのまま30mはあろう城壁の上空を飛び越える。


「………?あ、あぁ?!おい、あれ!」

「すぴー………」

「おい!起きろ!寝るな!!あれ!!!」


──その際に聞こえてきた警備兵の慌てふためく声はスルーしておいた。









数分程空中散歩を続けた二人は、直哉がゆっくりと速度と高度を下げ、そのまま地面に着地した。

鼻を擽る甘い香り、ふわふわの柔らかい土には心当たりがあるシエル。直哉から離れると、そのまま首を左右に捻って周辺確認をする。


「ここは………」

「懐かしいだろ?俺達がここに来るのは〝二度目〟なんだよ」


首を傾げるシエルに、直哉は得意気な笑みを浮かべた。


前後左右を見渡しても、月明かりが照らす可憐な花畑しか目に入らない。

そこは、二人が出会う切っ掛けとなった場所──始まりの花畑(ウィズ破落戸×3)に他ならなかった。


「綺麗──」


昼間見る事ができる色とりどりの花畑も美しいが、月や星の発する落ち着いた色彩にいろどられ、緩やかな微風になびく花にも言葉に出来ない美しさが感じられる。誰もがその幻想的な光景に魅了されてしまうだろう。

シエルもそんな一人で、無意識の内に呟きを洩らしてしまっていた。


そして、


「おりゃ!」

「ひゃっ?!」


直哉に肩を掴まれ、そのまま後ろに倒された。

華奢なシエルの身体を柔らかい土が受け止めたので、シエルは痛みすら感じなかったが。


「え?えぇぇ?!何々?!?!」

「ぷっ、あは、あはははっ!」


何が起こったのか分からずにひたすら慌てるシエルに、直哉が笑いを堪えずに近寄る。

それで冷静さを取り戻したのだろうか、シエルは顔を赤くして抗議をしようとした。


「もぉ~!何するの──」

「ま、じっとしてなって」


そんなシエルの抗議をばっさりと切り捨て、直哉もシエルの隣に寝転がった。

そのまま空を見つめ、瞬く星に想いを馳せる。


「………死んだ人は、あの星の中の一つになるんだって、ばーちゃんが俺に教えてくれたんだ」

「え?!」

「何その反応、まるで俺の家族が全員狂ってるとでも言いたげな──」

「う、ううんっ!そんな事無いよ………………………………………多分」

「ん?最後らへん何か言った?」

「いやいやいやいやいや、何でもないよ!聞き間違いじゃない?!」

「ふーん」


直哉の祖母の話も何度か聞いていたので、多少は知っている──夢に出ては手招きをしたり「女難が~~」等とのたまう、相当狂った人だ──。そんな人がまともな事を言う事に、シエルは失礼と知りながら驚いてしまった。


「ま、良いか。強ち間違ってもいないだろーしな」


シエルの本音に同意し、同じように自嘲気味の笑い声を洩らす。


「でまぁ、ばーちゃんが死んでから………泣きながら、毎日月に向かって「クソババア、戻って来やがれ!」って叫んでたね」

「………」


親族が亡くなった事を経験していないシエルには、直哉の行動が言外に訴えている事の全てを汲み取る事が出来なかった。

──ただ、幼いながらも死を悟り、それでいて暖かい温もりを求める直哉が容易に想像できた。


胸を締め付ける切なさに耐え、シエルは直哉に質問する。


「そうすると、何かあった?」

「ん、あったあった。俺が叫ぶと、月のすぐ脇にある星がきらりと輝くんだ。まるでばーちゃんが「だらしないクソガキだねぇ、男なんだから泣いてんじゃないよ!あたしゃあんたをそんなヤワでちゃちぃ子に育てた覚えは無いよ!」って言ってるみたいだったな」

「………………」

「意味ありげな沈黙をありがとよ!」


たった今感じていた切なさが空の彼方へとフライアウェイし、シエルから〝考える意識〟を刈り取った。

──直哉は今の沈黙に何か深い意味を見い出していたが、シエルはただ単に無心になっただけだったのだ。


「ちくしょ──」


そんな事とは露知らず、直哉は不貞腐れながら真ん丸の満月に目を向けた。

──そのお陰で異変に気付けたのだ。


「──う?」


最初は目の錯覚かと思った。

だが、錯覚と言う言葉で都合良く片付けられる事態では無い事をすぐに悟った。


「う?!」

「え?」


真ん丸の月のすぐ脇にある星が強い輝きを放ち、みるみる内に巨大化していき、


「うぇ?!?!?!?!」

「え?………っ!!」


暫くすると、月を覆い隠す程の大きさになっていた──二人に向けて落下しているのだ。

正気を失っていたシエルも直哉が発した奇声で覚醒したのだろう、その光景に驚きを禁じ得なかった。


その光景が意味するのは、このままでは直撃を喰らってしまうと言う事実だ。


「うわぁぁぁ、ばーちゃんんんんんんんんん!!こっち来んなァァァァァァァア!!」

「ななななナオヤ、どどどどどうしよう………あは、あはは、あはっははは」


発火しつつ接近する隕石に、二人は最早発狂寸前だ。それ故に直哉は魔力のコントロールに制御が効かず、シエルは座り込んであはあはと笑い出す始末だ。

直哉の掌握した魔力が急速に収束を開始し、直径10mはあろう巨大な雷球となった。それは渦を巻き、闇夜の中でも分かる程に黒く染められた球体になる。


「帰れぇぇえええええええ!!」


そして腕を振る素振りをしたかと思うと、その球体が隕石に向かって高速で飛来する。

隕石とぶつかる瞬間に平べったく変形し、隕石は楕円形になった黒に直撃し──跡形も残さずに消えた。


衝撃波が花畑を駆け抜ける中、肩で息をする直哉は呟く。


「………ばーちゃんの、祟りだ………」






その後、何故王宮を脱け出したのかすら忘れてしまった二人は、乾いた笑い声を溢しながら直哉の部屋へと戻っていった。

執筆中小説を幾つか所持している作者さんを見ては首を傾げていた私ですが、その気持ちが痛い程分かるようになってきました。

確かに、今では一話一話考えるのがキツいですね(´-ω-`)、


これからも気長に頑張っていきませぅ………

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