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第七十六輪:平穏

携帯に触れる時間がありませんでした。

こりゃあ本格的に不定期になるなぁ………

暫く空を仰ぎ見ていた直哉だが、ふと思い出した事柄が気になったようだ。すぐ隣に来ているシエルへと視線を落とし、疑問を口にした。


「なぁ、シエル」

「う?」

「エリニュス………だっけ?アイツが言ってた王宮の事」

「はっ………そう言えば、そんなのあったね………」

「それは結局何がしたかったんだろうな………ってか、それはどこに行ったんだろうな」

「さぁ………」


質問されたシエルにも答えが分かる訳では無く、二人は仲良く翼をはためかせながら首を傾げた。

すると、そのタイミングを見計らっていたかのような念話が二人の脳内に響く。


『アグネア様、エリニュスが復活してしまいましたよ………』

『あぁ………ちょっと厄介な事になったな』


響いてきた念話から伝わるのは深刻さだ。


《でもさ、ウィズ。王宮がエリニュスだとしたら、もう跡形も無いだろ?それなのにまだ何かあんの?》


その深刻さにわだかまりを抱きつつ、直哉はごもっともな疑問を呈した。

それに対する答えは間を空けずに帰ってきた。


『見た目だけを破壊しても、何の解決にもなっちゃいねェんだ………』

《どゆこと?》

『そもそもだ、エリニュスはあの王宮ですらねェ』

「「えっ?!」」


そして、その返事に驚いた二人が同時に声をあげた。

ベクターと王宮を消しただけで大丈夫だろうと踏んでいただけあってギャップも激しく、それは念話を忘れてしまう程の衝撃だったのだ。


『エリニュスにはね、実体と言う概念が存在しないの………難しく言うと〝思念体〟、簡単に言うと〝幽霊〟みたいなモノよ』


マーキュリーが付け足しの説明をした時、シエルは無意識の意識を腕輪に向けていた。

幽霊と来たら、次はそれが封じ込められている腕輪に着目してしまうのも無理は無い。


『………叔父様?』

『………』


先程から一言も発しない──その代わりに緊張や興奮を伝えてくる──ジェラルドを不安に思ったのだ。

シエルには理解に苦しむ感情だが、少なくともシエルより〝大人の〟女性であるマーキュリーは瞬時に把握したようだ。揶揄いをふんだんに織り混ぜた声色でぼそっと呟いた。


『あら………騰がっちゃってるなんて、可愛い〝叔父様〟ね』

『!!!!!!!!!!』


すると、水色の腕輪がみるみる内に赤く変色していく。それに伴い温度も上昇し、シエルは驚いた眼差しを腕輪に向けた。


「え?えぇっ?!」

「ハハッワロスワロス」


終いには腕をぶんぶん振り回し始めたシエルを見て、直哉は腕輪に宿るジェラルドに苦笑いを送る。

念話で伝わってきた声は女性のモノで、ジェラルドは男性だ。そして、女性が蠱惑的な呟きを溢したら、多少なりとも反応を示してしまうのが男と言うモノである。


《腕輪の癖に赤くなるか………後で嫁さんに切り刻まれるのが目に見えるな》

『ごもっともだな』


いつの日か成仏したジェラルドが、天国にいる嫁さんの毒牙──と言うよりも神の怒り──により地獄の深淵に口を開く奈落へと初速度500km/sで叩き込まれる姿を想像し、直哉とウィズはシエルの祖母の恐ろしさ(勝手な想像だが)に身体を震わせた。


直哉とウィズが身体を震わせ、シエルが腕を振り回し、ジェラルドの興奮がピークすれすれを滑空している光景に、


『………まともなのは私だけかしらね………』


──と、今一番輝いているトラブルメーカーは呟いたのであった。









取り敢えずセンティスト王国に戻った二人は、まるでクレーターのように陥没した大地に群がる住民を掻き分けて、その悲惨な有り様に目を奪われた。

──着地時は魔術迷彩により姿を隠していた。そうしないと、天使か、はたまた邪神と見間違われてしまうからだ。


「うわっ、えげつねぇ」

「おっきかったんだね~………」


そのスケールに改めて驚き、そんな巨大な物体が空を飛んでいた事実に夢でも見ているのではないかと不安になるシエル。自分の右側の頬っぺたをつまんで引っ張り、「あた、いたたたた………」等とぼやいている。

そんなシエルの左側の頬っぺたをむにっと摘まみ、びよびよと引っ張りながら直哉は笑った。


「あはは………でも、本当に夢みたいだな。ちょっとあり得なさすぎるもんな」

「うぅー!」

「って!お、おい、加減をしろ!あだだだだだ!」


それが気に入らなかったのか、シエルは左手を伸ばして直哉の右側の頬っぺたを思い切り摘まんだ──と言うよりつねった。

堪らずに悲鳴をあげてしまった直哉は、その見た目も手助けしてしまったらしく、クレーターに向いていた視線を全て独占してしまった。好奇や怪奇が入り交じった視線に、どう見てもカップルに他ならない二人は漸く気付く。


「あ………」

「うー…………う………」


静まり返った回りの住民──質の悪い事に、誰一人として言葉すら交わさない──に気付いた二人は、血が顔に凄い勢いで流れ込むのを感じた。そして、二人だけでは今の状況を打開出来ない事に冷や汗を滝の如く流した。


「「「「「………」」」」」

「あ、あは、あはは」

「ふ、ふふ、うふふ」


えも知れぬ重圧に圧される二人は、極力避けて通りたい人物を思わせるかのような譫言を発し始めた。


ピシッ………


「あひゃ、ひゃっひゃ」

「うふふふふ」


理性のリミッターに亀裂が走り、直哉が静電気を纏い、シエルがオーケーサインを作った右手に水の膜を張って、シャボン玉宜しく眠りを誘う魔術を行使しようとした時、思わぬ所から助け船が寄越された。


「あっ、貴殿方は………」

「あひゃ?」

「うふふ?」


意味不明な返事を返した二人は、声の発信源──自分逹に生暖かい視線を向ける住民に目を向ける。

すると、そこには見覚えのある人物が立っていた。


「あぁー、〝貴女〟はあの時の!」

「歩いて大丈夫なのですか?!〝お腹の子〟に差し障りが………」

「あの時はお世話になりました………お陰様で良好です。この子ったら、運動しろって言わんばかりにお腹を蹴ってくるんですよ」


そう言いながらお腹をさするのは、エアレイド王国一行がセンティスト王国に入国した際に奴隷としてこき使われていた女性だ。

言葉通り体調は良好らしく、顔色を取っても表情を取っても生き生きとしたものが伝わってくる。


女性は周りの住民──奴隷逹を見渡し、確認するように呟く。


「………私達を苦しめていた国王が、住居諸とも消えてしまいました。そして、私達を縛り付け、酷使していた貴族逹も国から逃げ出しました」

「って事は──」

「えぇ」


はっとして口を開いた直哉の言葉を遮り、女性は笑顔を浮かべた。


「私達を縛り付けていた鎖は、もうありません。皆が久しく感じていない〝自由〟を、その身体中で感じているのです」


すると、周りの住民逹も笑顔を浮かべ、「自由だ!」や「もう苦しまないで済むんだ………」等々と口々に感情を露にした。

中には感極まって泣き出している人もいた。


自分達のした事に素直に納得をする事が出来なかった二人は、そんな人々に心の重圧を和らげられた。


しかし、それで全てを解決した訳では無い事を女性は知っているようだ。


「ただ、国から逃げ出した貴族逹が再び戻ってこない保証はありません………」


歓喜をあげる周りの住民に不安を与えないように配慮し、ボリュームを随分と下げられた言葉だったが、それはしっかりと二人の耳に届いたようだ。

それに対する二人の反応は、女性とは正反対のモノだった。


「大丈夫ですよ、私達の母国──エアレイド王国に何とかさせます!」

「何とか………何とまぁ大雑把な。まぁ、そんな事なら俺も協力させて貰おうかね」


元から国を救う為──多少別の理由も含まれるが──に行動していたエアレイド王国一行だ、協力する事は、喩え頼まれなくても決定事項に違いない。

何より二人は国王さえも操ってしまう(直哉は力尽くで、シエルは涙目上目使い+αで)数少ない〝恐ろしい人種〟なのだ。


頼もしい言葉を戴いた女性は、目の前で頼もしい──そしてどこか、背筋を凍り付かせる恐怖のようなモノを含んだ──発言をする二人に複雑な眼差しを送った。









それから三人は場所を変え、質素な喫茶店へと入っていった。庶民やそれに準ずる階級の人々向けらしく、豪華な装飾は無く、若干小汚なかった。


「うお!レトロな雰囲気が出てるな」

「優しい暖かさを感じます~………ところでナオヤ、〝レトロ〟って何?」

「んー………昔懐かしさを感じるとか、そんな感じかなぁ………」


だがしかし、文句の一つも溢さず、寧ろ称賛の言葉を投げ掛ける二人。身形みなりが良い二人には余りにも失礼な喫茶店かと思っていた女性だが、そんな懸念を明後日の方角に向けて粉々に砕きつつ弾き返した二人にただただ驚くばかりだ。


「いらっしゃ………あ、あのー………?」

「あ、お気遣い無く~」

「ですー!」


人の気配を感じてカウンターから首を覗かせた店員も困惑している。そんな店員にそう声を掛けつつ、一行は窓際の対面型の座席に腰掛けた。

直哉とシエルが女性と向き合っている形だ。


「えと………何か、お飲み物は………」

「あ、私喉からから!」

「俺も俺も~」


遠慮がちに飲み物を勧めた女性に子供のような声で返事をしつつ、直哉はテーブルに伏せられていたメニューを引っくり返す。

──そして、その態勢をキープしたまま固まった。


「ど、どうしたの?」

「………」

『やっぱり………お口に合わないのかしら』


それを見て、自分の為に強がってくれていた事を悟る女性。庶民向けの喫茶店で出される飲み物と王宮雇われのプロが淹れる飲み物は、材料や味まで、全てと言っても差し支えが無い程に差が出てしまう。

身形からして高い階級の人だと推測できていただけに、その気遣いに甘えてしまった自分に失念した。


そして、恐る恐る直哉の様子を伺った時に──


「………字………」

「え?」

「字、読めねぇ………」

「「………え?」」


──直哉の口から飛び出した問題発言に、シエルと共に仲良く疑問符を浮かべたのであった。









運ばれてきたお茶に渇いた喉を潤しつつ、三人は会話に華を咲かせた。

国の事、家族の事、政治の事………話題は様々で、その度に面白い事実が明らかになったりもした。


「──じゃあ、貴女はローム様のお母様なのですね?」

「えぇ………王宮に仕えると聞いた時はどうしようかと思ったけど、奴隷にされた私が変に干渉すると、周りの目も厳しいモノになるだろうから………」

「………」

「でも、しっかりとした王様が決まってくれれば、もうそんな事をしなくても済みます。地下資源を使って発展し、裕福までとは行かなくても、最低限の生活が確保できる国になって欲しいですね」


まず、この女性──ローランがロームの母親である事。全く接点が無かっただけに、その推測は立つ事すら儘ならなかった。

次に、センティスト王国周辺に眠るとされている地下資源。エアレイド王国も膨大な資源で満ち溢れてはいるが、センティスト王国の地下に眠るそれらは桁が違うらしい。


賢王が定まって発展が進めば、エアレイド王国程の活気に満ち溢れた明るい国になるだろう。


「それには皆の協力が必要ですね」

「まぁ、それは大丈夫だろう。エアレイド王国だって協力するんだからさ。それに、頼もしい仲間もいるしな」

「はい!」


明るい兆しが見えたからか、ローランはどこから見ても嬉しそうだ。すっかり冷めてしまったお茶をとても美味しそうに飲む姿に、二人は微笑みを浮かべずにはいれなかった。

そして、この笑顔を絶やさない為に、自分達にはするべき事が残されている事にも気付く。


「………まぁ、帰りますかね。ロームはエアレイド王国方面に向かってるだろうし、ついでに連れ戻してきますよ」

「あっ、シエルも!………っ、けほっ──ああああああああああああ!!」


手にしたカップのお茶を飲み干した直哉が席を立った。すると、それを見たシエルが慌ててお茶を飲み干す。しかし、シエルには些かハードルが高かったようで、咳き込んだ弾みでカップを膝の上に落としてしまった。

白いローブは水分によって透けてしまい、なかなかにエロい光景となっている。


「だだだ、大丈夫ですかっ?!」

「あぅあぅあぅ………」


席から立ち、懐からハンカチのような布を取り出してシエルの膝を拭く女性。シエルもだが、相当混乱しているようだ。


「………」

「あぅあぅあぅ………」


少しすると、騒ぎを聞き付けた店員が大きめのタオルを手に駆け寄ってきた。

涙目になりながら自分の膝を呆然と眺めるシエルを視界に入れずに遠くを眺めるのは直哉だけだ。


《………》

『おいナオヤ!頼む、俺を実体化させるかシエルちゃんの側を向いて──』

『アーグーネーアーさーまー??????(ニコニコ)』

『──ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい………』

《………》


その後、マーキュリーのマーキュリーによるマーキュリー(の気晴らし)のためのお説教が数時間続いたのであった。

表通りからの歓声が響くなか、裏通りを歩く一人の少年がいた。

パッと見で小学生低学年を連想する体格だ。


ただ、小学生と決定的に違うのは、その手に大きな〝鏡〟を持っている事だ。

紫微しびの瞬きを放つその鏡は、人間界に存在する物質とは明らかに異なっていた。


「………」


それを両手で抱える少年の目は虚ろで、まるで何かに操られているようだった。


不意に口を開く少年。誰に聞かせる訳でも無く、独り言のようにぼそりと呟いた。


「カローナ、様………」


──邪悪の芽は摘みきれていなかったのだ。

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