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第七輪:いなづま

纏まりが無い話になってしまう…


目を瞑ってくださいな

小鳥のさえずりが清らかな音色を奏で、眩しい光が身体を包み込む。ほんのりと暖かくて良い香りのするシーツに包まれ、直哉は朝の微睡みを堪能していた。


ここまで気持ち良いと感じるのも、昨日寝たのが早かったからであろう。

何時もは日にちが変わる頃に寝ていたのだ。二時間早く眠るだけでも随分違うだろう。


夢とうつつの境目をさ迷う直哉の耳に、ドアをノックする音が聞こえてきた。


「うぅ~ん…あと五分…」


ごろんっと寝返りを打つ。まだこの微睡みを感じてたい(ただ単に寝てたい)直哉は、起きる事が出来なかった。


不意にドアが開く。シエルが起こしに来たのだ。

シエルは直哉に呼び掛ける。


「ナオヤ」

「んん…むにゃむにゃ…」

「……ふふっ」


直哉のベッドに座るシエル。眠ってる直哉を見て微笑んでいる。

そして、直哉の頬を撫でる。昨日頬に治癒魔術を掛けてあげた時のように。


すべすべで柔らかい頬をつまんでみる。引っ張ってみると、びよーんっと伸びるのだった。


「うー…」

「ナ・オ・ヤ!朝ですよ?」


ちょっと大きめな声で呼び掛けてみる。すると


「……う?うぁ、おあおー、いえう」

(訳:……む?んぁ、おはよー、シエル)


目を少しだけ開けて、何とも面白い声で喚く直哉。


とても眠そうな直哉の頬をびよびよ引っ張って遊ぶシエル。何で来たのかすら忘れているようだ。


「うぅー…あえおー、あえうんあー」

(訳:むぅー…やめろー、やめるんだー)

「えー?なんですかぁ?」

「おあ、いっあうああいぁええあいんあお!」

(訳:こら、ひっぱるからしゃべれないんだろ!)

「分かりませぇん(はぁt」

「うぅぅー…」

(訳:むぅぅー…)


力尽くで振りほどく訳にもいかず、為されるがままな直哉。為されるがままな直哉で良いように遊ぶシエル。


そんな微笑ましい光景も…


ぐぎゅるるるる……


「………」

「………」


直哉の腹の虫による空襲のような効果音により、中断を余儀無くされてしまった。


「………あ」

「ど、どうした?シエル」


笑いを堪えているシエルが、何かを思い出したようだ。赤面した自分から意識を逸らさせるために、直哉はシエルに聞いた。


「朝食出来てましたって呼びに着たんでした」

「なるほど。じゃ、すぐ準備するな」


そう言って着替えようとする直哉。シエルがピンクのガウンでは無く、白いローブを着ていたので、ガウンのままではまずいと判断したのた。


「うーん」

「どうしました?」

「向こう向いとくか、部屋から出ててくれるかしてくれる?」


着替えを指差しながら、恥ずかしそうに言う直哉。意味を理解して、赤くなりながら向こうを向くシエル。部屋から出てかないことにびっくりする直哉であった。


急いで着替える直哉。因みに、直哉の服装(普段着)は黒いスウェットの上下セットである。寝間着のまま異世界に落とされてしまい、着替える暇すら無かったのだ。


異世界では浮きまくりだ。黒髪に漆黒の瞳だけでも珍しいのに、全身黒尽くしである。だが、全身黒尽くしで纏まっているため、多少は違和感も緩和されている…ようだ。


「も、もういいよ、シエル」

「………」


黙ってコクッと頷き、シエルは振り向く。顔は相変わらず赤いままだ。尤も、直哉も赤いままだが。


「じゃ、じゃあ連れてってくれる?」

「……はい」


朝から気まずい空気になってしまった。

どうしようか迷う直哉は、脳内に豆電球が灯った気がした。


「……そだ、シエル」

「はい?」


振り向くシエル。直哉は右手に集中し、10cm程の雷球を作り出し、ウィズを具現化する。


「よ、シエルちゃん」

「おはようございます」


律儀に挨拶を返すシエルに、苦笑いする直哉。


「言い忘れたな。俺様ァウィズっつーんだ。ナオヤに貰った名前さ」

「ウィズ、ですかぁ」

「あぁ、ナオヤの世界で"一緒に"って意味があるらしい。俺とナオヤは一心同体だから、ピッタリだろうって事だ」

「おいおい、全部バラすなよ…恥ずかしいだろ」

「ばら…?」

「打ち明けるって事」

「ほぇー…ウィズ…良い名前ですね」

「あんがとよ。んま、そーゆー訳でさ。よろしくな、シエルちゃん」

「はい、改めてよろしくお願いします…ウィズ」


挨拶を交わすと、ウィズはシエルの腕を伝い、肩に登った。シエルはちょっとびっくりしたようだが、肩に乗るウィズに向けて微笑んだ。本当に嬉しそうである。因みに、具現化したウィズに質量はほとんど無い。


『これでいいんだろ?ナオヤ』

《あぁ、助かったよ…急にすまねぇ…》

『気にすんなって。ダチだろ?』

《ウィズ……》


神様…ダチの心遣いに、直哉も笑顔になるのだった。





ウィズと戯れるシエルを見ながら歩いてると、あっという間に食堂に到着した。


直哉の中に戻るべきかとウィズに聞かれたが、コラーシュとフィーナに見せる事で証明出来るだろうと、戻らなくていい事の旨を伝える直哉。ウィズは納得して、直哉の頭の上に移動した。


シエルがドアを開く。中に入った直哉達を、コラーシュとフィーナ、セラの三人が出迎える。


「おはよう、ナオヤ」

「おはようございます」

「おはよーございます!」


上からコラーシュ、フィーナ、セラだ。コラーシュとフィーナは赤を中心とした王族らしい服を、セラはメイド服を着ている。


「おはようございます。んで、こいつが昨日話した神様…親友のウィズです」


そう言って自分の頭上を指差す直哉。紫色で丸っこく、耳が長くてギザギザした尻尾を持つ生き物が乗っていた。

三人は目を丸くしている。


「よォ、コラーシュにフィーナ、それにセラか。俺様が件の神様だ。直哉にウィズっつー名前を貰った」


名前を言い当てられた三人はびっくりしているようだ。


「俺は稲妻から具現化してる。信じがたいと思うが、持てば分かる筈だ。おっと、痺れたりはしねェから安心してくれ」


そう言うと、直哉の頭から綺麗な弧を描きながらジャンプし、セラの手元に飛び込んだ。急に飛んできたウィズに慌てながらも、しっかりと抱き留めるセラ。そして


「か、軽い…」


軽さにまたもやびっくりした。


反応を確認したウィズは、次にフィーナの手元に飛び込み、最後にコラーシュの頭の上に着地した。

コラーシュもフィーナも、セラと似たようなリアクションをとっていた。


三人の反応に手応えを感じたのか、ウィズは直哉の頭の上に戻ってきた。

そして、頬に雷を溜めて見せる。バチバチと音を立て、不規則な稲妻が出現し、直ぐに消えた。

三人はあんぐりと口を開いている。


「…まぁ、これで俺様が普通の動物じゃ無く、稲妻属性ってのが分かっただろ。まだ疑うなら、ナオヤに直に魔法を見せて貰うといいさ。まぁ疲れたから、ナオヤの中に戻るとするわ」


そう言うと、直哉の頭の上から飛び降りる。地面に着地したウィズは、直哉の胸に体当たりをして、溶けるように消えた。


《わざと疲れてるとか言って、こうしてくれたんだな》

『あぁ、これで疑心も晴れただろう』

《何から何まで、マジで助かるわー》


心の中でウィズにお礼を言うと


「……まぁ、朝食を食べてから話しましょう。俺も聞きたい事があるし」


そう言うと、椅子を引き、腰掛けるのだった。





「……で、ナオヤ。聞きたい事とは?」


朝食を食べ終え、一息ついた所でコラーシュは直哉に話し掛ける。


「えぇ、魔術の事で」

「うむ、何なりと聞くが良い」

「魔術にはどのようなモノがあるのでしょうか」

「どのような、と言うと?」

「えーと、使用用途っつーのかな…俺の稲妻属性の攻撃魔術とか、シエルの水属性の治癒魔術とか、その辺です」


直哉が話し終えると、シエルは驚きを隠せないような表情をしている。


「…ナオヤ、どうして治癒魔術が水属性だって…?」

「んー、なんでだろ。なんつーか、そんなイメージが伝わってきた、みたいな?」


シエルの治癒魔術が直哉の頬の傷を塞いだ時、直哉は暖かさと共に、水のような何かが流れ込んでくるのを感じていた。それがエレメントであったのだが、当時の直哉には分かる筈が無かった。

が、エレメントの流れを感じとる事は、熟練の魔術師でも難しいのだ。


「つくづく君は規格外だな…まぁ、質問に答えるとしよう。基本的に使われる魔術は、攻撃・補助・治癒・防御の四つで――」



攻撃魔術…直哉が破落戸を倒した時に発動したような、相手にダメージを与える魔術。


補助魔術…魔術の力で行動力を上昇させたり、防御力の底上げをしたりする魔術。


治癒魔術…シエルが行ったように、傷を癒し安らぎを与える、回復系魔術。


防御魔術…相手の攻撃や魔術を跳ね返したりする魔術。補助魔術のようだが、こちらの方が確実であり、魔術としての難易度も高い。



こんな感じの事をコラーシュは話した。


「なるほど…そう言えば、コラーシュさんも何か聞きたい事があるのでは?昨日の食事の時の言葉が気になってまして」

「あぁ、すっかり忘れてたよ。ナオヤの扱う稲妻属性の魔術を見てみたくてね」

「いいですよ。でも、ここじゃ何ですから…広くて安全な場所とかありませんか?」

「ふむ、兵士の訓練所がもってこいだな。着いてきてくれ」


そう言うと席を立ち、フィーナと共に部屋から出ていくコラーシュ。シエルとセラも連れて、直哉達は後を追う。


右に曲がり左に寄って…もはや迷宮と化した王宮は、直哉に迷子と言う名の恐怖心を植え付けていた。





「……さぁ、ここが訓練所だ」


コラーシュに先導されてやって来た直哉達は、しっかりした作りの大型の部屋に到着した。


兵士たちは藁案山子に挑んだり、兵士同士戦ったりと、訓練に勤しんでいる。朝食を食べ終わったのが九時ほどだろうから…朝からご苦労様だと直哉は思う。


不意にコラーシュが声を張り上げる。


「おはよう、朝からご苦労様」


すると、兵士達が訓練の手を休め、コラーシュの前に集合して片足を着き…要するに跪いた。その数二百人と言ったところ。


「「おはようございます、国王様」」


この様子を見た直哉は、とても統率の取れた兵士達に驚く。コラーシュに対する兵士達の信頼が厚いことも感じた。


そして


「急にすまない。今日はこの者…ナオヤの魔法を見せて貰おうと思ってな。魔術隊で試しても良いんだが、何せ規格外らしくてな」


とかのたまいはじめた。


「……え?」


《ちょっと、おじさん、何を?過度の期待は身を滅ぼすだけだよ?》


もちろん、直哉の思いは届かない。


「そ、それ程までに強力なのか…」

「あぁ、百人じゃ太刀打ち出来ない位な」

「おいいぃぃぃいぃいぃぃぃぃい!」


思わずコラーシュの頭を叩いてしまう直哉。

兵士達を動揺が駆け巡る。が、そんなのを直哉が知る由もない。


《何言い出すんだこのオッサン!》

『あながち嘘でもねェぞ』

《はい?》

『俺を誰だと思ってるんだ』

《ウィズ》

『ウィズと言う名の神様だ』

《納得した!》

『神様だからな、国一つは軽く消せるわ』

《……は?》

『いや、今言った通り』

《まじすか…》


今になって初めて、自分(と言うかウィズ?)が余りにも規格外だと言う事を知った。


……とか思ってると、回りがやけに静かである事に気付いた。


見渡すと、目の前には案山子。コラーシュにフィーナ、シエルにセラ、兵士達は直哉から離れている。ちょうど直哉と案山子を中心に輪を描いてるようだ。


ちょっと戸惑っていると、コラーシュは


「よし直哉、その案山子をどーんとな」


遠巻きに直哉に言った。


いくら力があるとは言えど、この期待やら不安やら興味やらが交わっている眼差しの中ってのは…


フィーナに視線を向ける。満天スマイルを向けている。親子なだけあって、シエルとそっくりである。


「はぁ…」


そんなフィーナを見て、溜め息ひとつ。


そして、案山子を見据える。距離はざっと10m。黒いオーラが直哉を取り巻き、シエル以外の人と言う人が目を見開いている。


直哉はまた溜め息を吐き、右手の人差し指を前に突きだし、仕方無しに呪文を紡ぐ。

前に述べたが、呪文の有無により魔術の威力が変わる。つまり、今回の直哉はガチだ。


「荒れ狂う稲妻よ、此処に集い、集束せよ」


指先に黒紫色の稲妻が集まり、一つの雷球を形成。雷球は細長くなり、矢のような形になる。


「我が御矢おんやは神風、てめーに逃れる術はねぇ!」


自棄になった詠唱と共に、右手の先に形成した矢を掴み、思い切り振りかぶる。

そして――


「名前なんて知るかぁぁぁ!」


――叫びと共にぶん投げた。弓も使わず、ただぶん投げただけだ。

が、普通の弓を使った矢とは比べ物にならない程の速度で飛んでった。


そして、投げたと同時に案山子に突き刺さる。

さらに――


「「うわぁぁっ!」」


兵士達の悲鳴が漏れた。

耳を塞いでも貫通する程の轟音が案山子から鳴り響き、黒い閃光が撒き散らされる。


極めつけと言わんばかりに、大爆発が起こる。凄まじい爆風が回りの人々に襲い掛かる。


爆風により砂埃が舞う。目を覆う人々。そして、少しすると爆風もおさまり、砂埃も引いてきた。


兵士達もコラーシュ達も、直哉と案山子を見る。

人影らしきモノは一つしか無かった。無論直哉である。


じゃあ、案山子は…と思い、案山子が立つだろう場所に目を向ける。


一言で言うと、穴しか空いてない。それも隕石が振ってきて空いたような大穴だ。

炭すら在る事を許されず、"藁案山子"と言う個体の存在は抹消されたのだ。


焦げ臭い臭いが満ちる訓練所。直哉は改めて回りを見渡す。

兵士達は尻餅をつき、コラーシュは直立不動、フィーナは後ろを向いて震え、シエルはちょっとびっくりした表情で直哉を見据え、セラは倒れている。


そして、沈黙が訓練所を満たす。


「……こんなんで、いいかな」


直哉はコラーシュに語り掛ける。ビクッと震えてから、コラーシュは首を縦に振る。


「んじゃ、シエル。部屋に連れてって…あ、やっぱ待って」


部屋に帰ろうとした直哉は、大穴を空けてしまった事を思い出した。

その場に歩いていく。そして、穴の規模にビビる。


《やりすぎじゃね?》

『いやー、回りの視線とかウザかったし?』

《…流石一心同体》

『まぁ空けっぱも悪ィしな、埋めとくか』

《そのつもり。土だけ生み出せそう?》

『よゆー。強く土をイメージしてくれ』


土っつってもなぁ…と直哉はぼやく。お花畑の土じゃ柔らかすぎるし…


《……あ、この床の土でいいのか》

『気付けよ』

《うっせ!》


バカにされながらも、直哉は床の土を右手でひとつまみ摘まむ。そして、両手で包み込むように握る。


そして手を開く。すると、滝のような"土"が溢れ出す。

床の土と同じ土が、大穴をどんどん埋めていく。


「わ、ちょ、オイ、ストップ!止まれ!!」


直哉が慌てて土の放流を止める。ちょっと出しすぎたようだ、山なりになってしまっている。


「うーん…この土、なんとかしといてくれ」


近くにいた兵士に言う直哉。兵士は首が影分身したかのような勢いで首を縦に振って振って振りまくる。顔が蒼白い。


大丈夫かなぁ…とか思いつつ、シエルの元へ歩み寄る。ぼーっとしてるシエルの頬を摘まみ、横に引っ張る。そしてあの恐ろしい笑みを浮かべた。


「ふぉー!」

(訳:むぉー!)

「あんだって?」

「はへへふははい!ひゃへへまへん!」

(訳:やめてください!しゃべれません!)

「あーあーあー、聞こえなーい」

「ひほえへふー!」

(訳:きこえてるー!)


そんなやり取りをしながら、シエルと直哉は訓練所を後にした。





「………」


兵士達は、未だに沈黙が支配していた。と言うより、動けなかった

急にやって来た少年に、とんでもないモノを見せ付けられたのだ、動けないのも仕方がない。


コラーシュ達も同じで、ぼーっとしてる。


「雷神……」


誰かが呟いた。肯定意見も否定意見も飛んでくる事は無かった。

部屋に向かう直哉とシエル。楽しそうに笑っている二人は、良い雰囲気に見えてしまう。


「それにしても、ナオヤは凄いですね」

「そうかな?」

「破落戸を倒した時もですが、今日も凄かったです!」

「ははは、照れるなぁ…」


恥ずかしそうに頭を掻く直哉。そんな直哉を見て、シエルは微笑む。


「…ナオヤ」

「ん?」

「その…これから、一緒に町へ行きませんか?」

「あぁ、是非とも!」


ぱぁっと明るくなるシエル。本当に可愛らしい様子に、直哉も心が踊るのであった…シエルの本心は知らないまま。

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