第六十九輪:実はツンデレ
時間がなくて更新がちょっと遅れてしまいましたっ!
え?携帯片手にスリープモードになんて入ってませんよ?
踞ったままぷるぷると震える直哉を引き摺りつつ階段を降りるシエル達は、適当に舗装された通路へと辿り着いた。
直哉がテレポートで飛んできて、そして着地した場所から数分歩いた所にあるその通路は、まるで異世界へと繋がる通路のようであった。
地下遺跡に向かっているのは、ベクターが逃げ込んでいる可能性が無きにしも非ずだからだ。
「こんなモノがあったなんて………」
「地層調査の時に偶然見つかり、ベクターがその上に王宮を建てさせたのです」
キョロキョロと忙しなく首を動かすルシオに、ロームが王宮の地下にある等の大雑把な説明をした。
普通に考えれば、地下遺跡の上に巨大な王宮を建てる事は愚の骨頂だ。空洞の上に薄い地盤があっても、それが王宮の重さを支える事は不可能だろう。
しかし、その地下遺跡の構造が重さを効率良く分散させ、且つあり得ない程頑丈な造りだったため、その地下遺跡の上に王宮を建てる事にしたのだ。
そこに悪意があったかは、他でも無いベクター本人しか知らない──
「………」
──否、もう一人いた。
その人物──シエルに引き摺られる直哉は、通路を漂う黒い靄に顔を顰めた。
《密度が尋常じゃないな………》
『エアレイドの礼拝堂、ガルガント、んでもってセンティストの地下遺跡………少しずつ悪意が強まってるよなァ』
ガルガント全域を覆っていた靄も凄まじかったが、この通路はそれ以上だ。通路でさえ視界を霞ませる程の悪意が満ち溢れているのだから、遺跡内部はどんな光景になるのか………直哉には想像が付かなかった。
そんな事を考えていると、不意にシエルの足が止まった。直哉はシエルに引き摺られていたので、シエルが止まると必然的に直哉も止まるのだ。
「んんー、どした?」
「入り口に着いたみたい」
シエルが直哉の首根っこから手を離し、その手を直哉に差し出した。
直哉はその右手を掴み、シエルを支えとして立ち上がる。
「おぉう………?!」
そして、立ちはだかる扉に目を奪われた。
一辺が5m程は優に超えてそうな程の大きさによる威圧に加え、石造りによる堅牢さがこの扉の存在感を引き立たせていた。
そして何より──
《な、何でこんなのが描かれてんだ?!》
──扉に彫られた金剛力士像を模したと思われる絵に、何よりも驚愕を抱いた。
歴史の資料集に落書きをしようと捲っていて偶然開いたページで目に飛び込んできたのを覚えているので、きっと見間違いでは無い筈だ。
思わず口をあんぐりと開いて唖然としてしまった直哉に、シエルが疑問符を一つ浮かべながら念話を送った。
『こんなの?直哉、これ知ってるの?』
《あ、あぁ………日本では有名な彫り物で、姿形が全く同じなんだ。強いて違う点を挙げるなら、こっちは扉に彫られてるだけみたいだけど、日本のは木像として完成されてたって事だけだ………》
『へぇー』
良く分からないシエルは、可愛らしく首を傾げて見せた。
すると、遠くから自分達を呼ぶ声が響いてきた。
「おーい、お二人さーん!」
「ひゃっ、は、早く行きまひょう!」
その声に念話を中断した二人は、いつの間にか開かれた扉の向こうでミーナとセフィアが飛び跳ねている姿を捉えた。
そんな萌え二人組の回りには自分達二人を除く全員がいたので、置いて行かれ掛けてた事に気付くのはすぐだった。
「あー悪ぃ、今行くよー」
「シエルもっ!」
気を取り直した二人は、置いて行かれまいと足早に歩き出した。
シエルは途中から駆け足になったが、直哉は扉の前で一時停止をする。
「………」
「ナオヤー、早くー!」
もう一度その扉を眺めるために立ち止まったが、シエルに急かされて渋々そちらへと向かう事にした。
事件は扉を通過し、合流した時に起こった。
ズゥゥゥン………
「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」
直哉が来たのを確認し、歩き出そうとした一行の後ろ側から、重い何かを引き摺るような音が鳴る。
何事かと訝しんだ一行が振り向くと同時に、巨大な扉が音を立てて閉まってしまったのだ。
閉まった扉には隙間が無く、通路側からの光すら溢れなかった。
そして、その事実に気付いた時、一行は扉の内側が真っ暗だと言う事に気付いた。
「セフィア、灯りを頼む」
「ひゃっ、ひゃいいいっ!」
アリューゼが冷静に指示を飛ばし、セフィアが直ぐ様人差し指の先に小さな炎を灯した。
いつもは慌てて噛んだり、滑って転んだりするドジっ娘なのだが、非常事態(?)の対応は迅速であった。
魔力を注いで炎を大きくして行き、人の顔程まで巨大化した所で送り込む魔力を緩める。すると、炎はそれ以上膨張しなくなり、安定した明るさを供給する松明擬きと化した。
人差し指を立てて炎が安定した事と十分な視界を確保している事を確認したセフィアは、安心したのだろうか、大きくて長い溜め息を洩らした。
「はふぅぅぅ~………」
その光景に癒されつつも、手早く情報を纏めに入ったのはアリューゼだ。セフィアの頭を撫でてやり、確認のために声を上げた。
「全員が扉を潜った途端、扉が自動的に閉まったんだな………誰かに監視されてる訳でも無かったし、何がどうなってんのやら」
そこまで確認し、アリューゼは再び扉に目を向けた。
その時。
「っ──くっ!」
扉に彫られた左側の絵の目に当たる部分が紅く輝いた。そして次の瞬間、慌てて飛び退いたアリューゼの足元を深紅の怪光線が薙ぎ払った。
「え?」
地面を黒く焦がした光線はすぐに止まり、変わりに右側に描かれた絵に変化が現れる。
それを見た一行は、言葉を失う以外の選択肢を失ってしまった。
「んな………」
セフィアの指先に灯る炎が照らす中、扉の絵が動き出したのだ。それは足を扉から突き出し、そして一行を再び驚かせる。
「夢でも、見てるのでしょうか………」
突き出された絵の足が瞬時に実体化し、巨大な足になったのだ。成人男性二人の腰回り程の足は、そのまま思い切り地面を踏み付けた。
バァンッ!
「ひっ!」
炸裂音と共に地面に亀裂が走り、指が地面に食い込む。その指に力を入れ、前へ進もうと──自らの身体を引っ張り出そうとした。
それにつられて左側の絵も両腕を突き出し、扉から這い出ようと天井を殴り付け、腕を天井に突き刺した。
「何なの、これ………」
ギシギシと軋む腕と足は、各々の身体を扉から引っ張り出した。
ズズゥゥゥゥウン………
「………信じられん………」
両足で地面に着地した対の彫刻──巨大な石像は、前で呆気に取られている一行を睨み付け、
「「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!」」
「っ………なんて魔力だ!」
計り知れない程の魔力を乗せた咆哮を放った。
その衝撃は遺跡内部を軋ませ、一行に恐怖を植え付けた。
「!」
「逃げろ!」
しかし、その咆哮のお陰で気を取り直す事が出来た一行。
そんな一行は、自分達に向けて巨大な腕を叩き付けようとする左側の巨像を捉えた。
咄嗟に後ろ側に逃げた一行がいた場所に、巨像の腕が直撃。
バンッ!
地面を叩き付けた割には異質な音が鳴り、振動が地面を伝って一行を揺らした。
それだけで、あの一撃を喰らったら一溜まりも無いと言う事が判明した。
「こりゃー、厳しいかもな」
ラルフが冷や汗を一筋流した。
ゴーレムでさえ苦戦していたのに、それよりも巨大で、更に凄まじい一撃を見せつけられたら、誰だって苦笑いしたくなってしまうだろう。
しかし、とやかく言っている暇は無かった。
「とにかく走れ!」
右側の巨像が腕を振り被り、一行に狙いを定めていたからだ。
遺跡の奥へと走り出した一行の後ろで、何かを貫く音が鳴った。
一行はそれには振り向かず、ただひたすらに走り続けた。
幸いな事に、巨像は見た目と反した敏捷さは持ち合わせていないようだった。走る一行に追い付けず、闇の中へと消えていった。
それでも地面を踏み締める際の振動は伝わってくるため、一行はとにかく走り続けた。
「何なんだ、ありゃ!」
「俺が聞きたいですよ!」
「扉の彫刻が実体化した、なんて聞いた事がありませんね」
「それは誰もが同じだ」
「でも、逃げなければ大変な事になりそうね………」
上からアリューゼ・ルシオ・アイザック・ラルフ・ミーナだ。セフィアは炎の維持に集中しているため、話に混じる程の余裕が無かった。
そして、シエルが気になっていた事を聞いてしまった。
「そう言えば………他の皆は?」
直哉と念話をした際は〝全員〟無事だと聞いていたのだが、今思い返してみると、直哉達がテレポートしてきた時から他の騎士達はいなかったのだ。
今気付いた自分に注意力が足りていなかった事に嫌気を覚えつつ、シエルはセンギアを初めとする救出組に答えを求めた。
「「「「「………」」」」」
そして、救出組全員が言葉を失ってしまった事に息を呑んだ。
ここにいない、一緒に来てはいない、全員が口をつぐんでしまう………ここまで条件が揃えば、嫌でも一つの推測に行き着いてしまう。
「………まさか………全員………」
「くっ………」
弱々しく呟いたシエルに、センギアが奥歯が砕ける程強く噛み締めて、それを返事とした。
「申し訳無い………大口叩いておいて、何一つ出来なかった………」
「………」
許しを乞うつもりは無いが、形式的な謝罪をしておいたセンギア。彼の中は後悔の念で埋め尽くされているのは言うまでも無い。
しかし、シエルからの返事は返って来なかった。変わりに、シエルが走るペースが少しずつ落ちていき、最終的には立ち止まってしまった。
それにつられて一行も止まる。その事実を初めて知った直哉達も、足を動かす事を忘れる程の衝撃を受けていた。
「どうして………どうして、命を奪わなければならないの?皆が生きてちゃ駄目だったの?」
俯いたシエルが地面に座り込み、震える声を発した。
頬を伝う涙は地面に落ち、弾け、殺された騎士達のように散った。
「ねぇ、どうしてなの?!どうして、どうして皆は死ななくちゃいけなかったの?!答えてよ!ねぇ、答えてよぉぉ!」
顔を上げたシエルは、涙を止めどなく流しながら叫んだ。それに対する答えを一行が持ち合わせていないのを知りながら、ただ責任を押し付けるように叫んだ。心の中で勝手な自分を罵りつつ、ただひたすらに叫んだ。
何も言い返せない一行は、目の前で泣き崩れる少女が心の底から望む事を叶えてあげられなかった事を、そして自分達の仲間が喪われた事に対する強烈な後悔を身体に打ち付けられた。
ただ俯き、ただ拳を握り締め、ただ唇を噛み締める事しか出来なかった。
暗い雰囲気が流れ始めた時、いつの間にかすぐ後ろにまで足音と振動が迫ってきていた。
「くっ………」
後ろを振り向くと、暗闇の中から二体の巨像が現れた。
しかし、シエルは立ち上がろうとはしない。まるで巨像の存在を知らないかのように泣きじゃくっている。
決死の覚悟を決めたアリューゼがシエルの前に飛び出し、全貌を明るみの元に晒した巨像と対峙した。
槍を半身になって構え、そのまま高速で飛び出す。そして途中で飛び上がり、右手で槍を槍投げ宜しく構えた。
「でりゃぁああああ!」
空中で身体を捻り、掛け声と共に槍を投擲した。
走り出した時の速度と落下による重力、腰を捻った事による回転エネルギー、そして振り切った腕がもたらした遠心力を上乗せされた槍は、普通の人間が生み出せる速度を優に超え、一閃の煌めきとなって右側の巨像に迫った。
狙ったのは足の甲だ。比較的薄く、地面と結び付ければ少しは行動を抑止出来ると踏んだのだ。
アリューゼの狙い通り、煌めきは巨像の左足に肉薄した。
──が、狙い通りなのはそこまでだった。
ボキッ。
「んなっ──」
見事命中した槍は、当初の目的である〝貫通〟をせず、甲を微かに抉った所で崩壊した。
そして、槍が砕けるのと同時に、アリューゼは巨像の腕に吹き飛ばされた。アリューゼは空気抵抗を完全に無視し、地面と水平に飛んだ。
「が………っ」
「アリューゼさんっ!」
幸いなのは、アリューゼが吹き飛ばされた方向にアイザックがいた事だろうか。
数人でアリューゼを受け止め、アリューゼを床に寝かせた。
「………酷い………身体中の骨が折れてる………
簡易検査を施して、アリューゼが置かれた現状を知ったアイザックは、直ぐ様強力な治癒魔術を施した。
辺りを暖かな明かりが照らし、その中に重症のアリューゼが浮かび上がった。
呼吸は浅く、ヒュー、ヒュー、と空気が抜ける音が鳴り、口元には鮮やかな血が滲んでいる。身体を防御するために身に付けていた鎧は完全に変形し、今では却って身体を圧迫していた。
「クソッ!やってやる!」
ラルフがべこべこに変形した鎧を外し、ミーナはアリューゼの手を握り締め、アイザックは治癒魔術を続け、ルシオとセンギアが大剣とショートソードを各々構えてシエルの前に立ち塞がり、セフィアが灯りとは別の炎を生み出した。ロームは呆然としながらも、アリューゼ達を巨像の視界から匿うように立った。
しかし、それで巨像が止まる訳でも無く、右側の巨像は左腕を、左側の巨像は右腕を振り上げた。
それを見たセンギアは、自分の両手に握られたショートソードに目を向けて、砕かれたアリューゼの槍を思い出して苦笑いをした。そのまま横に目を向けると、ルシオも自分と同じような表情である事に気付いた。
そんな二人に向け、二対の巨像が巨大な拳を振り下ろした。
動きは単調で読みやすかったが、ここで避けたらアリューゼやアイザック、シエル達の命が散るのは目に見えている。
『『逃げる訳にはいかないな』』
二人は同じ事を考え、武器を強く握り締めた。
次の瞬間には叩き潰された自分達の亡骸が惨めに残されているであろう事を考えないようにし、奥歯を噛み締めた。
そして、一緒で意識を刈り取られ──なかった。
ガァァァアアァアァンッ!!
「「「「「「「!!」」」」」」」
その代わりなのか、耳をつんざく凄まじい雷鳴が轟き、一行の視界が白で埋め尽くされた。
唯一無事だったのが身動きの取れないアリューゼ、泣きじゃくるシエル──そして、直哉。
巨像が拳を振り下ろした瞬間にその軌道上にテレポート。風属性魔術で空中に浮かびつつ、同時に練り上げた魔力を小型の雷球へと転換して右足に固定し、その右足で右側の巨像の左拳を蹴り飛ばし、稲妻を纏わせた状態で左側の巨像の顔面に直撃させたのだ。
要した時間は瞬きする程の短時間だ。
その衝撃で右側の巨像の腕があり得ない方向にねじ曲がり、左側の巨像の顔から上が綺麗に消滅した。
目が眩んで身動きが取れない一行の前で、着地した直哉がシエルに歩み寄る。
「オイ」
「どうして………っ!」
しゃがみ込んで同じ目線になり、少し乱暴に俯く顔を上げさせた。
されるがまま顔を上げたシエルは、目に六芒星の輝いていない直哉に身体を震えさせた。
直感でいつもの直哉では無い事を悟ったのだ。
「俺は〝あいつ〟みたいに優しくはねーかんな、生き残りたきゃ大人しく従ってろ………チクショウ、何でだ………」
そう呟きつつ、シエルをお姫様抱っこした。あわあわと慌てているルシオとセンギアは風圧でアイザック側に吹き飛ばし、シエルをラルフに押し付けた。
「ナオヤ………?」
「黙ってな。騒いだりすんなら、まずはお前を殺るぜ」
「っ──」
ラルフも直哉の異常に気付いたが、直哉の放つ殺気に当てられ、膝を着いてしまう。
シエルは慌てて飛び降り、ラルフの様子を伺った。膝を着いただけだと確認し、そのまま視線をずらし、直哉と目が合った。
「〝あなた〟は──」
「あー、めんどくせぇ事嫌いだから。後で〝あいつ〟に聞けよ」
そう言うと踵を反し、巨像と向き直る直哉。
その時、直哉の左手の六芒星が漆黒に輝いていた事をシエルは見逃さなかった。
「ふっ!」
「!!」
直哉は両手に瞬時に集めたどす黒い魔力を炸裂させ、漆黒の剣を二本生成し、それを両手で掴んだ。
闇を凝縮したかのような二対の剣は、まるで光すら呑み込んでいるかのように見えた。
それを軽く振ったかと思うと、左側の巨像の両足が根元から切断され、すぐに消滅した。
その後も立て続けに剣を振り、巨像は四肢と首を切断され、胴体が地面に転がった。
「………何だ、ありゃ」
「あれは………ナオヤ、だよね?」
「でも、凄く禍々しく感じる………」
いつの間にか復活した一行は、アイザックの周りに集まり、一方的な破壊を遠巻きに眺めていた。
因みに、ルシオとセンギアはダウンしたままだ。
地面に転がって痙攣する胴体を見下す直哉は、両手に握る剣を消滅させた。
そのまま胴体に近寄り、
ズドン。
「ひっ!」
その巨像の胸部に腕を突っ込んだ。
右側の巨像には右腕を、左側の巨像には左腕を。
すると、巨像が大きく痙攣した。苦しんでいるようだ。
そんな巨像にお構い無しで、直哉が何かを掴んだ。そして、それを勢いに任せて引き摺り出した。
「っ~~~~~!」
ミーナが衝撃的な場面を想像して顔を背けたが、そんなにえげつない光景は見られず、巨像の胸部から出てきたのは赤い球体だった。
まるで脈打つ心臓のように赤い鼓動を刻むそれは、ゴーレムの核で間違いなかった。
──当然だが、それの正体を知る者はいない。
そして、その核を手のひらで転がす直哉は、それを握り直し、手を合わせる容量で両手を思い切り叩き付けた。
ガシャァアン!
ガラスを砕いたような音と共に、直哉の手から赤い欠片が舞い散った。同時に、巨像の胴体がビクッと揺れ、そして静かになった。
「「「「「………」」」」」
セフィアの炎が周りを照らす中、核を抜かれた巨像が砂となって原型を失った。
それを見届けた直哉は、巨像に対する興味を失ったのか、つまらなそうに溜め息をついた。
「はぁ………どうして俺がそこまで………あーうっせぇうっせぇ、分かったよ」
そして、一行と向き直って魔力を練り上げる。呆気に取られた一行は何も出来ずに呆然としていた。
どす黒く濃厚な魔力が渦を巻き、細長く変形していった。そして、穂先、柄だけの飾り気の無い槍となった。
「ほらよ………っと、気絶してんのか、だらしねぇ」
それをアリューゼに渡そうとして、まだ意識が無い事に気付いたようだ。舌打ちをし、アリューゼの脇に槍を突き刺した。
再び魔力を練り上げ、細剣、大剣と造り出し、ミーナ、ルシオに投げ渡した。
「重っ──」
「そんじょそこらの鉄屑よりは頑丈だ。〝あいつ〟に感謝すんだな」
造り出した大剣をラルフに渡し、センギアに二本のショートソードを投げつつ言った。
ルシオが呟いた言葉は意図的に無視したようだ。
訳が分からず一行が首を傾げる前で、直哉が倒れた。
「ナオヤっっ!」
すかさずシエルが駆け付けて直哉を抱き起こし、直哉が両目を開いている事、その左目に紫色の六芒星が輝いている事に安堵の溜め息をついた。
先程感じた殺気も感じず、元の直哉に戻った事を実感した。
「………あぁ」
直哉は意味深な返事を返し、自分の中へと意識を向けた。
《良くやったな》
《うるせぇ!俺が人助けだなんて、あり得る訳が無ぇんだ!》
《でも、俺の言う事聞いてくれたじゃん》
《ギャーギャー喚くからだ!うぜぇったらありゃしねぇんだよ!》
衝撃を受けて動けなかった直哉の代わりに、ダークサイドが一行を助けたのだ。ダークサイドは直哉の裏返しだが、直哉が人助けをしない訳が無い。
つまり、ダークサイドの言う通り〝あり得ない事象〟が起こったのだ。
尚も喚き続けるダークサイドから意識を逸らし、自分を抱き起こすシエルに目を向けた。
「確かに、シエルの言った言葉はもっともだ。だけど、泣くのは全部終わってからだ。ここで俺達が死んだら元も子も無いだろう?あいつ等のためにも生き延びてやろう。な?」
「………」
目に涙を浮かべたシエルを宥め、指で涙を掬った。
そして笑顔を浮かべ、頭を撫でてやった。
「あ、あのさ──」
「さて………皆も〝あいつ〟からプレゼント貰えたみたいだし………あとはアリューゼさんだけか」
「………」
未だに唖然とする一行に目を向け、ダークサイドが身体の支配権を握っていた時に、その内側で喚いていた事がしっかりとされていた事に安心した。
そんな直哉はアリューゼの頬をぺちぺちと叩き、目を醒まさせようと試みた。
「おーい」
「うぅ………」
それからアリューゼが目覚めるのには数分の時間を要した。
そして起きたとき「うわぁっ、高い所やだぁぁ!」と叫んだのは内緒である。
『あの………』
《あ?俺はめんどくせぇ事嫌いなんだ──》
『助けてくれて、ありがとうございます』
《──っ!!》
『私も、もう少し頑張れそうです………だから、ナオヤの中で見守っててくださいね?』
《う………べ、別にお前のためなんかじゃねぇかんな!ブライトサイドがウザかったから仕方無く従ってやったんだ!》
『それでもありがとうございます。シエル、頑張れそうです!』
《っ~~~!》
『オイオイ、ダークな割りに随分と可愛いじゃねェか』
《うぅっ、うるせぇデブネズミ!これはその、その………熱があるだけだ!!》
『恋の熱~(はぁt』
《殺ス!!》
『あははっ、ダークさん面白ーい!』
《だ、ダークさん?!》
『ダークサイド、略してダーク。駄目でしたか………?』
《あ、いや………べ、別に構わねぇけど………》
『デレデレじゃねェか!』
《違うっ!!だから………そうだ、風邪ひいてんだ、だからこんなに顔が熱いんだ!!》
『恥ずかしいだけだろ』
《デブネズミいぃいぃぁぁあぁあ!!!》