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第六十八輪:土人形

ゴーレムさんの出番が少なすぎて泣きそうです………。

次回らへんにも出してあげようと思いました。


今回はコメディっぽい要素を多目に取り入れてみました。やっぱり執筆してて楽しいですね!

しかし、筆者の自己満足が占める割合が非常に高いです。内容には期待しないでください。期待したら負けです。

轟音と共に窓をぶち破って王宮に侵入した直哉は、尋常では無い熱気と迫り来る紅蓮の炎によるお出迎えを受けた。


「あっちゃちゃちゃ………」

『しっかりしろよナオヤ』


ウィズが風の壁を作り出す。それは直哉を中心とした円形を維持し、熱と炎から直哉を遠ざけた。


《あいやー、風の壁って便利だなぁ》

『前にも似たような台詞を聞いた気がするんだが………』

《それをデジャブって言うんだよ。ま、ウィズの場合老化現象による副産物だと思うけど》

『あ?テメェ何レディに向かって〝老化〟とかほざいてんだオイ、雑巾みたいに引き千切られてェのか?それと最近の話見直してみろよ、そして発言を訂正して土下座しろ』

《レディはお前とは違ってお淑やかなんだよ!そもそもお前は〝レディ〟じゃ無くて〝メス〟だろーが………喩え閻魔大王が空飛ぶ座布団に座っててそれが超レアな非売品であろうと、それは揺るがねぇんだよぉぉぉお!》

『何意味不明な例えしてんだよ馬鹿野郎ぉぉああああああ』

《うるせぇ黙れ水陸両用両生類!タールにでも進出してろ!ミスって沈んで石油にでもなっとけ!!》

『んだとこの優男のイミテーション野郎が!ヘルファイアで消し炭にでもなりやがれ!!』


炎に囲まれつつ、惨めな言い争いを開始してしまった二人。風の壁が快適空間を作り出しているため熱や炎によるダメージは無いのだが、倫理的に戴けない。

そんな直哉を心配し、シエルが念話を送った。因みに、先程の会話は筒抜けである。


『な、ナオヤ………炎──』

《しゃらくせぇ!》


シエルの念話で現状を理解(炎が迫っている事だけ、だが………)した直哉は、回りを蝕んでいく炎に向けて腕を振った。

すると──


バリンバリンバリンバリンバリンバリンバリンバリン、ガシャァァン!


──見えない何かに炎が掻き消された。シエルは遠くにいたため良くは見えなかったが、何かを飛ばした事だけは何と無く感じ取れた。

実際には強烈な風を放っていた。酸素を供給するよりも速く炎を揺るがせ、勢いだけで消火。その風圧で通路中の窓が吹き飛び、突き当たりの壁は粉々に砕け散ったのだ。


シエルを始めとした一行が沈黙を貫く中、シエルの脳内には──


《早くタールに沈め、そして社会に貢献して来いデブネズミ》

『お前は燃やされて………あっ、灰に利用価値なんて無いか』

《あぁん?!》


──悲しくなる現実が流れ込んでいた。









暫く言い争って満足したのか、大人しく救出に向かった直哉とデブネズミ──


『ウィズだ!!』

《………頭大丈夫?》


──では無くて、ウィズ。

突然キレた事に直哉は引き気味な表情を浮かべ、まるで何かから逃げるかのように歩くペースを上げた。

それは勿論ウィズの事だ。


今すぐ具現化させて放り投げたい衝動を辛うじて抑え込み、先を急ぐ。


《あーくそ、歩きにくいな》


先程の爆発で所々が崩れ、歩きにくいったらありゃしないのだ。それに微かな苛立ちを示しつつも、直哉は仲間を捜すために歩き続けた。


階段を登って、突き当たりまで歩いて、左右を確認してから床を破壊して飛び降りて、再び歩き出して………。

この王宮を破壊するのに何の抵抗も無くなった直哉は、矢鱈滅多に進み、壊し、また進みを繰り返した。


歩く破壊神と化した直哉だが、その暴走はすぐに止まる事となった。


『オイ、変な音がしねェか?』

《変な音?》


ウィズが唐突に話し掛けてきたのだ。先程までのふざけた感じでは無く、真剣な声色だった。

その豹変振りに異常を感じた直哉は、相槌を打ちつつ耳を澄ませ、音を聞き取る事に集中した。


──ギィン………


《ガチだ》


その直哉の耳に飛び込んできたのは小さな音──硬い物同士を強く擦り合わせたような──だ。

補正により強化された聴覚は、それと同時に、聞き覚えのある苦し気な喘ぎ声も聞き取った。


それらを脳内で纏めて導き出した結論は〝この近くで仲間が戦闘をしている〟だ。


《ウィズッ!》

『突き当たりの階段を下れ!』


直哉の叫び声を聞いたウィズがその物音の位置を正確に把握し、直哉にその位置を示した。

同時にスタートダッシュを決めた直哉は、一瞬で階段の元へ辿り着き、段を全て飛ばして飛び降りた。


ズガン!


「おわっ!」


重力によるエネルギーに直哉が飛び降りる際の初速度をプラスした着地の衝撃は、頑丈な床を砕くには十分な威力を持っていた。砕けた床にバランスを失い、勢い余って前に転がってしまった。

──だが、これが功を奏した。


ヒュッ!


「っ!」

「ナオヤ!」


転がる自分の頭上を何かが通り抜け、空を切る音が鳴る。同時に、聞き慣れた仲間の声が耳に飛び込んできた。


回転を無理矢理止め、ぐるぐると回る視界を無理矢理治し、立ち上がって声がした方を見る──


ブゥン!


「ちっ」


ギィン!


──前に、〝頭上〟から巨大な何かが振り下ろされた。咄嗟に腰の袋から柄を取り出し、妖刀村正を生成。それを頭上に掲げ、振り下ろされた何かをしっかりと受け止めた。

それを力任せに弾き飛ばし、今度こそ声のした方に向けて移動した。


「ナオヤ………無事だったか」

「──そりゃあこっちの台詞だよ、ラルフ」


声を掛けてきたのはラルフだ。しかし、いつもの冷静さは欠けていた。銀色に輝く鎧は変形し、所々が砕けていた。口元からは血を流し、壁に背を預けて座り込んでいた。

一目見ただけでも重症である事が分かる有り様だった。


ルシオは床に倒れ伏し、ミーナは折れた細剣を震える手で握り締めていて、アイザックは傷だらけの身体にむち打ちラルフに治癒魔術を行使していた。


全員を見て分かった事は、


「絶体絶命だったな」


と言う事だ。

過去形なのは、直哉が到着するまでが絶体絶命だったからだ。それは本人の目に怒りが浮かんでいるのを見れば分かる。


そしてもう一つ、気になる事があった。

それを確かめるために、直哉は重症のラルフに声を掛けた。


「センギアさんは──」

「邪を砕く爆砕よ、デストラクト!!」


イィイィィィィン………


しかし、それは魔術の詠唱と高周波の音に止められてしまう。

何事かと思って振り向いた刹那、


「──っ、リフレクト・ソーサリー!」


ズゥゥゥウウンッ!!!


巨大な爆発が起き、〝何か〟が粉々に砕け散った。その爆発から仲間を守るために防御魔術を行使した直哉の目は、爆発により生じた煙の中から黒い影が飛び出すのを捉えた。

それは機敏な動きで直哉の目の前まで走ってきて、そこで止まった。


「来るのが遅かったのぅ」

「ごめんなさい、センギアさん」


その影──センギアは、所々が破れた黒い装束を引き千切り、爆心を忌々しげに睨み付けた。

その両手には、ひびの入ったショートソードが握られていた。


「まさか、神話の中にいる〝ゴーレム〟が実在していたとは………そして、ここまで強力だったとは誰も知るまいな」


少しすると煙が晴れ、視界がクリアになった。

そちらに目を向けた直哉は、抉れた地面と散らばる塊に目を遣った。


《まさかまさかまさかーの》

『てんぷれえとー』


薄茶色の土塊は完全にバラバラにはなっておらず、ある程度原型を留めていた。なので、原型の大雑把な予想はついた。

背丈は3m程はあろう巨体で、身体を構成する土塊は先程の爆発でも砕けない程の強度。そして、巨大な大剣を振り回す………その姿は、ゲームに良く出てきていた、偽りの魂を吹き込まれた屈強な人形、ゴーレムそのものだった。


そんな事を考えていると、重症だったラルフがふらふらと立ち上がった。

アイザックの治癒魔術がかなり効いたようだ。


「おいおい、まだ座っとけよ」

「俺だけが楽をする、なんて出来んよ………身を呈して守ってくれたルシオに顔向けが出来なくなってしまう」


ラルフは申し訳無さげに呟き、横たわるルシオに目を向けた。アイザックの治癒で一命は取り留め、身体のダメージも回復したが、未だに眠ったままだと言う。

心配したアイザックが簡易検査を施した所、ただ眠っているだけだとの事だ。


ラルフは床に転がっていた両手剣を拾い上げ、前に構え──倒れそうになった所を直哉に支えられた。


「う………」

「言わんこっちゃ無い………大人しく寝とけ!」

「俺が………や………ら………」


それでも歩き続けようとするラルフに、直哉は水属性魔術の中でも、睡眠に誘う魔術(ガルガントに拉致られた時、サラに掛けられた魔術)を行使した。

それに抗う事は出来ず、ラルフは意識を手放して崩れ落ちた。


「ったく………ちったぁ自分の身も大事にしろってんだ」

「全くだ………」


ラルフをルシオの隣に寝かせつつ、愚痴を呟く直哉にセンギアが同意した。

同時に、重苦しい足音が響く。センギアが通路の奥に目を向け、溜め息をついた。


「一体だけでも辛いと言うのに、どれだけ老い耄れを痛め付ければ気が済むと言うのだ………はぁ………」


つられて奥を見た直哉は、五体のゴーレムが歩いてくる光景を目の当たりにした。

完全体を見るのは初めてだったので、ちょっと心が踊ったのは内緒だ。


「無駄にごっついなぁ」


薄茶色の身体は3mの巨躯を形成し、右手には2m程の両刃の大剣を携えている。顔にあたる部分と胸部には赤い球体が輝いていて、それを揺れ動かしながら歩いてくるのだ。因みに、幅は予想以上に広い。

イメージと微かに離れてしまい、多少と言うレベルを超越した落胆を覚えた直哉。


視線をゴーレムからセンギアに向けると、若干顔色が悪い事に気付いた。


「大丈夫?」

「何のこれしき………だが、生涯で最も危険な瞬間である事には違いないな」


センギアの頬を冷や汗が伝った。

先程敵対して分かったのだ。鉄壁の防御力を誇り、素早く強力な攻撃を加えてくるゴーレム。一体を辛うじて倒したのは良いが、ここまで追い詰められてしまっている現状。況してや、そんなゴーレムが五体並べば、絶望の一つや二つは浮かべたくなるだろう。


センギアの心情を察した直哉は、妖刀村正を正眼に構えた。


《あんなごっついゴーレムはいらねぇ!》

『削除っ、削除ォォオオ!!』


そして、そこに濃密で凶悪で膨大な魔力を注ぎ込んだ。

仲間をやられた怒りや憎しみ、更には八つ当たり的な感情を籠めるのも忘れない。


「………」


センギアが口をあんぐりと開けて呆然としている。魔力の流れを感じ取れる者だからこそ、このあり得ない(そしてどこか痛々しい)魔力に驚いているのだ。


そんなセンギアを余所に、直哉の握る妖刀村正が漆黒へと色を変えた。威嚇的な稲妻の閃光は収まったが、その代わりに圧縮された魔力による風圧が生じた。

それはゴーレムの歩みを止めさせた。


「………魔力に行動を左右されているのか………」


センギアが呟くが、直哉の耳には届かなかった。


「センギアさん、下がって。んで、出来れば皆を守っててくれ」

「………分かった」


センギアが素直に引き下がったのは、目の前にいる少年の足手まといにならないためだ。

長年研ぎ澄ました勘が「凄まじい一撃を繰り出す」と警鐘を鳴らしていた。


壊滅状態の味方の元まで下がり、巨大な溶岩の壁を作り上げた。味方全員を覆う、前方に対する防御力に特化した防御魔術だ。


センギアが防御魔術を展開した事に気付いた直哉は、妖刀村正に注ぎ込む魔力を増やした。


ブゥゥゥン………


すると、低い唸りを上げた妖刀村正から、紫微しびの瞬きが溢れ出した。

妖刀村正の柄を右手で掴み、刀身に左手を添え、地面と水平に構える。


「闇へ還れ、招かれざるごっついゴーレムよ!」


高らかに叫び、妖刀村正を思い切り振り抜いた。刹那、振り抜いた軌道に紫微の瞬きが残り、それは次の瞬間、ゴーレムの胸部にある赤い球体を一つ残らず両断した。そして、胴体も切り刻み、埃よりも細かい塵にした。

紫微の瞬きが刃となり、風となり、そして脅威となったのを、センギアは壁越しに感じ取った。


その直後、凄まじい風圧が溶岩の壁を軋ませ、そして砕いた。


「む………っ!」


瞬間的に壁を霧散させたので溶岩の壁による被害は出なかった。しかし、まるで鎌鼬かまいたちの如く襲い掛かる風により、目を開けられず、肌の所々に裂傷を負う。


暫くすると風が収まり、センギアはうっすらと目を開け、自分の四肢が繋がったままだと言う事に安堵の溜め息をついた。

味方に目を向けても、これと言った怪我は見受けられなかった。

次に視線を上げ、風を産み出した張本人を見た。右手に携えた妖刀村正は紫色に戻り、先程の威圧感も無くなっていた。そこには先程と何ら変わりの無い光景が広がっていた。

──直哉の前方がゴーレムもろとも跡形も無く消えているのを除けば、だが。


最初から何も無かったかのように、直哉から先が綺麗に消え失せているのだ。開けた視界は明らんで来た空を映し、静かに佇む城下町を一望させた。


唖然とするセンギアの前で、直哉はアイザックに駆け寄る。そして、両手を頭に置き、静かに瞑想をする。

因みに、唖然としていたのはルシオを除く全員だったりした(ルシオはすやすや熟睡タイム)。


「何を──」


直哉に疑問を呈そうとしていたアイザックだが、それは中断されてしまう。

直哉の手から白くて暖かい光が溢れ出し、アイザックの身体の様々な傷を治癒させ始めたのだ。光は規模を拡大していき、センギアを含む仲間全員を包み込んだ。鎌鼬を始めとする様々な傷、そして不安な気持ちを癒し、瞬く間に一行は全快となった。


「これは………」


センギアが固まる中、アイザックが呆れたように呟いた。


「ナオヤなら治癒魔術も使えるとは思いましたが、こんな規模だとは思いもしませんでした」

「そりゃどーも」


そんなアイザックに、直哉も苦笑いを浮かべて応えた。









シエルと念話で情報を交換し、直哉達は残りの仲間を全員救出した事、シエルは国王の居場所を掴んだ事を各々が伝える。


《おーおー、でかした!これであの空を飛べないただの豚を懲らしめられるな!》

『そうなんだけど………ナオヤ、あんまり王宮を壊しちゃ駄目だよ?何をしたかは知らないけど………』

《ごっついのに襲われたんだ、つまりこれは不可抗力!………それにあの豚が造らせた王宮なんて要らんわい》

『それもそうだけど………』

《けど?》

『えっと………』


シエルから伝わってきた感情は〝躊躇い〟。言うべきか否かで逡巡しているようだ。

ならば無理に聞く必要も無いかと、直哉は話を逸らす事にした。


《んまぁ今は良いや。皆無事なんだし、それだけで十分。取り敢えずそっちに飛ぶから、話はそれからで》

『うん………じゃあ、さっきの所に──』

《あ、いや、ちょっと待って》


シエルの言葉を遮った直哉は、シエルの言葉から断片的にだが景色が伝わってくる事に気付いた。


《………今は、どこかの影にいるのかな?》

『影………うん、そうだよ?』

《王宮の………じゃ無いな………薄暗いけど、松明みたいな灯りがあるか………?》

『えっ?!そ、そうだけど、どうして分かるの?!』

《さぁな………ま、皆に忠告しといてくれよ》

『え?えぇ?!』


訳が分からずあわあわと慌てふためく(伝わってくる感情から察した)シエルに、笑いを堪えきれなかった直哉が言った。


《落石──いや、落人注意ってね》

『え?な──』


そこで念話を切り、イメージに集中。先程の会話で垣間見えた断片的な空間を纏め、一つの風景を作り上げた。

魔力を練り上げつつ、眠るルシオを背負う直哉。


「急な揺れにご注意下さいませ~」


そう告げた刹那、一行を浮遊感と落下による風、そして衝撃が包み込んだ。


「「「「「「「うわっ!」」」」」」」


直哉とセンギア、眠っているルシオを除く悲鳴が上がり、それは壁による反射を得てから耳に帰ってきた。

直哉のテレポートで飛んだ一行が、器用にシエル達の上に落ちたのだ。セフィアの上にミーナが落ちて、且つ体勢があられもない事になっていて、その気があれば百合の花が満開に咲き誇っても──


《《黙れナレーション!》》

『何だお前等、息ぴったしじゃねェか!』

《う、うるせー!今回はその、ま、まぐれだ!そうだ、まぐれだまぐれ、ハハハ!》

《そ、そうだ!まぐれじゃ無きゃ何だってんだ!偶然か、偶然なんだ!あは、あはははは!》

『『ほんっと、息ぴった(り・し)………』』


──詳細はご想像にお任せします。


とにもかくにも無事に到着・合流出来た一行には、お互いの無事を喜び合う余裕が生まれていた。

ぼろぼろになった鎧を見て不安になる仲間を慰めたり、何故か抱き合ったり、ミーナやセフィアに至っては泣きじゃくっていたりもした。


「そう言えば、ナオヤ」


そんな中、声のトーンを落とし、暗い雰囲気を纏ったラルフが直哉に声を掛けた。

その視線の先には、直哉の背におぶられたルシオがいた。


「ルシオは、いつになったら起きるのだろうか………」

「うーん………」


質問の内容は分かっていたが、答えばかりは準備出来ない内容だ。しかし、ラルフの不安を煽るような返事は避けたい所だ。

暫く唸り、答えを出す前にルシオに呼び掛ける、と言う答えに辿り着いた。


「よっ、ほっ、朝ですよー」


ずり落ちた赤ん坊を上に上げるような動作を繰り返し、適当に声を掛けた。

しかし、こんな事で起きる訳が無い──


「………ん、あと少し………い?」


──筈だった。


直哉の首の後ろらへんで目元を拭い、正しく寝起きと称するに相応しい目でラルフを見つめるルシオ。

そして、覚醒しない──完全に寝惚けた頭で言葉を紡いだ。


「あ、ラルフさん………おはようございます………今日も朝の訓練ですか?今日こそは負けませんよ~」

「ルシオ………」


ラルフが震える声色で呟く。

それを見た直哉がルシオを背から降ろし、地面に正座させた。土の地面に正座をさせるのは気が引けたが、巻き添えは喰いたくは無いのだ。


「???」


現状を理解していないルシオは、頭上に疑問符を三つ浮かべた。

そんなルシオにお構い無しに、ラルフはすたすたと歩いていく。


そして、ルシオの眼前にラルフが来た時。


「この馬鹿者が!」


ゴンッ!!


「っ~!いってぇー!!」


ラルフの鉄拳制裁と共に、ルシオの頭上の疑問符が二乗された。


頭を押さえてのたうち回るルシオに、ラルフの怒号が飛ぶ。


「あの状況で身体で斬撃を受ける等、大馬鹿者のする事だ!それでバラバラにされていたらどうするつもりだったんだ!!」

「あの状況?………あ、ゴーレムに吹っ飛ばされたんだ」

「記憶が飛ぶ程の衝撃から俺を守ろうだなんて………まずは自分の身を心配しろ!」

「うー、スミマセン………」


それから少しの間、ラルフによる一方的な説教が続いた。ルシオは首を縮め、済まなそうに項垂れるだけだ。

流石に可哀想だと判断した直哉は、ラルフの説教を止めるべくラルフに歩み寄った。


「も、止めてやれ──」

「だが、そんなお前に救われたのは事実だ………」


直哉の言葉を遮ったラルフは、そっぽを向いて気恥ずかしそうに頬を掻いた。


「………礼を言う」

「!………はい!」


それに笑顔で頷いたルシオは、まるで大きな作戦をやり遂げたかのように清々しい笑顔を浮かべていた。

つられて笑顔になるラルフを一瞥し、直哉は内心で呟いた。


《揺すっただけで起きるとは思わなかった。一瞬マジックパワー!かと思ってひやひやしたぜ》

《『『………』』》

《な、何だよお前等、その「着眼点がおかしいだろコイツ、頭大丈夫ですか」的な沈黙は………》

『ごめんねナオヤ、その通りです………』

『あぁ、俺も全く同意見だわ………』

《………》

《何だよお前等!揃いも揃って………って、お前もかよD!》

《その短縮止めろ、俺は海賊王なんてガラじゃねぇんだ》

《ニート乙》

《ニートは良いぞ、変な期待を背負わなくて………って、B!何言わせやがる!》

《ニートについて語らせただけだ。俺はお前と違ってニートになる気なんざ更々無いからな》

《てめっ──》

『ダークサイドって、響きが怖かったけど………良い人なんですね』

『みたいだなー………多分、変わり者なだけだとは思うけどな』

《な、何を言う!俺は闇、影、邪悪の塊だぞ!そんな生温さ等──》

『闇だか影だか知らんが、随分と明るいじゃねェか』

『それに、〝生温さ〟だなんて一言も言ってませんよ?』

《はっ………これは、その………うぁ、あ………B………》

《そんな助けを求めるような声で呼ばれたって、俺はなぁーんもしてやらないよ。ドンマイ、D(はぁt》

《嫌だぁぁぁぁぁぁああああぁああぁああ!!》

『発狂する所なんて、ナオヤとそっくりだね♪』

『弄られ役ってのもな!』

《なななな何を申すか!貴様等、この私を弄り倒すと言うか!度重なる狼藉、もう我慢ならん!!》

『弄り倒すなんて一言も言ってないよ………ナオヤどうしちゃったのかな、ウィズちゃん』

『ウィズちゃん………ウィズちゃん………良い響き………じゃなくて!大分前から手遅れだから、今更どうって事も無いんじゃねェの?』

『あっ、それもそっかぁ………テヘッ☆』

《《『あ゛あ゛ぁ゛あ゛ぁ゛あ゛ぁ゛あ゛あ゛ぁ゛!!!』》》


直哉達が取り交わす念話はラルフ達には聞こえておらず、直哉が急に膝を着いて頭を掻き毟り、シエルが冷たい笑みを湛えたのを見て、一行は得体の知れない悪寒を感じ、背筋に鳥肌を立てた。

因みに、直哉の中ではウィズがかなり危ない人のような目をしながら転げ回り、D直哉が地面(上下左右には何も無いが、今のD直哉が立っている状態だとして、その足元を地面と仮定した)を掘る動きを繰り返していた。


黄色い救急車が三台──否、四台呼ばれたのかは、誰も知らないのであった………。

これじゃあアームを操ってゴーレムやらロスト・テクノロジーを発掘する冒険家が闊歩するゲームと被ってしまいそうだ………まずいぞ、非常にまずい………。


次は戦乙女さん的な展開を考えてなんていないぞ………!

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