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第六十六輪:怒涛(どとう)

暇がある時と無い時の差が顕著です。

そして、今回は暇が無かったのです。


イコール短いのです。



………prz

直哉によって天井裏に引っ張り上げられた一行は、ロームを筆頭に通路を走った。


「こんなドタバタしちゃって平気なの?」

「ええ、遮音加工はしっかりと施されていますから」

「どう考えても計画性を感じざるを得ないな。どう言う事なんだ?」

「それは………」


騒がしく駆け抜ける事に抵抗を感じた直哉がロームに訊ねた。そして、その返事を噛み砕いたアリューゼの当たり前のような疑問にロームは口をつぐんだ。


分かる訳が無いのだ。王宮を建てさせた訳でも無ければ、建築を承った技師と言う訳でも無い。況してやこの通路の存在を完成後に知ったのだから尚更だ。しかし、自分達が現在遂行しようとしている事──国を敵に回すと言う、一般的に捉えたら反逆行為──に役立っている事を考えると、嫌な推測が立ってしまう事を止められない。


「………もし、ベクター様が昔からご乱心だったのだとしたら………」


それはどちらかと言えば、アリューゼに返答したと言うより、自分の中に沸いて出た新たな可能性を反芻する、と言った方に寄っていた。


「人間は演技を得意とする存在だからね。流石に細かな動作までは誤魔化せないだろうけど、訓練を積んだらそう簡単に見破れないレベルにはなれるよ」

「れべる?」

「簡単に言うと熟練度みたいなもんかな。例えば………第二騎士団の騎士が訓練を重ねて第一騎士団に昇格したとしよう。この騎士は訓練により力や技術が上昇した。この時、騎士はレベルが上昇した………って言えば分かるかなぁ………説明下手だからな、俺」

「ううん、説明上手だよ、ナオヤ。シエル分かっちゃったもん」

「ハハハ………そりゃ、そんだけシエルが切れ者だって事だよ」


ロームの意見に同意を示した直哉は、聞き慣れない単語に疑問を呈したシエルに説明をしつつ、自分を偽るのが当たり前になった自分の〝本当の〟故郷を思い浮かべた。


利益のため、あるいは復讐のため………自分とは真逆の立場にいる人間の下に就く。そして、期が熟すのをただひたすらに待つ。

時が満ちたら、熟れた果物に研ぎ澄ました牙を突き立て、その果肉を、果汁を──各々にとっての利潤を啜るように………。


ベクターが何を考えているか等直哉には分からないが、少なくとも良い事では無いのは分かっていた。


『でもよ』

《んぁ!あぁ、何?》


そして、ウィズの質問に飛び去り掛けていた意識を覚醒させる。


『………はぁ。その例えだと、ベクターの上に真の黒幕がいるって事にならねェか?』

《む、それもそうだなぁ………無意識の内に浮かんだ事だから意識して無かったけど、確かにおかしいな》

『無意識は恐ろしいな。動作と言いついさっきのナオヤと言い』

《うむー》


何だったんだろうなぁ、と意味深に考える直哉。


それと同じように、意味深な表情を浮かべる騎士達。

各々が近寄り、走りながら囁き声でコンタクトを取ると言う器用な芸当をやってのけている。


「………ナオヤの奴、どうしちまったんだ?」

「分かりませんが………もしかしたら、ショックでおかしくなってるのかも知れませんね」

「ぁぅぁぅ………やっぱり、酷でひゅか………」


一通り言葉を交わした一行は、顔を顰めつつ口元に不気味な笑みを湛える直哉を見て、気の毒そうに視線を逸らした。

因みに、直哉ははしゃぐシエルを見て自分が変ににやけている事を知らない。そして、いつもならそれに逸早く気付くのだが、それに気付かない自分にも気付いてはいなかった。


──先程気付いたが深く掘り下げなかった疑問の答えが後に分かる事、それが更なる面倒を引き起こす事も当然の如く知らなかった。









足を休める事をせずに走り続ける事十分、天井裏から正規の通路に移り走る事五分、口封じのために兵士やら暗殺部隊やらを無力化すること五回、一行は漸く目的地に辿り着いた。

則ち、国王の部屋に到着したと言う事だ。


「はっ、はっ、やっ、と………到着、です………」

「ふぅ………中々しんどいな………」

「はふぅ~………」

「はぁ、はぁ………」


息を切らす一行は膝に手を着いたが、回りの警戒を怠る事は無い。


「いやー、無駄にだだっ広い王宮だねぇ………エアレイドのより大きいんじゃね?」


しかし、息を切らす事は愚か、疲れを微塵も感じさせない直哉は例外だった。

そんな直哉に、ロームが驚きを隠そうともせずに訊ねた。


「まさか………はっ、はぁ………全然、疲れて、はぁ、無い?」

「うむ………ってか、そんなに疲れてて大事か、皆」

「疲労なんざ調節出来ねぇわ………」


アリューゼが呆れを八割程含んだ呟きを洩らす。同時に、他の三人も苦笑いを湛えた。

しかし、すぐに真剣な表情になる。


「確かに疲労の蓄積は危険だけど、目的地の前で休憩なんてしてる暇は無いですね………」

「一気に乗り込んじまおうか」

「が、がんばりまひゅっ!」


気を引き締めた一行は、無駄に大きい扉に近付き──


「それじゃ、いきま──」

「しゃらくせぇ!!」


バキャッ!


「「「「………は?」」」」


──アリューゼが水平飛び蹴りを扉に見舞った事に、自分の目を疑った。

扉は凄まじい音を立ててバラバラになり、濃霧宜しくな砂埃を発生させた。


「ね、ねぇ、あんた何してんの?」


逸早く気を取り直した直哉がアリューゼに訊ねる。アリューゼはゆっくりと立ち上がり、後ろを振り向いた。

凄まじい笑顔が嫌に眩しい。


「一度はやってみたかったんだ、テヘッ☆」

「テヘッ☆じゃねーぞボケェ!何んな目立つ事してくれやがってんだオイ、馬鹿なのか、いや大馬鹿なのか?それとも頭のネジが全部抜け落ちたのか?頭がおかしいのは元からなのか?!なぁ、何なんだよ!!」

「な、ナオヤ、落ち着いて?」

「これが落ち着いていられるかぁ!こんにゃろー、卓袱台ちゃぶだい持ってきやがれ!」

「良いから落ち着いて!敵の棲みかで騒いだらどうなるか──」

「何だ、今の破壊音と怒鳴り声は」

「凄い剣幕だったぞ………」

「こっちだー!」

「──はぁ、言わんこっちゃ無い………」


アリューゼの乱心よりも直哉の怒鳴り声の方が影響力は強く、足音が近付いて来るのはすぐだった。

それにはっとした二人は、先程とは打って変わって冷静になった。


「もう追っ手が来やがったか」

「急ごう、皆!」

「「「………」」」


そのまま部屋に駆け込む二人を見ていた残りの三人は、「誰のせいだよ」と言う突っ込みを辛うじて呑み込んだのであった。









直哉達が砂埃の立ち込める部屋に侵入した頃、センギア一行はエアレイド王国の騎士達の部屋に入り、〝目を覆いたくなるような〟光景を目の当たりにしていた。


「遅かったか………」

「うっ………」

「酷いな………」

「どうして、こんな事を………」

「国王の画策でしょう」


一行の目の前には、紅く彩られた兵士用のベッドが並んでいた。しかし、ベッドを染めた騎士達はどこにもいなかった。


「………丁度〝処分〟している頃か。このベッドも適当に処理し、何も無かった事にしようとしているのだろう」


静かに呟くセンギアは、目を閉じて合掌をしていた。

呆然と立ち尽くしていた他の騎士達も、辛うじてと言った様子で手を合わせた。


暫くそのまま合掌を続けていると、足音が通路を木霊して来た。


「──しっかし、王様も酷いもんだ」

「〝殺せ〟とか、普通言えないよな」

「まぁ良いじゃねぇか、俺達はそれで特をするんだからさ」

「それもそうだ!それで美味い飯が食えるんだし………って、何だ?」

「暑くないか?」


足音は兵士用の部屋の前まで近付き、そこで止まった。

そして、一人の兵士が中を探ろうとする。


「誰かい──」


しかし、紡ごうとした言葉は途中で止められてしまった。


ヒュパッ。


「「「「「な」」」」」


驚愕する兵士達の前で、銀色の軌跡が円を描き、部屋を覗こうとした兵士の首を貫通した。軌跡が消えると同時に兵士の首と胴の間に赤い亀裂が走り、首がゆっくりと滑り落ちた。


ゴシャッ。


「──」


自分がどうなっているのかすら気付いていないような表情で〝首の無い自分〟に顔を向ける生首は、遅れてやって来た激痛に顔を顰め、声ならぬ声を必死にあげようとし、身体が重量に従って崩れ落ちるのを見届けて視界をブラックアウトさせた。


「──ひ」


驚愕に満たされていた兵士達に、少しずつ現実と恐怖が染み渡って行く。それはまるで緩やかな濁流のように、兵士達の心をゆっくり、且つ早く、そして満遍なく染め上げた。

──部屋を紅く染めた騎士達の怨念が、兵士達を紅蓮地獄へと引き摺り込むかのように。


「「「「「ひぃぃぃぁぁああああああああああああああ!!」」」」」


兵士が絶叫をあげると同時に、部屋の温度が爆発的に上昇。そして、眩い閃光と共に爆発が起こり、王宮全体を揺るがした。

その部屋から五つの影が飛び出した。


「………お前等」

「よくもまぁ、仲間を、大切な〝友達〟を殺ってくれたね」

「覚悟は出来てるんでしょうね?」

「残念ながら、見逃す事は出来ません──皆殺しです」


両手剣に渦巻く焔を巻き付かせたラルフ、爆炎をたぎらせたルシオ、細剣に爆発そのものを込めたミーナ、黄緑に発光する杖を携えたアイザックが呟く。

そして、最後の一人──〝静謐の破壊神〟バロン・センギアが、まるで希望を打ち砕く鉄槌のように重い言葉を掛けた。


「皆殺し等生温い。殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して………肉塊になるまで切り刻んでくれるわ」


紅く輝くショートソードを右手に、四本の投擲用ナイフを左手に携え、魔力の奔流を放出するその姿は破壊神そのものであった。


「辞世の句を読む暇すら与えん。貴様等に与えるのは死の苦痛と恐怖だけで充分だ」


眼光が鋭くなったかと思うと、まるで陽炎のようにセンギアの姿が掻き消えた。

そして──


スパン。


「あ──」


──虐殺が始まった。

テレビで見掛けたのですが、人間は首を切り落とされても、少しの間なら生きていられるそうです。

死刑囚で実験された記録もあるらしいのですが、筆者はいまいちよく分かりません。


あ、一つだけ分かる事がありました。

それは──









──グロっ。

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