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第六十二輪:闇の目覚め

お気に入り登録件数に驚きました。


こんなに多くの人に読んで貰えてるとは思わなかっただけに、嬉しさもひとしおです。

同時に、余りにも幼稚ぃ作品過ぎて恥ずかしさも込み上げて来ました………!


ま、周りは気にしちゃ駄目ですよね!

「こりゃあ………」


誰のとも取れない呟きは、エアレイド王国一行の誰かが洩らしたモノだ。

思わずに呟いてしまう程に衝撃的な光景が広がっていたのだ。


城壁を潜ってセンティスト王国内に入った一行の眼前には、真っ直ぐ延びる大通りがあり、大通りに沿って視線を上げると目につくのが城壁と同じ位の高さの防壁。そこから更に上を見上げると、金を注ぎ込んだと主張するかのような王宮が聳えていた。そんな王宮を豪邸と呼ぶに相応しい建物が囲み、そこから周りに広がっていくように住宅らしき家々が連なっていた。

大通りは様々な人が笑顔で行き交っていて、活気が溢れていると言う印象を受けた。


しかし、エアレイド王国一行が衝撃を受けたのは〝それ〟では無く、城壁沿いに垣間見えた光景だ。


「酷い………」

「まさか………〝奴隷〟を公認してるのか」

「友好国と言う認識しかしてなかったけど、ここまで酷いのは想定外だね」


シエルが震える手で口元を押さえ、アリューゼが怒りを滲ませ、ルシオが深刻な面持ちを浮かべながらで呟いた。


一行が見たのは、擦り切れて色褪せて、とても着れたモノでは無いボロ切れのような服を着て、身の丈程はありそうな木材を背負う人。そして、その人達に鞭を振るう豪華ななりをした貴族(直哉の主観だが)の男。

鞭が木材を運ぶ女性の顔に当たり、その人は堪らずに顔を押さえた。同時にバランスを崩し、木材に押し潰される形で倒れた。離れているせいで言葉までは聞き取れないが、貴族が口をパクパクと動かしながら鞭による打撃を加えているので、酷い罵り文句が飛び交っているであろう事は想像に難くなかった。


「っ………」

「えぐ、ふぇぇ………」


見ているだけで頭がどうにかなってしまいそうな光景に耐えられず、ミーナは顔を背け、泣き出したセフィアをよしよしとあやした。

見ていたくなかったのは他のメンバーも同じで、それを止める事が出来ずに悔しそうに俯く──


「っ!!」

「シエル様!」


──シエルだけは〝黙って俯く事〟に耐える事が出来なかったらしく、その痛々しい光景を見せ付ける貴族の元へ駆け出した。

それをアイザックが咄嗟に止めようとしたが、アイザックを止めたのは直哉だった。苦笑いを向けたかと思うと、シエルの後を追って走り出した。


次第に近付いていく二人の耳に、胸を苦しくさせる台詞が飛び込んで来た。


「──こんの木偶の坊がぁ!てめぇなんざより〝あの〟ガキのが使えたんじゃねぇのかぁ?!」

「──はぁ………うっ、かはっ………」

「──やぁねぇ、またアイツ?ほんっと使えない奴隷ね。〝あの〟ガキみたいに──」


片や鞭を叩き付ける貴族、片やそれに耐え忍ぶ〝奴隷〟。片やその光景を笑いながら見ている人間──いつの間に集まってきたのだろうか、その二人は五人の傍観者によって囲まれていた──。

距離は5m程だろうか、さらにその光景が鮮明になるにつれて、二人は有無を言わずペースを上げざるを得ない状況に立たされた。


「そんなっ!!」

「………っ」


──鞭を振るわれている奴隷は、男性では無く女性だったのだ。しかも、お腹が大きく膨らんでいる、だ。

男が顔ばかり狙い、お腹に攻撃──と言う名の虐待──を加えなかったのは、きっとこのせいに違い無い。


息を切らしながら膝に手を着いた男は、満足げな笑顔で呟いた。


「はぁ、はぁ………こりゃ、〝売っ払った〟ガキの方が利便性があったな………まぁ、こいつは慰み者専用とでもするか」

「あらまぁ、お盛んな事で」

「嫌がる〝家畜〟を無理矢理は、これまた悪くない──」


バシャァンッ!


「っ~~~~~!!!」


卑しい台詞を吐こうとした男の口に、高速で飛来した水塊が直撃した。それは男の喉の奥にまで潜り込み、直撃した衝撃で男は仰向けに倒れた。

そして、驚いた傍観者が逃げ出そうとした時、男と女性と傍観者を囲う巨大な風の壁が出現した。現実離れした現実により生じた恐怖が、傍観者達の身体を縛り上げて行った。


その空間内にいる〝二人以外〟の人間は、逃げ出す事も叶わずにただただ固まっていた。

──凄まじい魔力の暴風にあてられたのも関係していたが、大部分は恐怖なので割愛。


そんな中、シエルは倒れた女性を押し潰す木材をどかし、仰向けに寝かせて顔とお腹同時に治癒魔術を施した。強化版ブレスレットが無かったら出来なかった芸当だが、それに気付いたのは暫く後になってからだ。

目尻から涙を幾筋も流す女性を見た直哉は、無表情で身悶える男の元へと歩み寄った。


「ねぇ」

「が、あ゛ぁ゛っ゛!」


口を押さえてバタバタと地面を転げ回る男の首を掴み、直哉はそのまま男を持ち上げて見せた。強力な力で首を掴まれた男は、その手を振りほどこうと両手で直哉の腕を掴んだ。しかし、人間風情がチートに敵う筈が無く、気絶するかしないかと言うギリギリのラインを保たれ、男の抵抗は弱まっていった。


青ざめる男の醜い顔を絶対零度の眼差しで見ていた直哉。


《こんな屑が存在してるのが間違ってやがる。生まれたくても生まされない子供が気の毒過ぎる》

『………全くだな』


ピシリ………


そのまま睨み付けている内に、何か亀裂が走るような音と共に、ある感情が芽生えるのを感じた。

生まれて初めて感じる、憎しみの集合体、底の見えない憎悪の塊。


《………》


醜く無様な男に裁きを下したい。この首を握り潰して、粉々に砕いてやりたい。女性の前で身体が全て擦り切れるまで地面に擦り付けたい。絶望と後悔を孕まさせ──





──殺したい。






ドクンッ………


《………?》


結論に至った──憎しみの根底、殺したいと言う感情を理解した──時、心の奥底で何かが弾けた。さっきの亀裂が走るような音はこれが原因だったようだ──あくまで〝ようだ〟である。


それはしっかりとした漆黒の胎動を轟かせ、まるで自分が誕生した事の喜びに打ち震えているかのようだった。


《何だ………?!》

『な………〝ダークサイド〟だと?!』


警戒を露にすると、言葉の変わりに意思が流れ込んで来た。どす黒く、生々しく、凄惨で残酷な、そして狂喜に満ち溢れた、恐ろしい意思が直哉の身体の隅々まで行き渡る。

ウィズの言葉は邪悪な意思の奔流に呑み込まれ、直哉には届く事は無かった。


《くっ………止めろ、止めろぉ!》

「あ゛………が、ぁ゛、ぁ゛、ぁ゛………っ………」


邪悪な意思の影響なのか、自分の意思とは裏腹に、男を締め上げる手に力が込められて行った。

──直哉自身が〝殺したい〟と望んでいたので、裏腹と断言出来る訳では無いのだが、そんな事をのんびりと考えている暇は無かった。


身体に〝止めろ〟と命令しても、邪悪な意思が浸透した身体は言う事を聞かなかった。

そして何より、邪悪な意思に浸食されていない自分の心の中に、その行動に対して歓喜を示す心がある事が恐ろしかった。


尚も腕に込められる力は、あともう少しの力を込めれば男の首を握り潰せると言う所まで強められていた。恐怖と激痛に意識を刈り取られた男は、骨が軋む嫌な音を立てる。

しかし、直哉の右手は力を緩めようとはしない。まるで邪悪な意思に身体を乗っ取られたような感覚に襲われ、得体の知れない恐怖が直哉の心を切り裂いて行く。


《止めろぉぉぉぉおおおおぉぉおおぉお!!!!》


そうして、辛うじて形を保っていた最後の心に、恐怖の凶刃が牙を──






「ナオヤ!!」

「っ!!!」


ボキッ。






──剥こうとしたが、シエルの悲鳴染みた声で我に帰り、身体に浸透した邪悪な意思が掻き消され、身体が自分の意思で動くようになった。その瞬間に男を手放し、自然落下を開始する前に脇腹を思い切り蹴り飛ばしたのだ。

鈍い音が鳴ったのは、肋骨をへし折ったからだろう。


因みに、蹴り飛ばしたのには、鉄槌を下すと言う意味合いと自分から遠ざけると言う理由が潜んでいたりする。

しかし、直哉は大事な事を忘れていた。それに気付かずに男を吹き飛ばし──


「あ」


──帰って、否、跳ね返ってきた男を避け、風の壁を解除するのを忘れていたと苦笑いした。


ズザーっと土煙を立てながら滑る男を見て、直哉は自分の腕が震えている事に気が付いた。


《………何だったんだろう、今の》

『………』


邪悪な意思の奔流が身体を浸食したのを思い出し、身体中に鳥肌が立つ。どうしようも無く怖くて仕方が無かった。

その嫌な考えを振り払うように頭を振り、深呼吸を三度繰り返した。


「ひぃー、ひぃー、ふぅー」


………最早何も言うまい。


そんなラマーズでも効果はあったらしく、落ち着きを取り戻した直哉。男を放置してシエルに看られていた女性の元へと歩み寄った。

──直哉が歩み寄る最中、女性の頭を膝に乗せるシエルは、微かに怯えた眼差しで直哉を見つめていた。


「………」


静かな寝息を立てる女性の目からは、眠っても尚涙が止めどなく流れ続けていた。先程は気付かなかったが、手足は重り付きの枷が取り付けられていて、そこから流れたのだろう、乾いた血液が痛々しく映った。


女性が眠っている事を確認し、シエルに訊ねる。


「二人は無事?」


その時、シエルの肩が僅かだが震えたのを直哉は見逃さなかった。

寂しげな表情になった直哉にはっとしたシエルが引き攣った笑顔を浮かべ、不自然に明るく振る舞った。


「う、うんっ!二人とも無事みたいだよ!良かったなぁ」


因みに、二人と言うのは女性とお腹の子供の事だ。仮に先程の男の子供だろうと、その子供には何の罪も無い。

安堵の溜め息をつき、直哉は視線を傍観者・男へと順番に向けた。傍観者は「ひっ」と喉を引き攣らせ、男は身動ぎ一つしなかった。

男に歩み寄り、再び首を掴んだ。そしてそれを引き摺りつつ、傍観者の前に投げ、そして立ちはだかる。


「コイツと女性を休ませてやれ。あと、奴隷だか何だか知らんが、女性と子供には優しくしろって、起きたら伝えろ」


泣きながらコクコクと頷く傍観者達に苦笑いを向けると、直哉は風の壁を霧散させた。シエルの元に戻って女性をお姫様抱っこで軽々と持ち上げ、傍観者の元へと運んだ。

この時、女性が異様なまでに痩せ細っていた事に怒りを感じたが、今は休ませる事が優先だ、と割り切った。


「変な事してみろ、すぐに殺し──痛め付けてやるからな」


途中で言葉を変えたのは、先程の闇に呑まれてしまうのでは無いかと言う恐怖があったからだ。しかし、何処へ行ってしまったのか、背筋が凍り付くような胎動すら聞こえなかった。


女性と男を傍観者に預け、直哉はシエルと向き合った。


「戻ろっか」

「うん………あ」

「む………って、シエル?」

「………」


歩き出した直哉の手に、シエルが抱き着くようにしがみ着いた。

直哉の手が震えているのに気付いて、安心させようとしたのだろうか、そうしていないといつもの直哉が消えてしまい、先程の〝別人〟のような直哉になってしまいそうで怖かったのだろうか………。


端から見たら「見せ付けるねぇ」と冷やかしを入れたい所だが、直哉の深刻な表情と、シエルの不安が満ち溢れた瞳を見たら、そんな気も失せてしまうだろう。


「ただいま」


エアレイド王国一行の元に戻った時も、二人を茶化す人は誰一人としていなかった。


「ご苦労様でした」

「お疲れさん………って、どうかしたのか、顔色が悪いぞ?」

「え?全然ぴんぴんしてるけど?」

「そんな青白い顔で言われてもなぁ」


ラルフがシエルに労いの言葉を掛け、アリューゼが直哉の異変に気付いた。当の直哉は至って平気なのだが、青白い顔では誰もが心配するのも致し方無い事だ。


何とかその場を遣り過ごし、まだ泣き続けているセフィアの頭を撫で、話を逸らす意味合いも込めて一行を急かした。

──自分でも良く分からない事を聞かれても、答える方法など持たないのだから。









王宮に向かうまでの道程で締め上げた貴族らしき人の数は三十を超え、苛立たしさばかりが積もっていく一行だが、それだけで終わればまだ幸いだと言い切れる状況に見舞われていた。

王宮に着いた一行は、そこにいる兵士達のやる気の無さに絶句した。城門を見張っていた兵士が例外では無く、〝見える範囲の〟全ての兵士があのような感じだったのだ。


現在、一行は王宮を囲う防壁の内側で立ったまま待たされている。入り口に立っていた兵士に国王との面会の旨を伝えると、ここでそのまま待っててくれと言われたのだ。警備の面もあるのかも知れないが、友好国の王女を立ちっぱなしで放置する等、本来なら首が飛んでもおかしくは無い事態だ。シエルの顔を知らないと言う可能性は皆無に等しいので、やはり兵士がおかしいとしか思えない。


「んだよあの態度!ほんっと腹立つなーチクショウ!」


小さく愚痴を溢すアリューゼに、エアレイド王国一行は首を縦に振って応えた。


「全くですね。何を考えているんだかさっぱりですよ」

「ひっ、酷しゅぎまひゅ!」


頬を膨らませるシャイなドジっ娘セフィアに癒されつつ、ラルフは首を傾げた。


「………この前は、こんなにだらけてはいなかった筈だが」

「そうだったんですか………?」


ラルフの呟きを聞き取ったルシオが、まるで信じられないと言った表情で聞き返した。


この前と言うのは、数年程前の事である。今回と同じような目的でセンティスト王国を訪れた時は、兵士は目上の人を敬った、しっかりとした態度を取っていた。そして何より、国に奴隷の姿が見られなかった。

ルシオはその訪問以降に入団した新入りの部類に入るので、この事を知らなかったのだ。


「あぁ。国王が換わったと言う報告も入って来ていないから、こんなに急に様変わりする訳が無いんだ」

「そもそも、ベクター様がそんな事するなんて想像が出来ませんね」


脇からアイザックが同意した。

ベクターと呼ばれた人物ことがセンティスト王国国王なのだが、詳しくは後に分かる事なので割愛。


愚痴のような文句とも取れる疑問を口にする一行の前に、一人の騎士──兵士と呼ぶのを思わず躊躇ってしまいそうな、騎士としての威厳に満ち溢れている人物──が現れた。

革に鎖を編み込んだ、手首までを覆う〝チェーン・メール(和名:鎖帷子)〟と呼ばれる鎧を身に纏い、指先の無いグローブを身に付け、風通しを良くした軽量化レギングスを装着し、腰に中型の片手剣を携えた騎士。双頭の鷹のレリーフが輝く、前面が開かれたフルフェイスの兜から覗く切れ長で深紅の瞳は、驚愕を浮かべるエアレイド王国一行の姿を映していた。


「大変お待たせ致しました、センティスト王国第一騎士団団長、ロームと申します。長旅ご苦労様です」


ロームと名乗った騎士は、一行の前で片膝を着き、フルフェイスの兜を外して自分の脇に置いてから騎士の礼を取った。

首を隠す位に伸ばされた赤髪が兜から解放され、ロームの横顔を隠す。


「皆様を謁見の間にお連れする事と、私の部外の非礼に対する謝罪を申し上げるために来た所存で御座います、大変申し訳御座いませんでした………」


謝罪を受けた一行は硬直した。先程までの兵士達とは打って変わって礼儀正しさが目立つ騎士に困惑を示したのだ。

しかし、何時までも頭を下げられていたらこちら側が堪ったものでは無い。あたふたと慌てながらも、シエルがそこを指摘した。


「と、取り敢えず顔を上げてください!確かに気になったけど、貴方のようなお方がいらっしゃると分かっただけで充分ですから」


尚も励まし続け(?)、漸く顔を上げたローム。一行はほっと一息。


「………」


しかし、直哉だけは浮かない表情をしていた。どう考えても違和感しか浮かばなかったからだ。

冷静に考えてみると、団長のみが礼儀正しいと言う事がおかしい。こんなに素晴らしい見本に率いられている騎士団なら、兵士達──騎士と呼ぶのさえ憚られてしまうような──も自然と自分を戒めるだろう。

それに、深紅の瞳の奥に、先程述べた内容とは一線を画す目的が潜んでいるような気がしてならないのだ。それは直哉個人の推測だが、確信に近いと踏んでいる。


《うん………何かあるな、コイツ》

『確かめてみりゃー良いんでねーの?』

《それもそうだな》

『え?何の事──』


シエルの質問を遮るように、ここで一つ確かめておこうと行動に出た。


「取り敢えず、ここでのんびりしてる時間は無いんじゃない?〝ベクターさん〟も待ってるんだろうから、急いで向かうのが得策だと思うんだけど?」

「「「「「「「?!」」」」」」」

「っ──」


直哉の台詞に、エアレイド王国一行が固まり、ロームが息を呑んだ。国王を敬意の込められていない〝さん付け〟で呼んだのだから、当然と言えば当然だ。

運が良くて打ち首、悪ければ敵対国と見なされてしまう程の無礼だ。


「ばっ、ナオヤ、何を!?」

「ナオヤ?どうしたの?!」

「あわわわわ………」


エアレイド王国一行が三者三様に慌てふためくのをスルーし、直哉は感情が籠っていない無表情な眼差しをロームに向けた。感情を込めなかったのは、相手に余計な推測をさせるのを防ぐためでもあり、単に無意識の成せる技であったとも言える。


「………」


驚いたような表情を浮かべ、ロームは直哉を見つめ返した。

睨み合う二人の間に険悪な空気が流れ(実際にはそんなつもりは無いが、エアレイド王国一行視点だとそうなる)、空気が重圧を増したかのような錯覚に一行が襲われ出した時、ロームがくすりと笑いを溢した事でその雰囲気は払拭された。


「………それもそうですね。〝ベクター様〟を待たせるな、と重鎮の方々にも念を押されていますし、先を急ぐとしましょうか。………そう言えば貴方、お初にお目に掛かりますが………お名前は?」「神崎直哉。記憶喪失だったらしいが、それすら覚えていない能天気な野郎さ」

「珍しい名前ですね」

「それが正しいのかすら覚えてないけどな」

「しかし、現在の環境には恵まれているようで何よりです」

「確かに恵まれてんなぁ」


後に聞いた話だと、どうやら騎士団の編成により団員の入れ替えがあったようだ。しかし、その事実よりも衝撃的な現実の方が影響力が高く、エアレイド王国一行はそれを訊ねるのすら忘れてしまっていた。

対するロームは、前にエアレイド王国一行が訪れた時にある程度の顔を覚えていたらしく、そんな中で見掛けた事の無い直哉がいたから〝お初にお目に掛かりますが〟と言葉を発したらしい。しかし、それが本心なのかすらも疑わしいな、と直哉は心の中で苦笑いした。


優しい光を湛えた瞳には、直哉を疑う光がありありと混ぜられていた。


「取り敢えず謁見の間に向かいましょう。謁見や滞在手続きを済ませてから、大雑把なご案内をさせて戴きます」


踵を返して通路を歩き出す直前のロームの目に、期待のような不思議な感情が滲んでいた事に気付かずに付いて行くエアレイド王国一行の中で、直哉だけがそれについての見解を幾つか浮かべていたが、歩くにつれ周りからの視線も集まるようになり、集中していられないために中断を余儀無くさせられた。


特大サイズの疑問符を頭上に浮かべつつ、嵐の前の静けさのような良く分からない胸騒ぎに、直哉はただ首を傾げる事しか出来なかった。

GBAのティウンティウンティウン4よりネタを拝借しました。


懐かしいなぁ………。

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