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第六十輪:脱出

記念すべき六十輪は短めな内容に!

時間が無かったんです、と言い訳………prz

合流した直哉を馬車に乗せ、一行は再びセンティスト王国に向けて馬車を走らせた。守り神によって大幅な時間のロスを喰らってしまったので、そのペースは早めだ。


「お前等頑張れよー、もう少しの辛抱だからな」


御者台に座るアリューゼが馬に励ましの言葉を投げ掛けたが、馬はそれを全面スルーで黙々と走り続けた。


守り神がいなくなった今、馬に掛かる負担も大したモノでは無いようだ。普段よりは厳しいようだが、先程と比べたら雲泥の差だ。


そんな馬達の行動に落ち込みつつ、アリューゼは首を後ろへと向けた。


「………本当にアイツがやったのかなぁ………?」


疑いの眼差しの先では、号泣する直哉が床の上で正座していた。


「ぐすっ………うぇえ、怖かったよぅ………」

「よーしよし、もう平気だからねー」


漆黒の服の袖で涙を拭う直哉をあやすのは、アクシデントからすっかり立ち直ったシエルだ。

因みに、不慮の事故について知らないアリューゼは、シエルの立ち直りを「体調が良くなったんだな」と受け止めている。


直哉の頭をぽんぽんと撫でつつ、眠っていた時に感じた魔力と、先程から揺れる馬車、そして無惨な姿を晒す街道を踏まえ、これも直哉がやらかした事かと苦笑いを溢した。


『後で注意しなきゃね』


シエルが心の中で呟いた言葉は、泣きじゃくる直哉には聞き取る事が出来なかった。









暫くすると、割かし整った街道が現れ、馬も漸く本調子だと言わんばかりにペースを一段階上げた。走りは荒っぽくなったが、その分街道が落ち着いたので、先程よりも揺れは少ない。


「いやぁ、死ぬかと思ったよ」

「守り神だっけ………そんなに強かったの?」

「いや、迷子になった事がさ」

「………」

「何だ、その頭の無事を疑うような眼差しは」


まだ目元の赤い直哉だったが、涙は止まったようだ。アリューゼの隣に座りつつ、膝の上に乗ったシエルの頭をタッチしていた。それは直哉にとって最上級の癒しを提供してくれているらしい。シエルもシエルで乗り気だったので一石二鳥だ。

何かシエルが変わったような気がしなくは無かったが、気のせいだと割り切って会話を振った。


「そーいやさ、センティスト王国ってどんな所なの?」


気になった事を訊ねると、再び嫌な予感に襲われた。背筋にドライアイスを塊で宛がわれ、溶け切るまで放置されたような感じだ。


『止めろ、そんなはっきりしない予感なんざ忘れろ!ろくな事が起こる気がしねェ!』

《お前にだって予感浮かんでるじゃねーか、「ろくな事が起こる気がしねェ」ってさ》

『ぐ………っ、そりゃ、日常の経験からだな──』

《俺がトラブルメーカーみたいな言い方すんな!これでもまともに生きてるつもりなんだぞ!》

『無自覚だと………?こいつ、出来る………ッ!!』

《てめ──》

『そもそもだ、お前を基準に世の中を見てみろ。〝ゴリマッチョに囲まれて、悪の組織を憐れなまでに崩壊させて、挙げ句の果てに化け物を抹消した〟お前を基準に、だ。通りすがりの人を刃物で刺すのなんて日常茶飯事、頭がイカれてんのが常識、町には定期的にドラゴンが襲撃をしに飛来し、笑顔で喰われるような奴等がゴロゴロ──』

《止めろ、止めるんだ!何か色々と悲しくなるから止めるんだ!いやむしろ止めてください!》

『『………』』


沈黙が二人分なのは、ウィズの沈黙にシエルのそれが合わさったからだ。シエルに至っては、横目で直哉をジト見している。


「や………止めろ、止めるんだ!!うわぁぁぁぁ!!!」


耐え切れなくなった直哉が頭を抱えて喚き出した。シエルとウィズが同時に邪悪な微笑を浮かべ(ウィズは心の中で)、直哉に向ける。

同時に、アリューゼが心臓を押さえつつ、直哉を憐れみを十二分に含んだ眼差しで見つめた。


「………シエル様、一度コイツの頭に強力な治癒魔術を施すべきでは?」

「それも考えておきましょうね………うふふ」

『シエルちゃん、かっけー』


シエルの返事を受けたアリューゼは、少しばかりシエルがおかしい事を感じ取ったが、病み上がりのクレイジーテンションが持続しているモノだと無理矢理割り切った。

それよりも──


『………この悪寒は………』


──〝二人分〟の悪意を身近に感じ、腕を鳥肌が覆っている事が問題だ。

言うまでも無いが、それはシエルとウィズが結託して直哉を弄り出した事により溢れたモノだが、当の本人らに自覚は無い。しかし、アリューゼからすると、それがまるでいつの間にか晴れていた濃霧のように纏わり付いているのだ。


『シエル様から感じるのは………気のせい………だよな………?』


冷や汗を一筋流しつつ、発狂している直哉を一瞥した。もしかしたら、この異様な悪意に毒されたのかも知れない。


『いやいや、大丈夫だ。俺はまだ大丈夫な領域な筈だ』


頭を切り替えて、自分もこのおどろおどろしい雰囲気に呑まれないように努力するアリューゼ。直哉は元からおかしかったんだと自己暗示を掛け、自分だけでも落ち着いておこうと努めて努力しようと決心した。


乾いた笑みを顔に貼り付け、何とかその場を堪え忍んだアリューゼであった。









それからは魔物の襲撃も無く、あっさりと影縫いの森を抜けてしまった。入った時は異様な重圧を感じたが、出る時はそうでも無く──寧ろ「あぁ、こんなちっぽけなモノだったったんだ」と感じてしまう程普通だった。


アリューゼは後ろを振り返って、誰もいない車内に赤い光が降り注いでいる事に気付いた。

空を見上げると、美しい茜色に染まる空が広がっていた。点々と浮かぶ雲が燃えているかのように輝き、ゆっくりと茜色の空を漂っている。のんびりとしていて、尚且つスピーディーな光景だ。


「やっと抜けたんだなぁ」


危険を孕む森から出れたからか、肩から力が抜けるのを実感した。今すぐベッドにバタンキューしたい衝動に駆り立てられたが、今は隣で寝息を立てる変態とお姫様を護衛するのが優先だ。

しかし、日が落ちる前に野営を張らないと後々面倒な事になってしまう。森を抜けたからと言って安全と言う訳では無く、魔物やならず者が蔓延っていてもおかしくは無い。平坦だが林が目立つこの辺りでは、その危険性が顕著に表れている。


少しずつ日が落ちていき、先程とは打って変わって薄暗くなった。夜の帳に閉ざされる前に野営を張るため、アリューゼは馬車を停車させる。つられて騎士達も停車した。


「今日はここいらで野営を張るぞ。も少しでセンティスト王国に着くから、それまでの辛抱だ」


流石に疲労の色を隠せない騎士達を憐れんでか、アリューゼは励ましの言葉を投げ掛ける。それに苦笑いを返し、騎士達はいそいそと野営の準備に取り掛かった。


小さな溜め息をつくと同時に、隣でシエルを膝に乗せた直哉が大きな欠伸をした。


「ふぁぁ~………良く寝た良く寝た、ってもう夜か」


薄暗さに驚きつつ、周りをキョロキョロと見渡し、アリューゼと目が合った。


「あ、おはよう」

「何が「おはよう」だ………もう夜も近いだろうが」


肩を竦められてムッとしたが、その表情に疲れがありありと表れていたので深い追及はしなかった。


その代わりなのか、まだ眠るシエルを後ろのベッドに寝かせ、馬車から出た。そのまま魔力を練り上げ始めたのを感じた数人の騎士達が手を休め、何事かと直哉を見た。

そんな視線も気に留めず、直哉は目を閉じた。そして、瞼の裏に巨大な砦をイメージ。


暫くすると、直哉が再び目を開いた。その左目には茶色の六芒星が鈍い輝きを放っていた。


「マテリアライズ!」


口走った刹那、目の前の空間が真っ白な光を放った。暗さに慣れてきていた騎士達が目を覆い、それでも堪え切れない明るさに呻き声をあげた。


「う………」

「くっ、何なんだ?」

「ご乱心か?!」


各々が口々にぼやいていると、徐々に光は消えていった。そして、目を覆っていた手を退けて愕然とした。


「「「「────」」」」


目の前には、巨大な砦があったのだ。今ここにいる騎士達を全員収納出来るくらいの大きさで、小さな窓が沢山空いている。


騎士達が呆然とマテリアライズ砦を眺める中、直哉はアリューゼの肩に手を置いた。


「個室もあるし、ゆっくりできるだろ?今日はのんびりまったりしてくれ」


風呂は後で何とかするからと言い残し、直哉は馬車の中にいるシエルの元へと向かっていった。


「あーさでーすよー」と言う気が抜けてしまいそうな声を聞きつつ、アリューゼは深い溜め息をついた。


「野営の王様め………」

この「マテリアライズ」ってのも、某戦乙女様の手下召喚ゲームから引用しております。

あのゲームは神です☆

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