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第六輪:お風呂

新年明けましておめでとうございます!ついに明けました2010年、早くも鬱になりそうです…

今年もきさらぎと『一寸先はお花畑』をよろしくお願いしまっす!

やぁ、俺だよ俺、直哉だよ。


部屋で寛ぐ前に風呂に入る事になった。和のこころを持つ直哉にとってご馳走以上の価値があった。


筈だった。


…何故か前を歩くシエルとセラから変な威圧感を感じる。

それに、何故か強調されてた節が気になってしまう。


心の底から沸き上がる謎の恐怖心を解析しつつ、直哉はある疑問にぶち当たった。


「そーいや、着替えとかどーすりゃいいの?」

「此方で用意しますね」

「そりゃ助かる。何から何まですまんねェ」

「いえいえ、メイドですから」


因みに、受け答えに応じているのはセラである。いつの間にか並んでいた。

シエルは……振り向く事無く、ぶつぶつ呟いている。

試しに歩を止めてみる直哉とセラ。すると何故だろうか、シエルも足を止めた。が、呟きは止めない。


「………どうなってんの?」

「………さぁ」


など話していると


ギュルッ!


…シエルが振り向いた。

顔の赤さが異常である。オーバーヒートしてそうだ。


「イカナイノ?」

「「行きます」」


言葉まで狂ってしまったシエルに、戦慄する二人であった。


「…しかし、もう分からなくなったぞ…」

「ふふ、毎回連れてきて差し上げますよ」

「さ、流石にそりゃ悪いわな」

「いえいえ、メイド――」

「………」


シエルの無言の圧力が飛ぶ。続く言葉を言えないセラ。

ところで…何でシエルはオーバーヒートしてるのだろう。


「……なぁ、シエル」

「ハイ?」

「どうして真っ赤なの?」


…聞いてしまった。


「え?いや、その、べ、別にセラに混浴勧められたから興奮とかしてる訳じゃなくて――」

「止まれ」


一同の足が止まる。直哉は正面を見据えたまま、セラはビクッと震えながら、シエルはとうとう熱暴走を起こして。


ギギギギギギ…と音を立てながら、首から上"だけ"をセラに向ける直哉。着○アリのワンシーンのようである。見えない細い腕が力尽くで回してるのでは無いだろうか。

そして、セラに向けて"夢の中で電気系ねずみが降ってきながら浮かべたえげつない笑み"を再現してあげた。シワの数までピッタリと言う拘りぶりだ。


『やるな…』


電気系ねずみの感嘆の言葉は、聞こえなかった事にした。


「どういう、ことかな?」

「どゆことですかね~」


目を逸らしながら答えるセラ。こいつ…


「はぁ…まさかそんな魂胆があろうとは……」

「…テヘッ」

「テヘッじゃねぇよ」

「だってぇ~!」

「だってもかってもねぇ!」

「で、でもナオヤ…お風呂ではメイドに服を脱がさせたり、洗わせたりするのが普通ですよ……それに、その為に大型のお風呂にしたんですよ…」

「俺は一般庶民だ」

「私が認めません」

「拒否権を行使する」

「姫様権限を行使します」

「それでも俺はやってない!」

「何をですか!」

「いやだぁぁぁぁぁ」

「なにがぁぁぁぁぁ」

「………」


コントに発展したやりとりを、セラは苦笑いしながら眺めていた。

これの矛先が自分を向いていたと思うと…ぞっとする。


「ふー…ふー…やるな……」

「はぁ…はぁ…ナオヤこそ……」


…一段落ついたみたいだ。

お前やるな、いやお前こそ…そして芽生えた友情。みたいな流れかと思ったのだが……。


「一つだけ聞こう」

「何でしょう」

「身体を包む布みたいなものは――」

「あるに決まってるじゃないですか!!…まさか、無いことを期待して…ナオヤ……」

「んな訳ねーだろ!」

「酷い……ただお風呂に入りたかっただけなのに、そんな風に見てたなんて……」


出た、シエルの涙目赤面上目遣い攻撃。

ぷるぷる震え、縮こまる要素がプラスされている。こうなると直哉は太刀打ち出来ない。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」


瞬時に土下座し、地面に頭を打ち付ける直哉。端から見たら恐怖しか抱かない。

そんな直哉を見て、目を擦りながら口元を歪めて笑うシエル。


「………」


そして、もはや何も言えないセラ。


シエル>>>セラ>>>[越えられない壁]>>>直哉


この方程式が成り立った瞬間であった。

…何処の世界でも、男は弱者のようだ…。





「着きましたよ、ナオヤ」

「ここが…」

「お風呂です。王族やその側近専用ですが」


外見は銭湯のようだ。暖簾のれんが垂れている入り口は、それを彷彿とさせる。

しかし、構造が分からないから…迂濶に入るのは――


「ちょっと待て」

「「ふぁっ?!」」


笑顔で入っていくシエルとセラの肩を掴む。何回聞いても可愛らしいと思う悲鳴が帰ってきた。


「中は…混浴なんだな?」

「は、はい…そうですよ」

「それはつまり、混浴なんだな?」

「何で繰り返したんですか」

「重要な事だからだ」


…覚悟を決めなければならないようだ。


「……見るなよ」

「「………」」


警告するナオヤに、やっぱり変わってると思うシエルとセラだった。





直哉の心配は即刻解消された。


脱衣場から浴槽まで直通で、衝立のようなモノが無いと思っていたのだが…

実際は…入り口に入るとすぐに男女別に分かれ、それぞれが別々の場所で着替える事が出来る造りだった。本物の銭湯にそっくりだ。

が、メイドに服を脱がせたり、身体を洗わせる、とシエルは言っていたような…。

…意味無いじゃん。


室内を確認し、身の危険(主にメイド)が無い事を確認した直哉は、備え付けの布を装着し、恐る恐る浴室へ足を踏み入れた。


中は天然の露天風呂っぽくなっていた。人工的な部品が見当たらないのだ。壁は土で出来ていて、一部に穴が空いていて……換気窓かと思われる

そして幸いな事に、石で囲われた浴槽はともかく、浴室にすら人がいないようだ。


直哉のボルテージがぐんぐん上昇する。

不意に浴槽へ向けて駆け出し


「ヒャァーッハァァァ!」


奇声をあげながら飛び込んだ。

この露天風呂、場所によって深さが変わり、子供から大人まで入浴出来る安心設計になっている。因みに、底はしっかりと加工済みであった。浴槽は言わずもがな、とんでもなくでかい。一辺15m程の正方形だ。


直哉は一番深い所…だいたい1m位の所へ行き、ばしゃばしゃし泳ぎ始めた。


そこへシエルとセラが来た。当然布を装備している。二人は直哉を見て顔を見合わせた。


「ナオヤ、お風呂は如何ですか?」

「サイコーっす!」

「さいこ…?」

「とーってもいいねって事!」


相槌を打ちながら、直哉は疑問を抱く。


《どの言葉も理解されてる訳じゃ無いんだな》

『俺様も初耳だな』

《そか………ってか、何で言葉通じるん?日本語話してるはずだよな俺》

『勇者補正じゃね?』

《勇者補正って便利だな》

『直哉に身体的な力と魔術的な力、さらにコミュニケーション能力に鈍感さを授けてくれたな』

《最後のが気に入らん。誰が鈍感だこんにゃろー》

『ナオヤしかいねーだろ』

《ごもっとも…って、前も鈍感っつってたよな…そんなに鈍感か俺》

『ですね』

《即答かよ…》

「ってぶわっ?!」


電気系ねずみと脳内討論をして、手足を動かすのを忘れていた直哉。沈んでいたことに気付かなかったらしい…肉体的にも精神的にも鈍感だった。


「「あはははははっ」」

「………」


シエルとセラに笑われた直哉は、ちょっぴり恨みを込めた上目遣いで睨んだ。


そして、シエルとセラを直視してしまった。


シエルはローブ、セラはメイド服を着ていたが、今は薄い布しか身に付けていない。

女性らしいラインがくっきりと表現されている。華奢な肩や脚は露出していて、雪のような肌が覗いている。特に胸…閑話休題邪念退散南無阿弥陀仏。


「……今、ナオヤから邪念を感じました……」

「キノセイジャナイ?」

「(ニヤニヤ)」


核心を突かれ、棒読みになる直哉。シエルは邪念こそ感じたものの、何を考えてるかまでは分からなかったらしい。セラに至っては見抜いたのだろう、ニヤニヤしている。


気まずい空気が流れてきた。話を逸らすために、直哉は新しい話題を持ちかけた。

「ととっ、ところでさ、ふ、二人は風呂に入らんの?そこにいたって寒くなるだけじゃね?」

「それもそうですね、入りましょうか、セラ」

「そーですねー」


セラ気の抜けた(悪意の籠った)返事が帰ってきて、シエルは浴槽に足から入るのだった。もじもじしながら入ってくるのを見て、直哉が顔を凄い勢いでお湯に叩き付ける。そんな直哉を見ながら、セラは飛び込む。


「?!」

「きゃっ!」

「あははははは!」


とばっちりをダイレクトに喰らい、びしょびしょになるシエル。濡れた金髪が艶やかに輝く。


そんなシエルに、セラが耳打ちをする。


「そう言えば、シエル様」

「なに?セラ」

「ナオヤ様の左手、切り傷がありましたよ」

「大変!治さないと…」

「?」


もちろん直哉には聞こえない。


不意にニヤリ、とセラが微笑む。シエルは直哉を見据え、ちょっぴり不安そうな顔をする。

そして――


「?!」


血迷ったか、シエルは直哉に向かって近付いてきた。

直哉とシエル達はちょうど対角線にいた。直哉は壁を背にしていて、背後には逃げれない。右に逃げるも左に逃げるも、それに合わせてシエルも移動する。要するに、絶体絶命。


ついに直哉にたどり着いたシエル。息を切らしながら、左手にすがり付く。そして上目遣いを向ける(本来は左手を見ているのだが、直哉にはそう見えた)。


《う……》

『シエルちゃん、やるな…』


短く早い息遣いが聞こえる。吐息を腕に感じる。湿った髪はとても妖艶で、艶やかな唇はとても可愛らしく、(お湯で)潤んだ瞳は直哉を見据えて離れない。そして、身に纏っている布はお湯で湿り、肌にぴったりと貼り付いている。

いつもの弄られシエルとは違う雰囲気が漂う。直哉の心臓の鼓動が数倍の速度になる。


「ナオヤ……」

「シエル……」


見つめ合う二人。鈍感な直哉も、ここまでされて気付かないほど落ちぶれて無いようだ。

少しずつ近付いてく……かと思いきや


「……左手、大丈夫ですか?」

「……へ?」

「切り傷があるって、セラが」

「『………』」

「あは、あははは」


電気系ねずみも沈黙した。

セラも、あそこまで行って打ち明けるとは思って無かったようだ。


正面で縮こまるセラを、直哉は絶対零度の視線で見据える。


左手の散策を終えたシエルは、傷が無い事に疑問を抱く。


「ナオヤ、傷――」


そこまで言うと、直哉がセラを冷たすぎる視線で見据えてる事に気付いた。


「――!!」


そして、気付いた。

セラが言った切り傷など、最初から無い事に。


直哉とシエルが纏うオーラが黒くなっていく。セラは恐怖で目を見開き、がたがたと震えている。腰が抜けて動けないようだ。


「シエル、お湯から出てて」

「はい」


言われた通りにお湯から出るシエル。とても色っぽかったが、直哉もシエルもそれどころじゃなかった。


不意に、直哉が右手拳を天井へ向けて突き上げ、開く。すると、中には黒紫色に輝く球体があった。そう、雷球だ。サイズからして加減しまくっているようだ。


そして、お湯に向かって右手を振り下ろし、叫ぶ。


「天誅ゥゥゥ!!」

「ごめんなさいいいいい!!」


刹那、セラの悲鳴とビリビリビリビリ…と言う効果音が風呂場を満たす。


直哉には電気系ねずみより授かった稲妻耐性があるが、セラには無い。

案の定、セラはマグニチュード8位の地震を、自らに醸し出させていた。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

「ふぅ…これでもう大丈夫だろ。シエル、セラをお湯から出してやってくれ」

「はい!」


シエルは嬉々とした返事を返した。


直哉は先に風呂場を出て、備え付けのタオルで身体を拭き、いつの間にか準備されてた水色のガウンのようなモノを着た。

途中、風呂場から「うわぁぁぁぁん!」とか「きゃっ?!」とか聞こえたが、何も聞かなかった事にした。


少し待つと、シエルとセラも出てきた。

直哉のモノとは少し違うピンク色のガウンを着ている。ちょっとぶかぶかだが、それがまた可愛らしい。


セラは直哉と目が合うと、ビクッと肩を震わせる。やりすぎたかな?とシエルに視線で尋ねてみる。シエルは満天スマイルで首を横に振る。それを見て安心した直哉は、セラに言う。


「もうすんなよ?」

「ひゃいっ!もーひまひぇん!」

「………」


かなり噛みまくりだ、よっぽど怖かったらしい。

でも、これでしばらくは落ち着くだろう。


「んじゃ帰りますか。眠くなっちまったし」

「はーい」

「ひゃいっ」

「落ち着けよ、セラ…」


不安になる直哉を余所に、セラとシエルは先を歩く。直哉もついていく。


あっという間に客室に着いた一行。ドアを開け、直哉を中に入らせる。

セラも落ち着いたらしく、シエルと並んでいる。


「朝食の時間になったら起こしに来ますね」

「ありがとさん。んじゃ、おやすみ」

「「おやすみなさい」」


バタン、とドアが閉められた。

シエルが起こしてくれるらしい。いい娘だなぁ、と直哉は思った。


疲れたし寝ようと思った直哉は、ベッドに行く前に窓際に寄っていった。


そして、窓から見える夜景に目をやる。時間にしたら午後十時位だろうか、城下町の明かりは所々にしか灯っていない家によるモノだ。


窓を開け、首だけを外に出し、空を仰ぐ。元の世界じゃ見る事も出来ないような星の海が広がっていた。

見とれながら、心の中に語りかける。


《お前の世界は何処にあるんだ?》

『さぁな…ずーっと遠くにあるとしか分からねぇや』

《そっか…お前は寂しくはないのか?》

『寂しくない訳じゃねェ…だが、今も悪くはねェな』

《奇遇だな、俺もだ》

『……一心同体ってのも悪かねェ』

《嬉しい事言ってくれんじゃねーか》

『ハハッ…も一つだけ言えることがある』

《なんだ?》

『まだ俺様が俺様の世界にいた頃…ただ下界を眺めてるだけだった。力を使う機会もなく、ダチもいねぇ…たまに人間界に降りても、誰にも見えねぇ』

《………》

『だが、ナオヤだけは違った。何故か俺様が見えるし、一心同体にもなった。面白そうな異世界にも来れたし、ナオヤが力を使う事はつまり、俺様が力を使う事にもなる。痒い所に手が届いたって訳だ』

《なるほど》

『今まででこんなに面白ェ事は無かった。だから、ナオヤには感謝してるぜ』

《お前…良いヤツだな…》

『訳が分からん』


直哉が笑う。つられて、電気系ねずみも笑う。


《…まぁ、これからも宜しく頼むぜ、ウィズ》

『ウィズ?』

《お前の名前だ、今思い付いた。いつまでもお前じゃ申し訳無いからな》

『ほぉ…』

《因みに、俺の世界で"一緒に"とかって意味があるんだぜ》

『なるほどな。気に入ったぜ、ナオヤ』

《そりゃよかったよ、ウィズ》


電気系ねずみ改めウィズと名付けられ、喜んでいるウィズを見て、自分も嬉しくなる直哉であった。

自分の部屋に帰ったセラは、今日の事を思い返していた。


「あそこまで上手くいったのに…うーん、次はあれをこうしてああすれば……」


懲りて無いようだ。

意地でもシエルと直哉をくっ付けたいらしい。


「…ナオヤ様…今日の借りは、いつか返しますからねぇぇー!」


決意を堅くするセラであった。

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