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第五十九輪:守り神の最期

二話で死んじゃう守り神に合掌!

湖の反対側に辿り着いた直哉は、馬車の姿が見えなくなった事を確認して安堵の溜め息を洩らした。


《ふぅ………これで大丈夫だろう》

『まだ大丈夫じゃねェぞ』

《おっと!………まだ、って?》


念話をしている最中にも化け物の攻撃の手は休まらず、直哉はそれらを器用にかわしながら聞き返した。


『ナオヤが動けばコイツは追い掛けて来るだろ?どうやって戻るつもりだ』

《そりゃあ──》


自分を影が包み込んだのに気付いた直哉は、バックステップでその場から離れた。同時に、化け物の顔が地面に突き刺さった。

それに駆け寄り、妖刀村正を真一文字に一閃。唸る稲妻は、化け物の首を綺麗に引き裂いた。


そこから噴き出す体液を回避するべく、直哉は再び湖に沿って走る。


「──コイツを倒してからだ!」


首が一つ減らされた化け物は、聞くだけで背筋が凍りそうな悲鳴をあげた。そして、湖の周りを矢鱈滅多に叩き潰し出した。

直哉が狙いでは無く、湖の周りを粉砕する事が目的のようで、先程よりも避けにくい不規則な攻撃に、直哉は顔を顰めた。


《キツそうだけど》

『そりゃそうだろう………攻撃系魔術が使えないんだから、接近で片付けるしか無ェし』

《くっ………っと、危ねぇー………こんにゃろう!》


悪態を付きつつ、身近に迫っていた首を斬り付けた。今度は切断にまでは至らず、首もくっ付いたままであった。


「アァァァアアアァアアァアアアアァァアアアアアァ!!」


それに激昂した化け物は、再び直哉に集中攻撃を浴びせ掛けた。攻撃する度に体液が撒き散らされ、周りの土がそれを吸い込み、少しずつぬかるんでいく。

足を滑らせないように注意しつつ、直哉はウィズに意見を仰ぐ。


《………現世のゲームの中にさ、こんなのいた気がするんだ》

『ほぅ………成る程、そこを突くのか』

《試してみる価値はあるだろ?きっと何とかなるよ、うん!》


作戦が浮かんだ所で、それの遂行のために邪魔な化け物を減らす事にした。湖沿いから助走を付けてジャンプし、湖の真ん中らへんの化け物の頭に乗る。上を向いて口を開かなかった事に安堵しつつ、意識を研ぎ澄ました。

少しすると、すぐ後ろに気配を感じた。その瞬間に頭を強く踏み付け、湖岸に向けて跳躍した。


その直後。




グシャッ




「っ~~~!!」


生々しい音が響き、何かが滝のように滴る音が聞こえた。振り返らないようにしながら着地──しようとしたが、動揺からか、足を滑らせて盛大に転び、勢い余って地面を転がっていった。

倒れた木に頭をぶつけて漸く回転が止まったのは幸いだが、その体勢が正面に湖を捉える形だったのは不幸だった。


「うぇ………」


そこには、化け物の頭を貫く化け物が、口を上下に動かしていると言う地獄絵図が広がっていた。離れているのに、それが咀嚼を繰り返す効果音が生々しく響いてきた。

そして、本来なら左右に裂けた口の中に広がる暗闇は、化け物の青白い肌が覆い隠していた。


分かりやすく表現すると、地面と水平に伸びた化け物の頭を、真上から別の化け物が貫通して、ちょっとグロい十の字を形成しているのだ。


頭を貫かれた化け物は、びくびくと痙攣しながら、頭を貫いている化け物の身体を青く染めている。貫いている化け物はそれが直哉だと思っているのだろうか、嬉しそうにクチャクチャと耳障りな音を立てた。


そのまま暫くして、化け物が頭を引き抜いた。貫かれた化け物は水飛沫に自分の体液を混ぜ、湖の底へと沈んでいった。

もうあの水は使えないなと苦笑いすると、化け物の動きが止まった。


《お?》


──良く見ると、止まってはいなかった。蠢いていた化け物がゆっくりと直哉に口を向け、そのまま固まったのだ。


「とぅ!」

『ばっ、待て──』


今がチャンスなのかと思い、頭をぶつけていた木を足場に跳躍した刹那、膨大な魔力の流れを感じた。

発生源は、目の前に迫る二匹の化け物。良く見ると、片方の口の部分には水が集まり、渦を巻き、もう片方の口の周りには直径10cm程の水球が、数え切れない程浮いていた。


嫌な予感が背筋を撫でると同時に、水球を浮かべた化け物が咆哮した。すると、水球は細長く伸び、円盤状の鋭利な鎌鼬へと姿を変えた。そして、それらが直哉に向けて全弾射出されたのだ。


『馬鹿野郎!ちょっとは落ち着けってママに習わなかったのか!』

《チャンスは逃すなとは聞いてるわい!》


喰らってしまったら流石にキツそうだったので、咄嗟に練り上げた魔力で結界を張る。


「リフレクト・ソーサリー!!」


掛け声と共に薄緑色の結界が張られた。結果と言うより、防御壁と言った方が近いかも知れない。

包み込むような立方体では無く、厚みを持たせた正方形の形をした防御壁。周りからの攻撃は防げない分、正面からの攻撃に対する耐性は高い。


鎌鼬が防御壁に当たった瞬間、それは完全弾性衝突を起こし、直哉の魔力をプラスした上で化け物に向かって飛んでいった。

──しかし、防御壁もただでは済まなかった。ヒビが入ったのを見て、直哉は僅かに青ざめた。


「オオァアアアオオォォオアオアアア!」


鎌鼬に身を裂かれて絶叫する化け物を余所に、今度はもう片方の化け物が巨大な水球を直哉に向けて放った。至近距離だった事もあってか、威力は絶大で──


バリンッ!!


「んなっ──ぅぁぁぁあああああ!!」


──水の渦に砕かれた防御壁が霧散する中、直哉は渦に巻き込まれ、上下左右有りとあらゆる方向にぐるぐると回され、水圧を身体中に押し付けられ、そして地面に背中から激突した。


「ぼへみぁ!」

『もうちょっとマトモな悲鳴は無ェのか………』


そこまで心配そうな反応をしないのは、今のが直哉にとって大したダメージとはならなかったからだ。渦には小さな鎌鼬がふんだんに盛り込まれていたりもしたが、コラーシュに支給された漆黒の服により、鎌鼬は無効化され、圧力・落下の衝撃が大幅に軽減されたのだ。


なので、今の化け物の魔術〝は〟大した事無く遣り過ごせた。

だが──


「これが俺に出来る唯一の──っ、くそっ、どう、やって、引き摺り、出せば、良い、んだ………はぁ………きっつ………」


──直哉は防御魔術を使用したのだ。その反動が身体を襲い、魔物の群れを相手取った時程では無いが、気だるさと息苦しさに襲われていた。


くらくらと回る視界の中、何とか立った状態を保つ直哉は、先程とは違う形の数え切れない量の水の塊を作り出す化け物を見てしまった。

塊は直径50cm、長さ2m程の円柱形で、それらが化け物の正面にずらりと並んでいるのだ。少しすると化け物が唸り、それに伴って円柱は姿を変え、直哉に穂先を向けた槍となった。


「ウゥゥヴヴヴ………」


槍は化け物を中心に間隔を広めていき、広い範囲を覆った。直哉と化け物の間に槍の壁があると想像してくれると分かりやすいかもしれない。


「ヴヴヴァァアアアア!!」


再び咆哮したかと思うと、槍がランダムに飛来してきた。


「くっ………っつつ、いってぇ~………」


喰らったら服に穴が空いてしまうであろう事を警戒し、それらを辛うじて避ける。しかし、流石に全弾回避は厳しかったようだ、腕を掠めたり足に刺さったり(当たった瞬間に砕けてしまったが)、痛い思いを余儀無くさせられた。

因みに、服はびくともしなかったが、直哉には痛みがしっかりと伝わっているようだ。


されるがままと言うのも気に食わないらしく、反撃に転じようと妖刀村正を構えた。そのまま走り出そうとして、先程の二の舞と言う言葉が脳裏に浮かんだ。

そこで一時停止した所に、再び水の槍が降り注いだ。気力で回避しつつ、思考を動かす。


《空中だと身動きが取れないかんなぁ………あんま動きたくないし………》

『こんな時に怠けてんじゃねェ、あんな未確認生命体の餌になりてェのか!』

《ぶぅ………》


心底ダルそうに湖岸を走る。それを追うように槍が突き刺さる。走りつつ、良い作戦は無いかと思案を巡らせた。


《せめて足場がありゃなぁ──》


湖から出っ張った異物をチラ見していると、不意に何かに躓いた。前のめりになる身体を速く走る事で無理矢理立て直しつつ、何に躓いたのかと振り返った。


「──丸太ァァアアアア!!」


化け物がへし折った木が丸太となり、その辺にごろごろしていたのだ。

それを見付けた瞬間に雄叫びをあげ、湖に向かって投げたり蹴ったり飛ばしたりし始めた。水飛沫を撒き散らしながら着水する丸太は、水面にぷかぷかと浮かんだ。


次々に丸太を投入し、湖の二割程を埋め尽くしたのを確認したので、直哉は再び駆け出した。大きく跳躍し、湖の上に浮かぶ丸太に着地。うっすらと青に染まる水面に身体が沈むのに耐えつつ、次の丸太に向かって跳躍。そのまま化け物に近付いて行き──


ザバァーン


「ふざけんなぁぁぁぁぁ!!」


──水の中(正確には直哉の足の下)から新たな化け物が出現し、直哉を伸せたまま上昇を開始した。

幸いにも鋭い牙の並ぶ口は無く、そのまま食い荒らされると言う凄惨な現実も無かったが、それでも群青の血管が脈動する光景を見た事による精神的ダメージは大きい。


暫くエレベーターに乗っている時のような感覚に襲われたが、10m程上昇し、それは唐突に終わりを告げた。

急に視界が回転し出したのだ。何があったのかと足元を見ると、口が無い化け物が下の方で伸び切ったまま固まっているのが見えた。それを見て、直哉は自分が空中に放り出された事を理解した。


《………はぁ》


下で化け物共が揃って口を開くのを視界の隅で捉え、内心で溜め息をつきながら鉛直投げ上げ運動を継続した。


そして、ある地点に達し、そこから化け物に向かって運動のベクトルを向けようとした時。


《あれ》


不意に身体が軽くなった事に、直哉は疑問符を一つ浮かべた。先程の気だるさが無い事に疑問符を一つ増やし、空中にいるからと割り切って一つ取り除き、それにしては楽になりすぎだと四つ増やした。


《滅茶苦茶楽なんだけど、なんでかな?》

『身体を巡るエレメントが活性化されてるな………まさか、上空には森の影響が届いていないのか?』


後にウィズが教えてくれたのだが、魔術を使いエレメントを消費すると、それが身体を巡る速度が著しく減速するそうだ。本来なら体内のエレメントが尽きようと生活に差し支えは無い筈だが、影縫いの森ではそうも行かないらしい。

もっと早く教えろよとぶーたれる直哉を立ち直ったシエルが慰めるのは、もう少し先の話だ。


《仮にそうだとしたら──》


試しに魔力を集め、稲妻の翼を作り上げた。大きく羽ばたかせてみて異常が無い事を確認し、


『そりゃ変わらんだろ、〝打って〟はいねェんだ』

《あ!………べ、別に?気付いてたし?!》


ウィズの突っ込みにはっとした。

気を取り直して雷球を生成し、集中。雷球は平べったく変形して行き、周りから三日月型の突起が生えた投擲武器〝L・チャクラム:クリセントエディション〟となった。


真ん中の穴に指を突っ込んでくるくると回しつつ、下の化け物を見た。待つのに飽きたのだろうか、水を様々な形の凶器にしていた。


「てい!」


そんな化け物に向かってチャクラムを投擲した。回転が生じ稲妻が溢れ出しつつ、目にも留まらぬ速さで落下するそれは、化け物の口を上下に切断しながら下降を続け、切り裂いた部分を瞬時に炭化させた。

そして、水面に着水した瞬間に巨大な爆発が発生。直哉に口を向けていたもう一匹の化け物と、まだ口が無い化け物ベイビーは、その爆風と衝撃で身体が原型を保てなくり、屑肉と化した。


バサバサと慌ただしく翼をはためかせつつ、身体に異常が無い事を確認し、ウィズの仮説を確信へと変えた。


《悔しいけどお前の言った通りだ………》

『悔しいけど、って何だよ』


ウィズから苦笑いが伝わってきたが、それに返事をする事はしなかった。

その代わりなのか、気味が悪い程の笑顔を浮かべた。


《これで形勢逆転です》


湖から出現する新たな化け物を尻目に、直哉が妖刀村正に手当たり次第に魔力を送り込むと、刃から紫微に瞬くオーラが滲み出した。それは次第に量を増やして行き、妖刀の名に相応しい禍々しさにほとばしる稲妻をプラスした訳の分からないモノを放つ。

その異常性に化け物も気付いたのか、再び水球を生み出し、それを加工した強力な渦を放ってきた。


「甘いっ!!」


それをすんなりと回避し、妖刀村正を頭上に振り上げる。同時に、オーラが全て稲妻へと転換され、妖刀村正が稲妻をそのまま日本刀の形にしたモノへと変貌を遂げた。


「でぇぇーい!!!」


それを化け物──湖目掛けて振り下ろした。


刹那、稲妻が巨大な刃雷へと変わり、化け物に〝着刃〟した。化け物は刃雷が直撃した瞬間に蒸発し、焦げ臭い臭いを残すのみとなる。

続いて湖に着刃し、チャクラムの時とは比にならない大爆発が起こった。爆発が新たな爆発を引き起こし、湖の水は一瞬で消失。代わりに濃霧となって周りを覆った。


まだ化け物が残ってるかと不安になった直哉だが、目を凝らしても抉られたような深い溝を残す湖の湖底しか見えなかったので安心した。

そのまま高度を下げていく。多少の苦しさはあったが、それも防御魔術を使った時と同じ位のモノだった。


着地と同時に翼を霧散させ、溜め息をついた。


「はぁー………アイツのせいで訳分からん効果が生まれてたんだな」


化け物を消し飛ばしてから、魔術を使った後の気だるさが薄らいでいる事からすると、あの化け物がかなり影響していた事はほぼ確定だ。


再び辺りを見渡して何も無い事を確認し、妖刀村正に込めた魔力を霧散させた。その際少し立ち眩みを催したが、倒れる程では無いので良しとした。


しかし、安心するのは早すぎたようだ。


「………馬車、どこ?」


周りを調べてみても、人影らしい人影はどこにも見当たらない。馬車影等言うまでも無く、そもそも近くに生命体すらいない(植物は除くが)。


直哉の中に焦りが生まれ、それがもたらす不安に襲われた。いてもたってもいれなくなり、取り敢えず街道を目指す事にした。


「………」


──その街道が広範囲に及び抉られているのを見て、直哉の不安は膨らんで行った。


「うぅ………みんなどこ………」


半泣きになりながらも途切れた街道を見付け、それに沿って全力で走り出した。

──この時の直哉は、自分が〝入り口〟に向かって走っている事に気付いてはいなかった。









直哉が〝元〟湖から脱兎を凌駕する速度で走り始めてから数分後、馬車に乗ったエアレイド王国一行はその惨劇を目の当たりにした。

静かになったから様子を伺いに来たのだが、あれ程巨大だった湖、そして化け物が跡形も無く消えている事に、全員は息を呑んだ。


「何があったんだ………」

「すげぇや、ナオヤ様がやったんだろうな」

「見ろよこの抉れ方、人間業じゃ無ぇよ」

「お前と一緒にすんなよ………」

「そんな事より、ナオヤは?」


飛んできたルシオが騎士達に向けて尋ねたが、全員が首を傾げるばかりであった。


「まさか、相討ちに──」

ルシオの脳裏に嫌な映像がよぎる。大口の化け物に飲み込まれた直哉が、最期の力を振り絞って自爆。その破壊力は地面に刻まれた溝が物語るモノだったのか。


顔に絶望を浮かべつつ、溝に向かって走り出そう──



「──」

「………ん?」



──としたが、人間の声が聞こえた気がしたので一時停止した。

耳を澄ますと、それはエアレイド王国側の森から近付いてきている事が分かった。

首を傾げつつ、そちらに目を向け、


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああーーーーーんっ!!!!」

「………」


それの正体を知った時、思わず絶句してしまった。

──涙で目元を真っ赤に染め、まるで駄々を捏ねる子供のように泣きじゃくる直哉だった。

どうも、落ちこぼれな筆者きさらぎです。

予備校に通ってるのですが、今日駅に行った時の事です。


ティッシュ配りA「献血にご協力ください~」

きさらぎ「ご苦労様~」


ここまでは何時もの光景。

しかし、それから異変に襲われる事に………。


ティッシュ配りB「献血よろしくお願いします」

きさらぎ「は、はぁ………」

ティッシュ配りC「皆様のご協力を~」

きさらぎ「………」

ティッシュ配りD「暖かい手を差し伸べてください~」

きさらぎ「もう良いよ………」

ティッシュ配りE「どうか──」


予備校から駅に向かう間に、ポケットティッシュが5つ貯まりました。しかも全部献血。


そんなに血を抜かれたら、貧弱な筆者は天国にご招待されてしまいますよ。


と、ちょっとした愚痴で御座いました。見苦しい文章で申し訳御座いません////




因みに、注射無理だから献血はしませんでした(ぁ

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