第五十七輪:初々しさ
他の小説を読んでいると、小説の執筆の過程を伸せているモノを何個か見付けました。
大雑把な構成を立てて、様々な視点から少しずつ肉付けをして、最終的に形を整えてetc………
この小説はその行程を踏まずに、ただ思い付いた事をつらつらと執筆しているだけなので、どう考えても見劣りしてしまいます^^;
いつか基礎からの骨組みをしっかりと立てたモノをアップ出来ればと考えてはいますが、いつになるのかは不明です。
これからも生暖かい眼差しを宜しくお願い申し上げます////
澱み一つ無い青空、目映いまでに輝く太陽、地平線の彼方へ続く一本道、風に揺られる花、そして身体を揺らす一定のリズム………
《──あれ?何ここ》
ふと気が付くと、そんな景色の中を疾風の如く駆け抜けていた。濁流のような景色の流れだが、勇者補正を授かった直哉にはしっかりと見えていた。
そして、すぐに違和感を感じた。それを確かめるために下を見ると、
《………リオン、だよな?》
『ウォウ!』
自分が真っ白に染まったリオンに跨がっている事に気が付いた。色が違ってもすぐに気付けたのは直哉の直感の影響だ。
《うぅ~ん、夢かなぁ………え?!》
頭を掻きながら正面を向いて──すぐに視線を自分に落とした。
そして、自分が剰りにもきらびやか過ぎる服装をしている事に驚いた。
赤を基準とした滑らかな上質の布に、純白の布が部分的にあしらわれ、金糸による美しい刺繍が施されている。良く見ると、エアレイド王国の国旗に施されたモノと同じような模様が刻まれている。
《ま、ましゃか………夢か?!》
ここまで来て、漸くこれが夢だと言う事を理解した。剰りにもリアルだったので、現実かと思っていたのだ。
そもそも、リオンの毛は黒だったかダークグレーだったか、それに準ずる色だった筈だ。純白等あり得ないのだ。
うんうんと頷き、リオンの頭を撫でる。嬉しそうに一吠えして応えたかと思うと、走るペースを上げた。この時、やっと流れる景色と一定のリズムの原因が分かった直哉は、鋭いのか鈍いのか良く分からない。
しっかりとしがみ付き、直哉は考えた。
《いや、だが………これじゃあ俺は、どう見たって白馬の王子様じゃねーか………》
雰囲気的にそれしか想像出来なかった。そして、それは強ち間違いでは無い──否、的のど真ん中をぶち抜いている事を知らされた。
ふと巨大なモノが視界に飛び込んで来たかと思うと、それはみるみる内に巨大化していった。リオンが走る速度を上げたのが原因だ。
眼前に佇むエアレイド王国の門は開かれ、リオンは何の迷いも無しに突っ込んでいった。
《ちょ、馬鹿、落ち着け!》
その行動に直哉は動揺を示した。今の自分の格好を見られたくないと思ったからだ。
それもそうだろう、幾ら何でもコラーシュジュニアのような格好は、そのコラーシュに認められた〝王子様〟位しか着ている姿を想像出来ない。
しかし、リオンはそれを嘲笑うかのように全力疾走し、あっという間に王宮の真っ正面に到着してしまった。
『おぉ、似合うではないか』
『素敵よ、ナオヤ──〝王子様〟って呼んだ方が良いわね?』
『白〝狼〟の王子様だぁー!』
そこにはコラーシュ夫妻にセラを筆頭としたメイド達、そして──
『あなた………』
《!!!!!》
──純白の美しく柔らかそうなドレスを身に纏い、金色の艶やかな髪に小さなクラウンを乗せた、まるで天使のような印象を与えるシエルに出迎えられた。
美しさも去る事ながら、そのセリフに不覚にもくらっと来てしまったのだ。
直哉が呆然としていると、リオンが「早く行けよ」と言わんばかりに伏せた。取り敢えず降りて、再び呆然とする。
すると、シエルが近付いて来た。純白のドレスにあしらわれた星のような宝石が太陽の光を反射し、歩く度に柔らかい光で辺りを照らす。小さなシルエットを崩さず、それでいて大人のような美しさを兼ね備えた絶妙のバランス加減の姿に、直哉は呼吸も、自分の格好も忘れて見入っていた。
そうこうしていると、俯いたシエルは自分の目の前にまで迫っていた。いつもの甘い香りが鼻腔をくすぐり、それが身体の自由を完全に奪い去った。
『私ね、貴方に助けられた時から………貴方の事ね──』
透き通る声で直哉に語り掛けるシエルは、そこで口をつぐんだ。そして顔を上げ、直哉の瞳を覗き込む。
空色の瞳の奥に、赤い煌めきが宿ったのが見て取れた。
そして、直哉にぴったりと密着し、腕を首に絡める。
『キャー!』
『シエル様、おっとなぁー!』
『いいないいないいなー』
『あぁ、シエル様ぁぁぁぁ!』
メイド達が黄色とピンクを足して2で割って二乗したような悲鳴をあげたが、シエルは全く動じない。
相手の息を感じれる所まで近付き、シエルは紅潮した頬を緩ませた。
『──ずっと、好きだったの』
直哉は完全にフリーズしていて、シエルの声が耳に入っているのかすら疑わしい状況だ。そんなのはお構い無しに、シエルは腕を引き寄せた。それにつられて直哉は前屈みになり、シエルは背伸びをする。
悲鳴や羨望の眼差し、さらにはコラーシュの溜め息やフィーナの笑顔等が飛び交う中、二人のシルエットが一つになり──
「ナオヤ、いい加減起きて!」
「やめろぉぉ、寝かせてくれぇぇ」
「………シエル様が──」
がばっ!
──そうな所を、ミーナに叩き起こされた。
幾ら夢の中とは言え、刺激的な映像だったのだ。しかも、相手の名前を言われてしまったら、嫌でも驚いてしまうモノだろう。
「どうしたの、顔が赤いよ?」
ミーナが直哉の顔を覗き込み、言葉とは裏腹のにやけた表情を浮かべながら聞いてきた。
その言葉で、自分が林檎のように赤くなってる事に気付いた。
「な、なんでもっっ!」
慌ててそっぽを向く直哉は、何かあった事を完全肯定している事に気付かない。
──ミーナの加虐心を面白いように擽った事にも。
「何でも無い割りには随分と慌ててるね~?」
「こっ………これは、そのっ──」
「ん~?どうしたのかなぁ?」
「な、な、何でも、無いったら、無い、よ!!」
「ははーん、さては変な夢でも見ちゃったのかなぁ?」
「!!!!!!!!」
ミーナが核心を突いてきた事に、直哉は誤魔化す事を忘れて驚いてしまった。
びっくりマークを八個浮かべる直哉に「しめた」と呟いたミーナが畳み掛ける。
「へぇーそうなんだー………シエル様と何したの?」
「っ?!」
「まさか、言えないような──」
「ち、違うっ!」
「言えるような事だったんだ?」
まるでその夢を一緒に見ていた、または予知していたかのような口振りに、直哉は混乱レベルを着実に上昇させていった。
《お、オイ、どうなってんだ?!まさか、全て仕組まれた完全犯罪か?!》
『………やばい、ゾクゾクしてきた』
《しっかりしろ!お前は何だ、神様なんだろ!》
『俺は………ミーナ様の犬──』
《ウィィィィィィーーーーーーーーーズッッッッ!》
そんな直哉達の念話に気付かないミーナは、直哉があわあわと慌てふためく様子に笑顔を浮かべつつ、ちらっと脅しを掛ける事にした。
「………あ、そろそろシエル様も起きるし──」
「待てぇい!」
直哉から離れて行こうとするミーナの手を掴んで引き留め、辛うじて最悪の事態を免れた(と、思い込んでいる)直哉。しかし、ミーナの金色の瞳が光の強さを増した途端、後悔してもし足りないレベルの後悔を覚えた。
先程まではあくまでもミーナの憶測だったのだが、シエルの元へ行こうとしたミーナを引き留めた事によって、そっちに行って欲しく無い──何かしらの事情がある事を行動で示してしまったのだ。
──それ以前の挙動で示していたのに気付いていないのは内緒だ。重要な事なので二度繰り返しました。
「それじゃあ、話そうか?」
楽しげに笑うミーナに抵抗出来るだけの手段・余裕・度胸は、今の直哉には残されていなかった。
夢の内容を赤裸々になりながら話し終えた直哉は、顔を両手で隠しながら仰向けに寝転がった。ぼふん、と言う小気味良い音と共に、柔らかい感触が直哉を包み込む。
「ぅーぁー!恥ずかしいぃぃぃぃぃぃ!!」
恥ずかしさを紛らわそうとしているのか、全てを否定すると言わんばかりに目を閉じ、イヤイヤ宜しく左右にゴロゴロと転がり出した。ミーナがいる前でこのような行動を取る事が十分に恥ずかしい事柄として部類されるのだが、正常な判断力を失った直哉だ、高望みはしないに越した事は無い。
『オイナオヤ、ナレーションが馬鹿にしてんぞ?』
《アーアーアーアーアー見えない聞こえない触れないーボクハナニモシラナイヨー》
『………』
──重症である。
ウィズが言葉を失っている最中も元気良く転がり続けた直哉は、右に二回、左に二回、また右に二回………を繰り返し、軽く目を回した。
そこで転がる回数を間違えてしまい、左に二回、右に三回転がってしまった。
同時に、暖かいモノを感じた。つい最近感じた事のある温もりだ。
「………」
うっすらと目を開き、
「!!!」
飛び起きた。
隣にはシエルが眠っていたのだ。二人の間は少し離れていたが、先程の夢を見た後では、いつもの事だから大丈夫と言った法則は適応されないらしい。
咄嗟にミーナを見てみると、柔らかな、且つ悪意の篭った笑顔を浮かべている。
「お主、謀っ──」
「しーっ!静かにしなきゃ起きちゃうでしょ?」
「──」
反撃に転じようとした直哉を叩き落とすミーナの無慈悲さに自棄を起こしたくもなったが、正論を言われたので反論しようにも出来ずにいた。
仕方無しに静かにベッドから降り、部屋の隅に寄った。そこで軽く溜め息をついた。
「はぁ………」
溜め息と同時に、膨大な量の後悔が流れ込んで来た。
思えば、ミーナが直哉に脅しを吹っ掛けた時からシエルは隣に眠っていたのだ。それなら、シエルの周りに魔術迷彩を施せば(長時間は持たないが)万事解決だったのだ。となると、直哉が上手く丸め込まれ、晒すには剰りにも恥ずかしい情報を無修正で大暴露してしまい、先程よりも更にシエルを意識してしまうようになった所で今のサプライズ、と言う一連の流れをミーナが作り出した事になる。
見事なまでの連鎖を喰らい、肉体的精神的にボロ雑巾にガソリンをしっかりと染み込ませ、そこに超高圧電流を流して発火させ、燃え尽きた後に生じた儚げに燻る灰を海に向かってさらさらさら~と流したレベルに痛め付けられてしまったのだ。
《俺って、いつからこんな存在になったんだろう………》
『さぁ?いつからだろうな?』《………お前から異様な興奮が伝わってくるんだけど?》
『さぁ?気のせいじゃね?』
《………?》
内心でウィズに励まして貰おうとした時、ウィズの様子がおかしい事に気付いた。
直哉が気絶してる時にウィズが念話をシエルと取り交わしていた事から、ウィズと直哉の意識が常に共通と言う訳でも無い事が分かるだろう。詰まり、ウィズはミーナと同じで、〝その瞬間〟の目撃者となっているのだ。興奮気味なのはこれが原因である。
しかし、当の本人はそれに気付いてはいない──否、知るわけが無いので、首を傾げるばかりだ。
そうこうしていると、ベッドに僅かな動きがあった。シーツが擦れるような音と共に、小さいシルエットが起き上がった。
「ふぁぁ~………」
シエルが可愛らしい欠伸をし、とろんとした目を擦る。そして、ベッドから降りたと同時に直哉と視線をぶつけた。
──因みに、直哉の顔は赤いままだ。熱が抜けなかった事も俯いていた理由の一つである。
「ナオ、ヤ………?」
そんな事も災いしたか、つられるようにシエルの顔も赤く染まっていった。そして、何故か口を手で覆って、再びシーツを被った。
「っ~~~~~!」
「………」
その行動に、直哉は本日何度目だか分からない硬直をした。ただ一人、ミーナだけが嬉しそうな笑顔だった──
『ウヘヘヘヘ………』
──ウィズも笑顔だった。
それから暫く、誰も一言も発しない、気まずい空気が流れた。鳥の囀りも森のざわめきも聞こえず、完全な沈黙が続いた。
「………ナイト様は起きたし、もう大丈夫ね」
どれ程時間が経ってからだろうか、ミーナが立ち上がってから二人に言った。そのまま馬車から出て行き──途中で振り返って、
「ごゆっくり、お二人さん」
意味深な言葉を残し、今度こそ出て行った。
「「………」」
部屋には呆然と座り込む直哉とシーツを頭から被って丸くなるシエルしかいない。
先程よりも気まずさ倍増である。
しかし、その沈黙は長くは続かなかった。
「おーいナオヤ、そろそろ飯食っちまえよ」
外からアリューゼの声が聞こえて来たかと思うと、良い匂いが漂ってきた。
まるで犬のように鼻を動かし、同時に腹の虫が泣き喚き、今が昼時なのだと理解した。
沈黙の時間は予想以上に長かったようだ。
「ん~………」
ゆっくりと立ち上がった直哉は、腰を左右に捻ってパキポキと鳴らし、シエルをどうするべきか迷った。
起こすべきか、そっとしておくべきか──
きゅるるる………
「!!!」
「………」
──起こす事にした。
ベッドに近寄り、シエルの膨らんだ部分をつつく。
「し、シエル………ご飯食べに行こう」
「………」
すると、シーツがもぞもぞと動き、シエルがゆっくりと顔を出した。相変わらず真っ赤(二つの原因から)な顔で直哉を睨んでいるのだが、見るからに可愛らしい。
ベッドから足を降ろし、ふらふらと立ち上がった。そのまま馬車の外に歩いて行って、立ち止まる。
どうしたものかと様子を伺っていると、直哉をちらっと見てから呟いた。
「内緒だよ?」
そのまま近くにいた騎士の元へ駆けて行ったシエルを見送り、直哉は今の言葉を反芻する。
《何が内緒なんだろう》
『はぁ』
──相変わらずデリカシーの欠落した直哉であった。
どこから物語を進めるべきか迷って、結局まったり?で纏めてしまった。
次話らへんから香ばしいシチュエーションを作り上げていきたいです、はひ。