第五十五輪:不可思議な力
こんな更新が滞りかけた駄作なのに、PVアクセスが400000に到達しようとしていらっしゃる…だと…?
これは光栄を遥かに超越して申し訳無いレベルです…しかも、お気に入り登録件数も増えて…もう、言葉にできましぇん////
ここっこれからもよろしくなんですよ!!!!
時間の都合で簡易なモノになった取り調べで、自白をした男がリーダーである事が確定した。
他にも手下がいるかと疑っていたコラーシュだが、小型の雷球を作り出してバレー宜しく弄ぶ直哉の前で嘘をつく程、目の前の男が〝自分の〟命を粗末にするような人間では無い事を悟ったようだ。
「──取り調べは以上だ。暫くの間、身柄は拘束させてもらう」
「寧ろそうしてくれ………でなきゃ、俺は生き延びれる気がしない」
コラーシュの言葉を受け、男は直哉を視界の隅に捉えながら肩を竦めた。
その様子を見た直哉が、雷球を炸裂させて刃雷に転換すると、男は面白いまでに動揺を示した。
「え?」
「わわっ、分かった、分かったから!そ、それを消せ!」
「それが人に物を頼む態度かなぁ~?」
「くっ………け………消して、くださ──」
「あははははははははははは」
「「………」」
悲痛の声を聞いた直哉は、刃雷を消し、顔を盛大に歪めながらお腹を抱えて大爆笑した。
流石のコラーシュも男に同情したのか、それとも直哉が狂ったと直感で感じたのか………真相は不明だが、取り敢えず可哀想なモノを見る眼差しを向けていた。
一頻り笑った直哉は、引き攣るお腹を擦りながら話し出す。
「はぁ………まぁ、冗談はこの辺にして」
そのまま男を見つめ、欠伸を噛み殺す。
「お前さ、影縫いの森について何か知らない?あ、知らないは通じないから。そう言った途端にコイツ等がお前を仕留めるぜ」
そう言って、先程より大型の雷球を作り出した。少しすると再び炸裂し、先程とは比べ物にならない程の魔力を放つ刃雷が発生した。
スフィンクスもキャインキャインと逃げ出しそうな直哉の問い掛けに、男は顔を真っ青にした。
「ま、待て!まだ何も言ってないだろう!お前は私を殺したいのか?!」
「うん」
「即答?!」
男が尚もギャーギャーと喚くので、刃雷で鼻っ面を突ついて黙らせた。
意識を失わず、且つ身動きが取れなくなるレベルの電流に襲われ、男はばたりと倒れ込んだ。
「言い忘れた。静かにしなくても仕留めるから宜しく」
「そしたらどうやって喋らせる気だ」と言う突っ込みが浮かんだが、それを口にする事はせずに黙って二人を見つめるコラーシュ。
二人との距離が離れてるのは、コラーシュの生存本能が働いたからだ。
渋々と言うのか、強制的にと言うのか、もっと的確な表現があるのか………男は冷や汗を滝のように流しながら、半分涙目で話し出した。
ガタゴトと揺れる馬車から外を覗くと、朝日が鬱蒼と生い茂る森を照らしていた。謎の曰く付きの〝影縫いの森〟に近付く直哉達は、その変な雰囲気をその肌で感じていた。
取り調べを終えると、外は夜の帷が降りていたのだ。流石に夜に森を抜けるのは危険だと言う事だったので、次の日に改めて出発したのだ。
「うわ………」
気だるそうに呟く直哉。心なしか身体が重くなった気がして、確かめるためにその場で立ち上がり、軽く身体を動かしてみた。
「うーん、まだ楽チンだなぁ」
「どうしたの?」
不思議に思ったのか、立ち上がって回りの景色を見ながらシエルは尋ねた。
「コラーシュさんが言ってたじゃん、〝影が縫い付けられたかのように身体が重くなった〟って」
「そう言えば………」
可愛らしく首を傾げるシエルに癒されていると、いつの間にか先程まで感じていた身体の重さ──実際には変化は無く、気持ち的なモノだったが──が吹き飛んでいる事に気が付いた。
腕をぶんぶん振り回しても、その場でバク宙してみても、身体は軽いし先程の感じもしない。
「んー………でも、気のせいだったみたいだな」
考えすぎかな、と呟きつつ、謎の恩恵をくれたシエルを撫でていると、不意に馬車が揺れる。
「きゃ!」
「おっと、危ない危ない」
よろけたシエルをしっかりと抱き締め、窓辺に寄って壁に手を着いた。
どうやら森に突入したらしく、揺れ出したのは獣道と化した街道を走り出したからのようだ。
そして、今度は気のせいでは無い異変を感じた。
「………あれ?遅くなった?」
その異変を確認するため、直哉は御者台に座るアリューゼに話し掛けた。
すると、アリューゼが首だけを後ろに捻り、
「影縫いの森のせいだ。馬にも影響が出るから、この森のせいで時間を食う羽目になるんだ」
苦々しい表情で返事をした。
アリューゼから視線をずらすと、息を荒くしながらも馬車を引く馬が見えた。
《頑張ってな………》
「ブヒヒィイン!」
直哉が心の中で応援すると、馬はまるでそれをしっかりと聞き取ったかのように嘶いて見せた。
元々、エレメントは万物に宿っている。それは魔力の生成には必要なモノで──言い換えると、エレメントが宿る万物は魔力の生成が可能………詰まり、魔術が行使出来るのだ。
馬車を引く馬も例外として溢れたりはせず、現在も魔術を発動させている。とは言うものの、それは本当に微弱なモノで、普通の魔術師には感じる事の出来ないようなモノだ。
その魔術──平たく言えば〝第六感〟──を行使していた馬は、直哉の念話を聞き取る事が出来たのである。
馬に限らず、動物達が生命に対する危機に異様に敏感なのは、この第六感………詰まり、魔術による影響が強いのだ。
そのまま走り続けて数十分、やる気満々だった馬にもリミットは存在するらしく、アリューゼが休憩する事を決めた。
簡易な野営を張り、騎士達は少し遅めの朝食の準備に取り掛かる。火を焚いて巨大な鍋を掛け、水に調味料、乾燥させた野菜等を放り込む。そのまま煮込み、灰汁を小まめに取り払った。少しすると、良い匂いが辺りに満ち、湯気をもうもうと立てるスープが完成した。
スープが出来上がったのを見計らい、別の騎士が全員にパンを配る。王宮を発った時に焼きたてのソレを貰ってきたのだ。
全員にスープとパンが行き届いたのを確認したアリューゼは、シエルに号令を頼んだ。
「ふぅ………それじゃあ、冷めない内に挨拶をお願いします」
「挨拶?」
良く分かってないシエルは、全員の前でスピーチ宜しく話す自分を想像した。ちょっと恥ずかしくなり、頭をぶんぶん振りながら相槌を打つ。
そんなシエルに微笑みを向けながら、アリューゼは両手を合わせた。その動作ではっとしたシエルが、手を元気良く合わせた。
「お前等注目ー!」
アリューゼが声を張り上げると、ざわついていた騎士達が一斉に黙り込む。そして、視線が声の発生源へと向けられた。
発生源の隣にいたシエルは、恥ずかしそうにしながらも元気な声で言った。
「いただきます!」
「「「「「いただきます!」」」」」
号令と共に直哉はパンを口に運び、スープを一口啜った。王宮で並べられる料理程では無いが、間違い無く〝美味い〟の分類に入る料理だ。
それを瞬く間に完食すると、ごちそうさまと告げ、魔力を練り上げた。
「はひひへふほ?」
シエルがパンをもごもごと頬張りながら尋ねると、直哉は空になった鍋を指差しながら答えた。
「洗い物!」
同時に、指先から水が噴き出した。それはすぐに鍋を満たし、中から溢れ出した。
騎士達が呆然とする前で、直哉は手持ちの食器をその中に浸した。そして、指をくるくると回す。
「おぉ!」
誰かが歓声をあげた。
直哉が指を回したかと思うと、鍋の中に小さな渦が発生し、それが鍋や食器に付着した汚れを洗い流しているのだ。瞬く間に光沢を放つレベルに磨かれた鍋と食器を見た直哉は、指を空に向ける。すると、次は食器が空中に浮かび上がった。そこに風が吹き付け、水分を完璧に飛ばした。
ゆっくりと落下してくる鍋を掴み、その中に食器を入れた。そして振り返り、騎士達に言った。
「料理作ってもらったかんな、これくらいしなきゃ」
刹那、拍手喝采が森を駆け抜けた。その振動で木で休んでいた鳥が飛び立ち、辺りには衝撃による微風が発生した。
そして、アイザックの部下達が食べる速度を上げた。
全員が食べ終わり、洗浄魔術(直哉命名)に挑むアイザック隊の騎士達。しかし、魔術を上手にコントロールする事は難しいらしく、水の制御が途絶えて自然落下、そのままびしょ濡れになる者がいれば、圧力を強めすぎて食器を砕く者も現れた。
アリューゼに罰金を命じられて嘆く騎士を尻目に、直哉は周りの森を見渡す。
現在地は森の中にある円形の広場のような所で、その直径は中々広い。馬車が六台に百人の騎士達、そして五十頭の馬がその中に入っても、まだ少し余裕がある位だ。伸び伸びと出来る分、森の持続的に及ぼす力で疲れた身体を癒すには持ってこいだ。
が、広いが故のデメリットも存在する。隅々にまで目を光らせるためにはそれ相応の人数が必要だし、周りを囲まれた状態で攻撃を受けたりする時、先制攻撃は難しく、不利な状況になるだろう。また、味方の援護に回るのにワンテンポの遅れが生じるのも痛い。
そして、周りを見渡す直哉は、勇者補正により研ぎ澄まされた感覚で、周りに蔓延る何かの気配を感じていた。
分かりやすく言うと、デメリットの二番目が再現されようとしていると言う事だ。
「………」
無言で水球を生み出し、森に向けて投擲。それは凄まじいスピードで森に突っ込み、何かに直撃。
「──!!」
すると、森の中から短い悲鳴──とは言えど、声とは言い難い音声だったが──があがった。
「休憩おしまい!」
「アアアァァアアァアァアア!!」
「「「「「?!」」」」」
直哉の怒号が飛ぶと共に、何かの声が騎士達の鼓膜を揺らした。そして、森の中から次々と何かが現れた。
それは四足歩行の狼のような生き物だ。身体を灰色の荒い毛に覆われていて、鋭い牙が白く輝いている。爪も鋭利で、下手な刃物よりも切れ味が良さそうだ。そして何より、緑に光る目が六つ。各々が一匹の獲物──直哉を睨み付けるように見ていた。
最終的には三十程の群れを成し、騎士達を囲むように展開した。
「グルァアアア!」
その中の一匹が咆哮を轟かせると、そのまま直哉に向かって突進した。それにつられるように飛び出す他の狼モドキ(見た目から判断)を迎撃しようと武器を構えるアリューゼにミーナとルシオ、魔力を練り上げるセフィアにアイザック、そしてラルフ。その後ろには多くの騎士達が控えていた。そして、シエルは直哉の元へと駆け寄った。
それらを尻目に、直哉はシエルを抱き上げつつ、自分目掛けて突進してくる五匹の狼モドキを見ていた。
《全部で三十匹位だってのに、俺んとこにその六分の一が集結………全然嬉しくねぇぞ》
『一番の強敵だと思われたか、シエルちゃん目当てか──』
『私のシエルは渡さ──』
《オッサン、この後が楽しみだな》
『うん、シエルも』
『済まなかった』
危機感を感じさせないやり取りに苦笑いしつつ、直哉は地面を思い切り踏み付け、空へと舞い上がった。最高地点に到達し自由落下する直前で、直哉は風属性魔術を行使。シエルをそのまま空中に浮かせ、直哉のみが落下した。
「うわわわぁ、浮いてるよぅ!」
下には口を開いて直哉を歓迎する狼モドキが五匹。溜め息をついてから、足元に標準を定める。
魔力を五つの雷球に転換し、狼モドキに向けて発射した。
「とぅりゃ!」
刹那、短い悲鳴があがり、五匹の狼モドキが崩れ落ちた。生々しい痙攣を繰り返すばかりで、立ち上がって動き出すような気配は無い。
行動不能にしてから周りを見ると、粗方の狼モドキが騎士達により退治されていた。どうやら雑魚とされる野獣だったようだ。
辺りに異常が無いか意識を張り巡らせたが、これと言った異常は感じられなかった。安堵の溜め息を洩らしながら、再びジャンプして空中に浮かぶシエルの元へ移動した。
ほったらかしにしてしまったので悪い事をしてしまったかなと心配になったが──
「あ、ナオヤー!これ楽しいよー、あはははは!」
──きゃっきゃとはしゃぐシエルを見て、それが杞憂に終わった事を知った。
シエルをお姫様抱っこし、風属性魔術を解除。二人を浮かせていた風が止み、そのまま自然落下をした。
極力衝撃を消すように着地し、シエルを地面に立たせた。真っ白のローブに汚れが無い事を確認し、狼モドキを森に向かってぶん投げた。
「キャウン!」
「ったく、この犬ッコロめ………」
溜め息をつきつつ周りを見渡すと、他の騎士達も直哉に倣って狼モドキを投擲していた。どうやら全部が全部生きているらしく、騎士達から逃げるように森へと逃げていった。
無事に襲撃を遣り過ごしたのも束の間、今度は別の問題が生じてしまった。
それは、狼モドキを共に撃退し、そのまま森へと逃がした騎士達に現れた。
「はぁー、はぁー………」
「くそ………」
「もうだめだ、動けん………」
「み、水………」
地面にへたり込んだかと思うと、各々が凄まじい疲労に襲われているのだ。中にはそのまま眠ってしまう騎士もいて、疲労の蓄積量が尋常じゃ無い事が窺い知れた。
影縫いの森の謎の力で、騎士達は通常の倍以上のエネルギーを消費していたのだ。食後と言う事もあるとは思うが、その影響は中々深刻なモノであった。
武器を手に取るナイトやパラディンだけでは無く、魔術を主体として戦うウィザードの面々も息を荒くしていた。どうやら、影縫いの森の力は全員に作用しているようだ。
──それにしては、そんな騎士達の中にも、辛そうに肩で呼吸しながらも立っている者がいれば、今にも死にそうなまでに疲弊した者もいる事が気掛かりだった。立っている者はナイトが多く、へばっている者はウィザードが目立ったのも一つの疑問点だ。
頭を抱えつつ馬車に引き返そうと後ろを向いた時の事だ。
「──っ!」
突然視界がぐるぐると回転し、直哉は強烈な吐き気を覚えた。まるで自分だけを地震が襲っているかのような感覚に、立っている事が不可能な状態になるのに時間は掛からなかった。
「はっ、はっ、はっ………がはっ、は──」
「ん………!な、ナオヤ?!」
その場に膝を着いて胸を手で押さえ、苦しそうな呼吸を繰り返す直哉に気付いたのは、つい先程までぷかぷか浮かんでいたシエルだった。
直哉の肩を支えて名前を呼ぶも、直哉は苦しそうな荒い呼吸しか出来なかった。
《な、ん──》
『ナオヤ、ナオヤ!!しっかりしてよ、ねぇ、ナオ──』
念話と言うコミュニケーションツールがあった事を思い出し、呼吸だけで精一杯な口の代わりにそちらでシエルに話し掛けた。しかし、薄れ行く意識では、それ以上の会話は不可能だった。
直哉が盗賊退治を終えて王宮に帰った後、シエルを連れて再び出掛けたのを不審に思ったセラは、こっそりと二人の後ろを付いて行った。
『もーしかして、あんな事や、こんな事を………むふ、むふふ………』
ピンク色一色の妄想フィールドに二人のイメージを浮かべ──そこからは想像に任せるとして、セラのボルテージはうなぎ登りに上昇していった。
そのまま追跡する事数分。二人は王国の屈強な城壁を抜け、広い花畑にやって来ていた。
こんな所で等と呟きながら、二人から少し離れた花の陰に隠れつつ監視するセラ。すると、シエルがブレスレットを放り投げた。それを水の膜で包み、空中に浮かべている。
「──?」
「──」
何か言葉を交わしたようだが、流石に聞き取る事は出来なかった。
怪訝な表情を浮かべるセラの前に、黒紫の稲妻が一閃。シエルの浮かべたブレスレットを貫くように落ちた。同時に水の膜が蒸発し、爆発が起こった。
ぼとりと落ちるブレスレットは、原型を保ったままだ。オリハルコンの頑丈さを認識すると共に、それに魔術を喰らわせ続ける二人の頭を疑った。
ついに狂ってしまったのか………そう呟いたセラは、頭痛により鈍い痛みが響く頭を抱えて、一人で王宮に帰還した。