第五十四輪:成敗(後編)
GWだと言うのに、平日より忙しい毎日を送っていました…。
更新云々言うより、先ずは携帯を触る余裕を確保するべきだったと深く反省しましたprz
これから更新頻度が激減するかも知れません(もうしています(苦笑))が、生暖かい眼差しをよろしくです!
「これで、終わりだぁ!」
ドスン!
「がはっ」
最後の盗賊を気絶させ、アリューゼはそれを縛り上げた。洞窟の奥からも気配はしないし、これで粗方の片は付いただろう。
へたり込む騎士を尻目に、アリューゼはそんな事を考えた。
洞窟の奥からも物音はしなくなったし、一件落着かと思われた。少なくともアリューゼは〝この時は〟そう考えていた。
ズドォォン!
「「「「「「………」」」」」」
──爆音が轟き、山の一部が爆風で吹き飛ばされるまでは。
「うおぉっ?!」
ガァァァアアンッ!
「っち………避けんなよ」
狭い洞窟を駆け抜ける雷光、鳴り響く雷鳴の嵐、痺れるような緊張感。その中で対峙する二人は、片や焦りを浮かべた男、片や殺す気満々で稲妻を放つ直哉。
まるで演舞でも舞っているかのようにも見えなくは無い………が、演舞と言うには些か凶悪すぎるようにも見える。
男が生成した三つの溶岩の塊を直哉に向かって打ち出した。直哉はそれらを結果で防ぐ。
それらは直哉の魔力をプラスされ、打ち出した本人に向かって殺到した。
「むん!」
それを見た男は、地面に両手を付いた。すると、そこがみるみる内に赤く煮えたぎるマグマへと姿を変えた。
「はぁっ!」
気合いの籠った掛け声と共に、男は両手を天井に向けた。刹那、マグマが地面から吹き出し、壁を形成する。それは直哉の跳ね返した溶岩の塊を飲み込み、まるで意思を持つかのように引っ込み、地面へと戻った。
「っけ、便利だな………」
「………貴様、何故稲妻属性魔術を………」
「ハッ、教える義理なんざ無ぇよ!」
直哉が吠えたかと思うと、男の視界からその姿が掻き消えた。辺りを窺おうとして──
「っ!!」
──後ろに膨大な魔力を感じた。
男が咄嗟に右へ転がると同時に、男がいた場所に漆黒の稲妻が突き刺さった。それは鋭い炸裂を伴い、その回りを消し飛ばした。
土煙からゆらりと現れてくる直哉を見て、男は初めて恐怖を覚えた。
「なんて破壊力だ………」
震える足に力を込め、何とか立っていると言った状態だ。男をここまで追い詰める程、直哉が規格外だったようだ。
──尤も、稲妻属性魔術を使う時点で、賢者レベルの魔術師である事に変わりは無く、それだけで畏怖を感じずにはいられなかったが。
それでも屈せず──諦めたらそこでエンドオブライフだから──対抗しようとする男。しかし、辛うじてだが直哉の放つ魔術を回避出来ているとは言えど、反撃を喰らわせる余裕など無いのも事実だ。
「おいおい、ただ逃げ回るだけが能じゃ無いだろ?」
そんな男に投げ付けられた直哉の言葉。
「そう思うなら、攻撃の手を休めたら──」
「やだ」
「っく!」
男の言葉を遮り、直哉が稲妻でチャクラムを生成、そして投擲した。
それは男に向かって一直線に飛び──溶岩の刃に相殺された。
男が使う魔術は、爆裂属性のそれだ。高い攻撃性能に有効な防御手段を兼ね備えているが、発動までの時間がネックとなっている。
しかし、先程の攻撃と言い防御と言い、短時間で魔術を発動する技術は本物だ。
そのまま距離を取る男を、直哉は睨み付けている。
《こいつ、結構強いんじゃねーの?》
『あぁ、間違い無くな』
《しかも爆裂属性魔術かよ………初めて見た》
『そもそも合成属性を使える奴が珍し過ぎるんだよ』
ウィズと言葉を交わす直哉は、男を睨み付けたままぴくりとも動かない。男は反撃に転じようとしたが、直哉の破壊力は身を以て知っているので、警戒しながら魔力を集めるに留めた。
「………どうした、来ないのか?」
動かない直哉に、男が挑発気味な口調で話し掛けた。ぴくりと直哉が揺れたのを見逃さず、次の言葉を紡ぐ。
「ついに観念したか………良い心掛けだ。私としても、傷を付けるのは出来る限り遠慮したい事だったからな」
脳内で今の言葉を反芻し、ゆっくりと噛み砕く作業に移った。
《変態………?》
『今更言う事でも無いだろ』
《それもそうでした》
溜め息をつき、やり切れないような視線を男に向けた。
「いやぁ………爆裂属性魔術なんて珍しいけどさ………大した事無いな、この程度かと思ってね」
「っ?!」
男が動揺を如実に露にした。
「もっとこう、〝ドーンッ!〟っとしたの期待してたんだけどなぁ………」
「………」
腕を大きく振って、直哉は〝ドーンッ!〟のスケールの大きさをアピールする。が、男は俯いて反応を示さない。
因みに、本人は至って真面目に思った事を言っているだけである。挑発しようとは微塵も思っていないから恐ろしい。
「やるならこの山脈位消し飛ばして欲しかった──」
「黙れ」
直哉の言葉を遮るように、男は言葉を重ねた。若干震えている。
「私とてそんな事位は実感している………強力な合成属性だと言うのに、速度しか取り柄が無い事はな………」
何か怒りのような感情をふんだんに混ぜ込み、忌々しげに呟く。
どうやら直哉の悪意の無い本音を違う捉え方で捉えたようだ。
《今度は逆ギレかよ…忙しいオッサンだなぁ》
『感情豊かと言いなさいっ!』
しかし、当の本人に自覚が無いので、名目上では単なる逆ギレとされてしまった。
男の怒りは留まる事をせず、着々と積もっていった。
「だがな、私とて魔術師の端くれだ、ここまで貶されて黙ってはいられんわ!」
貶されて、と聞いて、初めて自分のセリフが男を馬鹿にするモノだと理解した。
何とか誤解を解こうとしたが、時既に遅し。男は魔力を集め、呪文を唱え出していた。
「猛き大地よ、その怒りの片鱗を此処に顕し──」
「を?!」
男が手を天井に向けて突き出し、開く。刹那、強大な魔力が大地を揺るがし、巨大な空洞の至る所に亀裂が生じた。その亀裂からは、赤々とした液体が顔を覗かせていた。
「──邪を貫く剛槍と成りて、彼の者を穿て!」
亀裂からマグマが噴き出し、空中に浮遊する。そして、各々が鋭い槍へと姿を変えた。その数は軽く見積もっても百は超えていた。
それらは180度直哉を囲むように展開し、切っ先を全て直哉に向けていて、今にも動き出そうとしているのが窺えた。
最初こそは慌てたものの、現在は落ち着き払っている直哉。周りの盗賊達に結界を施し、自分も魔力を集めておいた。
それを見た男は、愉快そうに、且つ怒りを込めた口調で怒鳴る。
「そんな結界で、私の魔術が防げるとでも思ったか!」
そのまま開いた手を握り締め、出せる限りの大声で怒鳴り散らす。
「ランス・イラプション!!」
怒鳴ると同時に、全ての槍が直哉に殺到する。それらは同時に着弾し、巨大な爆発を巻き起こした。爆風に耐えられなかった洞窟は吹き飛び、山脈に溝を刻み込んだ。
吹き飛んだ場所には砂埃が立ち込めている。
綺麗になった周りを見渡し、男は大声で笑い出した。
「アハハハハハァ!私に歯向かうからこうなったのだァ!」
夕日に向けて報告する男は、砂埃の中に揺らめく人影に気付いていない。
ガァァォオオンツ!
「?!?!」
なので、山脈に響き渡る雷鳴が鳴った時、それはもう死ぬ程驚いたようだ。
心臓らへんを押さえて振り向くと、黄緑の結界に護られた盗賊達と、頬に少しだけ火傷を負った直哉がいた。
「な──」
「いやー大した破壊力だな、防がなきゃ危なかったかもしれねーなぁ」
男の言葉を遮り、直哉が肩を竦めながら言った。それを聞いた男は益々(ますます)慌てる。
「馬鹿な!結界は未だしも、それを張らずに防いだだと?!」
元々破壊力の高い爆裂属性で、且つ詠唱も済ませた強力なモノだったのだ。それを結界で防いだのすら奇跡レベルだと言うのに、結界を張らずに防御だけで凌ぐとなると、最早神の領域である。
防いだ等信じられる話では無いが、盗賊達を結界で囲んだ時以外に魔力の流れを感じなかったし、現に目の前に悠々と佇んでいるので、強ち冗談では無いようだ。
いよいよ直哉の化け物っぷりを理解し、手を出した事を後悔し始めた男は、直哉を取り巻く魔力に流れが生じた事に絶望した。
「さぁて、次は俺の番かな?」
歪な笑顔を浮かべ、男に向けて両手を突き出した。その手の中にピンポン球くらいの黒紫の雷球が発生し、膨張。
「安心しろよ、死なないから──多分」
直径2mはあろう雷球を生成しながら、直哉が笑う。再び雷球に魔力を注ぎ、雷球は耐えられなくなったかのように破裂し、幾千もの刃雷へと姿を変えた。
バチバチと唸る刃を見つめる男は、絶望を通り越して悟りの境地に到達した。
「チェイン・ライトニング」
山脈の一部が抉り取られたかのように消失したのは、その直後だった。
「お前は俺達を殺す気か?寧ろ殺そうとしたよな?!」
「ナオヤ様、流石に無いですよ………」
「あいやー………ごめんなさい」
盗賊をマグネイドで引き寄せながら引き摺り、避難していたアリューゼ達と合流した時に、真っ先に上のセリフを言われた直哉。咄嗟に謝っておいたが、この人数の人を全員無事に確保した事に突っ込んで欲しかったとぼやく。
それをしっかりと聞き流し、アリューゼは大きな溜め息をついた。
「取り敢えず、先ずは王国に引き返す事だけを考えるか」
「あー、それもそうだな」
同意する直哉を尻目に、アリューゼはふん縛られた盗賊へと目を向けた。
怒りに任せて殺してしまいそうになった盗賊のような者もいたが、殆んどが大人しく縛られていた。直哉が爆風から護った事が何よりも大きいのだが、それは当事者以外は知りえない事実だ。
「お前のその魔術で何とかならねぇか?」
「もっと良さげな魔術を思い付いたよ」
腕を組んで偉そうに仰け反る直哉に苦笑いを溢したが、今は従うのが得策と判断したようだ。
直哉に向けて頷くと、馬車の周りに寄れと指示が飛んできたので、他の騎士達を馬車の周りに集めた。
「よーし、動くなよ」
直哉が纏う雰囲気が変わったので、誰もが口を開かずにじっとしている事にした。
一瞬で魔力を集め、王国をイメージ。そのまま魔力を周りに分散し、魔術の名前を呟いた。
「テレポート」
すると、周りの景色が一瞬で変わった。盗賊達は驚き、騎士達は苦笑いをした。
そこは、紛れも無くエアレイド王国だった。
「相変わらず反則だな………」
「どうも──」
「ナオヤ!」
爽やかな笑顔を浮かべる直哉は、すぐそこに立っていたシエルに抱き締められた。
「良かった、無事で………!」
「あぁ、心配かけたな」
そんなシエルの頭をぽむぽむと撫でてから引き剥がし、そのまま盗賊達に向けさせた。
同時に、二人に見入っていた盗賊達が一斉に視線を逸らす。
「ほら、みんな生きてるぞ」
「………」
盗賊達を晴れ晴れとした表情で見つめ、ある一人を見付けた途端に動きが止まる。
そのまま近付いて行き、男──親玉っぽい生き物──の前で止まる。
「………何──」
バチン!
「がふっ」
無愛想な男の言葉を聞き流し、シエルは男の頬に平手打ちを叩き込んだ。
身体中を縛られて身動きの取れない男は、そのまま地面に倒れ込む。
「あなたなんかに、ナオヤは渡しません!」
倒れた男に向かって言い放つシエルに、直哉と騎士達と他の盗賊が固まった。
真っ先に硬直から解放された直哉が、慌てながら口を挟む。
「ちょ、ちょっと、シエル?!」
必死な直哉に理性を取り戻したのか、シエルがはっとしてから紅潮していった。
その可愛らしさに、他の人と言う人が目を奪われた。
そして、シエルが耐えられなくなって逃げ出そうとした時、まるでタイミングを見計らっていたかのようにコラーシュが登場した。
盗賊達を一瞥し、シエルを抱き締めようとして、その腕の中から抜け出した事にショックを受けて崩れ落ちた。
「何がしたいんですか………」
直哉が寄ってきたシエルを撫でながらぼやくと、コラーシュははっとしてから直哉を見て、再び崩れ落ちてから今度こそ覚醒した。
直哉だけで無く、騎士達も溜め息をついた。
「はっ、すまんすまん………労いの言葉を掛けようと思ってな」
咳払いをして、コラーシュは本題に入る。
「ご苦労であったな」
「親善使節が終わってから言うべきでしたね」
すかさず直哉が突っ込みを叩き込む。再びコラーシュが膝を着いた。
数分した後、今度こそ立ち直ったコラーシュが続けた。
「話は聞いてるよ。が、やはり詳しい事情を詮索する必要がありそうだから──」
「私が行こう」
コラーシュが盗賊達に目を遣ると、シエルの平手打ちを喰らってノックアウトされていた筈の男が呟いた。
「………まぁ、ナオヤも来てくれるなら大丈夫か」
「え、俺もですか?」
「この老い耄れを護衛してくれないかね?生憎、身を守る程の余裕は無いのでね」
シエルが首を振って否定していたが、コラーシュはスルーしておいた。
すると、代わりに男が口を挟む。
「大丈夫だ、完膚無きまでに叩き潰されて、今更抵抗しようとなんて思わん」
自嘲気味の呟きに、直哉はにんまりと笑った。
「………そういやシエル」
「ん?なぁに、ナオヤ?」
「いや、ジェラルドのオッサンを詰め込んだブレスレットはどうしたのかな、って思ってな」
「………」
「な、ど、どうした、何があったんだ?」
「ううん、投げたり踏んだり落としたりしただけだよ?それっきり黙っちゃったけど………今はお部屋に置いてあるの」
「そうか………。ちょっとシエルの部屋に行っても良いかな?」
「どうして?」
「んー、ちょっとブレスレットに雷を落としたい気分なんだ」
「分かったー!今すぐ行こう、直ぐ様行こう!」
「うん、そうしよう………ふふふ」
「楽しみだねー………あはは」
「あ、でも………」
「………でも?」
「屋内でやっちゃ騎士達が可哀想だから、誰もいなくて広い場所でやろうね」
「ナオヤ、やっさしー!」
「俺も学習するのさ(キリッ」
『今から拷問する奴の、どこをどう見れば優しいとか言えるんだ──』
「ねぇシエル、ウィズが『ばぁか、ちびっこのクセにしゃしゃってんじゃねェよ』って言ってる」
「ウィズちゃんにもお仕置きが必要みたいだね~」
「だね~」
『て、てめ──』
「ウィズに稲妻は効かないし………爆裂属性なんてどう?新技を思い付いたから丁度良いと思うんだ」
「大賛成~!」
「て、てめ………って、実体化しとるがな!」
「させました~、テヘッ」
「気持ち悪ィんだよ馬鹿野郎!てめえそんな事して──」
「あ、お部屋に着いた~!ブレスレット取ってくるね?」
「おう、頼んだぞ………戻ろうとしても無駄だからな。何度でも具現化させてやるから………って訳で、諦めな?」
「この野郎ぉぉぉ──」