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第五十一輪:盗賊襲撃

時間が無さすぎて泣きそう………

そのせいか、不自然な程に長く、繋がりが意味不明な文章が出来上がりました!


痛さには目を瞑ってください…prz

次の日、予定通りに王宮を発つ事にした直哉は、シエルと共に馬車の元へと向かっていた。


「コラーシュさん、シエルをとっても大事にしてるんだね」

「えへへ。お父様が私を好きなのと同じで、私もお父様が大好きだからね!」


昨日の朝までの気まずさはどこへやら、そこには今まで通りの二人がいた。

直哉に至っては、コラーシュとの約束の事もあるからだろう、気合い十分と言った様子だ。


「親子愛ってヤツか。憧れちゃうね」

「あっ、いや、そんなつもりで言った訳じゃ無いの………ごめんなさい」


直哉が〝無意識に〟遠くを見つめると、シエルが申し訳無さそうな表情になった。この世界で直哉は独りぼっちなのだから、こんな話題を振るべきでは無いと判断した上での行動である。

直哉としては、遠くを見つめると言う行動に深い意味を抱かなかったので、何故シエルが謝ってきたのか理解する事が出来ずに困惑している。


「な、どうしたの急に………良く分からんけど、そんなに謝らなくていいよ」

「でも………ナオヤのご両親は、この世界にはいないから………」


ここまで聞いて、ようやく納得したようだ。「あぁ、」と呟いてから、そんな事は無いと説明した。


「両親はいなくたって、シエルが傍にいてくれるからね。俺は全然寂しくなんか無いさ」


笑いながらシエルの頭をぽんぽんと撫でると、シエルの顔が紅潮している事に気付いた。

言ってはいけない事でも言ってしまったかと記憶を遡っていると、


「………ずるいよぅ、ナオヤ」


シエルがか細い声で囁きながら抱き着いてきた。


「っ?!」


突然の行動に驚いていると、シエルが抱き着いたまま呟いた。


「そんなに嬉しい事をさらっと言うなんて、ずるいよぅ………」


そんな事言ったっけ?と首を傾げると、ウィズの呆れた声が聞こえてきた。


『はぁ………ここまで鈍感だと、シエルちゃんが可哀想に思えてならねェわ………』

《訳が分からんわい………まぁいいか》


疑問符は消えないが、この流れだとシエルを放っておく訳にも行かないので、軽く抱き締めておく事にした。

──この行動こそ、直哉が一刻も早く気付くべき意味を持ったモノだと言う事を、本人は気付かないのであった。


そして、どんな場面でも〝空気ぶち壊し〟は存在する訳で。


「あー!遅いと思ったら、こんな所でいちゃついてたんだー!」

「「わっ?!」」


セラが紫色の角と羽根と尻尾を生やしながら、音も立てずに忍び寄って来た。

突然の襲撃者に驚いた二人は、磁石のS極とS極を近付け、すぐに手を放した時のように離れた。


それを見たセラは、残念そうにぶーたれる。


「あ、離れちゃったぁ………でも、それ以上いちゃいちゃされても出発が遅れちゃうからなぁ…今は我慢してね?」

言葉や口調とは裏腹に、その双眸には喜びが全面的に浮き上がっていた。


顔が赤く染まるのを感じながら、形だけの抵抗をする直哉。

──シエルは指先まで赤くなっていて、顔を上げる事すら出来なくなっていた。


「ち、違う!これには訳があってだな、お前のように不純で意味不明な感情は込められちゃいねーんだよ!」

「どんな訳かなぁー?まさか、一昨日の〝お風呂〟事件についてかなぁー?」

「「っ?!」」


セラが口にした単語を聞いた途端、二人(特にシエル)は異様な反応を見せた。


二人が反応したのは〝重要[以下略]〟が巻き起こした事件を思い出してしまったからで、その事は現在のいちゃいちゃ(セラ視点)には全く関係が無い。

しかし、セラは二人の反応を見て、それは関係があるモノだと解釈したようだ、しめたと言わんばかりの笑顔を顔面に貼り付け、見えない筈の羽根をばたつかせながら、嬉々とした声色で高らかにのたまった。


「図星かぁー………どんな事があったのかなぁ…もしかして、ナオヤの布がほどけて──」


それからのセラの発言は覚えていない。

覚えているのは、瞬間的に練り上げた魔力を雷球に転換し、それをセラに向けて全力投球した事、その後発せられたセラの絶叫、それを聞きながらシエルの手を引いて走り出した事、そして──


「仲睦まじいのぅ………」

「あらあら、朝から見せ付けてちゃって………孫も期待大かしら?」


──気付いたら馬車の前に突っ立っていた事だけである。決して「あはは、うふふ」な状況では無かった。

因みに、上からコラーシュとフィーナだ。発言はしていないが、騎士団の面子もニコニコしながら立っていた。


「何問題発言してんですか!朝から頭が逝ってる自分の心配してください!」


これまた食い付く直哉は、相変わらず顔が真っ赤である。シエルは立っているのがやっとと言った様子だ。


直哉の抗議を受けたフィーナは、お上品に口元を手で覆い、うふふ、と笑みを溢した。


「そんなに必死になっちゃって………シエルちゃん、貴女の旦那様は随分と可愛らしいですね?」

「「っ~~!!」」


ボンッ!


耐えきれなくなったシエルがオーバーヒートし、頭から湯気を噴き出しながら倒れ込──もうとしたが、直哉が反射的の割りにはしっかりと抱き抱えた。

フィーナの浮かべる笑顔が凶悪なモノになった気がしたが、それを見て確かめる余裕が無かった。


「揶揄わないでください!シエルがどうにかなっちゃいますよ!」

「私は至って大真面目よ?」

「じゃあ今だけふざけてください!」

「もっと酷くなっても良いのね?」

「今のままで良いです」

「うふふ、良い子ね」


にっこりと笑っているフィーナに常識を求めても無駄だ、直哉はそう悟った。


「はぁー………」

「おほんっ」


直哉が肉体的精神的に蓄積した疲労を溜め息に混ぜるのと、コラーシュが軽く咳払いをするのは同時であった。


咳払いは「俺、話しても大丈夫ですか?」と言う確認行動だと言うのは、流石のフィーナも了解しているようだ。相変わらずニコニコしていたが、口を開こうとはしなかった。

周りを一頻り見回し、誰も口を開かない事を確認した後、コラーシュは溜め息混じりに切り出した。


「いちゃいちゃはその辺にしてだな──」

「コラーシュさんまで毒されましたか」

「うぉっほん、冗談だ」


今度は直哉が苦笑いした。それに気付かないフリをしながら、コラーシュは本題に移る。


「………この前も言ったが、センティスト王国はエアレイド王国からかなり離れていてな。馬車に乗って行くと、片道で………早く見積もって二日、遅くて四日──」


そこで言葉を区切り、深呼吸を一つ。


「──最悪、帰って来れない」

「「………え?」」


直哉だけでは無く、シエルも首を傾げるのも無理は無い。表情を引き締めているのは騎士団の面子だけだ。

疑問符を浮かべた二人にどう告げればいいのかと迷うコラーシュを制し、アリューゼ──現在集まっている騎士団は、どうやら王国第一騎士団のようだ──が歩み寄ってきた。


「続きは俺が引き受けましょう」

「………済まないな」


申し訳無さそうに頭を下げるコラーシュ。

娘を恐怖に陥れるような事をすんなりと言える訳が無い。それを察してくれたアリューゼに感謝の意を示したのだ。


アリューゼはコラーシュに一礼し、直哉達と向き直った。表情が苦々しいのは見間違いでは無さそうだ。


「センティスト王国に向かう、しくはエアレイドやガルガントに向かう輸送部隊が、度々行方不明になってるんだ。馬車なんかは見付からず、兵士達も音沙汰なしと来た」

「っ………」

「うわ、神隠しかよ………」


息を呑んだシエルの肩に手を置いて安心させながら、直哉は思った事を口にした。

すると、コラーシュがピクリと身動ぎをする。


「神隠し………?」


直哉の台詞を復唱するコラーシュは、顎に手を添えて唸り出した。


「………〝影縫いの森〟にも、神隠しにまつわる話があった筈だが………」

「〝影縫いの森〟?」


聞き慣れない単語が出現したので、一応尋ねてみる事にした。

コラーシュは少し困ったように顔を顰めたが、話しておく事に越した事は無いかと自己解決した。


「こちらからセンティスト王国に向かう時に通る、不思議な森の事だ。街道などは通っているから、〝普通なら〟すんなりと通過出来る筈の場所なんだ」

「普通なら、ですか」

「うむ」


コラーシュの妙な物言いに、直哉は疑問を抱く。

その質問をする事はお見通しだったのか、困った様子も見せずにコラーシュは答えた。


「どう言う訳か──」



──まだエレンシアに大型の国が出来ておらず、人々が幾多の小国を形成していた頃、エレンシアの西側(現在のエアレイド・ガルガント側)の人々にとって東側は未開拓領域であった。

東側を気にしてはいるものの今の生活に不自由を感じなかった人々は、無闇矢鱈に未開拓領域へと進もうとはしなかった。


しかし、人間は欲を張る生き物だ。次第に広い領土を欲するようになるのに、そう長い時間は掛からなかった。


時代はリスクを背負ったバk………もとい、チャレンジャーによって動かされるモノだ。

そしてある日、勇気ある兵士達──騎士と呼ぶには余りにもお粗末だったようだ──が集まり、真っ直ぐ東側に足を進めたのだ。


エアレイド周辺には平地が広がっていたのだが、東側に進むにつれ、左右に切り立った岩山が目立つようになってきた。

エレンシアは巨大な山脈に楕円形に縁取られていて、東側に向かうにつれ、その山脈が平地を侵食していくのだ。

──余談だが、一部では山脈の縁取りが存在しないらしく、その先には輝く水平線が広がっているとか。もしかしたら新たな島が見つかるかも知れないが、船と言う技術が存在しない世界だった訳で。

そして、そのまま進んだ所にある、平地を覆い隠すように鬱蒼と佇む巨大な森………これが後に〝影縫いの森〟と呼ばれる森である。


周りは山脈に囲まれているので、嫌が応でも通るしか無い場所なのだ。


兵士達も例外からは漏れず、その森に足を踏み入れた。そして歩き出すと、身体が異様に重くなったかのような錯覚が彼らを襲ったと言う。

地形が悪かったからそのせいだろうと一方的に決め付けたのだが、どうやら原因は違う〝何か〟らしい。「まるで影を縫い付けられたような感じだった」事から〝影縫いの森〟と呼ぶようになったようだ。


現在も研究が進められているが、今の所〝影縫い〟の原因は解明されていない──



話し終えたコラーシュは、大きめの溜め息をついた。


「余り良い噂は聞かないな………最近では、森近辺の村で「悪霊の仕業だ」や「守り神の祟り」、「生け贄を捧げないと殺される」等と言った噂まで流れているそうだ」

「………」


「守り神の癖に祟りかよ」とは思ったが、口にしないのは直哉の優しさである。

しかし、今はそんな事より──


「怖いよぅ………」

「だ、大丈夫だから、な?」


──自分の胸元に顔を埋める小動物………もとい、シエルを慰める事の方が優先である。

大衆の眼前でしがみ着かれると、心の底から羞恥が溢れてくるのだ。


何とかシエルを引き剥がし、その頭を撫でて落ち着かせた。触り心地が良いな…等、思っても口にはしない。


「えぇと、その森まではどれくらいですか?」


早い内に越してしまえば後々が楽である。直哉はそれを踏まえてコラーシュに再び質問を投げ掛けた。


「一日と半日は掛かるな」


そして、聞かなければ良かったと後悔した。









直哉達は現在進行形で大型の馬車に揺られながら、エアレイド王国から北東に向けて進んでいた。

騎士団の面子は四台の馬車組と沢山の騎馬組とに分かれていて、直哉達が乗る馬車を取り囲んでいる。中心から直哉達の馬車・馬車組の馬車・騎馬組と言った感じだ。


「アリューゼさん、砂一粒分だけ見直したよ」

「余計な一言が無けりゃー可愛いヤツなんだがなぁ………」

「え………、アリューゼさん、そっちの人だったの………?悪ぃ、俺無理だよ、歪んだ愛情になんか──」

「うるせぇ!黙って景色でも見てろや!!」


御者台に座るアリューゼが怒鳴ると、馬が小さくいなないた。同時に、周りからはひそひそと話す声が聞こえ出した。


「うわぁ………アリューゼ団長………」

「いつまで独身でいるのかと思ったら………」

「そりゃー無理に決まってるわ──」

「聞こえてるぞ?」

「「「あ──」」」


先程よりも大きな嘶きと、騎士達の悲痛な叫び声が平原を駆け抜けた。


苦笑いを溢しながら、直哉は周りを見渡す。

周りは相変わらずの平地が広がっているが、花は咲いていないようだ。どちらかと言うと、荒野に近いかもしれない。地平線の彼方にちらちらと山脈の頂が見え出したので、確実に進んでいる事を実感した。


「ふぅー………」


溜め息を洩らし、自分の膝に視線を向けた。


「すぅ………」


そこには、愛くるしい寝顔を晒すシエルが眠っている。

馬車に揺られるのに草臥れた………だけならまだしも、急に直哉の膝を枕にして横になり、そのまま夢の世界へひとっ飛びしてしまうとまでは予想出来なかった。眠くなると羞恥心が塵芥となってしまうのだろうか。いくら馬車の中には二人しかいないとは言えど………甚だ疑問である。


そんなシエルの頭を撫でる。すると、むにゃむにゃと唸りながら(?)笑顔を浮かべてくれた。


《やっぱり可愛いよなぁ》

『あぁ………』


ウィズと頷き合い、そのままシエルの頬っぺたを摘まむ。相変わらずの触り心地だ。

──引っ張らなければ良いよな?と自分に言い聞かせる事は忘れない。


そんなまったり時間を堪能している時の事だ。


「………ッ?!おい、ナオヤ!!起きてるか?!」

「起きてるけど、歪んだ──」

「そりゃどうでも良い!それよりも──」

「え、どうしたの?」


気だるそうに首を伸ばし、備え付けの窓──ガラスの変わりに布を使っているが──から顔を出そうとして、


「敵襲ー!」

「急げ、構えろ!」

「クソッ………なんて多さだ」


騎士達の怒号が耳に飛び込んで来た。


「………成る程ね」


納得したような表情でアリューゼを見ると、アリューゼが少し慌てている事に気付いた。


「こんな所で盗賊の襲撃があった、なんて聞いた事が無いぞ………?それに、近くには村が………」


まさか、と呟くと、そのまま周りを見渡すアリューゼ。そして、進行方向の東側を見て固まった。

シエルの頭をそっと降ろし、直哉はアリューゼの隣にテレポートした。


「………煙?」


そして、空に立ち上るどす黒い煙を見た。

盗賊・村・煙と来たら、何があったかは大体の想像が付いてしまう。


「──チクショウ!」


脇に置いてあった両手剣を手にしたアリューゼは、御者台から飛び降りて騎士達の元へと走って行く。その背中からは怒気が滲み出していた。

それを目で追うと、騎士団の馬車の間から、盗賊達と交戦中の騎馬組が視界に映り込んだ。


盗賊はおよそ五十はいるだろうか。土の色と酷似した、薄汚い服を着ていて、その手には片手剣や両手剣、鈍器に槍、鉾や弓に弩──様々な武器が握られている。

そして騎馬組の総勢は二十と言った所、馬車組は不意を着かれた事により対応が遅れているらしく、今現在交戦中なのは騎馬組だけである事が窺えた。戦闘員の量からして、騎馬組が押されている事は瞬間的に分かった。それでも盗賊達を押し留めているのだから、大したモノである。

──尤も、見るからに防戦一方と言った様子だが。


冷静に分析していると、アリューゼが盗賊達の軍団に突っ込んで行くのが見えた。その後を追うように、馬車組の騎士達も続々と戦場へと出陣する。


襲撃を仕掛けてきた盗賊達は、多少は戦い慣れしているようだ。アリューゼの放つ怒気に、只者では無いと言う事を本能で察知したようで、攻撃の手が和らいだように見える。


しかし、それでアリューゼが止まる事など無い。全力で盗賊に肉薄し、両手に携えた大剣を振り被り、


「うぉりゃあああ!」


正面にいた盗賊に向け、凄まじい怒号と共に振り下ろした。所謂脳天幹竹割りだ。

流れるような斬撃に、盗賊は武器を構えたが、時既に遅し。


「あ゛ぁ゛──」


鋼鉄の刃は、何の躊躇いも無く盗賊の一人を二等分に切り裂いた。途中まで紡がれた盗賊の断末魔は、最後まで発せられる事も無く途切れる事となった。


どちゃっ


生々しい音を聞いた盗賊達は、普通ではあり得ない形となった仲間を見た。その目に恐怖が浮かんだ事を、アリューゼは見逃さなかった。

盗賊を切り裂いた大剣をそのまま後ろに振るい、背後から襲い掛かろうとした盗賊の腹部を真一文字に切断。血溜まりを広げる肉塊などには目もくれず、それを何の躊躇いも無しに踏み潰した。そのまま奥にいた盗賊の首を吹き飛ばし、左側から放たれた弓を大剣で叩き落とす。転がりながら弓兵に近付き、袈裟懸けに分断した。


アリューゼの鬼神の如き猛攻に、盗賊達はみるみる内に戦意喪失していく。

それを見逃さなかった騎馬組は、次々と盗賊を〝討伐〟した。


「うわぁぁぁ、逃げろぉぉぉ!」


誰かの一言が切っ掛けで、騎馬組や合流した騎士達が〝討伐〟し損ねた盗賊達が逃げ出す。素早く逃げる者の中には、足を滑らせて転び、止めを刺される者もいた。


「逃がすなっ!」

「一人残らずに捕らえろ!」


しかし、そのまま走って行く盗賊を黙って見逃す程、騎士達はバカでは無い。騎馬組が下がり、馬車組が前に出たかと思うと、弓や弩、魔術での遠距離攻撃を開始。


「──!」

「あが、………っ」


かすかな悲鳴が聞こえたかと思うと、数人の盗賊が崩れ落ちた。

しかし、騎士達の対応が若干遅かったのが災いしたか、その遠距離攻撃を掻い潜った盗賊は足を止めず、そのまま走り続けた。


騎士達の足元には、三十人分程の〝肉塊〟が転がり、遠くで倒れてる盗賊はざっと十人程だ。確認した限りでは五十人いた筈なので、十人逃がした事になる。


「クソッ………クソォ!!」


アリューゼが悔しそうに地面を殴り付けた。

その時──


「………ぁぁぁ、ぁぁぁぁぁああああああああああああああああ?!?!」

「んなっ?!」


──遠くから、十人の盗賊がこちらを背に、まるで何かに引き摺られるように向かってきた。

驚きの声を発したのは、騎士だけに限らず盗賊も同じだ。


地面に横たわり、見えない力に必死に抵抗する盗賊。が、そのまま乱暴に地面を引き摺られ、土煙をもくもくと立ち上げる原因となった。

そして、あっという間に騎士達の目の前に到着。唖然とする騎士は、捕らえると言う選択肢を選ぶ事を忘れ、ただ呆然と突っ立っていた。


「んのっ、ヤロォォォ!!!」


が、騎士団長の怒声で我に返ったようだ。全員がそっちに目を向けると、鬼の形相で両手剣を握り締め、盗賊に向けて突進するアリューゼがいた。

盗賊は地面に倒れたまま動かなかった。否、動けなかった。得体の知れない力が、身体を地面に押し付けているためだ。


そして、アリューゼは血塗られた大剣を右上にかざし、


「よくも村をぉぉぉ!」


そのまま袈裟懸けに振り下ろす。

大剣は血を浴びたのを狂喜するかのように、それによる赤い軌道を描く。刹那の時間さえあれば、大剣は盗賊の肩に食い込み、血を涙の雫宜しく滴らせるだろう。


「………ッ!」


いつもとは違う、見るからに我を忘れているアリューゼを見た騎士達は、一番最初に〝恐怖〟を感じた。

目を逸らしたくても、瞑りたくても、後ろを向きたくても、その場から逃げ出したくても、身体が言う事を聞かない。怒り狂うアリューゼは、味方の騎士達にさえ本能的な恐怖を与えていたのだ。


そして、全員の見る中、血塗られた刃は吸い込まれるように盗賊の肩を──


「まぁまぁ、落ち着けって」


バシッ!


──食い破りはしなかった。


直哉がアリューゼの正面にテレポートし、両手剣の柄を掴んだのだ。途中で寸止めされた大剣は、血の涎を盗賊の鼻っ面に垂らしただけに留まった。


「離せ!そいつ等は生きてて良い生き物じゃねぇんだっ!」


全力の太刀を止められたにも拘わらず、それでも剣を握る手に力を込めるアリューゼ。その目には、正真正銘本物の、純粋な涙が満ちていた。


「………」


直哉はそんなアリューゼの目を正面から見据え、柄をしっかりと押さえ込む事で拒絶を示す。

それでも諦めないアリューゼに、直哉は溜め息をついてから、


「シエル」


首だけを右に捻り、そこに佇むシエルの名を告げた。直哉な起こされてから保護されていたシエルは、空に向けて突き出した右手を振り下ろした。

すると、頭上から降り注いだ水球(スポーツでは無い)がアリューゼを直撃した。硬度が中々高く、溜まらずに両手剣を手放した。


「ぐぅ………っ」

「少し落ち着いてください!」


苦痛に顔を顰めるアリューゼに、シエルが姫様として声を掛けた。直哉にしがみつき、且つ声が震えているのは、周りに散らばる物体が原因である。

沸き上がる怒りを騎士としての意識が捩じ伏せたのか、アリューゼが唇を噛み締めた。


「………申し訳、ございません」


か細い声でそう呟き、その場に座り込んでしまった。

それを見て、命の危機が去った事を感じたのか、盗賊がアリューゼに罵声を浴びせかける。


「は………はは、あはははは!ざまぁみろってんだ!あぁそうさ、村を燃やしてやったさ!堪らなかったぜぇ?!ガキ共がわんわん泣き喚くのなんか、もぉ──」

「良いよお前、お前みたいなヤツ大好き」


更に続けようとする盗賊の顔面を、直哉のきつく握り締められた左拳が直撃した。身体からはどす黒い魔力が溢れ、その左目には白い六芒星が浮かび上がっている。

盗賊の歯は衝撃で全部折れ、鼻は砕け、顔面は隕石が落ちたかのように窪み、そのまま20m程吹っ飛んで行った。下品な顔に磨きを掛けた盗賊は、苦痛に耐えられずにもがき苦しむ。


「だってさぁ──」


吹っ飛ばした盗賊の元へ歩み寄り、その隣に天井にあたる部分が無い、内部の透けて見える巨大な氷の箱を形成。動かない盗賊を箱内部に叩き付け、そのまま蓋を作り、箱を密封した。

そして指パッチンをする。すると、盗賊が浮き上がり、箱の中で苦し気にもがき出した。箱の内部に氷のような冷たさの水を満たしたのだ。呼吸が出来ない苦しさと、身体を引き裂くような冷気により、盗賊は死への恐怖をありありと感じる事になった。

脱出しようと氷の壁を叩いてもびくともしないのが、盗賊の恐怖をさら煽る。


「───」


首を掻き毟り、その手を直哉に向けて伸ばし、助けを求める。

しかし──


「お前みたいなヤツなら──」


──聞こえる筈が無い声と、直哉から発せられる異様な魔力を感じ、助けを求める事を忘れて戦慄した。


直哉が両手で抱えるように巨大な雷球を作り出し、そのまま両手を空へと向けた。すると、雷球は手元から消え、代わりに周りが薄暗くなった。

嫌な予感を感じた盗賊は、空を見上げた。同時に、盗賊を捕らえる氷の箱を紫色の光が照らし出した。


「──痛め付けても、そんな怒られないからな」


盗賊の意識が続いたのはここまでだった。


周りの者達は、氷の箱に落ちる巨大な稲妻の目撃者となった。

それは氷の箱を粉砕し、中に満ちる水を媒体に、全方向から盗賊に直撃した。その時の熱で水は蒸発し、盗賊はぴくりともせずに地面に叩き付けられた。肌は焼き爛れ、一部は炭化している。腕はあらぬ方に曲がっていて、二度と動かせない事が見て取れた。


「「「「「「「「「………」」」」」」」」」


現実離れした、余りにも信じがたい光景を目の当たりにして、残りの九人の盗賊達が固まった。

そんな九人に、直哉が魔力による圧力を増しながら話し掛けた。


「さて皆さん」


飛び上がる盗賊達は、全員が揃ってガタガタと震えている。


「こんな風になるの、嫌だよね?」


そんな盗賊達は気にせず、指だけを瀕死の盗賊へと向けた。

盗賊の顔が青白く染まる。


その様子を見た直哉は、両手に小さな雷球を生成し、弓と矢の形にした。


「お前等の住み処、親玉を素直に吐けば………こんな風にはしないでやるよ?」


左手に握った弓の弦に、右手の矢を引っ掛けた。そのまま矢を引き、盗賊の一人に狙いを定めた。


「さて、どうする?」


バチバチと唸りを上げる弓矢に止めの一押しをされ、盗賊達は泣き出しながら喋り出した。

因みに、現在盗賊達を縛る不思議な力──直哉の魔術──は消えている。しかし、腰が抜けてしまい、その場から逃げ出す事は出来ないようだ。


場所に親玉を聞き出した直哉は、満足げに頷いた。


「うむ、宜しい」


それに安心した盗賊は、大きな溜め息をついて──


「あ、手が滑った」


──直哉の矢に撃ち抜かれた。

そこから更に隣の盗賊にも飛び火し、更に隣の………香ばしい香りを放つ九人の〝焼き盗賊〟は、ぐったりとしたまま動かなくなった。


「やると思った」と言う騎士の視線をオール無視し、座り込んだアリューゼに話し掛けた。


「………騎士がする事は、感情に任せた殺戮なんかじゃ無いぞ」

「………」


すると、アリューゼが剣を杖にして立ち上がった。憎らしげに盗賊達を睨んでいるのを、直哉は黙って見つめていた。

──シエルは直哉の腕にしがみつき、その視界を黒一色にしていたが。


そんな二人の前で深呼吸をし、アリューゼは周りを取り囲む騎士達に命令をした。


「こいつ等を〝拘束〟しろ」


そして直哉を見て、弱々しい笑みを向けた。血塗られた大剣を振って血を払い、それを持って御者を担った馬車に戻っていった。


アリューゼが馬車に戻って少しすると、アイザックが数人の部下を引き連れてきた。

そのまま騎馬組の騎士達に歩み寄り、治癒魔術を行使する。普通に立っているように見えた騎馬組だが、多くが交戦時に怪我を負っていたようだ。良く見ると、足に矢を突き刺した痛々しい姿の者もいた。


「お怪我はございませんか、お二方?」


騎馬組の治療を部下に任せ、アイザックは直哉達の元へ駆け寄ってきた。

直哉はシエルを正面から抱き締め、水属性魔術の眠りを誘う系統の魔術を行使。大きな泡が二人を包み込んだかと思うと、シエルの寝息が聞こえてきた。


「シエルがショックを受けたみたいだけどね」


周りに広がる血の海を一瞥し、苦笑いを溢した。


《なんつーか…慣れた、って言うのかな?》

『………』


この惨状を見ても平気な自分に嫌気が差したが、今はシエルを簡易ながらも整えられたベッドに寝かせるのが先決だ。アリューゼが苦しんでいるかも知れないが、自分の腕の中に抱いているよりはマシだろう。

馬車の中は小さな部屋のようにされていて、凡その家具一式は揃っているのだ──王族が使う馬車位ではあるが──。


「姫様に無理させちゃダメだから、取り敢えず馬車に寝かしてくるわ」


シエルをお姫様抱っこし、馬車に向けて歩き出した。すると、後ろに足音が続く。


「私もご一緒させてください。姫様専属のご立派な〝ナイト〟様は、馬車で苦しんでいる〝ナイト〟の孤独を紛らわす必要などありません」


その言葉に、心を読まれたのかと飛び上がりそうになったが、それを辛うじて堪え、その代わりに振り向かずに「やれやれ」とジェスチャーしておいた。

先程のアリューゼの動揺、言動を見れば、あの村に何かしらの思い入れがあるに違いない。無闇に聞き出して辛い思いをさせようとは思わないが、せめて慰めだけでも出来れば………と考えていたのだ。


「姫様のナイトは、素晴らしくお人好しですね──」

「ん、何か言った?」

「いえいえ、何でもありませんよ」


後ろでアイザックがクスクスと笑いを溢したような気がしたが、何でも無いと言われたので気にしない事にした。


そこで会話は途絶え、無言のまま馬車に着いた。アリューゼは御者台に座り、明るい空にうっすらと立ち上る煙を見ていた。

直哉はそのまま馬車に入り込み、ベッドにシエルを寝かせ、首元までシーツを掛けてやった。アイザックは馬車には入らず、御者台に座るアリューゼの元へと向かっていった。


「………」


先程と同じように、眠っているシエルの頬を撫でる。心なしか青白い顔色をしているように見え、シエルは純粋な女の子である事を再認識した。目の前で人が殺されて平気な反応などして欲しく無かったのだ。


《ただの、我が儘かな?》


自問自答するが、答えは帰ってくる事は無かった。


暫くシエルの寝顔を見ていたが、ふとある事を思い出した。

シエルを起こさないように馬車を抜け出し、ちらっと御者台に目を遣った。そこには、言葉を交わさずに隣同士で座る二人の男がいた。何かしてやるべきか迷ったが、思い出した事はそれでは無い。


そのまま馬車から離れ、つい先程まで戦場だった場所に向かう。


「………」


そこには野晒しにされた肉塊や飛び散った血痕がそのまま放置されていて、正直最悪な気分だ。

視線をずらすと、首から上だけが転がっていた。虚ろな眼差しを直哉に向け、何かを訴えるかのようにうっすらと口を開いている。


本来はそれを見たら──否、見る事すら拒絶したくなるようなモノなのだが、平気で見れてしまう上に、〝ご愁傷様〟と言う感想しか抱けなくなっていた自分が怖くなった。


騎士達は、任務のために躊躇いも無く盗賊を殺した。そうしなければシエルの身に危険が忍び寄る事になるから仕方が無いかもしれなかったのだが、それでも殺した事に変わりは無い。


そんな騎士と同類になってしまったのでは──


「あーも!ううるせぇ俺!」


思考がダークネスに転がり込むのを無理矢理阻止し、無口な生首を睨み返した。そのまま魔力を練り上げ、巨大な水球に変換した。

それをサッカー宜しく蹴り上げると、水球は空高く昇っていく。そして、上空で破裂した。砕け散った水球は膨大な量の雨となり、血生臭い戦場に降り注ぐ。それは血や臭いを押し流し、地面に溶け込んでいった。


「綺麗になれよ!」


再び魔力を練り上げ、黄緑の光を両手に纏わせた。その両手で地面をぶん殴ると、その光が地面を駆け抜け、瞬く間に黄緑に輝く大地を作り上げた。

少しすると光が消え、代わりに色とりどりの花が咲き誇る。生々しい肉塊は消え、大地の一部に還元されたようだ。


治癒を受ける騎士達が目を見張っていたが、知った事では無い。盗賊とは言えど人間だったのだ、これくらいしてやってもバチは当たらないだろう。

──本当は、騎士と自分が明確に違う事を知らせたかったのかも知れない。


先程とは一転し、花の甘い香りが風に乗り、周りを優しく駆け抜けた。

それを深呼吸で吸い込み、嫌な感情と共に吐き出す。そのお陰か、少しだけ楽になれた気がした。


最後に両手を合わせ、植物になった盗賊達に告げた。


《仲間は殺さないけど、痛め付けさせてもらうからな?》


そのまま踵を返し、シエルの眠る──そして、男が二人で呆然としている──馬車に戻る。


景気付けに脳内でダークネスな自分をぼこぼこにして、すっきりした表情でシエルの頬っぺたを摘まんだ。


「むにゅ………」


これだけの事だったが、先程の弔いよりも気分が晴れたのを実感した。

頭を撫でてから自己満足に耽り、そのまま御者台に顔を出した。


「よっ」

「「………」」


二人の男が沈黙を返事として返してきたが、めげたりはしない。

次はこの二人を何とかするべく、直哉の努力は始まったのであった。

駄作の筆者からのお知らせ。


予備校に通い出し、いよいよ時間が無くなりました。

これからは周一ペースになるかもしれません…


それでもいいよ、って人は………みっ、見捨てないでください………っ!

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