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第五輪:魔術

理論的な説明の難しさを身をもって知りました…

前からセラ、シエル、直哉と直列歩行している一向。今から国王のコラーシュとの食事に向かうところだ。


不意にセラがシエルの隣に行くと、耳元に囁きかける。


「シエル様も、男の子を見る目がありますね」

「ふぇっ?!そそっ、そんなんじゃないです!!」

「ふふふ、シエル様可愛い~」

「もぉ~!セラまでそんな事っ!」

「そですかぁー…じゃ、私がとっちゃ――」

「だめぇっ!!」

「?!」


急に怒鳴りだしたシエルに、心臓が飛び出しそうになる直哉。


……話の中心人物がこれである。


『……ナオヤ……』

《あん?》

『お前、凄いな……』

《は?どうしたのお前》


明らかに"凄い"と言うより"呆れた"と言う感情が籠ってる言葉に、直哉は首を傾げる。


《それにしても……》


直哉は、前に居る二人に視線を向ける。


真っ赤になって頬を膨らませるシエルの頬を、セラがつつく。ふしゅー、と可愛らしい効果音と共に頬を縮めるシエルを見て、セラは爆笑の一歩手前らへんの笑いを堪えられずにいた。シエルは両手をぶんぶんと振り回して抵抗のつもりしている。


可愛らしい二人を見て、ほんわかふわふわした気持ちになる直哉。


そんな微笑ましい二人から目を反らし、直哉は改めて王宮を見渡す。さっきはシエルに半ば強制的に引き摺られ、満足に観察出来なかったのだ。


…一言で言うと、有り得ねぇ。

同じ人間が住んでるとは思えない。直哉の家と比べると………。


不意に振り向いたセラとシエル。二人が見たものは――


「なっ!?何をしてるんですかナオヤ様!」

「ナオヤ!早まっちゃダメです!」


――窓から身を乗り出し、手をばたばたとさせ、今にも飛び立とうとしている(落下しようとしてる)直哉だった。

因みに、客室は地上五階程の高さの階にあり、落ちたらただじゃ済まない。


慌てて駆け寄り、直哉の腰を掴み、しがみつく形で押さえ付けるシエル。セラは驚いたような喜んでるような…とにかく笑顔と形容出来る顔を向けながら駆け寄り、直哉にしがみついたシエルにしがみつく。


「離せェ!俺ァ鳥になるんだー!」

「バカな事言わないでください!」

「ナオヤ様は人間です、ここから飛んだら、鳥どころか天使になっちゃいますよ?」

「うわぁぁぁぁぁぁんっ!!」


足掻く直哉を窓から引き離し、安全地帯まで引き摺っていくセラとシエル。最初のうちは直哉もじたばたしていたが、窓から3mくらい離れると、ぐったりとして動かなくなった。


「……シエル様」

「え?……あ、これは、その…何かの間違いですっ!」


慌てて直哉の腰から手を離す。直哉もシエルも頬が赤らんでいる。

……直哉が抵抗をやめたのは、シエルが密着している事に気付いたからだ。


うぶなお二人…ふふっ、可愛らしい…」


セラの意味深な呟きは、直哉とシエルには届かなかった。



――直哉に鳥になりたくなる願望を押し付ける程、この王宮はでかすぎるのだ。


直哉が騒ぎを起こした通路をまっすぐ行くと、大広間に辿り着く。直哉達が歩いてきた通路を南側とすると、北・東・西に通路が繋がっている。

その通路がさらに枝分かれして……まるで迷宮のようだ。


住み慣れた人でないと、この王宮の隅々まで把握するのは難しいだろう。

王宮に来たばかり直哉に分かるわけが無かった。ちなみに、直哉には方向感覚と言うモノが針の先程しか無い。つまり、天災レベルの方向音痴なのだが……これは後程語るとしよう。


「………」

「………」

「(ニコニコ)」


顔を朱に染めたまま俯く直哉とシエルを両脇に抱え、セラは超がつく程の満天スマイルを浮かべている。今の状況がご満悦のようだ。

そんな三人の隣を通り過ぎる使用人達は、余りにも奇妙な状況を作り出す三人を見て、決まって首を傾げるのであった。





「ここが国王専用の食堂です」


俯いてる間も歩を進めた三人は、いつの間にか目的地――食堂に着いていた。


そんな食堂の入り口には、直哉に宛がわれた客室のドアの二倍はあろう巨大なドアが塞いでいる。


コンコン、とセラがドアをノックした。


「失礼します、シエル様とナオヤ様をお連れしました」

「うむ、入って参れ」


そう言われてドアを開けるセラ。さっきまでのおちゃらけた雰囲気を拭い捨て、緊張を感じられる雰囲気を纏っている。


中に入った直哉は、テーブルや椅子、シャンデリアの豪華さにも驚いたが、並べられてる料理の豪勢さにビビりまくった。

大型のテーブルだと言うのに、そのテーブルの表面が見えなくなる程の料理が敷き詰められている。匂いも素晴らしいとしか言えず、空腹の直哉にはクリティカルヒットだ。


「よく来たな、ナオヤ。紹介しよう、私の妻だ」


そう言うと、コラーシュは傍らの妙齢の女性へと視線を向ける。


「初めまして、ナオヤ。フィーナ・キャパシェンと申します。娘の件ではお世話になりました」

「あ、初めまして。俺、直哉…神崎直哉です。怪我も無かったみたいで何よりですよ」


コラーシュ・キャパシェンの妻であるフィーナ・キャパシェン。年は40歳程であろうが、見た目だけでは30歳前半にも見える。シエルと同じ金髪に、これまたシエルと同じで優しげな光を宿す空色の瞳、柔らかな物言いにスラッとした体型からは、好印象しか受け取る事が出来ないだろう。夫婦揃って無駄がない、理想的とも言える夫婦だ。


「いやぁ、娘さんが可愛かったら、お母様も可愛らしいですね。王宮ここの女性には見とれっぱなしですよ」


褒める直哉。因みにほぼ無意識のうちの発言であって、狙ったりしている訳ではない。


「あらまぁ、嬉しい事を」

「そんな…私、可愛くなんてありませんよぅ」

「うふふ、ありがとうございます、ナオヤ様」


上からフィーナ、シエル、セラである。シエルに至っては、湯気が出そうな程真っ赤に染まりきっている。


そんな女性陣の反応を見てしまったコラーシュは、焦りながら


「うぉっほん…さ、さて…人も揃った訳だし、早速食事に移るとしようか」


…半ば強制的に会話をすり替えた。

コラーシュだって男である。この空気はまずいと直感で感じたのだ。


「そうですね。折角の美味しそうな料理を冷めさせてしまうのは勿体無い。料理人さん達にも失礼ですし」


そう言うと、直哉は近くにあった椅子を引き、腰掛ける。

それを見て、シエルは直哉の隣に座る。


そして、直哉がコップに入った水を口に含んだ所で


「あらあら、シエルはナオヤが気に入ったみたいですね」

「「~っ?!」」


フィーナの問題発言が炸裂した。こうかはばつぐんだ!


「げほっ、ごほごほ…」

「や、その、ちが、これは」


水を噴き出しそうになりながらも何とか堪える直哉。なんとか飲み込み、蒸せて、苦しんでいる。

シエルはわたわたと慌てふためき、必死に否定しようとしているが…余りにも唐突だったせいか、呂律が回ってない。


「あはははは、ここまであからさまに反応しなくてもいいじゃないっ!」

「お母様……」

「………」


何故だろう、町民と言いセラと言いフィーナと言い、この世界の女性は強すぎる。逆らったら墓穴を掘るだろうと本能が警鐘を鳴らしている。無論シエルは別だが。

だが、直哉としてはそっちの方が良かった。無駄に堅苦しく接せられるのは、直哉は好きでは無いのだ。


フィーナが関わりにくい女性で無いことに安堵した直哉であった。





ようやく落ち着いた二人も、食事をとり始める。セラは笑いを必死に堪えながら立っていた。座らないのかと直哉が尋ねると、メイドは別に食事をとるものだと返事が返ってきた。


不意ににやりと笑う直哉。シエルにアイコンタクトを送ると、シエルは頷く。

そして笑顔で


「姫様命令です、一緒に食事をとりましょう」


とセラに言うのだった。


「え、だって、その…」


セラはコラーシュとフィーナを見る。二人とも頷いている。


「……分かりました、姫様の我が儘っぷりには感謝します」

「我が儘じゃないです!」

「そうですかぁ~?」

「そうですったらそうですっ!!」


……シエルは弄られキャラらしい。


そんな微笑ましい光景も食事を進める糧となり、テーブルを埋め尽くす程の食事は姿を消した。

……半分ほどは直哉の腹の中に、だが。


「……ナオヤって……」

「はい?」

「よく食べるのねぇ」

「食欲旺盛、育ち盛り真っ盛りな事だけが取り柄です」

「そんなっ、ナオヤはとっても強いんですよ!」

「ほう…そう言えば、破落戸から娘を救ってくれたんだったな。一体どうやって?」

「えーっと…稲妻を、あや、つ、って………」


直哉の言葉は、後半に行くにつれて小さくなっていった。

セラにコラーシュ、フィーナまでもが口をあんぐりと開けているのだ。


「……稲妻?」

「はい、稲妻ですけど……どうかしましたか?」

「まさか、稲妻を操る者に会えるとはな……」


物凄く驚愕されている。何か理由でもあるのだろうかと思い、直哉は聞き返す。


「そんなに驚く事ですか?」

「あぁ…私はこれまで、稲妻系魔法を使いこなす魔術師を見たことが無い位だ」

「要するに、貴重だと」


納得して見せる直哉。…とは言っても、直哉に魔法の知識など無い。つまり、すっきりさっぱり分からないと言う事だ。


困惑の視線をシエルに向ける。視線に気付きはっとしたシエルは、コラーシュとフィーナ、セラの三人に出逢いのあらすじを簡単に纏めて話した。


「……つまり、ナオヤは別の世界から来た、と。それで、その神様の言う通りにしたら魔術が打てたと言うことか」

「まぁ、そんな感じですね」


直哉のここに至るまでの経緯を述べた後の反応は、だいたい固定だろう。

あんぐりと口を開き、呆然とする…これだけだ。


そもそも、他の世界の存在など意識すらしてないのだ、この反応が当たり前っちゃ当たり前だ。


だが、流石は一国の王である。星の海を冒険していた意識をすぐに取り戻すと、魔法について語り始める。


「ふむ…魔法の知識がさっぱりなら、そこから説明するとしようか………」



――万物には、マナ(自然魔力)と言うモノが宿り、人間"だけ"にはエレメント(体内魔力)が宿るとされている。


それらはあって当然のモノであり、魔術か何かで結界などを張るなどの処置をとらない限り、エレメントやマナの無い空間と言うモノは作り出せないとされている。


そして、そのエレメントやマナを変化させたり吸収したり、または放出して(他にも方法はあるが、一般的なモノを挙げている)別のモノにする事、これを魔術と呼ぶ。


大気に宿るマナを使えば魔術が使い放題だと思われがちだが、マナを使う度に同じ量のエレメントを消費するので、エレメントをマナが上回る事は無く、使い放題は不可能とされている。


この世界の魔術には、火・風・水・土と言う基本属性と、稲妻・吹雪・森林・爆裂と言う合成属性とが存在する。

合成属性とは、稲妻なら火と風、吹雪なら風と水、森林なら水と土、爆裂なら火と土と、二つの属性を合わせて発現する属性の事だ。


人間は生まれる時、天より属性を一つ授かるとされている。遺伝などはあまり関係が無いらしく、人によっては属性の強弱が出たり、本当に極稀にだが複数の属性を授かる事もある。マナの量にも差が生じるとか。


マナの量や属性の強さによって、使える魔術も変わってくる。

当然の如く大魔法となると、マナの消費も増えてしまう。マナの量が多くないと、大魔法は使えないと言う事だ。


因みに、消費したマナは数日間休むと回復する。この回復力にも個人差があるとか。正に千差万別、十人十色だ。


「なるほど…んで、稲妻…火と風の属性を授かる者は限り無く少ないと」

「うむ。吹雪や森林、爆裂を扱える者もかなり少ないのは確かだが…どういう訳か稲妻を扱える者が飛び抜けて少ないと聞く。世界中探しても数人見つかるかどうからしい」

「それは凄いが…もしかしたら…」

「どうした?」

「あの花瓶に生けてある植物、借りてもいいですか?」

「構わないが…まさか…」

「そのまさかかもしれません」


そう言うと直哉は立ち上がり、花瓶に生けてある花(まだ蕾だが)を触る。

記憶に間違いが無ければ、電気系ねずみがお花を操って直哉の身体に絡め、木製の階段を変質させたはずだ。


「………」


直哉は念じる。蕾に開花しようと語りかける。


すると……


「なんと…」

「これは…」

「ほゎぁ、綺麗です!」

「凄い…」


上からコラーシュ、フィーナ、シエル、セラである。口々に感嘆の言葉を漏らしている。


…それもそのはず、さっきまで蕾だった花が、これ以上開けないとばかりに開いたのだ。

これで直哉は稲妻と森林…つまり、火・風・水・土の全ての属性を扱える事になる。


「ナオヤ…お前は何者なんだ…」

「俺は俺ですよ。…けど、異質なのは分かるかな」


コラーシュの問いに、苦笑いしながら答える直哉。


「…あ」


今度は吹雪属性をイメージしてみる。


《空気中の水蒸気が凍って、ダイヤモンドダストって言う現象が起きる筈だから…》


するとどうだろうか。部屋内の気温が下がったかと思うと、光り輝く結晶が宙を舞い始めたではないか。


「「綺麗……」」


シエルとセラが声を揃える。寒さを忘れ、目の前の光景に見とれているようだ。

だが、コラーシュとフィーナは違う。驚愕の表情を浮かべ……ぶるぶる震えている。


《オイ、どーやりゃ解除できんだよ》

『それ考えないでやったのかよ…集中を解けば元通りになる筈だ』


言われた通りに気を抜くと、光り輝く結晶…ダイヤモンドダストは音もなく消え失せた。


「「「「………」」」」


言葉を失う四人。


「……ま、まぁ…食事も終わったし、今日はこの辺でお開きにしようか」


口を開いたのはコラーシュだった。みんなも納得したらしく、コラーシュの意見に賛成した。


「ナオヤも客室で休んでくれ。詳しくは、明日聞かせてもらうよ」

「分かりました。けど……」

「けど?」

「道忘れました」


緊迫した空気をぶち壊す直哉であった。


「ははっ、セラ、案内してあげなさい」

「私も!」


シエルも飛び付いてきた。直哉を部屋に送り届けるのは、セラとシエルとなった。


「それじゃ、先に失礼しますね」


そう言い残し、部屋を後にする直哉一行。

そんな一行を見送るコラーシュとフィーナの目は、端から見ても分かるほどに焦りの色を浮かべていた。

「そーいや、この世界って風呂とかあるのか?」

「ありますよ!大型で、たくさんの人が入れます!」

「そう、たくさん…ね?」


直哉の質問に、シエル・セラが答える。日本人にとって、風呂は無くてはならない代物だ。ちょっとほっとする直哉。


だが…何故だろう。言い様も無い不安が直哉を駆け抜ける。


「………」

「どうしましたか?」

「いや……」

「ナオヤ、お風呂に入りたいんですか?何だったら案内しますよ?」

「ん…そうしようかな。」


そう答えた直哉を、悪寒が襲う。心なしか、女性二人は笑っているように見えた。

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