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第四十六輪:模擬戦闘

シエルが動かしやすい事が判明しました。

けど、あくまでも主人公は直哉…!

直哉とシエル、台車を押すセラの三人は、騒がしい会話をしながら食堂に向かっていた。

目的はもちろん、エネルギー補給である。


「で?で?どこまで行ったの?」

「だぁーかぁーらぁー!違ぇっつってんだろーが!」


異様なまでに光り輝く笑顔を浮かべ、先程から何度も同じ事を聞いてくるセラを無力化しようと必死な直哉は、シエルの左腕に嵌められたオリハルコン製ブレスレットを指差しながら訴えた。


「ご先祖様がうろうろしてたから、こん中に押し込んだんだよ!」


だが、セラは聞く耳を持たない。直哉をジト目で睨みながら頬を歪める。


「それ何回目~?冗談はもう聞きあきたよぅ、とっとと暴露しちゃいなさ~い!」

「てめえこそ何回目だボケェ!真実なんだからしゃーねぇだろーがっ!!」


朝っぱらから騒がしい二人を尻目に、それでも何とか現状を切り抜けようと、シエルはブレスレットの精霊と化したジェラルドに語り掛ける。


『お祖父様、何とかなりませんか?さっきナオヤと話した時みたいにするとか…』

『余程特別な人間でない限り、〝念話〟は出来ないみたいだな。先程から試しているのだが、あの反応では届いてすらいないようだ…済まない、シエル』


〝念話〟とは、相手の脳に直接語り掛け、言葉を使わずにコミュニケーションを取る…所謂テレパシーと呼ばれるモノだ。直哉とウィズの会話も念話に分類される。


残念そうに答えるジェラルドを慰めるように、シエルは優しい微笑みを浮かべた。


『いいえ、お祖父様は悪くはありません。お気になさらず』


心で念じ、シエルはブレスレットを撫でる。何やら照れるような、恥ずかしがるような感情がブレスレットから伝わってきたが、それが示す意味までは伝わらなかったようだ。


「あはは………はぁ」


ジェラルドから伝わる感情(ロリコン要素が大半を占めている)に疑問符を浮かべつつ、二人を黙らせる事に限界を感じたシエルは、窓の外に向かって苦笑いするのであった。







食堂に着いてしまうと、あれ程騒ぎ立てていた二人も、まるで〝待て〟と言われた忠犬のように静かになった。


「じゅるり…」

「………」


直哉は並べられる料理を見ながら舌舐めずりをし、セラはごくりと唾を飲み込んだ。

冷静に観察するシエルも、実はお腹が発しようとする悲鳴を食い止めるので精一杯だったりする。


最後の一皿が置かれた瞬間を見計らい、直哉が誰よりも速く手を合わせた。

それに倣い、全員が手を合わせる。


「戴きまぁすあぁぁああ!」


直哉の絶叫のような挨拶と共に、簡易バトルロワイヤルは幕を上げたのであった。







食事を終えたシエルは、ひたすら嗚咽を洩らすセラを慰めていた。


「うぇぇぇん…」

「よしよし、泣かないの」


小動物が小動物を慰める姿は、愛嬌の塊のようであった。二人の周りだけが明るく輝き、不思議な温もりを撒き散らしている。

引き寄せられるかのように、メイドや騎士達が集まってきていたのだが、シエルにはセラしか見えていない。


「ナオヤがっ、ナオヤがぁぁ…」

「セラもちょっとやりすぎたんじゃないのかなぁ」

「だってぇぇ~!」


セラはそのままシエルに抱き着き、声をあげてわんわんと泣きじゃくった。


セラがこのような状態になったのは、食事の九割を直哉に食べられてしまったからである。


挨拶をした途端に、目にも止まらぬ速度でのフォーク捌きを繰り広げた直哉は、その矛先をセラの前に並べられた料理に向けたのだ。セラも何とか反撃しようとしたのだが、全てが全て直哉に弾かれてしまったのである。

勇者補正をそんなところに使う直哉は、大人気ないお子ちゃまと言っても過言ではないだろう。


最初は笑っていた直哉だが、セラが泣き出した途端「あ、俺訓練あるから」等と言い残し、逃亡するかのように走り去った。

そして、今に至るのである。


『どっちもどっち、だよね…』


自分に語り掛けるように心の中で呟き、シエルはセラを引っがした。

セラを一人で立たせると、その手を握り締める。


「可愛いお顔が涙で濡れてちゃ台無しだよ。お部屋行ってちゃんとしよ?」

「うぅ~…」


手を握ったまま歩き出したシエルに、セラも続いて歩き出しす。そして、周りの人だかりに気付いた。


「「………」」

「あ……」

「いや…」

「その…」


二人が無言で見つめると、人だかりを構成していた騎士達がしどろもどろな反応をする。メイドは心なしか紅潮しているようにも見えた。

その空気に耐えれなくなった騎士は、その場凌ぎの言い訳を並べた。


「あー、そうだ!これから訓練があるんだった!あは、あははは~…」


一人の騎士が逃げると、他の騎士やメイド達も我先にと、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。

二人だけになった廊下で、シエルは大きな溜め息をついた。


「はぁ…」

「ごっ、ごめんなさい…」


それを聞いてか、セラが済まなそうに項垂れた。強気な時と弱気な時のギャップが凄い事を改めて知った。

何とかセラを立ち直らせ、再び歩き始めたシエルは、今度は心の中で溜め息を洩らした。


『はーぁ…』

『…シエルも、苦労してるのだな…』


励ましの言葉を掛けたジェラルドからは、同情のような、呆れのような…そんな感情が伝わってきたのであった。







シエルが泣き疲れて眠ってしまったセラと一緒に眠っている頃、他の騎士達が見守る中、直哉は訓練所でラルフと一戦交えていた。

武器えものはラルフの扱う型の木製剣だ。


「ふっ!」

「ちっ!」


アリューゼの時のような威圧感は感じないが、それに匹敵する程のスピードを持つ斬撃に、直哉は舌打ちをしながら回避に徹せざるを得なかった。


「くそっ!」


直哉は一旦その場から後ろに飛び退き、ラルフから距離を置いた。

ラルフは木製剣を下段に構え、直哉を驚きの眼差しで見据えた。


「…凄いな。補助魔術の掛かった俺の斬撃に対応するとは…」


エアレイド王国に魔物が乗り込んできた時、ラルフは両手剣に風を纏わせていた。これからも分かると思うが、ラルフは風属性魔術を使うのだ。

そして、今はその魔術を自らに掛けている。機動力は数倍に跳ね上がっているのだ。所謂ソロヘイストである。

そんなラルフと無修正(考えすぎは禁物である)直哉が渡り合っているのだから、周りからしたら驚愕を通り越して崇拝するレベルである。

──尤も、本人は気付きもしないが。


木製剣を正眼に構え、直哉はラルフを睨み付けた。


「褒めてるつもりかコンチクショー!こっちは手一杯なんだよ!!」


地面を力強く蹴り、直哉はラルフに肉薄する。その勢いを木製剣に上乗せし、袈裟懸けを巻き戻しするように切り上げた。

威力では分が悪いと判断したラルフは、木製剣を直哉の斬撃の軌道に添えるように宛がい、少しの力で軌道をずらす。


「甘い!」


胴体ががら空きな直哉のお腹らへんに、ラルフは左足で前蹴りを繰り出した。


「しょっぱい!」


直哉はそれを屈んで──それだけでは避けきれなかったから──右側に倒れ込むようにして回避した。

しかし、ただでは倒れ込まず、反時計回りに回転しながら左足を突き出し、バランスを立て直しつつラルフの軸足である右足に蹴りを加えた。


「くっ!」


不安定な体勢だったラルフはバランスを崩し、ふらふらとよろけた。逆にバランスを取った直哉は、そのまま立ち上がりながら時計回りに回転、遠心力をプラスした水平薙ぎを繰り出す。

遠心力を上乗せしたのは、過去にアリューゼとの模擬戦闘でその威力を体験したからだ。


「っらぁっ!!」


シュッ!


空を切って──と言うよりも切り裂いて──木製剣はラルフに迫る。


「──っ?!」


ラルフの第六感が激しい警鐘を打ち鳴らし、「回避しろ」と指令を出した。しかし、回避はしない。

バランスを取り直し、木製剣の柄を右手で握り、左手を刃に添えた。そのまま直哉の水平薙ぎを受け止める。


ガキッ!


「ぐ…っ」


しかし、流石は遠心力を上乗せしただけの事はあったようだ、全ての衝撃を受け流す事は出来ず、ラルフの木製剣が軋む。

あと一息で折れると言うところで、ラルフは刃に添えた左手を離し、後ろに飛び退く事で事無きを得た。何とか遣り過ごせた事による安堵からか、ラルフの頬を一筋の冷や汗が伝う。


しかし、直哉もこの期を逃したりはしない。

左足で踏み切り、飛び退いたラルフに急接近、そのまま柄をラルフに向けて突き出し、鳩尾目掛けて打撃を放つ。


「ちっ──」


喰らってしまったら、たまったモノではない。上半身を捻って何とか回避しようとした。

だが──


「──うおっ?!」


──身体は無理な要求に対応出来ず、ラルフは地面に吸い寄せられるかのように倒れ込んだ。

受け身を取れる程の余裕があった訳でも無く、後頭部や背中を打ち付けてしまう。


「かはっ!」


肺から空気が抜け、軽い脳震盪のうしんとうがラルフを襲う。苦しさからか、ラルフは目を閉じてしまった。

そして、倒れる時の衝撃に襲われた瞬間、右頬に風を感じ、地面に何かが突き刺さるような衝撃が伝わってきた。


「………」


恐る恐る目を開くと、疲れたような笑顔を浮かべる直哉が映り込んだ。

──そして、自分の顔の右側に木製剣が突き立てられているのに気付いた。


「…俺の負け、か」


苦笑いしながら、確認のように呟く。

そんなラルフに、直哉は右手を差し出した。


「俺が言うのもアレだけど、なかなか良い模擬戦闘だったんじゃないかなぁ」


ラルフは直哉を見上げ、その右手をしっかりと掴む。そのまま直哉が引っ張り上げ、ラルフをその場に立たせた。

同時に、騎士達が安堵の息を吐き出した。


「あぁ…訓練不足だと言う事に気付けた。大きな収穫だ」

「俺もまだまだだぁ~」


直哉が大きな溜め息を洩らす。同時に、騎士達を掻き分けて近寄る人影が一つ。

それに気付いた直哉は、何も知らない様子を装いながら、地面に突き刺した木製剣を引き抜く。

そして、人影が更に近づいた時、精一杯の力を込めた振り下ろしをお見舞した。


「うぉーりゃぁぁ!」

「うぉぁ?!」


ぶぉんっ!


近寄ってきた人影──アリューゼは、その振り下ろしを辛うじてかわし、心臓らへんを押さえながら怒鳴る。


「んにゃろぉ!殺す気かぁ!!」

「うん」

「即答?!騎士団長殺すってどう言う事?!」

「まぁまぁ、避けれたんだからいいじゃん…………ツマンネェ」

「最後に聞き捨てならないセリフを聞いた気がするな~」

「気のせいだって…ボケちゃったんじゃないの?」

「うるせぇ!俺ぁまだ三十路だ!」

「へぇーそうなんだー」

「てめえ…いつか──」

「殺られる前に殺れですぅ(はぁt」


直哉が魔力を纏い、雷神モードに突入する。そうなると、アリューゼはぐうの音も出ない。

悔しそうに顔をしかめるアリューゼを満足げに眺め、直哉は真面目な話を振った。


「…で?今の模擬戦闘の評価でもしてくれんの?」

「それもあるんだが、それは後でだな」


ちょっぴり残念そうに項垂れた直哉は、魔力を霧散させ、雷神モードを解除した。

アリューゼが安堵の溜め息をついていたが、知らんぷり知らんぷり。


「今日は見回りをしてもらおうかと思ってな」

「見回り?」


首を傾げる直哉に、アリューゼはやれやれと溜め息をつきながらも説明する。


「分かりやすく言うと警備兵だ。王宮を隈無くまなく適当に歩き回ればいい、以上」

「ホント適当だな」


説明の分かりやすさと適当さに苦笑いする直哉は、木製剣をラルフに押し付けた。

ダルそうに欠伸をし、アリューゼに確認を取る。


「適当でいいんだな?」

「あぁ」


アリューゼ、即答。

暫しの沈黙の後、直哉は諦めたように言った。


「はぁ…分かった分かった、行ってきますよ~」


大きく伸びをし、そのまま訓練所の出入口に向かう。数人の騎士が手を振ってくれたり「頑張ってください」と声を掛けてくれたりしたが、直哉に頑張る気など毛頭ない。

表面は悩殺スマイル、内面は邪悪な笑顔を浮かべながら、そのまま訓練所を後にしたのであった。


直哉が訓練所から出ていったのを確認したアリューゼは、木製剣を二本持つラルフに話し掛けた。


「しかし、お前が負けるだなんてな…」


アリューゼの声色からは、明らかな驚愕が伝わってきた。

それもそうだ、補助魔術を掛けていたラルフと渡り合い、打ち破ってしまったのだから。


大きく深呼吸をしてから、ラルフは呟く。


「…俺が未熟なのか、ナオヤが規格外なのか…魔術無しでもあの強さだ、そこに強力な魔術が加わるなど、考えたくも無いですね」

「多分両方だな。お前だって、まだまだ伸び盛りだ。今出来る事と言えば──」

「訓練、ですかね」


先に言おうとした事を言われてしまい、アリューゼは多少面食らった。ラルフは超が付いてもおかしくない程に真面目なのだ。

顎に手を添え、ラルフは考え込む。


「訓練後に、自主鍛練を組み込むか…」


それを聞いたアリューゼは、苦笑いを隠せなかった。


「おいおい、ただでさえ訓練時間を延ばしてるのに、それ以上やるのか…」


普通の騎士の訓練時間が五時間程だとすると、ラルフは軽く倍以上は訓練しているのだ。そこに自主トレを組み込もうと言うのだから、呆れるのも仕方無い事だろう。


苦笑いするアリューゼに気付いたラルフは、心底不思議そうに首を傾げる。


「はて…そんなに変な事でしょうか…」

「いやいや、そんな事は無いぞ。王国のために精進するんだから、寧ろ誇らしい事だ」


笑顔で励ます(?)アリューゼに、更に首を傾げるラルフ。

そんなラルフを見たアリューゼは、


『コイツに何を言おうが無駄だったな…』


内心で呟き、他の騎士達の訓練時間を延ばす事を決めたのであった。

戦闘描写が微妙な気がしてなりません…

執筆した内容をリアルでやろうとしても、少なくとも筆者には不可能です☆


ちょっとは現実味を取り入れるべきか、それとも夢や希望に満ち溢れたファンタスティックなモノにするか…


…prz

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