表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/83

第四十五輪:幽霊騒動(後編)

一言で言うと


もうだめぽprz


と言う出来映え。


うpするのが躊躇われるような駄作の完成だ!

フィーナとセラの計らい(陰謀)によって誤解が解かれた直哉は、少しして目覚めたシエルと共に、揺らめく蝋燭の前で作戦会議をしていた。

外は既に真っ暗で、夜と言っても過言ではない状況だ。月も隠れているらしく、蝋燭だけが部屋内を灯す明かりとなっている。


「──で、〝ソイツ〟はこの部屋の前まで来たんだな?」

「ん…ドアにぶふはってたはら、まひはいないよ」


直哉の質問に、咀嚼を繰り返しながらも答えるシエル。行儀が良いとは言えないが、両手でパンを持って必死にもぐもぐするシエルを見ていると、注意する意識を観察する意識が上回ってしまったようだ。


直哉は料理長が乗せてくれていたポットを傾け、これまた乗せてくれたコップに紅茶を注ぎ、それをシエルに手渡した。

それを受け取ったシエルが一気に飲み干し、パンを胃に流し込んだ。


「ぷはー…ごちそうさまです」


ひきつった表情のまま両手を合わせてお辞儀をするシエルを撫でつつ、直哉は質問を続けた。


「しっかしなぁ…どして部屋内に入って来なかったんだ?それに、幽霊ってドアにぶつかるもんか?」

「う…わ、分かんない…」


〝幽霊〟と言う単語を聞いたシエルは、小さく震えてから直哉の手を握った。


シエルの話によると、異世界の亡霊も元世界の亡霊も、基本的な設定は同じらしい。身体は透けて、壁等も通り抜け可能だと熱弁していた。

しかし、今回の亡霊はドアに直撃したとの事だ。もしかしたら、中に人でも入っていたのかもしれない。


「もし人が入っていたら、そりゃ不審者間違いなしだな」

「あぅぁ~…」


シエルがより一層震え出した。亡霊だろうが人間だろうが、やっぱり怖いモノは怖いようだ。


「よしよし…今日取っ捕まえてやるからな」


直哉がシエルの頭をぽふぽふと撫でる。しかし、効果が薄いようだ。


仕方無いかと呟いてから立ち上がる直哉に驚いたシエルは、その場で飛び上がってみせた。


「ひっ!!」

「おちつけもちつけひっひっふー。怖くないぞ怖くない」


何をどうすれば落ち着けるのかすら理解出来ないが、その言葉には謎の説得力が込められていたようだ。

落ち着いたのか何かを悟ったのか、はたまた何かの糸がぶっ千切れたのか…シエルの震えが止まったかと思うと、そのまま直哉に正面からしがみついた。


「ちょ、ちょっ、ちょま!落ち着け、落ち着くんだ──」

「えへへ、こうすれば怖くないや」

「………」


自分の胸元に頬擦りされ、直哉は亡霊に対する恐怖とは違う恐怖を抱いた。


《こ、こいつぁ…将来が恐ろしいぜ…》

『かわ──』

《黙れ》

『──ケチ』

《黙れ》

『バカ!アホ──』

《重要な事ですが、三度目はありませんよ?》

『ごめんなさい』


直哉が魔力を集めて、ウィズを無理矢理具現化させようとしたところで、ウィズは抵抗する事を止めた。ドアの外に置き去りにされるのは遠慮したいらしい。


しがみつくシエルを引き剥がし(ウィズがかなり抵抗しまくったが)、ポットの紅茶をコップに注ぐ。それに口を付け、一気に飲み干した。


「ふぉー!目が覚めたなぁ」


頬をぺちぺちと叩き、ドアを睨み付ける。そして、魔力を練り上げ、腰に巻かれたベルトから柄を右手で抜き取った。


「掃除機は無理だが、まぁ我慢してくれよ」


柄の刃側を左手に押し付け、右手をそのまま右側にずらす。すると、手のひらから妖しく輝く黒紫の刀身が伸び始めた。

自称〝錬金術師のアレ〟だ。


目を見開くシエルを余所に、直哉は妖刀村正を作り上げた。

そして、ドアを開ける。


「幽霊の生け捕り頑張ろうな、シエル」







威勢良く部屋を飛び出した直哉と、割りと控え目にドアを閉めたシエルは、しばらく王宮内を歩き回る事にした。

迫り来る警備兵をやり過ごし、来るべきエンカウントに先手を打とうと備えているのだ。


「ところでさ、シエル」

「にゃっ?!」


急な呼び掛けに驚いたシエルは、猫のような声をあげる。すかさず直哉がシエルの口を左手で塞ぎ、悲鳴になる前にき止める事は成功した。

直哉は妖刀村正を掴む右手の人差し指を立て、自分の唇に当てる。


「しー…警備兵にバレたら、幽霊さんより怖い目に遭うぞ」


直哉に忠告されたシエルは、コラーシュに氷漬けにされた時の事を思い出した。

さらさらな金髪を舞わせるように首を振り、口をしっかりと閉じたシエル。


「っ~~」

「うむ、よろしい…っと!」


満足げに頷こうとして、警備兵の足音が近付いてきている事に気付いた。シエルの手を引き、なるべく足音を立てないように走り、十字路の角で辛うじてやり過ごせた。

足音が遠ざかるのを確認し、溜め息を洩らす。


《ふぅ…これじゃあ、まるで脱獄囚だな》

『見方を変えたら「ナオヤ、愛の逃避行!」とも取れるぜ』

《うるせぃ──って、あれ?》


直哉がウィズを具現化させようか迷っていると、シエルが異様に静かな事に気付いた。直哉の正面でフリーズしている。

不思議に思った直哉は、取り敢えずシエルに話し掛けてみた。


──その時の事だ。


「どうかした──」


ザッ


「「!!!」」


──通路の西側から、異様に重苦しい足音が響いてきたのは。

それを聞いたシエルは、活動を完全に停止していた。呼吸しているのかすら不安になる程ぴくりともしない。


「シエル…おい、シエル!」

「ぅ、ぁぁ…」


直哉が小声で呼び掛けながら揺さぶるが、シエルは呻き声を洩らすのが精一杯と言った様子だ。


『金縛りだな、ダンナ』

《何その一人称!》


冷静に分析するウィズに、直哉はちょっと慌てた突っ込みを返した。その間シエルの頬っぺたを摘まんだり両手で挟んだりしてみたが、効果らしい効果は見られなかった。


ザッ、ザッ


足音は着実に近付いていて、絶賛重圧倍増中である。

シエルを揺さぶりながら、直哉はウィズに対処法を聞いた。


《どーすりゃいい、金縛りはどーすりゃ消える?!》

『うーん…弱い電流でも流してみれば?』


言われた瞬間にかすかな魔力を練り上げ、それを弱い静電気程の稲妻に転換した。


「すまん、シエル!」


そして、謝りながら左手で頬っぺたを摘まんで、そのままシエルに放電した。


パチッ!


「うにゃぁぁっ──」

「はいすとーっぷ」


再び悲鳴をあげようとするシエルの口を抑え、何とか留まらせた。

シエルは急いで直哉の後ろに隠れた。金縛りは解除できたようだ。


…ザッ


それと同時に、視界に鈍く発光する物体が映り込んだ。

シエルは直哉の背中にしがみつき、直哉はそんなシエルを庇うように後退りする。


《うわ、マジで出やがったよ》

『つってれてーてれてってっ』

やかましいわボケ!んなマイナーな音楽分かる訳ねーだろ!》


直哉は興奮気味に返事をし、笑顔を浮かべた。別に発狂した訳ではなく、ただ単にワクワクしているだけだ。

そのまま亡霊をじっくりと観察する。


《これが幽霊…何故かイライラするな》

『思ってたより悪い気はしねェなー』


散々ビビっていたウィズも割りとあっけらかんとしていて、怖がる様子は微塵も無い。

シエルは怖がっているが、一人か二人かの差が大きいようで、昨日より怯えてはいないようだ。

因みに、イライラの原因は亡霊の顔である。イケメンは男の敵だ。


直哉が食い入るように見ていると、不意に亡霊の足が止まった。


「…何だね君──」

「おー!喋ったぞコイツ!」

「「!?」」


亡霊が口を開いた瞬間に直哉が叫び、亡霊とシエルがビクリと震えた。

背中に怖がるシエルを感じつつ、何故か戸惑っている亡霊に話し掛けてみた。


「な、何なんだ…」

「なぁなぁ、アンタなんて言うの?何歳?どこの人?なんで透けてんの?バカなの?」


一度に五つも質問する直哉に、亡霊は戸惑いを増していく。


「質問多くないかね…」

「拒否権は無いよ?」


妖刀村正に魔力を注ぐと、満ち溢れる稲妻が唸りをあげた。それを亡霊の顔の脇に突き出し、笑顔を浮かべながら恐喝紛いの台詞をのたまった。


「「『………』」」


流石のウィズも黙ってしまい、直哉以外の三人の間に表現出来ない気まずさを孕んだ空気が満ちた。


そんな中、新たな足音が聞こえてきた。今度は警備兵のモノだ。

亡霊がいると色々と都合が悪い…そう考えた直哉は、取り敢えず自室に戻る事にした。


「よし、部屋に帰ろう。変な考え起こしたらたたっ斬る。俺より後ろに行ったら切り刻む。歯向かうなら──」

「分かった分かった!」


諦観を漂わせながら、亡霊は観念したように項垂れた。

直哉はえも言われぬ笑顔に狂気を滲ませ、笑いを堪えながら歩き出した。


とぼとぼと歩く亡霊は、後ろを振り返らないようにしながら、直哉から感じる威圧感について思案を巡らせていた。


『何者なんだ、この恐ろしい若者は…』







「さて、話を聞こうか」


月明かりを除いて真っ暗な直哉の部屋に着いた一行は、各々が配置に着いた。

直哉がベッドに座り込み、シエルが直哉に隠れるように縮こまり、亡霊は床に正座している。別に悪い事をした訳ではない。


上から目線の直哉の右手には、相変わらず妖刀村正が握られていた。


「いや…話も何も──」

「名前は?」


亡霊の鼻っ面に妖刀村正を突き立て、言外に「質問に答えろ」と脅した。

計り知れない圧力が、亡霊の口を動かした。


「わ、私はジェラルド…ジェラルド・キャパ──」

「ジェラルド?!」


直哉よりも先に、シエルが食らい付いた。直哉は訝しむような眼差しを、シエルとジェラルド(と名乗った亡霊)とに交互に向けた。


「ジェラルドって…お父様のお父様の…?」


言ってからはっとしたのか、シエルは再び直哉の背中に隠れてしまった。しかし、首だけを出して様子を窺っている。

そんなシエルを見たジェラルドは、見覚えのある笑顔を浮かべた。


「あぁ、そうだよ。コラーシュのお父さんさ」

「なるほ…あ」


それを聞いた直哉は、先程の笑顔に抱いた疑問が解けたのだろう、手をぽんっと叩こうとして柄をぶっ叩いてしまった。

鼻っ面に向けられた切っ先が大きく揺れ、ジェラルドは後退りをした。


「君は私が憎いのかね…」

「いやいや、手が滑っただけだって」


へらへらとしている直哉を見て、ジェラルドは幽霊でも見たような表情になった。


「…何だよ」

「いや、何でもない」


ジェラルドはすぐに目を逸らしたが、腹の立つイケメンフェイスがひきつっていたのを見逃さなかった。


「そーいやお前、幽霊なんだよな?」

「あ、あぁ…」

「シエルに聞いたんだけど、ドアにぶつかったんだよな」

「そうだが…」

「幽霊のクセに実体があんのか?」


シエルが直哉の後ろから出てきて、恐怖と興味が半分ずつ込められた眼差しを向けた。好奇心は失われていなかったようだ。

直哉のとシエルの二段攻撃に、亡霊は撃沈した。


「はぁ…身体は透けたり透けなかったり、様々に変えられるんだ」


すると、ジェラルドが更に透け、完全に見えなくなった。直哉とシエルが歓声をあげ、ジェラルドは寂しげに言った。


「幽体は便利だ。気味悪がられる点を除けばな」


再び実体を現したジェラルドは、シエルに柔らかい笑顔を向けた。コラーシュのそれと酷似していて、父親譲りだと言う事を確信した二人。

そんな中、シエルがぺこりと頭を下げた。


「ごめんなさい、お祖父様」

「!!」


シエルが〝お祖父様〟と言った瞬間、ジェラルドが驚いた表情を浮かべる。

ロリコン親父かと思った直哉だが、実際は違うようだ。


「…お祖父様、か…」


感慨深い面持ちのジェラルドが繰り返した。そして、立ち上がってシエルの元まで歩き、頭を撫でた。

その時の表情は、コラーシュのそれと全く同じであった。


「親子ですなぁ」


直哉が少し離れたところで呟いた。親子の耳には届かなかった。


しばらくすると、ジェラルドはシエルの頭から手を退けた。そして、直哉と向き合った。


「孫娘の顔が見れて、私は満足だ。心強いナイトもいるし、安心して戻れるな」

「そりゃどうも」


刃を消し、柄をベルトの袋に突っ込みながら答えた。

すると、ゆっくりとジェラルドが消え始めた。空が明るくなってきたからだ。


「…を、もう朝か…」

「おぉう、大丈夫か」

「あぁ…幽体は朝日に弱いんだ」

「典型的だな」


短い会話を済ませると、ジェラルドはシエルに向かって言った。


「元気でやるんだぞ」

「………」


寂しげに頷くシエルを再び撫で、何かをやり遂げた時のような顔になったジェラルド。

そのまま、太陽の光に──


シャッ!


「う」


ガシッ!


「を?!」


──消される前に、直哉がカーテンを閉め、窓際からドアの方に引き摺っていった。


何をされてるのか理解出来ないジェラルドは、されるがままに暗い場所に置かれた。

びっくりしているジェラルドを気にせず、直哉はそのまま尋ねた。


「なぁ、幽霊ってモノに入れないの?」

「や、入れると言えば入れるが…」


戸惑いながらも首を縦に振るジェラルド。直哉は意味深な笑みをシエルに向け、手招きして呼び寄せた。

黙ってとことこ歩いてくるシエルの左手を取り、ジェラルドに向けた。その手には、オリハルコン製のブレスレットがはめられていた。


「言いたい事、分かるよね?」


笑顔のまま言う直哉に、ジェラルドはほぅ、と溜め息をついた。


「…うむ」


ジェラルドがシエルのブレスレットに触る。


「「?!」」


すると、ジェラルドが突然姿を消した。


「なん…だと…」

「あれ?あれあれ?」

『あーもしもし、ここだ』


戸惑うシエルの頭の中に、ジェラルドの声が聞こえてきた。

ただ一人、直哉だけが訳が分からないと言った様子で首を傾げていた。


「…ここ?」

『腕輪の中。直接頭に話し掛けてるんだ』

「わぁ、すごーい!」


何やら会話が続いているシエルを見た直哉は、そのまま溜め息を洩らした。


「これで孫娘と一緒にいれるぞ!」


シエルに(と言うよりブレスレットに)向かって言うと、今度は直哉の頭に直接言葉が浮かんできた。


『良く思い付いたモノだ。流石は孫娘ナイト』

《うを!なんだお前、不法侵入か?!》

『違うわ!何か強い力に引っ張られたんだ!』

《強い力?…あぁ、ウィズか》

『ウィズ?』

『んだよ』

『うわ!な、なんだ…?』

『ナオヤー、誰こいつ』

《お前と同じでロリコンなんだよ》

『なんだと?!』

《ろりこん?何だそれは──》


しばらくは異生物交流が続いたが、面倒だったので適当に聞き流した。神だと言う事をバラした途端に口数が減ったらしい。

因みに、今の会話はシエルに全部筒抜けだったようだ。


「取り敢えずさ、朝ご飯行こうよ…」


何か色々あったからなのか、直哉のお腹が空腹警報を発し始めた。シエルはクスクスと笑い、脳内には二種類の言葉が響いていた。


そのまま部屋を後に──


ガチャッ


「おっはよー!良く眠れましたか、〝お二方〟?」


──先に開けられたドアから、信じられない程の笑顔を浮かべるセラが入ってきた。


長い長い一日が始まりを告げたのであった。

シエルがブレスレットを日光の元に晒したりしたが、ジェラルドはぴんぴんしていたようだ。


「強くなりましたね、ジェラルドお祖父様」


ブレスレットを撫でながら呟くシエルに、直哉とウィズは苦笑いを溢した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ