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第四十三輪:帰国

寝ても寝ても寝足りない…一日の半分くらい寝てる気がします…


毎日更新してらっしゃるお方を尊敬しますprz

馬車やリオンに揺られる事数時間、一行はエアレイド王国に無事帰還する事ができた。

城門の警備兵を顔パスでやり過ごし、そのまま国内に。


《顔パスだよ顔パス…お偉いさんになった気分だ》

『はいはい良かったねー』


子供のようにはしゃぐ直哉を適当にあしらうウィズは、如何にも疲れてそうな声色で返事をした。


《ちぇっ、会話続けてくれてもいいじゃん…》


ウィズの反応に不貞腐れながら、直哉は熟睡中のシエルを起こそうとする。

白いローブに包まれた華奢な肩を掴み、軽く前後に揺すってみた。


「おぉーい、エアレイドに着いたぞー」

「むにゃ…あと少し寝かせてぇ…シエル眠いよぅ…」


非常に可愛らしい声で抗議したかと思うと、そのまま身体を捻って後ろを向き、直哉の首元に抱き着いた。

シエルの行動に固まった直哉は、馬車に目を向ける。


「どーしよ」

「お部屋まで連れてってあげるのは?無理に起こしたら可哀想よ」


横に設けてある窓から首を出し、ミーナが答えた。無理な体勢なのだろうか、かすかにぷるぷる震えている。


「分かったよ」


返事をしながら苦笑いを浮かべると、ミーナも苦笑いしながら首を引っ込めた。

正面を向き、シエルの頭を優しく撫でた。同時に、しがみつく力が強くなった。


《ま、いいか》


心の中で呟いた直哉は、町民の持て囃すような視線の回避方法を考え始めた。







数日振りに王宮に戻ってきた一行は、安堵やら落胆やら疲労etc…が何十層も織り交ぜられた溜め息をついた。



「「「「「「「はぁぁー……………?」」」」」」」


七人がコンマ数秒も違わず同時に溜め息をつき、同時に顔を見合わせた。物凄く低確率の出来事だったのだが、誰も気付く事は無かった。

──溜め息が七人分なのは、シエルが直哉に抱っこされ、セフィアはミーナにおんぶされながら眠っているからだ。


頭上にクエスチョンマークを浮かべながら、馬車を元の位置に戻し、とリオンを馬小屋に連れていった。他の騎士達が手伝ってくれたのもあって、時間はちっとも掛からなかった。

──馬小屋に行った時、リオンがまるで牧羊犬のように馬達を誘導していたので、馬の管理に掛かった時間はゼロだったのが大きい。


片付け(?)が終わって一息ついていると、一人の騎士が近付いてきた。そして、遠慮がちに話し掛ける──


「あ──」

「ふー…それにしても、ずいぶん疲れる遠足だったな」

「でも、楽しかったよ?」

「同じく。…ま、例外もあったけどね」

「二日酔いとか放置された事とかな…」

「それよりも〝ごりまっちょ〟でしょ…恐ろしく強かったらしいしね」


──のだが、直哉達の会話に遮られてしまった。


『この距離で話し掛けても通じないのか…いいやまだだ、諦めたら試合終了だぞ俺!』

それでもめげずに、騎士は自己暗示を掛ける。自信を取り戻したのか、再び話し掛ける──


「あの──」

「ででっ、でもでも!ナオヤさん、そんなご、〝ごりまっちょ〟をやっつけたんですよね!」

「噂では、百人程の〝ごりまっちょ〟と対峙したと聞いてますが…」

「…ルナ様に負けず劣らず…」

「何か微妙に改竄されてる気がするけど…ま、いいや。あはは…」


──が、これまた良い具合に妨害されてしまった。二度も続く不祥事に、騎士も落ち着きを失っていく。


『え?えぇ?何なのこれ、試合終了どころか試合すら始まってないの?始まる前から俺の負けなの?!』


そんな騎士を余所に、セラが新たな話題を振った。


「ああの──」

「そー言えばー…お二方、昨日は一緒に──」

「何ノ話カナ?僕何モ知ラナイヨーアハハー」

「如何にも何かあったみたいな喋り方ね」

「なななな何何何何?!何があっあああっあったたたた──」

「おーよしよし、ゆっくりおねんねしましょうねー」


ミーナがいたずらに微笑みながら呟くと、眠っていた筈のセフィアが食らい付いてきた。直哉はショックで心臓が停止する程驚いたのだが、周りは平気な顔をしていた。

ミーナに至っては、まるで子供をあやすかのような慣れた手付きでセフィアをあやしていた。


速まる鼓動を必死に抑え、直哉は呂律が回らない口で必死に訴える。


「とととりあえずっ!まずはコラーシュさんに挨拶にだな!」

「…何かをはぐらかされた気がする…」

「奇遇ね…私もよ、セラさん」

「あーあーあー聞こえな──」


人差し指で耳を塞いでは離してを繰り返しながら、直哉は室内に向けて歩き出した。

──そして、地面に踞る騎士を発見した。


「お、おい!大丈夫か!応答しろ、応答するんだっ!!」


騎士に呼び掛けながら、直哉は肩を揺すった。だが、騎士は返事をせずに譫言うわごとを繰り返すばかりだ。


「僕は悪くない僕は悪くない僕は悪くない…話を聞いてもらえなかっただけだ僕は悪くないんだ…僕は…僕は僕は僕は…」

「………」


騎士から離れるように立ち上がり、後ろを振り返る直哉。目で「これどうしよう」と訴えると、シエルとセフィアを除く全員が首を横に振った。


「「「「「「………」」」」」」

「………」


直哉が再び振り返ったかと思うと、踞る騎士を避けて歩き出した。他のメンバー達も同じように避け、一行は室内を目指したのであった。


「僕は…」


踞る騎士の悲痛の叫びは、澄んだ水色の青空に吸い込まれていった。







シエルとセフィアを各々のベッドに寝かせ、コラーシュ夫妻の部屋に到着した一行。回りを見渡してから、直哉がドアをノックする。


コンコン


「コラーシュさーん」


だが、返事は返ってこない。いつもはすぐにドアを開いてくれるのだが、今日に限ってそれも無かった。

不思議に思った直哉は、も少し強めにノックした。


ドンドンドン


「フィーナさーん?」


………


返ってくるのは沈黙だけだった。「いないのかな」等と呟きながらドアを開ける直哉は、間違いなくデリカシーが欠けている。セラ化が進んできたようだ。


『そこは躊躇うとこじゃね?』

《えー、いいよめんどくせぇ》


デリカシー欠落を〝めんどくせぇ〟の一言で片付け、躊躇わずに室内に侵入した直哉。

──そして、固まった。


「なんだ、こりゃ」


部屋の中は酷い荒らされっぷりで、クローゼットは開かれて服が散らばり、箪笥たんすは全てが引き出されて中身は引っくり返され、他の家具は有り得ない配置で置かれていた。

一言で言うと、空き巣に入られたような感じだ。


「うわ…」

「な、何だ…」

「これは…」


固まった直哉の隣から部屋を覗き込んだルシオとアリューゼも固まり、そんな三人の頭上から部屋内を見たラルフは驚愕し、変な空気が流れ始めた。

中の様子が見れないアイザック達は、怪訝な表情を浮かべていた。


「えーなになに?見せて見せて~!」


一歩踏み外せば(踏み外さなくても…)アホンダラと言っても過言ではない程能天気なセラを除いて、だが。

そんな中、石化した直哉が息を吹き返し、震える口調で呟いた。


「シエルを起こさないで、そのまま寝かせといて正解だったな」


刹那、全員を戦慄が駆け抜けた。直哉の声が冗談などこれっぽっちも混じってない声色で、且つ深刻な表情をしていたからだ。


部屋から出てきた直哉は、全員と向き直る。


「二人を…捜すんだ!」


その時「じゃんじゃんじゃーん」と言うBGMが聞こえたような気がした。

空耳なのか違うのか、それは神のみぞ知る──


『俺知らないからな?要らぬ期待はすんなよな』


──訳では無かった。







王宮を走り回る事数時間、ようやく資材置き場っぽいところで座り込む二人を見つけた。


「…おぉ、ナオヤか。いつの間に帰ってきてたんだ?」

「運動でもしてたのかしら」

「はぁ、はぁ…あんた等何してんすか…」


「全員で固まって捜すより、バラバラになって捜した方が効率が良い」と言う超ごもっともな指摘を受けた直哉は、言われた通りにバラバラになって捜す事を決めたのだ。


あっけらかんとした言葉を貰った直哉は、そのまま地面に座り込んだ。色々と疲れが溜まっているのが主な原因だ。

それを見たフィーナがくすくすと笑い、直哉に労いの言葉を投げ掛ける。


「あらあら…お疲れ様ね。でも、そこでそうしてると冷えちゃうわよ?」

「あ、そうっすね………じゃなくてっ!あんた等を探しに来たんですよ!」


フィーナののほほんペースに流され掛けた直哉だが、本来の目的を思い出し、急に強気になって反発をし始めた。

コラーシュが面喰らっていたが、髪の毛先程も気に留めずに続けた。


「部屋に行ったら酷い荒らされっぷりだったから…ありゃ何ですか」

「部屋?…あぁ、ちょっと探し物をな」


少しだけ考え込んだコラーシュは、最も適当な言葉を選び抜いた。

だが、直哉は訝しむばかりである。


「探し物?…あんだけ引っ掻き回すって事は、ずいぶん使ってなかったモノでしょう…なして今更?」

「そ、それは──」

「貴方のためよ?」

「は?」


コラーシュの代わりにフィーナが答えてくれたが、直哉には理解が出来ないようだ。首を捻って理解しようとしているが、表情は晴れないままだ。

フィーナがコラーシュを小突きながら、悪戯を思い付いた子供のような笑顔を浮かべた。


「ナオヤの椅子が急に割れちゃってね…この人ったら「ナオヤが危ない」なんて言い出して。何とか直してやるんだーって意気込んで、必死に──」

「わーわーわー!もういいだろう、やめるんだ!」


コラーシュがフィーナを制止した。そんな二人の後ろには、食堂に並べられている椅子が一つ置いてある。

顔が赤くなっているコラーシュが新鮮で、それを見た直哉は、フィーナの肩を持つ事にした。


「へぇ~、そうなんですかぁ~…ありがとうございます、〝お父様〟」

「っ?!」


〝お父様〟と言う言葉に過剰反応を示すコラーシュ。隣でのほほんオーラを振り撒くフィーナには、違う意味での過剰反応があった。


「あらまぁ!〝お父様〟ですってよ、あなた!」

「よっ、よせ!」

「照れちゃってるー、うふふ」


フィーナに頬をつつかれるコラーシュは、見ていてとても面白かった。

頬を歪に吊り上げながら、直哉は内心で笑った。


《ククク…この感じ、たまりませんなぁ…》

『ナオヤ…お前…』

《んー?》

『…や、何でも…』


ウィズがあからさまに怯えていたが、笑いを堪えるのに精一杯な直哉には通じなかった。


少しすると、遠足組のメンバー達がやってきた。眠っていたシエルとミーナも一緒だ。少し捜した後に合流したらしく、全員が揃っていた。

そして、全員がコラーシュ夫妻の様子を目の当たりにした。


「あ、いや、これは──」


両手をぶんぶんと振る赤面コラーシュは、直哉でなくとも面白さを感じさせたようだ。


「あらー、お邪魔だったかなぁ?」

「これは失礼しました…よし、ここは退くぞ!」


アリューゼの指示に全員が従う──ように思えたが、ニヤニヤする直哉と寝惚けてるシエルが残った。が、アリューゼは気にせずに戻る事にする。


「「「「………」」」」


一行が静まり返る中、シエルだけが首をかくんっと揺らしては元に戻して…と言う動作を繰り返していた。


「んんー…」


少しすると、シエルは直哉のスウェットの袖をちょこんと摘まんだ。そして、くいくいと軽く引っ張りながら訴えた。


「ナオヤー…眠いよぅ」

「あー…うん、部屋に帰ろうな」


ウィズから忌々しい感情が伝わってきたが、言っても無駄な事は分かりきっているので、直哉は何も言わない。


シエルに手を引かれ、直哉は資材置き場を後にする──と思ったら、出口で唐突に振り返った。そして、えげつない表情のまま、口だけを動かして喋り出した。


「シエルを部屋に寝かせてきますね、〝お父様〟」

「よろしくね、ナオヤ?」

「はい、〝お母様〟」


唖然とするコラーシュを余所に、直哉はそそくさと立ち去った。


「………」

「昔の私達みたいね」


フィーナがコラーシュの隣にぴったりと寄り添った。それでコラーシュははっとしたようだ。


「あ、あぁ…」


二人は昔の自分達と瓜二つなのだ。何気無く袖を摘まんだり、とにかく一緒にいたり…目の前で昔の映像を流されてる錯覚に陥ったりもした。

だが、それだけでは無い。


『同性なら未だしも、異性の手を自ら握るなど、昔のシエルからは想像すらつかなかったのだから、況してや抱き付くなど──』


ここまで考えてはっとした。


『はっ!…まさか…』


表情に驚愕の色が滲むコラーシュを見て、フィーナはコラーシュの考えを(少し捻って)代弁した。


「孫の顔が見てみたいわね、あなた」

「ウワァァアアア!!!」


絶叫をあげたかと思うと、コラーシュは頭を押さえて転げ回った。愛娘が笑顔で走り去り、直哉の胸元に飛び込む幻覚に襲われたのだ。

そんなコラーシュの頭ぺちっと叩き、フィーナは小さく呟いた。


「ったく…相変わらず初なんだからっ」

シエルを部屋に連れていき、そのまま寝かし付けた直哉は、自分の部屋に向けてふらふらと歩いていた。


《うーん…》

『…ナオヤ』

《う?》


ウィズが遠慮がちに話し掛けてきた。直哉は気の抜けた相槌を打ち、ウィズの言葉を待つ。


『シエルちゃんがいる前でコラーシュ夫妻を父母と呼んだんだぞ…この意味が分かるか?』

《え?特に意味とか………あ》


──そして、はっとさせられた。


『婿入りを肯定したよーなモノだぞ』

《?!》


気付いた途端、直哉の顔に朱が差した。そして、あわあわと慌て出した。


《どしよ!!どうすりゃいい!!》

『いや待てよ、お前はシエルちゃんが──』

「嫌な訳ねーだろ!」


思わず叫んでしまった直哉。回りから生温い視線を頂戴してしまった。


「あ…いや、ははは…」


耐えきれなくなった直哉は、乾いた笑いを溢した後に走り去った。

その後、王宮の住民達の間で「独り言のナオヤ」と言う渾名あだなを授けられたのを知ったのは、そう遠くない未来の話だ。


何とか部屋に辿り着いた直哉は、部屋に入ると同時にベッドにダイビングした。


『まァまァ、仲良くやれよ』

《うん…いやね、嫌な訳無いんだけど、僕まだ18だしね?》

『ヒント:異世界』

《いらねーよそのヒント》


やっちまった感を噛み締める直哉は、そのまま夢の世界へと連れていかれたのであった。

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