第四十一輪:火照り
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王宮に到着した直哉は、その辺をうろうろしていた警備兵に(半ば強制的に)道案内をさせた。相変わらず方向感覚が〝逝っている〟ので、こうするしか無いのだ。
「こんなに遅くまで、何をなさってたんですか?」
不意に警備兵が尋ねてきた。どうやら沈黙に耐えられなかったようだ。
顎に手を添えて〝考え事をしていますアピール〟をしながら、直哉は警備兵に言った。
「んーと…〝ゴミ掃除〟かな」
「ゴミ掃除、ですか?」
「うむ。ここに泊まらせてもらってんだし、俺達も何かしらお返しをしなきゃって思って」
「………」
攻撃してきたゴリマッチョ共を〝ゴミ〟、それらをフルボッコする事を〝掃除〟と形容したのだが、ここで勘違いが生じた事に気付く事は無かった。
俯いてぷるぷる震える警備兵を見て、気分を害してしまったと思ったのだろう、取り敢えず謝る事にした。
「…なんか、ごめん…別に、手を抜いてるって言いたい訳じゃ──」
「感動しましたっ!!」
「──は?!」
直哉は思わず素っ頓狂な声を発してしまった。流れを理解する事が出来ず、隠しきれない動揺が口から溢れたのだ。
──警備兵が涙目で見つめてきた事も、直哉の動揺に拍車を掛ける一因となっている。
「泊まらせてもらってるからって、ゴミ掃除まで…それも無償でなんて…貴方は素晴らしいです!人間の鑑です!!寧ろ神様です!!!弟子にして下さいっ!!!!」
何故か物凄い剣幕で捲し立てられた。まるで崇拝するかのような眼差しもプラスされ、怪しい宗教宛らの光景が広がっている。
当主もとい直哉は、首と腕と手を風切り音が鳴るレベルにぶんぶん振り、全面拒否の意を示した。
「いやいやいやいや、訳分からんっての、落ち着け!」
端から見たら、〝ガチキチ〟なのは間違いなく直哉である。
だが、必死に伝えようとした内容だけは伝わったようだ。
「チッ……いつか弟子にしてもらって……クククッ……」
警備兵は残念そうに舌打ちし、ぶつぶつと呟きながら歩き出した。含んだ笑いまで溢している。
《人間って素晴らしいとかほざいたの誰だっけ…》
『さぁ』
その様子に恐怖を抱きながら、直哉は警備兵に付いていくのであった。
食堂に着いた直哉は、警備兵にお礼を告げ、ドアの前で深呼吸をした。
「ふぅ…」
『お疲れ』
「はぁぁぁ~…」
『………』
ウィズに労られ、疲れがどっと押し寄せてきた直哉。再び溜め息を洩らすと、ウィズは口を閉ざした。
そのままドアを開き、中に侵入した。
「ただいま帰りましたー」
「あ!ナオヤが帰ってきた!」
「コノヤロー…俺の酔いも醒ましてけってんだ…」
シエルが駆け寄り、直哉に笑顔を向けた。後ろには叩き起こされたらしいアリューゼが椅子にのびていて、直哉に苦し紛れの愚痴を洩らした。
食堂の中にいるのは、上の二人とガープの三人だけだ。残りは部屋に戻っているらしい。
シエルの頭をぽふぽふと撫でてると、ガープが直哉に労いの言葉を投げ掛けた。
「ご苦労様だったな」
「全くだ…しっかりしてくれよな」
ウィズの時とは違い、直哉は草臥れた笑顔を浮かべてみせた。
『差別はんたーい!』
《黙れ神様モドキめ》
ウィズの抗議を瞬時に却下し、シエルの頭から手を退けた。
さらさらな髪の毛が綺麗で、むさ苦しい筋肉質オヤジ共により弱らされた直哉にとって、それはどんな良薬をも凌駕する程の効き目があったようだ。身体からみるみる内に疲れが吹き飛ぶのを感じたのだ。
《俺の癒しだわぁー…》
『変態がいる…』
右手に残る温もりを感じながら、直哉はガープと向き直った。
「城下町の警備を強化するべきだなー。暇してそうな兵士達でもこき使えばいいと思うよ」
「ふむ、そうするか…私の娘も危ない目に遭ってるからな」
「始めっからそうしてくれんのが一番なんだがねー」
「うぐっ…」
どっちが国王なのかすら分からなくなってしまうようなやり取りが始まった。
アリューゼが頭を押さえながら睨んでいたが、直哉の視界には映り込まなかった。
「だいたいさぁ、町で兵士をあんまし見掛けないってどゆ事だよ!あれじゃあ犯罪大国間近だぞ?」
「だって──」
「だってもかってもあるか!」
やり取りが続けられる事数分、それはがっくりと項垂れるガープを直哉が見下すと言う結果に収束した。
「フンッ、まぁせいぜい気を付ける事だな!」
「ははーっ」
この時の直哉は、ゴリマッチョの数十倍は怖かったんだ…後にシエルは語る。
そんな空気を粉々にしたのは、食堂のドアをノックする音であった。
直哉がドアを開けると、たくさんの料理を乗せた台車と、それを押すメイドの姿が飛び込んできた。
「お待たせいたしました、ガープ様ご用命の品です」
直哉は振り返ってガープを直視した。目は異様に輝き、何かに期待してるような色を滲ませている。
ガープは力無く微笑み、首を縦に振った。
「約束は果たさないとな…この前の約束と今日の労いを兼ねて、な」
「直哉、ガープ、好き!」
瞬時に椅子に座り、料理がテーブルに並べられるのを見守る。メイドはニコニコしながら料理を並べ、シエルはその量に驚いていた。
最後の一皿が置かれたと同時に、直哉は唾を飲み込んだ。
「今月は赤字だな…」
ガープの呟きは誰の耳にも届く事無く、その代わりに料理が直哉の胃に到達するのであった。
数十枚の皿に盛られた山盛りの料理を食べ尽くし、シエルだけではなく他の人まで驚かせた直哉は、コップ一杯のお酒(ピピン搾りの特性酒)をアリューゼの前に置いた。
「…飲めと?」
「俺の気遣いだわ」
「…二日酔いの俺に?」
「いらないの?んじゃ俺が」
アリューゼが拒絶と思わしき反応を示したので、直哉はアリューゼの目前に置かれたコップに手を伸ばし──
「待て!」
ガシッ
「うわっ、触んなよ!!」
──たのだが、アリューゼに腕を掴まれ、没収を止めざるを得なかった。
反射的に腕を引っ込めた直哉は、アリューゼを睨み付けながら抗議の声をあげた。
「何なんだよオイ!二日酔いだからいらねーんじゃねーのかよ!!」
「大声出すなよ…誰も〝飲まない〟とは言ってないだろ…」
頭に響くらしく、アリューゼの表情は苦痛に歪んでいる。直哉はそんなアリューゼを訝しむような表情で見つめた。
「………」
「な…何だよ…」
「お酒に異様なまでに執着を見せるなぁって思って」
「悪いかよ」
「〝悪い〟とは言わないけど──」
言い掛けて、アリューゼを再び一瞥する。そして、堪らずに吹き出した。
「──プッ」
「何処に笑う要素がっ…あたっ、たたた…」
自分が張り上げた声が、不覚にも頭痛を悪化させてしまったようだ。頭を押さえて踞るアリューゼを見ながら、直哉は尚も吹き出している。
「ププッ…ぶふー、あははははは!」
「やめっ…あ、頭に響く…」
そんな二人を見守っていたシエル達も笑い出し、笑い声の三重奏がアリューゼを襲った。
楽しそうな三人とは裏腹に、今にも頭が砕け散りそうなアリューゼ。空気をぶち壊すその存在に、笑い声は次第に大きさを増していった。
「うぐ…死なせてくれ…」
アリューゼの悲痛な嘆願は、そんな笑い声に掻き消されるのであった。
宛がわれた客室のベッドに寝そべる直哉は、天井をぼーっと見上げていた。
「………」
あの後、見かねたシエルがアリューゼに治癒魔術を行使したのだ。復活したアリューゼに無理矢理お酒を飲まされ、現在に至る。
アルコールが弱めと言う事も関係していたのか、強烈な睡魔等は微塵も感じず、逆に身体の火照りで寝付けない状態が続いているのである。
《あぅ~…苦し…》
『ばっきゃろぉ~、こんなんれくるひぃとかぬかしてんらねぇ!』
ウィズは気持ち悪い程べろんべろんに酔っ払っている。アルコールの七割くらいはウィズが吸収したようだ。
三割で酔う直哉は、余程お酒耐性が低いのだろう。
「うぅー…」
唸りながら瞼を閉じる。瞼が異様に熱く、素晴らしい違和感を覚えた。
《あー無理、寝れない…》
『すぴー…ふごっ、すぅ~…』
《………》
ウィズに話し掛けてみるものの、寝息しか返ってこなかった。流石に叩き起こすのは可哀想だと思ったのか、話し掛けるのを止めて意識を星空に向ける。
神様も睡眠が必要なんだなー等と考えていると──
コンコン…
──不意にドアをノックする音が鳴った。
「?!」
びっくりした直哉は、反射的に飛び上がる。そして、ドアを注意深く見つめる。
…コンコンコンッ…
少しの沈黙の後、ドアが再びノックされた。意を決した直哉はベッドから降りて忍び足でドアに歩み寄り、そのままゆっくりと開いた。
「…お、シエルか」
「夜遅くにごめんね…起こしちちゃった?」
「いやいや、寝付けなかったから大丈夫よ」
隙間からひょっこりと顔を覗かせたのは、ほんのりと頬を朱に染めたシエルだった。薄暗い室内だったが、勇者補正のお陰で表情が窺い知れた。
シエルの表情からは、お酒を飲まされた直哉を心配する気持ちが見て取れた。
──シエルもお酒をちびちびと飲んでいたから、ちょっと複雑である。
「眠れないんじゃないかなって思って、見に来ちゃった」
「流石シエル、その通りだ…瞼が熱くてどうしようも無かったんだ」
ここまで自分を理解してくれるのは、理解される側としてはとても嬉しいものだ。直哉は胸らへんがぽかぽかしてきた事を自覚した。
「ま、立ち話もあれだしさ、中においでよ」
「うん、そうするね!」
直哉の言葉ににっこりと微笑みながら、シエルは部屋の中に入ってきた。端から見たら、ちょっとでは済まされそうに無い程怪しいが、本人達に下心など無いのは明確である。
「ちょっと座って待っててくれ、今灯り──」
「──は、大丈夫。直哉を寝かし付けるために来たんだからね」
「あはは、お子ちゃまみたいだな、俺」
シエルの手を引き、ベッドまで連れてきた。廊下には灯りが灯されていたので平気だったが、室内は真っ暗と言っても何ら遜色の無いような状況だったのだ。
唯一の灯りが星や月の柔らかい光だけで、それは暗闇の空間にベッドを明るく浮き上がらせていた。
直哉はベッドに仰向けに寝転がる。すると、シエルも直哉の隣に横になった。
流石に予想出来なかったらしく、直哉は驚きを露骨に表現した。
「わっ!びっくりしたっ」
「うふふ」
シエルが淑やかに笑う。そして、直哉に密着した。
ここからは完全に予想外で、心臓が高鳴り、鼓動を刻む速度を増すのは致し方無い事だった。酔いも影響しているのだが、直哉にそんな事を考える余裕など無かった。
「っ~~~!!」
声にならない声をあげる事すら叶わず、直哉の顔が火照り出した。
密着するシエルは、そんな直哉の異常を感じ取る事が容易にできたようだ。
「ナオヤ、ドキドキしてるー…逆効果だったかな?」
「い、いや、その…」
「あはは、可愛い~!」
直哉にしがみつくように身体を押し付け、更に密着。シエルの体温や甘い香りが伝わってきて、それは直哉の意識をダイレクトに揺さぶった。
「あわわわわ…」
「…全くもぅ…無茶しちゃダメって言ってるのにー…」
声色が変わったかと思うと、しがみつく力が強まった。
「ナオヤの事だから、大丈夫なのは分かってたけど…それでも、心配になっちゃうんだからねっ」
「シエル…」
名目上、シエルがこの部屋に来た理由は〝直哉を寝かし付けるため〟だが、本当のところは〝寂しかったから〟のようだ。
それを認識した直哉は、シエルの頭の下に腕を入れて腕枕をし、そのまま抱き締めた。
「ごめんよ、シエル…」
直哉はシエルの頭をなでなでする。シエルは嬉しそうに直哉の胸に顔を埋めた。
「起きるまでこうしててくれれば許してあげるっ」
ちょっとくすぐったかったが、ずっと抱き締めておく事にした。
少しすると、腕の中から寝息が聞こえてきた。
「すぅ…すぅ…むにゃむにゃ…」
そんなシエルを撫でると、寝顔が笑顔になった。そして、腕をお腹らへんに回され、動きを完全に封じられた。
《うをっ…寝返り打てねぇ…》
寝てる時に動きを封じられるのは、なかなかキツいのだ。
──そんな事より、煩悩を必死に振り払う事の方がキツそうではあるが。
《うぅ…柔らかい〝何か〟が…良い匂いが…回された腕が……おぉう、しっかりしろ神崎直哉、今はそんな事考える時では無い筈だ……でも……》
唯一の頼みの綱であるウィズは、とっくに夢の世界へあいきゃんふらい。「あいあむすとろーんぐ!」と言う寝言を呟きながら、しっかりと爆睡している。
つまり、直哉の状況は孤立無援であり四面楚歌であるのだ。
「………」
お酒による火照りとは比べ物にならないそれを感じながら、結局は一睡も出来なかった直哉であった。
少し短めの文章に纏めてみました。
執筆しやすいけど、終わり方がしっくり来ない感じになってしまった気も…
更新できる時間的に、少し文章を短くしていこうと思っております。
纏まりのある話を目指しませう…