第三十九輪:こんがり肉
ほんっっっっっっっとに、時間が足りません…
勉強をするにも執筆をするにも、何も考えずにぐーたらするにも…
取り敢えず更新はしておきます。本文が短いのは、今できる精一杯の執筆だからです…。
…prz
魔術師の指パッチンで灯りが灯された部屋は、本来以上の明るさを発していた。
その異様な明るさの発生源は、件の指パッチン魔術師である。
「彼の者に炎獄の裁きを!ファイアランス!」
呪文を唱えると同時に、杖の先端に赤い球体が出現した。太陽の如く輝く球体から、四つの炎が飛び出す。
そして、形を細長い槍のようなモノへと変えながら、直哉目掛けて飛んでいく。
ゴウッ!
「うを!!」
炎の槍は間隔を空けながら直哉を襲撃し、直哉の避けた方向に的確に飛来した。
一発目を右側に転がって避け、そこ目掛けて飛んできた二発目は後ろに飛び退いて回避、真上から降り注ぐ三発目は左に側転し、四発目はバク中をしてやり過ごした。
やり過ごす度に伝わる熱気が、危険度が高い事を如実に示していた。
《追尾機能でもついてんのか?!》
『ずいぶんと魔術を扱えるようだな…』
そのまま後ろにクイックステップをして、魔術師と距離を置いた。
だが、魔術師は休憩の時間をくれたりはしない。
「ヒャハハハァ!避けるだけじゃどーしようもねーぜぇ?!」
ゴリマッチョの叫び声と同時に、杖の先端の球体が揺らいだ。そして、再び槍のようなモノが飛び出した。今度は三本しか出現せず、槍を生み出した球体が縮んだように見えた。
「………」
直哉はそれを見過ごさなかった。
それらは直哉を焼き尽くさんばかりに燃え盛り、何の迷いも無いかのように刺し貫こうと飛来する。
《ありゃー回数制限でもあるみてーだな》
『それに、結構な魔力を注ぎ込んでるみてェだ…連発はできんだろォな』
一発目を十分に引き付けてからしゃがんでかわし、二発目はジャンプして素通りさせた。
「甘いっ!」
魔術師が叫ぶと同時に、眼前に三発目の槍が迫る。空中での方向転換は難しく、魔術師はそれを好機と捉えたのだ。
ゴリマッチョも同じ様に捉えたらしく、気持ち悪い笑みを堪えきれていない。
──だが、それは直哉の作戦であった。
「リフレクト・ソーサリー」
いつの間にか練り上げていた魔力を、直哉は薄緑の防壁に変えた。炎の槍は眼前に展開された防壁にぶち当たり、進路を無理矢理ねじ曲げられた。
それは魔術師ではなく、ゴリマッチョ目掛けて飛んでいく。
「ハハハハハァァ…あぁ?あぁぁ!」
耐えきれずに笑い出していたゴリマッチョは、飛んできた槍を見ると笑いを止め、代わりに驚きの声を発した。
そんなゴリマッチョなど気にも留めず、炎の槍は速度を増し──
ガキィンッ!
「?!」
──金網にぶつかり、火花を散らせながら消えた。
唖然とする直哉に、唖然とするゴリマッチョが答えた。
「は、はは!この金網は──」
「私が結界を張らせてもらってるんでね。全魔力を注ぎ込んだから、そう簡単に撃ち破れないさ」
「喋らせろよ…」
ゴリマッチョが説明しようとしたのだが、先に魔術師に説明されてしまった。
落ち込むゴリマッチョを余所に、直哉は少し思案を巡らせる。
《うーん、〝相手の手数を減らしつつゴリマッチョを叩き潰そう作戦〟は失敗したなぁ…》
『普通に結界をぶっ壊しちまえよ…めんどくせェ』
《ですよねー》
魔術師は攻撃を止め、こちらの様子を窺っていた。だが、球体が浮かんでいるところから、戦闘態勢は崩されていない事が見て取れた。
なので、直哉は反撃に転じる事にした。視界の隅にはしょんぼりするゴリマッチョを捉えている。
「ふぅ…」
溜め息を洩らし、腰に巻かれたベルトの袋に手を伸ばし──
「…あれ?」
──柄が入っていない事に気が付いた。
先程ゴリマッチョ共にボコボコにされた時、いつの間にか手離していたようだ。
「はぁ…あいつら、覚えとけよ…」
ああしてこうして…等とぼやきながら、直哉はちょっと多めの魔力を練り上げる。魔術師が目を見開いているが、気にしない事にした。
練り上げた魔力を右手に集め、魔力の塊を作る。そして、脳内に日本刀のイメージを思い浮かべる。
《しっかりした柄に、すらりと伸びる刀身…刃には綺麗な波紋があって…っと》
『日本刀に拘りでもあんのか?』
《うむ。昔見た映画で使われてた日本刀がな、そりゃもう綺麗ったらありゃしなくて──》
直哉が見た映画は、戦国の日本を題材としたアクションモノで、殺された妹の仇を取るべく、心優しき主人公が日本刀を携え、単身で悪者に挑む…物凄く典型的な映画であった。
だが、リアルな戦闘描写や武器防具のクオリティの高さは、それはもう一級品と言っても何ら遜色は無いモノであった。
その映画で、主人公は悪者の元に辿り着いたのだが、悪者が身に纏う〝鋼の鎧〟に刃が通らず、結局は返り討ちされてしまうのだ。
辛うじて一命を取り留めた主人公は、これではダメだと言う事を痛感する。そして、鍛冶屋の人に相談するのだ。
そして〝魔鐵鉱〟と言う金属の存在を知る。
魔鐵鉱と言う名前とは裏腹に、その鉱石は銀色に輝き、表面に数種類の金属が奇跡的な確率で織り成す、木目状の美しい層を見る事ができる。粘りと硬度が両立していて、どんな風雨に晒されようと決して錆びる事は無く、その粘り故に加工は難しいが、一度武器の形に加工されたモノは凄まじい破壊力を誇り、刃毀れを全くしないと言う、正しく〝幻の金属〟と謳われる金属である。
主人公は命懸けで魔鐵鉱を入手し、鍛冶屋に日本刀を誂えてもらい、それで悪者の鋼の鎧を切り裂く事に成功するのだが、その時の日本刀の美しさには言葉に余るモノがあったのだ。
《刀身は銀色に輝いてて、刃には流れるような波紋とは別に、木目状の模様が浮かんでて…画面越しだったのに目の前にあるような威圧感を感じたな》
『すげェな…憧れるのも頷ける気がするわ』
《この世界に魔鐵鉱ねーかなぁ?》
『後でコラーシュにでも聞いてみれ~』
《あぁ、後でな!》
意識をウィズから魔術師へと戻し、右手を握り締める。
「マテリアライズ!」
右手から白い光が生じ、魔術師とゴリマッチョは目を覆った。直哉は眩しさに耐えながら、空中に浮かぶ日本刀を握る。
少しすると光は止み、手を退けた二人は直哉を見る。直哉の手には剣が握られていて、二人は同時に驚いた。
「「は?!」」
直哉は左手に掴む日本刀を振りながら、誇らしげな顔で言った。
「これ、俺のエモノね」
タンッ
そのまま地面を蹴り、魔術師に向けて踏み込んだ。その凄まじい速度に目が追い付かず、魔術師は懐に直哉を導き入れてしまった。
「え──」
「苦しむ演技でもしとけ!」
どすん!
小さく呟き、魔術師のお腹に日本刀の柄による打撃を叩き込んだ。とは言っても、少し苦しいレベルの強さでだ。
「ぐほぁっ!がぁぁっ!」
──到底演技だとは思えない喚き声をあげてる気がしなくもないが。
床に向かってげーげーしてる魔術師を見下し、如何にも悪者っぽい台詞を吐いた。
「温い、この程度か──」
そして、視線をゴリマッチョに向け、
「──貴様は楽しませてくれそうだな」
無表情で言い放つ。
当のゴリマッチョは、まるで化け物でも見るような目で見つめ返してきた。腰が抜けたのか床に座り込み、表情には恐怖の色が滲む。
そのままテレポートで金網を挟んだゴリマッチョの正面に移動した。
「ひっ!…あいつが…あいつが、やられた…だと…?」
ゴリマッチョは後退りしながら、口々にぶつぶつと呟いている。よっぽど信じたくなかったのだろう。
直哉は深呼吸をし、日本刀を正眼に構えた。そして、目に見えないような速度で金網に斬りかかった。
金網は紙を切るように斬られ、直哉とゴリマッチョは向かい合うかたちとなった。
「あひ…」
「よっ」
言葉が出ないゴリマッチョに、直哉は爽やかな(?)挨拶をした。ゴリマッチョにとって、それは死神の鼓動さながらに聞こえていただろうが。
日本刀の峰をゴリマッチョの首筋に当て、死刑執行人のように聞いた。
「最期に言い残したい事は?」
「あ──」
「はいおしまい、御愁傷様~」
〝あ〟と呟いたゴリマッチョの首筋に、ちょっと強めの峰打ちをお見舞いした。その一撃でゴリマッチョの意識はぶっ飛び、床に盛大に倒れた。
直哉は日本刀を一振りし、刃に付着したゴリマッチョの脂汗を払った。
「またつまらんモノを──」
『斬ってねェだろ』
「………」
ウィズに突っ込まれ、溜め息を吐き出した。そのまま扉に向かって歩き出し──足を止めた。
「そういや…」
そのまま振り返り、フィールドへと足を向ける。真ん中らへんでは魔術師が踞っていた。
戦意があるのか、先程の球体はまだ残っている。
「うぐ…」
「すまんすまん、忘れてた」
魔術師の肩を強引に持ち上げ、自分の肩に乗せ、そのまま引き摺るように歩き出した。
そして、気絶したゴリマッチョのところまで来ると、指を指しながら告げた。
「さぁ、燃やす時が来たぞ」
「……?」
魔術師はお腹を擦りながら、苦しそうに直哉の指を見た。そして、少しずつ視線をずらしていき、ゴリマッチョをその視界に捉えた。
続いて直哉を見上げると、とても素晴らしい笑顔を向けてきた。
「やっちまえ」
「し、しかし──」
「いいからいいから。なんとかなるよ」
戸惑う魔術師を半ば強制的に促し、直哉はウィズと話し合う。
《カルシウムは無理だなー…諦めよう》
『〝痛め付ける〟事はしてる訳だし、良いんじゃね?』
《それで──》
「ぎゃああああああ!」
ゴリマッチョの悲鳴が室内に木霊し、焦げ臭い臭いが漂ってきた。魔術師が〝弱め〟の魔術を発動し、ゴリマッチョに喰らわせたようだ。
直哉は魔術師の肩をバシバシと叩き、物凄く嬉しそうに話した。
「よぉ~くやったぁぁ!今日のMVPはあんただ!」
「はぁ…」
〝こんがり肉〟になったゴリマッチョを何気無い動作で踏みにじり、魔術師を引き摺りながら部屋を後にした。
引き摺られる魔術師は、正直困惑していると言った様子だ。
「な、なぁ」
「ん?」
恐る恐る話し掛けてきた魔術師に、直哉は疑問符を浮かべた。
「どうして私を?お前に敵意を剥き出したんだぞ…?」
「うーん、気分?」
さらりと受け流すような返事を受け、魔術師は唖然とした。
気分で助けたと言われたら、まぁそれも仕方無い。
「き…きぶん?」
「まぁ深い事は気にするなって。それよかさ、あんたの娘さんは?」
「ッ!そ、そうだった…」
急に慌て出した魔術師を見て、直哉は内心で苦笑いした。
《忘れんなよ…》
『まぁまぁ』
そんな事は口にせず、別の言葉を口に出した。
「もしかして、地下牢にでもいんのか?」
「!!」
魔術師がオーバーリアクションを取った。どうやら的を射ていたようだ。
直哉が安心させるように、声色を優しいモノにして、諭すように話した。
「地下牢の鉄格子はもう無いから、妹さんのところにでも行ってやれ」
「!!」
それを聞いた途端、顔色を変えて走り出した魔術師。横顔からは喜びが見て取れた。
《俺も誰かを心配してみたいもんだねぇ…》
『自分の心配でもしてろって事だな』
《そうだな…ウィズと言う名の疫病神が宿ってしまった自分を心配するわ》
『ケッ』
みみっちい会話をしてるうちに、魔術師はどこかへ行ってしまったようだ。
溜め息を貯蓄していると、重大な事を思い出した。
《ところでさ、疫病神》
『あんだよ』
《ここどこ?》
『知らん』
《使えねー》
『うるせェ』
何が言いたいかと言うと──
「迷子だ…」
──と言う事だ。
『なんでついてかねェんだ!とっとと走れェ!』
《てめえいつかランニングマシーン地獄に連れてってやっかんな》
『ダイエットには持ってこいだな』
《あ、デブ認めた》
『………』
魔術師の走り去った方を見つめ、貯蓄した溜め息を解放しながら走り出した直哉であった。
こんがり肉になったゴリマッチョは食用ではございません(ぇ
評価ありがとうございました!嬉しさが込み上げてきます////
これからもよろっしゅ!