第三十七輪:空気砲
タイトルに深い意味はありません。
期待したら負けな内容になってしまいました…
日が高くても薄暗い裏通りの奥の、これまた薄暗い廃墟のような建物の中の、またまた薄暗い部屋の奥、革製のリッチな椅子に腰掛けながら、ボスは優雅に葉巻をふかしていた。
「ぷっ、ぷっ、ぷっ!」
丸い煙を数回に分けて吐き出し、空気砲ごっこをしている。2m程飛んでは霧散する煙を見て、物凄くご満悦と言った様子だ。
にまにまと笑っていると、老朽化の進んだドアを乱暴に開いて、大男Cが部屋内に侵入してきた。よっぽど疲れたのだろう、膝に手を着いて苦しそうに呼吸をしている。
荒い呼吸を必死に整え、顔を上げながら言った。
「はぁ…はぁ…ぼ、ボスっ!」
「チッ…ノックくらいしやがれ…」
ボスは舌打ちしながら、その大男Cを睨み付けた。
「…で、急にどうしたんだ?そんなに脂ぎりやがって、気持ち悪いったらありゃしねぇじゃねぇか…」
「へ、へぇ…襲撃の事なんですが――」
ボスの毒舌も聞き流し、大男Cは襲撃の結果を話す。
「――十五人、全滅しました…そして、全員が殺られました…」
「そうか殺られたか……って、え?…すまん、耳がおかしいみたいだ、もっかい報告しろ」
「十五人、全滅しました…そして、全員が殺られました」
「あぁ?俺の耳どうしちまったんだ?!殺られたとしか聞こえねぇぞ?!」
「さっきっからそう言ってんですけど…」
「殺られただと?!殺ったじゃなくて殺られたなの?!」
最初は「何言ってんのお前、そんなの当たり前じゃねぇか」と言った感じで聞き流していたが、事の重大さを理解していくにつれ、「何言ってんのお前、寝言は寝て言えよバカヤロー」に変わり、最終的には「何言ってんのお前、JKS(冗談は顔だけにしろよ)!嘘だと言え、言うんだッッ!」となった。
そして、最終段階の内容で理解したボスは、それはもう見てるだけで吹き出してしまいそうな程に慌て始めた。
「十五人だぞ?!凡人とは比べ物にならん大男十五人を皆殺しだと?!」
慌てたからか、手から葉巻が滑り落ちた。それはボスの膝を直撃し、火による熱を肉体へと浸透させる。
「わちゃっ!あちゃちゃちゃちゃっ!!」
「ぷ…っ、だ、大丈夫ですか…ククッ…」
大男Cは実際に吹き出してしまったようで、気遣ってはいるのだが声は震えていると言う、明らかに調子に乗った態度を取ってしまった。
それを見たボスは、火山で言う大噴火を起こした。椅子から立ち上がって床に落ちた葉巻を拾い上げ、笑いを堪える(微妙に吹き出している)大男Cの額に押し付けた。
ジュッと言う音と共に、大男Cの悲鳴が木霊した。
「あっ?!があああああああッ!」
「笑ってんじゃねぇよ」
大男Cは額を押さえて倒れ、まるで痛みを軽減するかのように転げ回る。この行動に痛みを軽減する要素など無いのだが、筋肉ちゃんのご愛嬌と言う事で。
ボスはそんな大男の両手を両足で踏みつけ、首を左手で掴み、頬に葉巻を押し付ける。
「あがぁぁぁぁぁっ!」
次は逆側の頬、その次は耳たぶ、顎、唇、瞼、頭、目。次々と葉巻で焼き、動かなくなった大男Cを蹴り飛ばした。間違いなく100kgはありそうな巨体を軽々と数m吹っ飛ばすところを見ると、ただのゴリマッチョではないようだ。
「チッ…脂でダメになっちまったじゃねぇか…」
今まで持っていた葉巻を投げ捨て、ポケットから新たな葉巻を取り出す。
そのまま大声で「ヘイ!」と叫ぶと、ドアの奥から別の手下が飛んできた。こいつもゴリマッチョと呼ぶに相応しい体格で、覆面を装着したら恐ろしい事になりそうだ。
「お呼びで…あらら、またやっちゃいましたか」
呼ばれたゴリマッチョは、現状――顔中を焼かれ、ぴくりともしない大男Cを見ると苦笑いした。
「あぁ、手が滑ってな…」
「ずいぶん酷い滑り方をしましたね…」
ゴリマッチョが不安そうな表情をしたので、ボスは"安心させる"ように言った。
「心配するな、"お前の娘"には手出ししちゃいねぇよ」
「………」
ボスが下衆な笑みを浮かべた。ゴリマッチョは哀しいとも辛いとも安堵したとも取れる表情になった。
沈黙したゴリマッチョの表情を見て、ボスは愉快げに続ける。
「しかし、ずいぶんと可愛い娘だったな。娼婦には持ってこいなんじゃねぇか?貧しい家にもありがたい話じゃねぇか」
「ッ……!」
「おぉっと、下手な真似でもしてみろや――」
"娼婦"と言う単語を聞いたゴリマッチョが殺気立つ。だが、ボスは何食わぬ顔で受け流し、
「――二度と外を歩けなくするだなんてなぁ、造作ねぇ事んだぜ?」
とのたまった。
ゴリマッチョは握り締めた拳から力を抜き、そのまま項垂れた。
『この下衆野郎が…』
心の中の呻きは、その口から出ようと喉にまで込み上がる。ゴリマッチョはそれを必死に飲み込み、どうにか耐える事に成功した。
そのまま深呼吸を繰り返し、苛立つ心を落ち着かせた。
「…それでは、失礼します」
床に寝そべる大男Cの肩を掴み、そのまま部屋から引き摺り出――
「まぁ待てよ」
――そうとしたが、ボスに呼び止められてしまい、仕方無くその足を止める。
「…何でしょう」
苛立ちを何とか隠そうとしているのを理解したボスは、葉巻をくわえながら苦笑い混じりに一言告げた。
「火をくれ。そいつのせいで消えちまったんだ」
「………」
ゴリマッチョはズボンのポケットからマッチのようなモノを取り出し、点火してからボスに近付けた。
ボスは口にくわえた葉巻を火に近付け、息を吸い込む。少しすると、葉巻の先端が燻り始めた。
「ふー…ありがとさん」
吸い込んだ息をゴリマッチョ目掛けて吐き出しながら、ボスはお礼を言った。
顔をしかめながらも煙に耐え、吹き付けが終わると同時に、ゴリマッチョは足早にその場を去った。もちろん、大男Cを引き摺りながら、だ。
二人が見えなくなってから、ボスは再び椅子に腰掛け、独り言を呟く。
「バカなヤツだ、解放なんざする訳がねぇだろうが」
何処が面白かったのか、肩を震わせながら大声で笑い出した。やけに響く笑い声は、表通りまで響き渡ったのであった。
その頃、アジト目掛けて突っ走る直哉はと言うと――
「ウガァァァアア!」
「オオオオォアア!」
「キシャァァアア!」
「嫌ああああああ!」
――迫り来るむさ苦しいゴリマッチョの群れ(ざっと見て三十人)から逃げていた。
全員が上半身裸で、汗かオイルかは知らないが異様にテカテカし、血走った顔で突進してきているのだ。誰がどう見ても異様で恐ろしくて気持ち悪い光景だ。
《何だよあれ気持ち悪い!つーかアジトで全員揃って迎え撃つのが普通じゃね?!》
『…ご丁寧にアジトまでの道にゴリマッチョ配置たぁ…念入りと言うべきか、バカと言うべきか…』
《どう考えてもバカだろーが!!》
『どうでもいいけど、愉快な仲間達は増えつつあるぞ?』
《もう嫌だぁぁぁぁぁぁ!!》
いつの間にか「なかまをよぶ」を発動したのか、それとも昆虫達のように臭いを撒き散らして居場所を知らせたのか…真相は定かではない(したくもない)が、ゴリマッチョは四十人程に膨れ上がっていた。
通路を埋め尽くしながら迫り来る様は、背景に「ゴゴゴゴゴゴゴゴ…」と言う文字が浮かんで見えるような錯覚を覚えさせる程強烈で、四十人分の足踏みによる地響きは震度2程の地震を巻き起こしていた。
《もうこれ嫌!バイオハ○ードの食人鬼共もびっくりじゃねーかよ!!俺バイオ○ザード嫌いなんだよォォォ!!!》
『ハハハ!見ろ!!食人鬼共がゴミのようだ!!!』
《ゴミみてーに群れてるだけじゃねーか、暑苦しいわ!》
『ナオヤ、もてぃもてぃ~(はぁt』
《黙れ平穏ブレイカーが!俺の平穏を!人生を!!生きる気力を!!!返――》
『はいはいワロスワロス、ちょっとは落ち着けよゴミ』
《あんだと?!電気系MSR崩れ風情が、人間様を愚弄するだとぉ?!?!》
『うるせェ!いいから落ち着けよバカヤロー!』
怒鳴ったと同時にウィズが簡易な氷塊を作り出し、直哉はそれに躓いた。そのまま地面にヘッドスライディングをし、勢いで数m程滑っていった。そのまま突き当たりの壁にぶつかり、ようやく勢いが止まった。
「あがっ!」
そして、その衝撃で壁は揺れ、回りに積み上げてあった荷物が直哉目掛けて落下してきた。
「ぎゃっ!あたっ、や、やめっ!うきゃん!だか、ら゛っ!」
荷物は容赦無く降り掛かり、直哉を中心とした"ゴミの山"を築いた。
そして、遠くから響き渡るのはむさ苦しいゴリマッチョ共の足音。
《うぃーずーちゃーん?》
『何だよ気持ち悪いな』
《気持ち悪いじゃねーんだよボケ!んだよこの状況、自殺行為じゃねーかァァァァ!》
『お前が落ち着かないのがわりぃ。間違いねぇな』
《だーかーらぁー!》
『ミニマム脳ミソで良く考えろ、今の状況は逆に有利だ』
《どんな天変地異が起これば有利になるんだか可及的且つ簡潔に分かりやすく三十字以内で説明しろ》
『良くもまぁ長ったらしい言葉をすらすらと噛まずに言えたな』
そんな話をしてるうちに、ゴリマッチョの楽園はすぐそこにまで迫っていた。
脳裏に懐かしい映像が浮かんでは消える。
《あぁ…これが走馬灯…》
『待て待て落ち着け、あんなむさ苦しいゴリマッチョ共に抱かれて死にたいのか』
《んな訳ねーだろ…》
『はぁ…ほら、テレポートだ。あいつ等の後ろ側に』
《…初めからそう言えよ》
『初めからそう気付けよ』
《………》
言われるがままに魔力を練り上げ、テレポートをする。積み上がったゴミが隠れ蓑になり、直哉がいなくなった事に気付く者はいない。
「いけェェェェ!」
咆哮と同時に、ゴリマッチョ共がゴミの山目掛けて飛び込んだ。一人二人三人四人…トータルで十人のゴリマッチョが積み上がり、形の悪いピラミッドを形成する。
「殺ったかッ?!」
一人のゴリマッチョが聞いた。
「殺ってないよッ?!」
後ろから返事が返ってきた。
「「「「「?!」」」」」
ゴリマッチョ達が一斉に振り返った。
「やぁ、元気?!」
直哉が稲妻を纏い、天空に向けた両手に巨大な雷球を生成しながら、晴れ晴れとした表情で言った。
「「「「「な…っ!」」」」」
ゴリマッチョ達が驚愕した。
「取り敢えず寝とけって」
直哉は笑顔のまま魔力を注ぎ込む。すると、雷球が眩い閃光を発しながら破裂し、黒紫に輝く数え切れない程の刃雷と化した。
「「「「「は――」」」」」
ゴリマッチョがリアクションを取ろうとする――
「ちょっとキツいけど頑張れよ~」
ガガガガガァァアアアンッ!
――前に、刃雷がゴリマッチョ共の身体を貫通した。一瞬で意識をずたぼろにされ、ゴリマッチョ共は昏倒した。
通路を埋め尽くす死屍累々は、ゴリマッチョの体格の事もあり、異様に威圧感のある屍の壁となっていた。
『やったな!これでゴリマッチョと無理心中は避けられたな!』
「………」
ウィズが喜び気味に話し掛けてきたが、直哉としては複雑だ。
不思議そうに首を傾げ(イメージ)、ウィズは尋ねた。
『…どうした、死屍累々の一部になりたいのか?』
《いや…》
『もっと喜んだらどうよ?俺様のお陰なんだぜ?』
《うーん…》
煮え切らないと言った様子に、ウィズはますます不思議がる。
『どうしたって――』
《最初っから魔術使ってりゃあ、手っ取り早かったんだなぁ…》
『………』
直哉の正論を聞いたウィズからは、「それもそうだな」と言った感情が伝わってきたのであった。
屍ゾーンから迷う事数時間、再び戻ってきてしまった事三回、泣きそうになった事数えきれず…そんな死地を乗り越え、直哉はアジトらしき建物の前にいた。
《やっとついたやっとついたここについたぞー》
『ハイハイ、おめでとう』
涙目で呟く直哉の視界には、これまた暑苦しすぎるゴリマッチョ達が映り込んでいた。
《…気のせいかなぁ、ボディービルダーがたくさんいる気がする…》
『涙のせいで錯覚を見てるんだ、ちゃんと拭け』
言われるがままに涙を拭く。スウェットの袖がしっとりと濡れた。
そして、顔を上げる。すると、ゴリマッチョ達が武器を握り締めて向かってきた。
《…気のせいかなぁ、ボディービルダーが向かってきてる気がする…》
『走り回ったから疲れてんだ、魔力を集めてドーンしてみろ』
言われるがままに魔力を練り、一瞬の集中で凄い量の魔力を纏う。その魔力を雷球に変えて右手で鷲掴みし、目を瞑って正面にぶん投げた。
「うぎゃっ!」
「ぐはぁっ!」
「あ゛あ゛あ゛あ゛…」
「ガガガガッ!」
「お…があ、ざ………」
同時に、様々な悲鳴が上がる。
《…気のせいかなぁ、色んな断末魔が聞こえる気がする…》
『今度の幻覚は喋るみたいだな…大丈夫、それもまた幻聴だ。顔を上げてみろ』
恐る恐る顔を上げる。すると、ゴリマッチョ達が倒れていた。直哉と建物を結ぶ直線には誰も倒れておらず、その直線を縁取るように倒れていて、気味の悪い"ゴリマッチョ・ロード"を作り上げていた。
《…気のせい――》
『だな』
その辺に倒れてるゴリマッチョを"気のせい"で片付け、さっさと建物の中に入っていった。
建物の中はぼろぼろで、所々に穴が空いてたりした。見える範囲の窓は全て割れ、床にガラスが散乱している。灯りは一つも無く、室内は不気味な薄暗さが立ち込めている。
「うわぁ…何か出てきそう…」
一人だと心細かったのか、ウィズを具現化させる直哉。そのまま肩に乗せ、ほっと一息。
「…お前って、可愛いところあるよな」
「うっ、うるせぇ!べべべ別に怖かった訳じゃねーし!」
「足が震えてるぜ?」
「ぐ……」
ウィズに揶揄われ、赤く染まる直哉。震える足を必死に動かし、建物の散策に移る。
ウィズはケラケラと笑っていたが、全身全霊をもって無視した。
外見では分からなかったが、二階と地下があるようだ。直哉がいるのが一階で、上と下から気配を感じた。
本来なら天守閣を目指すのが普通だが、直哉は敢えて地下を目指す事にした。裏をかいたつもりらしい。
少しぶらつくと、地下へと繋がる梯子を見つけた。下からは話し声が聞こえたので、人間がいる事間違いなしだ。
直哉はベルトのポケットから柄を取り出し、それを右手に、本来なら刃がある方を内側に持ち直した。
「何すんだ?」
「某錬金術師の真似だ」
柄の内側を左手の手のひらに押し付け、集中を開始した。そして、十分な魔力を纏ったところで、左手にそれを集めた。
左手の手のひらから稲妻が溢れ出す。それを確認した直哉は、そのまま柄を右側に引いた。
「おぉー」
ウィズが驚きの声を発した。
柄から紫の刀身が見えたからだ。柄と左手の距離と比例して伸び続け、いつも使う妖刀村正と同じ長さにまで伸びた。
「身長は小さいけど、錬金術の腕はすげーよな、アイツ」
「お豆ちゃん」
「豆って言うんじゃねえぇえ!」
思わず大声で抗議してしまった。その抗議は室内に響き渡り、其処彼処で慌ただしい足音が聞こえてきた。
これはヤバいと思ったのか、直哉は咄嗟に梯子を伝って地下に滑り落ちた。
だが、地下にも人の気配はあった訳で――
「誰だ!」
――必然的に見つかってしまった。ゴリマッチョ達がわらわらと集まってきて、直哉を取り囲むように展開した。
だが、何かがおかしい。
《なんだかさぁ…》
『敵意が無いよな』
見た目や口調はゴリマッチョそのものだが、目の奥には申し訳無さのようなモノが窺える。まるで、仕方無くやらされてるような感じだ。
――肩に乗ってるウィズを見た事による驚愕も感じられるが。
「………」
直哉は妖刀村正を構えながら周りを見渡した。
まるで洞窟のような空間で、壁に取り付けられた蝋燭が周りをぼんやりと照らしていた。なので、ここが地下牢だと言う事もすぐに理解できた。そして、鉄格子の向こうでゴリマッチョを見つめる人達がいる事も。
《もしかして、コイツらの人質かな?》
『だな、間違いないだろ』
鉄格子から目を逸らし、ゴリマッチョに視線を向けた。ゴリマッチョ達も牢屋に視線を向けていたが、慌てて直哉に視線を戻す。
それを見た直哉は、苦笑いしながら妖刀村正を降ろした。
「……?」
流石のゴリマッチョ達も驚いたのか、見るからに動揺しているのが分かる。
直哉は唇に人差し指をあて、「しぃ~」と音を出した。そして、小さく告げた。
「俺らはあんたらの味方だよ。ちょっと待ってな、すぐに人質達を助けてやるから」
そう言うと、突然直哉が消えた。テレポートして、牢屋の中に移動したのだ。ゴリマッチョ達はそれに気付けずに混乱している。牢屋の中から短い悲鳴が上がり、初めて気付いたようだ。
「な――」
「今は上から来る奴等を何とかしてくれ!」
ゴリマッチョの発言を遮り、直哉が早口で言った。
同時に、梯子らへんが慌ただしくなり、次々と暑苦しいゴリマッチョ共が降りてきた。部屋内を見渡し、ゴリマッチョ達に尋ねた。
「この辺で声がした気がしたんだが、何かあったのか?」
「ろ、牢屋に黒い――」
「いえ、何も」
本当の事を言おうとしたゴリマッチョの言葉を中断させ、別のゴリマッチョが告げた。
だが、上から来たゴリマッチョは訝しんでいるようだ。
「…黒い何だ?」
「だから、黒い――」
「豆のようなゴキブリがいたので、私が叫んでしまいました」
再び言葉を遮り、デマカセを伝えたゴリマッチョ(下)。
それを聞いたゴリマッチョ(上)は大笑いした。
「ガハハハハ!ゴキブリ如きで叫ぶたぁ、まだまだケツが青いな!俺なんて、この手のひらで叩き潰してやったわぃ!」
「先輩には遠く及びませんよ」
苦笑いするゴリマッチョ(下)をバシバシと叩き、ゴリマッチョ(上)は戻っていった。
地下が安堵の溜め息で満ちた。
「「「「ふぅ~…」」」」
同時に、直哉が立ち上がった。その手に握られた妖刀村正を見たゴリマッチョ達は、不思議なモノを見る眼差しを投げ掛けていた。
そして、風を切るような音が響き渡ったかと思うと――
カラン…
「「?!」」
――ゴリマッチョと人質達を遮っていた鉄格子が、次々と斬られていった。直哉が妖刀村正を振るったからだが、周りはそれを認識出来ない。
全ての鉄格子が斬り落とされ、唖然とする周りに言った。
「親玉ぶっ飛ばしてくるまで静かに待ってろよ?」
そのまま走り出し、梯子の下まで来ると、そのままジャンプして一階に戻った。
静まり返った地下牢だが、少しすると騒がしくなった。それを聞きながら、直哉は苦笑いを溢した。
「静かにしてろっつーに…」
「まぁ良いじゃねェか、ちゃっちゃとゴキブリ潰してやろうぜ」
「そうだなぁ」
ボスが本当にゴキブリだったら…そんな事を考え、再び苦笑いを浮かべる直哉。
頭をぶんぶん振って考えを改め、気を取り直して上を目指すのであった。
時間が足りない!時間が欲しい!!アアアアアア!!!
前まではあれだけ邪魔だった時間がァァァァァアアアア!