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第三十五輪:意外な発見

最近は雪の日が増えましたね…余りにも寒すぎて、シロップをかけて食べる気にもなりません。


綺麗で甘くて美味しい雪とか降りませんかねぇ!

直哉達がガルガント王国を訪れた次の日、各々は二日酔いに襲われていた(数人のメイド達も魘されていたとか)。


昨日の夜、めちゃくちゃに荒れた中庭で泥酔してる直哉達が見つかり、このままでは可哀想だと言う事で、ガープが兵士達に部屋へと運ばせたようだ。

だが、ガープの気遣いに気付く者はいない。


頭痛・目眩・吐き気・リバース等々…各々が様々な症状に襲われる中、


「ふぁ~あ、良い天気だ」


黒尽くしの変態…直哉だけは、非常に心地好い朝を迎えていた。アルコール耐性は強化されなかったようだが、二日酔い耐性は極端に強化されたらしい。

勇者補正は中途半端である。


大きく伸びをし、眠気を軽く覚ました。そして、自分の置かれている環境を理解するために周りを見渡した。


直哉が寝ていたのは大型のふわふわしたベッドで、上には肌触りの良いシーツが掛けられていた。そして、そんなベッドの隣には正方形のテーブルがあり、椅子が四つ設置してある。テーブルの上には、逆さまに置かれたコップとポットが置いてあった。中には水が入っていたりした。

部屋内には小さな窓があり、カーテンまで設けてあった。部屋自体は余り大きくない(エアレイド王国と比べたらであって、直哉の本来の部屋と比べたら、圧倒的にサイズ負けする)が、コンパクトに纏まっていて、住みやすそうな部屋だ。


直哉はシーツを退けてベッドから降り、黒染めの靴を履いて外に出る。


ドアには番号が書かれていて、まるで旅館のようだ。ガープに宛がわれた部屋番号である事を確認すると、番号を忘れないように反芻しながら通路の左側へと足を向け、顔を洗うために水道を目指した。

そのまま歩くと水道が見えてきた。だが、そこには先客がいた。


「うぇぇ…はぁ、はぁ…飲み過ぎたぜ…」


目の前で苦しそうにしている人は、昨日の夜、中庭に着いた直哉を無理矢理酒の席へと引き摺り込み、無理矢理酒を飲ませた張本人――そう、アリューゼだ。

近寄ってきた直哉に気付いたのか、青白い顔を直哉に向けた。


「ナオヤじゃねぇか…クソッ、何でそんなに顔色が良いんだよ…あんなに飲ませた筈なのに…」


声から生気は感じられず、弱っているのがひしひしと伝わってきた。

直哉は神様のような眩しい笑顔を浮かべ、大きな声で言った。


「おはよう、アリューゼさん。今日も良い天気だねぇ!どれだけ飲まされたか知らないけど、お陰様で気分爽快だよ!」

「でかい声で喋んな…あ、頭に響くだろ…」


心底苦しそうな返事が返ってきた。それを聞いた直哉は、後光を感じれそうな程の明るい雰囲気を纏った。


「えぇ?声が大きいのは良い事じゃん、アリューゼさんでも聞き取れるでしょ?」

「"でも"ってどう言う事だ…」

「そう言う事だよ」


アリューゼの背中をバシバシと叩く。苦しそうな呻き声を洩らすが、抵抗する程の余裕が無いらしく、されるがままの状態である。


頭痛と吐き気の二段攻撃でアリューゼを苦しめて満足したのか、直哉は顔を洗わずにその場を去った。本来の目的は忘れてしまったようだ。


通りすがりのメイドに道を聞き、難無く食堂に辿り着いた。ドアを開け、中にいる人に挨拶をする。


「おはよーっす」

「おはよ、ナオヤ」

「うぐぐ…やっほーですぅ…」

「おはよう」

「おはよー」

「………」


部屋の中にいたのはシエル・セラ・ガープ・ルナ・エレの五人だけだった。直哉は入り口に近いところの椅子を引き、そこに座った。


「他の奴等は?」

「どうやら、酒の飲み過ぎで酔い潰れたみたいだな…メイドに起こさせたが、「そっとしといてくれ」と嘆願されたらしい」


直哉の疑問にはガープが答えてくれた。苦笑い混じりだったので、予想以上に苦しんでたのだろう。

傍らのセラを見ても、なかなか重症だと言う事は一目瞭然だ。


「セラ、大丈夫か?」

「ダメでずぅ…」


心配した直哉の問い掛けに、セラは机に突っ伏しながら答えた。どうやら頭痛が酷いらしい。

アリューゼのように痛め付けようか迷ったが、余りにも辛そうだったのでやめておいた。


コップに水を汲んで、セラの前に置いた。セラはお礼を呟きながら、その水を一気飲みする。


「ぷはぁー…少し楽になりました」

「そりゃ良かったな」


少し顔色が良くなったセラを見て、直哉は安心すると同時に、何かを閃いた。

シエルと向き合うと、その旨を伝える。


「シエル、セラに治癒魔術掛けてみてくれ」

「治癒魔術?…あっ!」

「おぉ、気付いたみたいだな。流石シエル、天才だ」

「天才なんかじゃないよぅ」


謙遜しながらも、シエルはセラの頭を撫でる。同時に、手のひらから優しい光が溢れ出した。それらはセラの頭に染み込み、少しすると光は消えた。

シエルがセラの頭から手を退けた。そして、様子を窺ってみた。


「どう?楽になった?」


セラは顔を上げ、驚いたような表情を浮かべた。顔色は肌色に戻り、見るからに元気そうだ。


「頭、痛くない!シエル様すごーい!」

「よかっ……わっ!ちょ、セラ?!」

「シエル様大好きー!」


頭痛が消えたセラは、喜びの余りシエルに抱き着いていた。抱き締められて頬擦りされて、シエルは真っ赤になっていた。


対する直哉も、赤くなりながら目を逸らしていた。直視したら危険だと判断したのだ。

だが――


《うぅ…小動物が戯れてる…けど、ガン見したら負けな気がする…》


――直哉には直哉なりの葛藤があったようだ。

結局、「目を逸らしながら注意して止めさせる」と言う方法を採用した直哉であった。






食事を終えた三人は、食堂を後にした。騎士団メンバーの二日酔いを醒ますために、各々の客室に向かったのだ。

部屋番号はガープに聞いておいた。国王なのに自ら部屋を割り振ったらしく、直哉は親しみを覚えた。


「それにしても、二日酔いにも治癒魔術が効くなんて…大発見じゃない?」


シエルが直哉に話し掛けた。とても嬉しそうに話すので、聞いているだけで笑顔になってしまった。

前を見つめながら、直哉はシエルに質問をする。


「他の人は試さなかったんかな?思い付きそうなモノだと思うんだが」

「私、初めて聞いたよ。セラは?」

「同じく!…これでお酒が飲み放題だぁ…うふふふふ」


シエルが真面目に答えたのに対し、セラは酒の事しか頭に入ってないようだ。


「そうだシエル、セラの二日酔い醒まし一回につき、セラから金貨一枚貰うのなんてどう?」

「それは良い考えだね!それでも良いなら、たくさんお酒飲んでいいよ?」

「高いよぅ!金貨一枚なんてやだやだやだやだぁ!!」


直哉の提案を呑んだシエルは、頬をつり上げながらセラに告げた。セラが駄々をこね始めたのを見て、二人は笑い出した。

すると、近くのドアが開かれ、中からアイザックが出てきた。


「お、酔っぱらいおはよう」

「「おはようございます!」」

「酔っぱらいは酷いですよ…でも、言い返せませんね…おはようございます」


アイザックは頭を抱えながら挨拶を返した。セラと同じで、頭痛に悩まされているようだ。


《アイザックは…アリューゼに酔わされただけだったな。こいつに非は無いよな、うん》

『俺なら鉄拳制裁を喰らわせて、王宮の屋上から逆さまに吊るして、そのまま人間ミサイルにするな…ナオヤは温すぎる』

《ウィズの基準が盛大にずれてるだけだっつーの》


ウィズに意見を尋ねた愚かな自分を戒め、直哉はシエルを促した。

シエルは大きく頷くと、アイザックの頭を撫で始めた。アイザックは不思議そうな顔をしていたが、手のひらに集まった魔力が光に転換されてから、驚きを如実に表した表情になった。


「!!…これは…」

「ナオヤが見つけたんですよ、治癒魔術が二日酔いにも効いちゃうって事!」

「いやいや…治癒魔術掛けたのはシエルだし、シエルが治したと言えるだろ。そだよな、セラ?」

「………」

「…セラ?」

「さっきの内容…金貨を銅貨にしてくれるなら――」

「はいそうですだってさ」

「うがぁー!」


冗談を並べるうちに、治癒が完了したようだ。アイザックの頭から手を退けたシエルが、「調子はどう?」と言わんばかりの眼差しを投げ掛けていた。

アイザックは片膝を着き、騎士のポーズをとった。


「ありがとうございます、シエル様。あれ程酷かった頭痛が、今はこれっぽっちもありません」

「良かったぁ!」


跳んで喜ぶシエルを横目に、直哉はアイザックに一言告げた。

右手ではOKサインを作っている。


「治って良かったねー、うん。そしたら、歯ァ食い縛れ」

「え――」


ぱちこん。


顔を上げたアイザックのおでこに、直哉の人差し指が炸裂した。人間ミサイルは流石に嫌だったので、デコピンで済ませようとしたのだ。

だが効果音とは裏腹に、十分に力を溜めた強烈な一撃だったようだ。


「??!!」


アイザックが騎士のポーズのまま一回転+αし、そのまま尻餅を着いた。アイザックは赤くなったおでこを押さえながら、涙を浮かべた群青の目で直哉を睨んだ。


「何するんですか?!」

「何って、人差し指による打撃を喰らわせただけだよ」

「私が何を――」

「したのか、とは聞かないよな?」


直哉が満面のスマイルと青筋を浮かべながら言った。第六感が警鐘をガンガン鳴らしているのか、生命存続の危機を感じ取ったのか…取り敢えず、アイザックは無駄な抵抗をする事を止めようとした。

だが、口は滑るものである。


「昨日はよくも足を固定してくれたねー?」

「う゛…あれは、酔ってたから――」

「あ゛?」


声に怒気が混じり出したが、笑顔を浮かべたままの直哉。表情と言葉が釣り合っておらず、いよいよ最期を悟り始めたアイザックは、今度こそ抵抗を完全に止めた。


「お酒のせいにするなんてなァ…ま、次同じように足止めしたら、鉄拳制裁かまして逆さ吊りしにて、夜空に輝くお星様にしてやるよ」

「…肝に銘じておきます。人生を全うしたいので」


直哉が言う事は冗談の範疇に収まらない。実際には星になどできる筈がないが、直哉ならやりかねない。本当にされるのはご遠慮願いたかったのか、アイザックは素直に頷いた。

――直哉はウィズの意見を口にしただけで、実際にそんな事をするつもりなど無かったのだが。


誤解が生じた事など知らず、その反応を見た直哉は、たいへん満足げに頷いた。


「うむ、よろしい。命は愛で育むモノだからな」

「えぇ、そうですね。たった今、一つの命が奪われかけましたが」

「デコピンで人が死ぬ訳が無かろう!」

「いやいや…ナオヤじゃ実現しかねませんね」

「ふぅん…そんなに殺って欲しいんだ?なら――」


直哉が右手の人差し指を突き出し、瞬時に練り上げた魔力を指先に集めた。指先に集まった魔力は稲妻に変わり、バチバチと不吉な音を立てている。

その指を親指に引っ掛け、OKサインを作る。そして、変わらぬ笑顔で続けた。


「――おかわり如何?」

「謹んでご遠慮致します」


二日酔いとは違う理由で顔を青ざめたアイザックを見た直哉は、邪神宛さながらの邪悪な笑みを浮かべていたのであった。






直哉達三人にアイザックが加わり、四人で行動する事になった。人数が増えて、四人の口数も増加傾向にあるようだ。


「――そう言えば、アイザックはどんな魔術を使うんだ?」

「森林属性の魔術を扱います」

「合成属性か、珍しいな…って事は、水属性と土属性の魔術も使えるのか」


直哉は全属性を扱うので、人の事を言えたモノではないのだが、本人はそれに気付いてないようだ。

直哉の言葉に真っ先に反応したのはシエルだった。


「そうだよ!先生に治癒魔術を教わってるの!」

「ほぉ、シエルの先生なのか」

「うん!とっても分かりやすくて、私もすぐに覚えれたの!」

「シエル様には才能がありますからね。私も精進しなければ、そのうち立場がひっくり返ってしまいますね…」

「そんな事無いですよ、先生には遠く及びませんよぅ」


シエルが誰かに治癒魔術を学んでいる(最近はサボり気味だが)のは知っていたが、アイザックだった事までは知らなかった。

謙遜し合う二人を見て苦笑いしながら、直哉は話をセラに振った。


「そーいや、セラは魔術使えるの?」

「ふぁっ!…あ、えと、うん」


急に話題を振られたセラは、慌てながらも頷いた。


「どんな魔術?」

「んと…土属性かな」

「土かぁー…セラの事だから、風とか火とかかと思ってたよ」

「"だから"ってどう言う事?!」

「だってさー、セラって行動的じゃん?どっちかっつーと悪い意味でだけど」

「あー…分かる。セラのせいで、メイドさんが怖くなっちゃったもんね、ナオヤ…」

「…お二方が追い掛けられてたのは知ってましたが、セラ様のはかりごとだったとは…」

「ち、違うもん!そんな事しないもん!」

「九割九部九厘嘘だな」

「だね」

「…セラ様、ご愁傷様です」

「うわぁぁぁあああ!!」


耐えきれなくなったのか、セラは泣いた振りをしながら走り去った。残された三人は、顔を見合わせて笑い出した。


三人になってしばらく歩くと、ラルフの宛がわれたモノと思われる部屋に差し掛かった。

直哉が恐れずにノックする。


「もしもーし、ラルフさん生きてまーすかー?冷たくなってまーせんかー?」

「「………」」


直哉の呼び掛けに沈黙する二人。そんな空気を打ち砕かんばかりにドアが開かれた。

そして、ラルフがひょっこりと顔を出した。割りと顔色が良く、そこまで重症ではないようだ。


「…どうした?」

「いや、生死確認と無料の酔い醒ましと俺の八つ当たりをしにね?」

「「「………」」」


今度の沈黙は三人分だった。


ラルフが三人を部屋内に入れ、客室備え付けの椅子に座らせた。椅子は四つ設置されているので、丁度全部埋まった。

人数分のコップに水を注ぎ、各々の前に一つずつ並べた。とても礼儀正しく、直哉は無駄に驚いていた。


「…で、酔い醒ましとは?」


コップの水を一口飲み、ラルフは直哉に尋ねた。直哉はシエルに目配せをし、シエルは笑顔で頷く。

シエルは椅子から立ち上がり、ラルフの頭をなでなでしながら治癒魔術を発動した。


「…こんな事、できるのか…」


暖かい光が身体に染み込み、同時に気だるさ等が抜ける感じは、とても不思議なモノらしい。

驚きと心地好さからか、ラルフの表情が何とも形容し難いモノに変わった。


「どうですか?楽になりましたか?」


シエルが尋ねると、ラルフは小さく頷いた。

そして、直哉が椅子から立ち上がり、ラルフの前に歩いてきた。


「よーし、次は俺の番だよな?正座して目ェ瞑って歯ァ食い縛れ。逃げようとしたら数倍キツいのかますぜ?」

「…お手柔らかに」


ラルフの苦笑いに、直哉は答える事はしなかった。

直哉は先程のようにOKサインを作った。人差し指には稲妻が纏わりついていたが、目を閉じたラルフには分からない――


『バチバチ鳴ってるぞ』

《あ゛》


――訳では無かった。

ラルフの頬を冷や汗が伝うのが見えた気がした。


シエルが目を瞑って耳を塞ぎ、アイザックがひきつった表情を浮かべる中、直哉の人差し指はラルフのおでこにクリティカルヒットした。


パンッ!


まるで銃声のような炸裂音と共に、ラルフは力尽きた――訳では無く、床に倒れ込んでぴくぴくしていた。

意識はあるようだが、痺れて動けないらしい。


「ラルフが酔うと、あんなに豹変するなんてなぁ…残念だったよ」

「あ…あれ、は…」


言葉とは裏腹に、残念さを感じさせない素晴らしい笑顔を浮かべながら、直哉は明るすぎる口調で言った。

対するラルフは、マトモに喋る事すら出来なくなったようだ。流石に可哀想だったので、ベッドに寝かせてやる事にした。


「う…あ、あり、が…と……」


今にも死にそうな口調でお礼を言うと、ラルフは今度こそ本当に力尽きた。


「痛め付けたのは俺なのに、お礼言われるのも複雑だなぁ…」

『寺のオッサン共も叩かれてぺこぺこするじゃん、あれと一緒だよ』

《なるほどな》


呟きながら振り向くと、目を瞑ったままのシエルと、ベッドに横になるラルフを死んだ魚のような目で見つめるアイザックがいた。

右手でシエルの頭を撫で、アイザックに無表情の顔を向ける。


「ラルフにはちゃんと稲妻帯電人差し指打撃を喰らわせたのに、アイザックにはただの人差し指打撃しか喰らわせてないんだよねー」


話し掛けた瞬間、アイザックの肩が大きく揺れた。


「いっ、いやいやいや、わ、私はここっこれでじゅうぶ――」

「遠慮するなよー」


直哉が左手をアイザックの肩に置いた。アイザックは面白いように震え始めた。

目の前で犠牲者を出され、その虐待の矛先が自分に向けば、きっと誰でも震え上がるだろう。

しかも、加害者が朗らかに笑っていたら――


「あははは、この瞬間って面白いよねー!」

「………」


――狂気の沙汰としか思えないのも仕方がない。


直哉の左手の魔方陣が、強い紫の光を発した。同時に、黒紫の稲妻が見え始めた。

耐えきれなくなったのか、アイザックは直哉に懇願した。


「なっ、ナオヤ様!」

「ん?」

「あ、あの…」

「中断して欲しいって?」


コクコクと頷くアイザックを見ながら、直哉は人差し指をベッドに向ける。


「そしたら、勇敢に散ったラルフが可哀想じゃないか」

「ぐっ…それは…」

「もういいんじゃない?先生も反省してるよぅ」


シエルが二人の間に割り込んできた。流石の直哉も、シエルに天誅を下すつもりは無いらしい。左手に纏った稲妻を霧散させ、シエルの話に耳を傾けた。


「…でも、それじゃあラルフさんが可哀想だから…あ、そうだ!」


手のひらをぽんと叩き、目をキラキラさせながら続けた。


「先生に酔い醒ましをやってもらうのは?」


直哉は目を見張り、シエルに天才を見るような眼差しを向けた。


「…やっぱ、シエルは天才だなぁ。そんなの思い付きもしなかったよ」

「先生に治癒魔術習ってなかったら、多分思い付かなかったよぅ」

「運も実力の内、ってね。まぁ、それは採用だな。そうすれば、二人で町に行けるぞ」

「ほんと?」

「おう。昨日見なかったところまで行こうな」

「先生、よろしくお願いします!」


目の前で頭を下げるシエル。アイザックは、あたふたしながらも顔を上げさせた。


「シエル様、顔を上げてください…その"仕事"、引き受けさせてもらいます」

「"罰"だけどな。…まぁ、シエルに感謝しとけよ?足元に転がった命を拾わせてくれたんだからな」

「えぇ、そうします…シエル様、本当にありがとうございます」


シエルにぺこぺこと頭を下げるアイザック。直哉と町を歩けるのが嬉しいのか、シエルはニコニコとしている。

そのまま振り返り、直哉の手を引っ張る。


「早く行こっ!いっぱい行ってみたいとこがあるの!」


この笑顔で見つめられて、「すいません嫌です」と言える男性は、限り無く少ないだろう。

そんな最上級の笑顔を向けるシエルを撫で、もう一度アイザックを見た。シエルは手を引く力を弱めた。が、握ったままで待機している。


「んじゃあ、よろしく頼むよ。…そだ、アリューゼさんには治癒魔術掛けなくていいや」

「何故ですか?」

「酒持ってきたのアリューゼさんじゃん。元気付けようとしてくれたのはありがたいけど、ねぇ?」

「…分かりました、肝に銘じておきます」

「そんな事銘じなくてもいいんだがな…まぁいいや、頼むよ~」


苦笑いしながら言う直哉に、アイザックは肩を竦めて見せた。


話に一段落付いたのを確認したのか、シエルは再び直哉の手を引っ張り出した。


「えっとね?昨日ご飯を食べたところのね――」

「ほぅ…そりゃあ面白そうだ――」


二人が見えなくなるまで見送ったアイザックは、大きな大きな溜め息をついた。

そして、部屋の中に入り、ベッドに歩み寄った。


「ご愁傷様です…」

「………」


そこに寝ている人物――ラルフに一言掛け、両手をラルフの上に、開かれた手のひらが下になるように翳した。

そこから緑色の光が沸き出して、ラルフを包み込んだ。光はゆっくりと染み込んで、少しすると消えた。


「………」


ラルフは無言のまま、一定のリズムで寝息を立てている。

今の緑色の光は、痺れを取る類いの魔術だ。起きた時、身体が痺れて動かない、なんて事は無い筈だ。


そのまま踵を返し、部屋を後にするアイザック。

だが、数歩歩いたところで足を止めた。


「お二人の部屋…何処でしょう…」


部屋番号を聞いたりした訳では無く、何処だか分からないのだ。直哉とシエルの二人(本来ならセラを合わせた三人)に付いていくだけだったので、こんな展開は予想出来なかったのだ。

再び大きな溜め息をつき、とぼとぼと食堂に向かうアイザックであった。

ここで苦し紛れの補足。


一寸畑で使われる治癒魔術は、魔力をっぽいモノに転換する高等技術を要します。その光には魔力が微塵も含まれず、完全に別の物質に作り替えられた事になります。そう考えると、「マテリアライズ」も同じだと言えます。


一般的に使われる魔術は、別の物質に作り替えると言う作業は必要ありません。

何かを燃やす・風で引き裂く・水で押し流す・土を飛ばすると言う攻撃魔術は、魔力が含まれようが無かろうが、「攻撃する」と言う用途から外れる事は無いからです(障害物を破壊する等がありますが、「破壊する」等も同義であるとします)。

別の物質に変換する時間があるならば、普通に魔力を含む魔術を放つ方が得策ですからね。


…分かりにくい説明になりましたが


「魔力を別の物質に変換する事は、難易度が高く、できる人は多くはない。また、それをする必要がある人は、治癒魔術を扱う者か、直哉のようなクレイジーヒューマンだけである」


…とでも認識しておいてくれると、筆者はかなーり救われますprz

何処で補足しようか迷った挙げ句、後書きを利用する羽目になってしまいました。どうかご了承下さいませ…。


以上、醜い補足でした…。

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