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第三十四輪:酔っぱらい

毎日がブランクに突入してしまった気分だ…

駄作を極めたものになってしまった。

再び謁見の間の扉を見た途端に、少女は中に向かって駆け出した。兵士が扉を開き、少女を中に誘う。そのまま、直哉達も中に入った。


謁見の間に通された直哉達は、腰掛けた椅子に力無く寄り掛かり、焦点の合わない目で虚空を呆然と眺め、口々に「ごめんなさい」や「もうしません」、「許してください」等と呟くガープと、異様に輝く笑顔を浮かべるルナ、そして、そんなルナの足元に抱き着く少女に迎えられた。

三人の前に、左からセラ・セフィア・ルシオ・シエル・直哉・ラルフ・アリューゼ・ミーナの順で並ぶと、それを待ってたかのようにルナが話し始めた。


「お帰りなさい。それと、お疲れ様。そして、ありがとうね?」


少女の頭を撫でながら、何食わぬ顔で労いの言葉を掛けてきたルナに、直哉は恐る恐る返事+質問をした。


「いえいえ…ところで、ガープさ――」

「エレがお世話になって…ほら、エレもちゃんとお礼を言うのよ?」


ガープの話題を出そうとしたが、言葉を重ねられ、話題を無理矢理切り替えられてしまった。「触れたらただじゃ済まさないわよ?んん?」と脅されたような気がして、小心者な直哉は言葉を失ってしまったのだ。

直哉が怯える中、ルナに促された少女――エレが一歩前に歩み出て、そのまま口を開いた。


「あっ、あの…あ、ありがとう、ございました…私、エレって言います…」


子供らしい簡易な挨拶を終えると、エレはルナの元へ戻り、再び膝に抱き着いた。怖くてか恥ずかしくてか、それとも甘えたい年頃だからなのか…そのまま離れようとはしない。

その姿を見たエアレイド王国一行(特にシエル)はにっこりと微笑んだ。


「良いなぁ…可愛いなぁ…」


シエルの独り言を聞いたセラは、悪戯を思い付いた子供のように笑った。


「ここはシエル様、一思いにナオヤを゛っ……」


何を言おうとしたのかを瞬時に察知した直哉は、テレポートでセラの後ろに移動して延髄に手刀を叩き込み、再び元の場所にテレポートすると言う動作を、瞬きをするくらいの短時間でやってのけた。

手刀を喰らったセラは、志半ばと言った表情を浮かべ、


「不覚…無念んんん…」


と言い残し、その場に倒れそうになったのをセフィアに支えられた。


「せせっ、セラしゃんっ?だいだいだい大丈夫れひゅかっ?!」


セフィアは見るからに慌てている。返事を返さないセラを見て、動揺に拍車が掛かったようだ。

それにつられて周りも慌て始めたが、直哉だけは何処吹く風と言った様子だ。


『お前さ…レディにはも少し優しくしろよ…』

《いーや、あいつは悪魔だ。見えない角とか羽根とか尻尾とか生えてるに違いねぇ…イマジンでもしてみるか?》

『悪魔にも性別くらい存在すんじゃねェのか?』

《まじで?それは想定外だったわ…けど、可愛い小動物ならまだしもなぁ》

『あんだよ…んじゃあ、想像してみろ。角やら羽根やら尻尾やらが生えてるセラちゃんがぴちぴちのナース服着て、胸元でカルテ抱き締めてて、眼鏡越しに上目遣いで見つめてくる姿をよォ…どォだ、小動物だろ?』

《まず、角やら羽根やら尻尾やらまでは分かるが、何故ナース服着とるんじゃ、しかもぴちぴちのとか言う無意味な補正付きの…で、カルテって何?俺病気じゃねーよバーカ、てめえが精神外科行ってきやがれってんだ。しかも眼鏡っ娘の意味が分からん。ついでに上目遣いも謎だし…最後に、俺はお前の趣味を理解できん》

『な…っ!貴様、コスプレを愚弄するか!コスプレの何が悪いと言うんだ!!』

《大方てめえの趣味じゃねーか!どんなマニアックさを兼ね備えてんだよ、こんの変態MSエロオヤジが!》

『きっ、貴様ァ!餓鬼風情が、生意気なァァァ!』

《ハッ、てめえ何歳のつもりだ?若作りしたって無意味――》

「――ナオヤ?」

「わわぁぁあ!はいはいはいはい、何でございましょうか!?」


急にシエルに呼ばれて驚いた直哉は、その場からバックステップで下がり、シエルを見つめ返した。

戸惑っていたのはシエルも同じだったが。


「みんな行っちゃったよ?」

「…あらほんと。ところで、どこに?」

「食堂、かな?もう晩ご飯の時間みたいだし」


いつの間にか話が終わってたらしい。その後、ルナが「今度はしっかりと準備しておいたから、全員で食事をしよう」と切り出したらしく、シエルと直哉を除く全員が移動していたのだ。

周りを見渡すと、兵士達が苦笑いしているのが目に入った。無性に恥ずかしくなった直哉達は、そそくさと謁見の間を後にした。


謁見の間から脱出した二人は、少し歩いて立ち止まる。


「あぅー…ここどこだろう…」

「ありゃ…まさか、シエルも迷子?俺は現在進行形で絶賛迷子中だよ」

「まっ、迷子なんかじゃないもん!」

「数行上で「ここどこだろう」って言ってるよね?」

「う゛…」


初めて来た場所を案内できるとしたら、それは超能力者・勘が鋭い人・予め下見を済ましておいた"自称初めて"の三種類に分けられる。

どれにも分けられないシエルは、きっと普通である。


つまり、二人は"群れからはぐれた小動物"になってしまったのだ。


「どうしよう…私達、このまま帰れなくて…餓死しちゃうのかな…?」

「唯一マトモだと思ってたシエルに、精神崩壊の兆しが見受けられてしまった…死ぬ訳ねーだろ」

「だって…私、こんなところ知らないもん…」

「そりゃ俺だって知らんが…兵士が見つけて拾ってくれるだろ……でも、それは嫌だな」

「うぅぅ、お腹すいたよぅ…」

「よしよし、もう少し我慢しましょうね」


通路にうつ伏せに横たわり、ぐでーっとしたシエル。(こんな事していいのかは別として)可愛いとしか言えない姿に、直哉は目を奪われ、その場に立ち尽くしていた。なので、通路の奥から駆けてくる小さな影に気付かなかった。


「あぁ…みんな…来世でも一緒に…ん?」


遺言を中断したシエルが、首を捻って後ろを向いた。そして、明るい顔になる。

直哉もつられて振り向いた。すると、エレがシエルのローブを引っ張っているのが視界に写り込んだ。


「わぁ、エレちゃん!捜しに来てくれたの?」


シエルが明るい声を出すと、エレはこくんと頷いた。

直哉は改めてエレを見てみる。白い髪は肩らへんまで伸びていて、同じく真っ白な目がシエルを見つめている。小さめの白いドレスを着た姿は、小さくても王女様としての貫禄が感じられる。


シエルが立ち上がり、エレの手を取った。慣れたのか、エレは嫌がる様子も見せずに握り返した。

だが、直哉に対する接し方は相変わらずのようだ。シエルに隠れ、様子を窺っている。


「良かったな、シエル。餓死しないで済みそうだぞ」


直哉は何事も無かったかのように振る舞っている。なので、シエルは気にしない事にした。


直哉の反応を見てか、エレが歩き始めた。早足で「こっちこっち」と言わんばかりにシエルを引っ張る姿は、出会ったばかりの頃のシエルを彷彿とさせる。


『ナオヤ、ロリコンだったの…?』

《はぁ、お前の相手も疲れるな…》

『よせやい、照れんだろ』

《褒めてねーよ、気持ち悪い》

『「キモい」よりも精神的ダメージがでけェんだぞ?分かって言ってんのか?』

《それを狙ったんだよ》


下らない言い争いをしながらも、直哉は二人に付いて行った。仮に付いて行かなかったら、王宮の片隅で餓死すると言う自信があったのだ。


右に曲がって真っ直ぐ進み、さらに左に曲がって…ガルガントの王宮も良い具合に入り組んでいて、直哉は一人で歩かない事を決心したのであった。






食堂に着いた三人は、空いている椅子に腰掛けた。とは言っても、エレはルナの膝の上が特等席のようで、迷わず膝に飛び乗ったのだが。


全員が揃ってから食事を開始するのは、どうやらエアレイド王国くらいのようだ。三人が入ってきた時、ガープとルナは既に食事を始めていた。ガープは正気を取り戻したようで、目の焦点は合っていた。

しかし、エアレイド王国一行は手を付けていない。直哉達を待っていたのだ。


「すまんすまん、お待たせいたした」

「ごめんなさいっ、直哉がぼーっとしてて…」


謝罪する二人(正確にはシエルだけ)に、エアレイド一行は暖かい視線を送る。


「気にしないでください、シエル様"は"悪くありませんから」

「そうそう、どっかの黒尽くしのナオヤが悪いんだからね!」


ミーナとセラが揶揄った。直哉はそれにやけになって食い付く。


「おいおい、俺だけが悪いとか言うなよ?これは連帯責任と言ってな、シエルも同罪――」

「ナオヤ、大人気無いよ」

「うがっ!」


ルシオの冷静な言葉が、直哉の心臓を刺し貫いた。

その場に膝を着く直哉を見て、エアレイド一行は笑い出した。その様子を見ていたルナは、文字通り目を点にしていた。


「………」


エアレイド王国一行を観察ばかりしていたので、食が進まなかったようだ。

その日の深夜、徘徊中の警備兵が食堂に引き摺り込まれ、「ご飯をよこしなさい!さもないと…」と脅される事件が発生した。もちろん、主犯はルナだった。






食事を終えた一行は、そこで解散する事にした。一人一人にメイドが付き添い、王宮の敷地内ならどこでも行けるようにしてもらった。

各々の宛がわれた部屋に移動する者、王宮冒険に旅立つ者、浴場に向かう者、メイドを口説き始める者…各々の行動は様々だった。


そんな中、直哉は一人(メイドを含めると二人)で浴場に連れてってもらっていた。異国でシエルと浴場に向かうのは流石にまずいと思ったからである。

そんな中、メイドが口を開いた。


「これから向かうのは、王族専用の浴場です。広いですよー」

「あれ、王族専用の浴場?」

「はい、ルナ様が「彼等にはこっちを勧めてね」って」

「ほっほー、そりゃ楽しみだ」

「うふふ、私も楽しみです」

「え、何か言った?」

「いいえ、空耳じゃないですか?」

「うーん…」


メイドが不自然な笑みを浮かべた。直哉は首を傾げて、何かあるのかな…等と考えていた。


世間話等で盛り上がってるうちに、浴場に到着したようだ。大きな入り口には縄暖簾が垂らされていて、雰囲気が出ている。

だが、入り口が一つしか無い。


「あー、もしかして…混浴ってやつ?」

「ご名答!」


メイドがにやりと笑いながら答えた。


どうやら、王族専用の浴場は決まって混浴のようだ。リラックスできる場だと会話が弾むからだろう。

仮に一般浴場を混浴にしたら、毎日が犯罪すれすれ行為のオンパレードになってしまうだろう。想像した直哉は、無意識に苦笑いした。

メイドの話によると、そんないざこざを防ぐため、中には個室があり、その中で各自が着替え、そのまま浴室に向かえるらしい。これは物凄くありがたい事だと思った。


ウィズの呆れたような溜め息を聞いていると、メイドが直哉の手を引っ張り、浴場の中に連れ込んだ。


「え?なになに?!」

「ナオヤ様の入浴のお手伝いですよ?これもルナ様からのご命令です」

「んなっ!」


抵抗する暇も無く、直哉は入り口に近い場所の個室に入れられた。もちろん、メイドも一緒だ。

メイドが直哉のスウェット(上)を掴み、そのままひっぺがした。神業レベルにスムーズに脱がすメイドを見ながら、直哉は無意識にスウェット(下)を掴んだ。


「ちょっ、ちょちょちょ、ちょっと待て、落ち着け、早まるな、深呼吸だ!」

「脱がせるのも、メイドの大事なお務めですよ?」


ニヤニヤしながらにじり寄ってくるメイド。その姿に、直哉は恐怖とデジャビュを感じた。


《この世界の生き物って何なの?どうしてこんなに俺の命を狙うの?バカなの?》

『ハハハハハ…ご愁傷さま』

《おい、ウィ――》

「はぁい、手をどけましょうねー?」

「うわぁぁぁ!」


直哉の現実逃避も現実を止める事はできず、メイドが直哉のスウェット(下)を掴む手を握る。


「そのままじゃーお風呂入れませんよー?」

「わーってるわい!いいからほら、ちょっと出とけ!」

「遠慮せずに、さぁ、さぁ!!」

「うるせーボケェ!」


メイドを無理矢理個室から追い出し、同時に風の壁を個室の正面に展開、個室のドアにすら触れなくした。

その間に素早く着替え、備え付けのタオルを腰に巻く。本来の使用法など知ったモノではない。


「うぅー!お仕事返せぇぇ!」

「黙らっしゃい、楽しそうに脱がすんじゃねぇ!それと風呂には一人で入るんだよ俺は!」

「知りません!あ、背中流し――」

「一人でできるもん!」


個室のドアを開けた瞬間に、メイドを一辺1m程の、床から天井までの高さがある風の壁(四角柱ver)に閉じ込めた。メイドが悔しそうにキーキー喚いていたので、風の壁を真空に変え、声が届かなくした。酸素を供給するための穴も忘れずに開けておく。

そんなメイドに思い切り笑い掛けてやり、そのまま浴室に突入した。


「うへぁ、すげ」

『懐かしいなー…』


エアレイド王国の浴場は、どちらかと言うと大自然に偶然出来た洞窟風呂と言った感じだが、ガルガント王国のそれは、綺麗な銭湯と言った感じだ。床はタイルっぽいモノが張られていて、足場がしっかりしている。正面の窓を開けると、ガルガント王国の片側が眺める事ができるようになってたりもしていた。浴槽はなかなか大型で、泳げる程では無いが、なかなか良い感じだ。


備え付けの桶でお湯を掬い、身体にざばーっ。


「温泉だァァァァ!」


湯船にどぼーんっ。


「ヒャァァァッハアアァァ!」


水面をばちゃばちゃと叩き、子供のように興奮している。

直哉の歓喜の絶叫は、小一時間続いたとか。






しっかりと満喫した直哉は、個室に飛び込んで着替え、表に出てからメイドを解放した。憎いモノを見るような目で見られたが、快く流しておく。


「うがー!」


何か喚いてる――


「何でだよぅ!お仕事ぉ!!」


気がするけど――


「うわぁぁぁんっ!!」

「じゃーかましい!脱がせんのが全部じゃねーだろ!」

「お背中お流しして、お風呂に入って――」

「風呂に入りてぇだけかよ!」


――気のせいじゃなかった。


リミッターが解除されたメイドの相手に手こずっている直哉だが、何とか話題を逸らす事に成功した。


「――取り敢えず、王宮冒険に旅立つのは良いけど…」

「けど?」

「いや、王宮って無駄にだだっ広いじゃん?全部回るなんて無謀だろ?」

「それもそうですねー…じゃあ、私のお気に入りの場所に強制連行です」

「何故に強制なの?…んまぁいいけどさ」


手当たり次第回ったら、それこそ日が昇ってしまう。ここは黙ってメイドに従う事にした。


薄暗い通路に二人分の足音が響き渡るのには、なかなか不気味なモノがある。何故かメイドも会話を振らず、足音しか耳に入らない。

耐えきれなくなった直哉が会話を振ろうとする。


「あの――」

「着きましたよ!」


メイドに言葉を挟まれてしまった。だが、着いたらしいので良しとした。

何があるのかと首を出すと、鉄の扉が目に飛び込んできた。


「…ここ?」

「いくらなんでも酷すぎますよ?頭大丈夫ですか?」

『ダメだよ嬢ちゃん、このバカに何を言おうが無駄だ』

「うるせぇ!」


二人に対しての発言だったのだが、知る人はいない。

何故か拗ねたメイドが、その鉄の扉を重そうに開いた。仕草が可愛かったのは秘密である。


「こ、っち、です!」

「をー!」


扉の先には屋上が広がっていた。正しく学校のそれと同じような造りで、枕を持ってくれば良かったと思った。

そして何より、その屋上から見える景色が凄かった。


「頑張ってるねぇ…」


ガルガント王国は、俗に言う残業制度を取り入れている。エアレイド王国では、すぐに国中の灯りが消されたりしていたが、こちらはそんな事は無く、ほとんどの家の灯りが灯されたままだ。経済面の発展のためかもしれないが、働く人々は全くもってご愁傷さまである。

だが、そんな事を差し置いても綺麗だったのだ。飲み屋の灯りだろうか、その辺の家から漏れる白い光以外の色の光も混じっていて、まるでネオンのような輝きを醸し出す光景は、幻想的と言う言葉がぴったりだ。


直哉が呆然と見とれていると、メイドが胸を張りながら言った。


「えっへん。選ばれたメイドしか知らない場所ですよ!誰も来ないだけだけど」

「後半が無ければエクセレントスーパーだったんだがな」

「えくせれんと…?」

「素晴らしいって事だよ」


メイドに言葉の意味を教えながら、直哉は考え事をする。


《さっきのあの男、大丈夫かなぁ…》

『そう言えば解凍してないよな…生きてるかな?』

《王国の土になれれば本望じゃね?》

『それもそうだな』

《…ってのは冗談で、解凍しとくかぁ。ウィズ、場所分かる?》

『ん…正面向いて左に15度、距離は200mってとこだな』

《よく分かるなー》

『神――』

《さいですか》

『………』


ウィズの自慢に耳を傾けず、直哉は魔力を練り始めた。首を傾げるメイドの前で、直径1m程の火の玉を生成した。


「わわっ!」

「大丈夫大丈夫、氷溶かすだけだから」

「こ、氷?」

「飛び切りでっかいのな」


言うや否や、火の玉を城下町に向けてぶん投げた。それは回転しながら飛んでいき、町のとある一角を直撃した。

少しして、誰かの悲鳴が聞こえてきた。それと、慌ただしい足音。次に、悲鳴をあげた人の「怖い助けて」と言う涙声。無事に兵士に保護されたようで、直哉は苦笑いした。


「ようし、これでオッケーだな」

「そ、そうですか」


振り向きながら直哉は呟いた。メイドが冷や汗を流していたが、見て見ぬ振りで切り抜けた。

直哉は話題の切り替えを試みた。


「うーん、他に良い場所とかってある?」

「あっ…えーっと、中庭なんてどうでしょう」

「ほほぅ…連れてってもらえるかな?」

「もちろんです!」


調子を取り戻したメイドが言った。冷や汗は止まってなかったが、見て見ぬ(以下略)。






中庭に着いた二人を迎えたのは、直哉の愉快な仲間達+メイドだった。


「あれま、みんな揃って中庭か。奇遇だのぅ」

「そだねー!」


シエルがとことこと近付いて来た。メイド達がいるから自重したのか、腕にしがみいたりはしなかった。

直哉はメイドを気にせずに(半ば無意識に)シエルの頭をなでなでする。最早日常茶飯事である。


「まぁ、みんなが揃った方が楽しいからな。ところで…」


直哉は愉快な仲間達を指差し、シエルに尋ねた。


「…あいつら、何やってんの?」


指が指し示す場所には、中庭に設置された机を囲む"出来上がった"愉快な仲間達がいた。案内のメイド達も一緒に酔っていて、どんちゃん騒ぎである。

指差した直哉に気付いた"酔っぱらい共"は、直哉を呼ぶように手招きした。


「はぁ…どーする?」

「行かなきゃ悪いよね…」

「私もそう思いますよ」


シエルはうんざりとしながら、メイドは何故か嬉しそうに答えた。

直哉は溜め息をつこうとした瞬間、誰かに腕を引っ張られた。


「早く来いよぉナオヤちゃん、俺の酒が飲めねぇってのかぁ?」


酔っぱらいA――ではなく、アリューゼだった。完璧に茹で上がった軟体動物のような顔をしていて、息が激烈に酒臭い。

鼻を塞ぎながら、直哉はアリューゼとコンタクトを図った。


「あー、分かった、分かったから――」

「うるせぇ!問答無用なんだよ、こっちゃ来いや!」


首根っこを掴まれ、アリューゼに連行された。シエルは苦笑いしながら着いてきている。メイドは…いつの間にか酔っぱらいの一員になっていた。

アリューゼが直哉を椅子に落とした。そして、痛がる直哉の前に半分程中身が入った酒瓶を置き、にんまりと笑う。


「飲め」

「無理」


即答した直哉に顔をしかめる。


「まさか…俺の酒が…」

「こんなに飲ませてどうするつもりなんだよ、俺を殺してーのか?」

「大丈夫大丈夫、これくらいじゃあ死にましぇーん!」

「バカ野郎!アルコール中毒と言う言葉を知らんのか!」

「なんだそりゃ」

「一気飲みしたら死んじゃうんだぞ!」


直哉の必死の説得が効いたのか、アリューゼは黙り込んだ。

尤も、黙り込んだのはほんの数秒だったが。


「んじゃあ、これ飲もうか?一気でね」

「ねぇ俺の話聞いてた?」

「はいはい聞いてましたよー、じゃあ飲みましょうねー」


効果無しのようだ。

呆れて席を立とうとすると、ルシオが肩を押さえて止めた。


「だめだよナオヤ、アリューゼさんのお酒ぇ…ひっく、飲まなきゃぁ…」


完全に酔い潰れている。そんなルシオの手を退けようとすると、


「らいぢょうぶれふぅ~、しにゃにゃいからぁ~」

「うふふ~」


右手をセフィア、左手をミーナに掴まれた。首を捻って確認しようとすると、ラルフが頭を固定した。


「ナオヤ…飲め」

「お前までッ?!」


まだ動かせる足だけを動かそうともがくと、土が直哉の足を包み込むように変形し、固まった。

魔術を使ったのは…アイザック。


「ナオヤも素敵なお酒の世界へ…」


ヤバい、普通にヤバい。

そう感じた直哉は、口を思い切りきつく閉ざした。

すると、誰かに脇を擽られた。身体を捩らせ抵抗するが、耐えきれずに口を開いてしまった。


「わははははぶっ!」


同時に、アリューゼに瓶を突っ込まれた。封は開いていて、坂さまにしたら一気に流れ込んでくる状態だ。

目を見張る直哉に笑顔を向けたのはシエルだ。顔がほんのり赤く染まっている。ミーナの魔の手が伸びていたようだ。


「いーっき!」


シエルが瓶を傾けた。同時に、直哉の口の中に酒が流れ込んだ。


「~~~~!!」


成す術も無く、酒をがぶ飲みしてしまった直哉。酒耐性が究極に低いのは知っているだろう。

意識が飛んだのは、それからすぐの事であった。

累計アクセスが150000突破!

嬉しくて目から溢れるガソリンが止まりません…


こ、これからもよろしくなんだからっ////

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