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第二十七輪:追われる身

相変わらず痛すぎる内容になってしまった…後悔はしている。

ぶっ倒れた直哉が起きるのと、ほかほかに暖まったメイド達が脱衣場に出てくるのは同じタイミングだった。

…正確に言うと、直哉が起きるタイミングが若干遅かったが。


「やめろよばーちゃん、川の水とかもう飲めねーよ…うぷっ!」


夢の中で川の水を無理矢理飲まされたようで、リアルで吐き気を催してしまった。暖かい気温も関係しているようだ。

慌てて起き上がり、水道に行こうとするが――


「うわぁぁぁ!」

「あ、ナオヤ様が起きたー」

「ほんとだー、おはよーっす」


――着替え中のメイドに見つかってしまった。ちょうど布を取ったところで、簡単に言うとワーストタイミングだ。

気温が高いのも湯上がりメイド達のせいである。


速攻で視界を両手で塞いで目をきつく瞑り、目からの情報をシャットアウトする。


「ちょっ、ちょっと!隠せ変態!!」

「あらぁ?ここは女湯ですよー?」

「うっ…」

「変態はー」

「どっちでしょうかねー?」

「うぅ…」

「面白いですねー!」

「う、うるさぁい!早く服着ろ!着てくれ!」

「"お願いします"はー?」

「お願いしますぅ!!!」

「うむ、よろしい」

「くそ…覚えとけよ!」

「はて、何の事やら…」

「ちぇめぇぇ……!」

「あははっ、着替え終わりましたよー」


メイドの自己申告を受けて、手をどかして目を開いて――


「ぶっ?!」

「にゃはー」


――メイドが眼前に迫っている事に気付いた。幸運(?)な事に、今度はちゃんとメイド服を着ている。

だが、胸元が開いていて、メイドは前傾姿勢だ。


「助けてぇーー!」

「あ、ちょっとぉー」

「逃がすなぁ…あれっ?」


直哉は目を瞬間接着剤でくっ付けたんじゃないかと言わんばかりにきつく瞑り、驚くべき速度でしゃかしゃかと逃亡した。勇者補正が無駄に役立ち、メイド達が追跡しようとした頃には入り口にいた。


外の風を感じたのか目を開く。すると、大浴場の正面にある広い窓が視界に飛び込んできた。

窓が光の腕を差し伸べる幻覚を見た。まるで、地獄のドン底に垂らされた糸のようだった。


「ぼかぁ…ぼかぁバトルロワイヤルを生き延びたんだ!」


天(井)に向けてガッツポーズをとる直哉。メイド地獄から無事脱出出来のがよっぽど嬉しいようだ。


少しすると、シエルがぱたぱたと駆け寄ってきた。間違いなく焦っている。

潤んだ目を直哉に向け、息を荒げながら叫んだ。


「早く、しなきゃ、捕まっちゃう、よぉ!」


叫んだとたん、後ろからメイド達の叫び声が聞こえてきた。


「あの二人を取っ捕まえろー!」

「ずぇーったいに逃がすなぁぁ!」

「ねぇ、もうやめ――」

「捕まえたら金貨十枚だぁ!」

「乗ったぁぁ!」

「前の二人に告ぐ、諦めるんだ!完全に包囲されている!」

「逃げ場は無いぞ!」


ドドドドドド…と言う効果音が聞こえる。幻聴ではなく、紛れもない実音だ。そして、砂煙をたてながらメイド達が押し寄せてきた。これも幻覚などではない。

背筋を冷たい風が撫でた。隣に来たシエルと向かい合い、直哉も叫んだ。


「よし逃げよう。捕まって解剖される前に」

「うん!」


二人はメイドとは逆方向に走り出した。周りの視線が微笑ましいモノを見る時のそれだが、実際は決死の逃亡劇の真っ最中である。

だが、足の速さは同じくらいで、このままでは鼬ごっこである。


「くそ、埒があかねーぞ!」


直哉が後ろを振り向く。メイド達も流石に疲れたのか、ちょっぴり減速している。だが、何故か先程よりも威圧感を感じる。

と言うより――


「…増えてね?」

「増え、てる、よね?」


――見間違いではなく、メイドの人数が二倍近くに増えている。

奥義"なかまをよぶ"を発動したようだ。新たに加わったメイドは体力にゆとりがあり、メイド達のペースが一段階上昇した。

対するシエルは


「はぁ…はぁ…ちかれたよぅ…」


見るからに疲弊している。息は荒く、ペースがみるみる落ちている。

このままでは、メイド達に捕まるのも時間の問題である。

仮に捕まったら…


「うふふ〜、つーかまーえたぁ(はぁt」

「やめて!弱いもの苛めかこわるい!」

「もう十分でしょ〜!」

「まだまだ足りません!」

「私達、か弱い女の子ですー」

「「どこがか弱――」」

「そんな事よりー」

「逃げちゃう悪い子達にはー」

「きつぅーいお仕置きがー」

「必要ですかねぇー」

「「「「ねぇー!」」」」

「さーて、それじゃあ早速…」

「遊んじゃおう!」

「そうしよう!」

「うーん、女装しても似合いそうね、ナオヤ様」

「嫌ぁぁぁ!」

「このフリフリはどうかな!」

「いやいや、やっぱ私達の服がいいよー」

「それもそうね…ぐふふ…」

「姫様はー!あぁんっもぅ、可愛い!ぎゅーっ!」

「やっ!ちょっ、くるし…」

「んんー、ふわふわですなぁ」

「ひゃぅ、どこ触って…きゃん!」

「うへへ、よいではないかー!」

「「「「ひゃひゃひゃ〜!」」」」


…解放された時、自分はどうなってしまうのだろうか。気付いたら腕からマシンガンでもぶっ放せたりしないだろうか。

そんな間の抜けた事を走りながら考える直哉。頭をぶんぶん振り、この考えを吹き飛ばす。


《考えちゃダメだ考えちゃダメだ考えちゃダメだ考えちゃダメだ考えちゃダメだ…》

『お前の妄想力もなかなかすげーな』

《あいつらなら、そんな妄想を現実のモノに出来るだろう》

『確かに…ナオヤー、捕まっちまおうぜ…はぁはぁ』

《実体化させてぶん投げてやろうか?多分ペットにしてくれると思うよ》

『…やめとく』

《遠慮すんなよー、飽きられたら捨てられるだけだからさ。裏路地が寝床だね、毎日がキャンピングだ!》

『ごめんなさい、僕このままでいいです、このままでいさせてください』

《えー…たまには課外活動も大事――》

「ふぁっ!」

「?!」


不意にシエルの悲鳴があがる。足を止めて横を見ると、シエルが尻餅をついていた。原理は分からないが、滑って転んだらしい。

それを好機と捉えたメイド達は、二人目掛けて飛び掛かる。


「あいたたた…」

「ぃよっしゃああああ!今だっ、引っ立てろー!」

「「「「さーいえっさー!!」」」」


効果音がドドドドドドからゴゴゴゴゴゴに変わり、目の色がヤバいメイド達が押し寄せてきた。名付けて「メイドウェーブ」。

シエルは見るからに血の気が引いている。顔面蒼白で、ただメイドウェーブを眺める事しか出来なかった。


《何か…メイド達を足止めする方法は…何かない?!》

『はぁ…捕まって欲しいけど、捨てられたくはねェからな…』

《いいからさっさと言え!バラされてーのか!!》

『…つるん』

《つるん?……あ!》


何かを閃いた直哉は、咄嗟に魔力を練り始めた。メイド達は構わんとばかりに突進を続ける。

直哉が両手を正面に翳す。左目と左手の六芒星が白く輝き出した。それを見たメイド達は驚いたらしく、少しだけ勢いが収まった。だが、足は止めていない。


「凍っちまえ!!」


不意に直哉が叫び、両手を左右に広げた。すると、最前列のメイド達の足元に氷が広がった。

それを踏みつけたメイドは


つるっ


「にゃ!」


ドスンッ!


綺麗に尻餅をつき、倒れ伏した。重そうな効果音だが、それは数人が同時に尻餅をついたからである。

その後ろのメイド達は、氷で滑って転んだメイドで躓いて、先に転んだメイドに覆い被さるように倒れ込んだ。次々と転んでいき、メイド達は全員撃沈。通路を塞ぐメイド達は、まるで死屍累々と言った感じだ。


「うぐぐぐ…」

「ぐあー…」

「オオオ…」


手を突き出して直哉達を捕まえようとする様は、まるでゾンビである。生命災害の屍もびっくりだ。


そんなメイド達を見ながら、直哉はシエルを引っ張り起こす。


「もう大丈夫だ、危機は去った」

「………」

「ん?どうした?」

「ナオヤ、目…」

「目?」

「白くなってる…」

「…紫の次は白か」


唖然とするシエルに言われて、直哉は溜め息を洩らした。紫よりも白のが目立ちまくりだからだ。


「カッコいいよ、ナオヤ!」

「あはは…」


乾いた笑いしか返せなかった。


「と、取り敢えず逃げよう…」

「うん…バイバイ、メイドさん」


シエルはメイド達に手を振る。そんなシエルを引っ張り、直哉は足早に立ち去る。

メイド達は二人を捕まえようとしたが、一番威勢の良かったメイドが一番下に、最早ヘロヘロだったメイドが一番上に倒れたので、そうもいかなかった。


「ちょっと、どいてよ!」

「うーん…むにゃむにゃ…」


ヘロヘロメイドはおやすみタイムだ。周りのメイドにしがみついて、寝息をたて始めている。尚更身動きが取れなくなってしまった。目の前の二人えものを易々と逃がしてしまったのだ。


「「「「うわぁぁぁん!覚えとけよぅ!!」」」」


心底悔しそうなメイド達の悲鳴が王宮に木霊した。それを見た二人は


「「「「〜〜!」」」」


悔しそうに叫んだメイド達の前で、優雅にスキップを開始した。軽やかなリズムで去っていくシエルは、二人がメイド達の悔しさを格段に跳ね上げた事に気付いていない。

直哉は言うまでもなく、それを狙ってやったのだが。


「ふん、ざまーみろってんだ!」

「ほぁ?」

「いーや、何でもないよ」


町へ向かう二人は、メイド達にも天誅を喰らわせる事に成功したのであった。






無事に王宮から脱出出来た二人は、城下町の裏通りに隠れていた。既に正午を過ぎて、二人のお腹も悲鳴をあげているのにも関わらずだ。


「はぁ…どうなってんだよ…」

「ナオヤが英雄だから?」

「やめてくれよ、全くもって良すぎる迷惑だ…シエル、それを知ってて町に行こうと?」

「うん、そだよ?」

「………」


二人が裏通りに隠れるのには理由がある。

少し前に遡ってみよう――




「おー、相変わらずでけーな」

「それにみんなも元気だよ!」


城下町を視界に捉えた二人は、自然と足早になる。

あっという間に城下町に着いた二人。すると、シエルが案を出す。


「うーん、シエルお腹すいちゃった…何か食べよ?」

「おー、大賛成だ!俺も腹ペコだわ!」

「ふふっ、ちょっとは加減してね?」

「ちぇっ、分かったよ」

「あははっ、王宮のご飯はいっぱい食べていいからね!」

「うむ!」


まずは食べ物を探す事になった。ついでに城下町を知る事も兼ねて、直哉はそれに大賛成した。


食堂を探すために道を歩く二人に、町民は突然話し掛けてきた。


「わぁ、姫様だー!」

「今日はエアレイドの英雄も一緒ですね」


ピタリと動きが止まる直哉。変な言葉が聞こえた気がした。


「エアレイドの…英雄?」


聞き返した直哉に、声のトーンを何倍にも張り上げて答えた。


「知らないんですか?王国間の戦争を止めたんだーって、そりゃもうかなり有名ですよ?!」


町民の声はやけに響き、周りの注意を引くのには十分すぎた。


「英雄?!」

「聞き間違いじゃないよな?」

「そう言えば、姫様に、その隣の人…」

「黒尽くしだ…」

「あの黒い髪も…」

「間違いない!」

「「「「英雄だぁー!」」」」


不意に地鳴りが聞こえてきた。キョロキョロと周りを見渡す直哉は、見渡した瞬間に凍り付いた。


砂煙をたてながら町民が突進してきたのだ。それも、先程のメイド達の比ではない。津波ならぬ人波、それもとんでもない勢いのだ。

命の危険を感じた直哉は、シエルの手を掴んで逃亡を図る。


「シエル、逃げるぞ!」

「う――」

「逃がしませんよ?」


がしっ


事の発端である町民が直哉の左手を掴む。なかなか強い力で、そう簡単に振り払えない。


「やめろ!離せ、離すんだ!」

「嫌だ!離すもんか!」


町民も必死で、一向に離そうともしない。

ぎゃーぎゃー騒ぐうちに、人波はすぐそこにまで迫っていた。何事かと集まった野次馬達は、二人が視界に入った瞬間に人波の一部になった。


直哉がシエルにアイコンタクトを送った。シエルも流石に焦っているようだったが、直哉と目があうと苦笑いして応えた。それを肯定と取った直哉は、シエルの手を離して、身体から力を抜いた。

急に抵抗をやめた直哉を、町民は勝ち誇った目で見た。だが、次の瞬間には絶望の眼差しに変わった。


「あ…あぁぁ…」

「さて、ここで問題です。貴方の人生はどうなるでしょう?」


直哉が目に見える魔力を纏い、輝く笑顔で見つめ返してきたのだ。身体中がバチバチと唸り、稲妻が沸き出している。

直哉が右手の人差し指・中指・薬指を突き出す。


「いちばん、ここで手を離して何事も無かったかのような人生を送る。にばん、ずっと掴んだままで痛め付けられる。さんばん、何かを考える前に抹消される」


人波が近付いてくるのに比例して、直哉の纏う魔力も膨れ上がる。思わず手を離してしまう町民。地面に座り込み、両手を絡ませて祈っているようなポーズを取った。


「ひぃぃいっ!命だけは、命だけはぁぁっ!」


すると、直哉は優しく微笑んだ。魔力は纏ったままだが。


「よしよし、いい子だね」

「はひぃっ!」


再びシエルの手を握る直哉。シエルは驚きもせず、直哉の手を握り返した。

直哉は追い風をイメージする。自分の後ろから風が吹けば、その分速く移動できるのだ。


「速く走れるように!」


六芒星が緑色に輝く。それと同時に、二人を薄い風の膜が包み込み、二人がびっくりした。


「わっ!身体が軽い!」

「おー、こりゃすげーな」


身体が羽根のように軽いのだ。直哉がイメージした風が、動こうとする方向の後ろから吹き付けてくるのだ。

驚くのと同時に、人波が到着した。


「シエル様ー!」

「今日も可愛らしいですねー!」

「付き合ってくださぁぁい!」

「握手してくれー!」

「英雄様ー!」

「私の恋も救ってくださぁぁい!」

「キャーッ!」


次々に何かをのたまっている。直哉に許しを乞った町民は、人波に飲み込まれて


「うぎゃぁぁぁ!」


無惨にも散った。

そして、人波は二人を飲み込もうとするが――


「行くぞ、シエル!」

「うんっ!」


タタンッ!


最前列の町民の手が届く寸でのところで、二人は後ろに飛び退く。そして、そのまま凄い勢いで吹っ飛んでいく。


「うわわわわわわっ!」

「落ち着けシエル、ちゃんと掴まっとけよ!」


シエルは直哉に従い、胸元にしがみついた。それを見た人波から「キャーキャー!」とか「姫様をたぶらかすんじゃねぇ!」等、怒声と言うか悲鳴と言うかよく分からない声が聞こえてきた。

そんなのお構い無しに、直哉は体勢を立て直して着地、そこから地面を飛ぶように(実際には跳んで)逃げていった。


「あれが英雄の力…!」

「流れるような逃げ足…」

「英雄様ぁ、素敵ですぅ!」


関心するところが間違っている気がしなくもないが、人波を構成する人々は大いに関心していた。

そうしてる間にも直哉との距離は広がる一方で、ついに見失ってしまった。

だが、諦める人はいなかった。


「探せぇー!まだ近くにいる筈だ!」

「「「「さーいえっさー!」」」」


凄まじい足音が響き、人波が散って小波になった。それは城下町にまんべんなく響き渡っていく。


そして今に至るのである――




日は傾き、オレンジ色の光を投げ掛けている。いつの間にか夕暮れになってしまったようだ。


直哉は首だけを裏通りから出して、周りを見回す。件の脅威は無くなったようだ。

首を引っ込めて、座り込むシエルの隣に座り込んだ。シエルはぐったりとしている。


「うー…お腹すいた…疲れたぁ…眠いよぅ…」

「町があんなに危ないところだったとはな…」


直哉もぐったりとした。栄養補給を怠っただけではなく、あんなに恐ろしい体験をしたのだ。寿命が半分減ったかもしれない。


《…どうしよう、このままじゃ町を歩けないぞ…》

『今はそれよりも、シエルちゃんを無事に王宮に戻す事が優先だろ』

《そうでした…町中歩いてたら、どうなっちまうか分からんな》


直哉はシエルに視線を向けた。壁を背もたれにして、一定のリズムで寝息をたてている。

可愛らしい寝顔を見て、直哉はにっこりと微笑んだ。


《裏通りで寝れるシエル…すげーな》

『精神的に疲れたんだろ…』

《あんな焦点の合わない視線で追い掛けられたらなぁ…》

『すっごいビビってたよな、ナオヤも』

《何のお話ー?》

『しらばっくれんなヨ…まぁいいや、そろそろ帰れば?』

《ぐぅ…仕方がない、そうしよう》


シエルを抱き起こし、お姫様抱っこした。甘い香りが鼻腔を擽り、煩悩が沸き上がった。

ぶんぶんと頭を振り、平静を保つ。閑話休題邪念退散。


だが、煩悩の次には新たな問題が沸き上がった。


《…どうやって帰る?》

『………』

《このままじゃ、捨てられた野良猫になっちめーぞ》

『にゃーん』

《キモい》

『黙れ』

《いいからなんか考えろよ!》

『あァ?テレポートすりゃいいだろ』

《………》

『…オイ、どうした――』

「それだ!」


直哉は急いで魔力を練り始めた。そして、王宮をイメージする。同時に――


「おい…今、声がしなかったか?」

「あぁ、聞き間違いじゃないな」

「いたぞー!姫様と英雄だ!」

「「「「わぁぁー!」」」」


――小波にも見つかってしまった。次々に直哉に襲い掛かる。

だが、直哉が魔力を練り上げる速度には敵わなかった。直哉は少しの魔力を練り上げた。

しかし――


「あー分かった、俺達の敗けだ、敗け。煮るなり焼くなり埋めるなり、もう好きにしてくれ」


あろう事か、シエルをお姫様抱っこしながら座り込んだ。しかも、潔く敗けを認めているのだ。

それを見た小波達は


「や…」

「やったんだ…」

「うぉぉぉ!」

「姫様アアアア!!」


口々に雄叫びをあげている。そして、その雄叫びを合図に、次々と人が集まってきた。


「見つけたのかァ?!」

「あぁ、二人揃ってるぜ!」

「抱っこしてるぅぅぅ!」

「シエル様替わってぇぇ!!」


いつの間にか人波が再結成されていた。しかも、今回は狂気の色が見て取れた。先程のよりは小型だが、脅威レベルが跳ね上がっている。

人波が少しずつ寄ってきた。じりじりと迫ってくる姿は、昼間に見たメイドウェーブそのものだ。


二人と人波の距離が2mとなった。すると、不意に声が上がった。


「行けぇ、野郎ども!二人を引っ捕らえろぉぉ!」

「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」」


それを切っ掛けに、人波が襲い掛かる。まるで雪崩れ込むように、狭い裏通りを埋め尽くした。

そして、二人に手を伸ばし――


「ごめん、気が変わった!」


――伸ばされた手は空を掴むに留まった。


直哉が叫んだ途端、かすかな魔力が発生して、二人が視界から消えたのだ。

唖然とする人々。辺りを見回しても、どこにもいないのだ。


静寂が満ちた裏通り。日の光も薄くなり、夜の帳が降りていた。

肌寒さが人々の頭を冷まさせたようで、自分達がやってしまった事を見つめ直させた。


「俺は姫様に…」

「なんて事をしちまったんだ…」

「嫌だよぉぉぉ!」

「死にたくない死にたくない」

「おかーさぁぁーんっ!!」

「あぅぅぅ…」


次々と崩れ落ちる人々。膝と両手を地面に着け、次々と絶望の言葉をあげはじめた。


次の日、コラーシュが直々に「二人を苛めてはいけない」と言う条令を発布したとか。






直哉がテレポートした先は、シエルの自室である。


無事に帰ってこれたことを神様(ウィズ以外の)に感謝し、シエルをベッドの上に寝かせる。だが、しっかりと服を掴まれていたので、そのまま立ち去る事が出来なかった。

仕方無しにベッドの下に座り込む。


『お前、好かれてるなぁ…』

《身近にいたからだろ》

『そもそも姫様を抱き上げるなんてよー』

《そうしなきゃ、俺達はサイボーグにされてただろ?》

『それもそうだな…じゃあさ、あの時の煩悩はどう説明すんだ』

《ぐっ…あ、あれは――》

『あれは何だ?え?ナオヤさんよぉ!』

《うぅ…》

『立派な変態だな、お前もガープやらメイドやらと同類だ、ど・う・る・い!』

《………》

『そもそもお前、奥手にも程があんだろ…っておい、聞いてんのか!おい――』


ウィズの説教を子守唄に、直哉は深い眠りに就いた。悪夢に魘されたらしいが、詳しくは語ろうとしなかった。


『メイドに見つかったらどーすんだよ…はぁ…見つけてくんねーかなぁ』


ウィズの微妙に嬉しそうな呟きは、自分に向けてのモノであった。

こんな駄作なのに、累計アクセスが10万突破しそうです…!

ありがたやーありがたやー!


これからもよろしくお願いしまする!

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