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第二十六輪:メイドの脅威

こんなハーレム体験してみたいですね…直哉が羨ましいです。


ばっ、ばーろぉ!こりゃ汗だ!目に砂が入って汗が出てきただけだ!

王宮で悪者(騎士団の団長達)にお灸を据え、成敗(恐怖心植え付け)を完了した直哉とシエル。軽やかな足取りで城下町に向かう二人を見ていると、先程の気まずさなど無かったかのようだ。


通りすがりのメイド達がにこにこしながら挨拶していく。


「こんにちわー、今日も熱いですね、お二方」


メイドは「熱い」と言ったのだが、二人は「暑い」と認識したようだ。盛大な勘違いである。


「あら…熱でもあるのではないですか?」

「睡眠はいいぜ?煩悩を取り払い、無我の境地へと誘ってくれる。風邪も吹っ飛ぶよ」

「いや、そう言う意味じゃ――」

「無理は禁物です!さ、休んだ休んだ!」

「え、だから、違っ――」

「諦めるんだな、そうなったシエルは強いから」

「でも、まだお仕事が――」

「私がやります!貴女は安心してお休みくださいね」

「え、いや、そんな事――」

「姫様命令ですから」

「う……」


シエルの必殺技が炸裂した。抵抗手段を持たないメイド(フィーナ以外対抗出来ないが)は、直撃を喰らって撃沈した。


「大丈夫です、ナオヤも手伝ってくれますから」

「え?俺も手伝うの?」

「ダメ…?」

「滅相もございません」


胸の前で両手を絡み合わせてもじもじとし、身体を縮こまらせ、極めつけに悲しそうな表情で俯いて上目遣い。

直哉に逆らう術は無く、何を感じたのか土下座までしている。

唖然とするメイド。思考が追い付いてないらしい。


それを見たシエルはニヤリと笑った。


「――と言う事だから、貴女はゆっくり休んでくださいね?」

「はぁ…」

「ほらナオヤ、行こ!」

「くそぅ…」


満足げなシエルに手をひかれて歩くメイドと、首根っこを掴まれて引きずられる直哉。その異様な光景を見るメイド達の目は点になっていた。


「あら…あの子、何かやらかしたのかしら」

「さぁー、姫様笑顔だし、いいことじゃ?」

「そうかしら…物事には裏があるモノよ?」

「…まさか、姫様…女の子に手を出す――」

「でも、男の子も引きずられてますよー?」

「あらほんと…うん、なかなか…」

「あれぇー…よく見たら、ナオヤ様だぁ」

「何で首根っこ掴まれてるんだろう」

「王宮での仲睦まじいお姿…間違いないわ、あの二人は――」

「じゃあ何でメイドが連れてかれてるのかなぁ」

「…やっぱり、姫様は――」

「むがー!」

「「「「ひぃっ!」」」」


好き放題ぼやいていたので、シエルが一喝(?)した。一瞬で静まり返った。


「この人の調子が悪そうなの!!」

「まぁ、それは大変…」

「ちょうどいいわ、休憩室のベッド借りますね?」

「そんな理由なら、誰も咎めたりしませんね」

「良かったですね、ゆっくり休めますよ!」

「はひ……」


今更「実は元気でしたー!姫様ったら心配性(はぁt」なんて口が裂けても塞がれても縫われても埋められても言えず、メイドはシエルと言う濁流に流されて漂流する事しか出来なくなった。

その濁流は、哀れな子羊なおやにもダイレクトに直撃する。


「でも姫様、その子の抜けた穴はどうするんですか?」

「私"達"が埋めます!」

「ぐぇっ?!」


メイド達の問いに、直哉を突き出して答えた。首根っこを掴まれて引っ張られ、直哉は苦しそうな鳴き声をあげた。

そんな直哉を気遣いつつ、メイド達が告げた一言で空気が変わった。


「へぇ~…入浴のお手伝いがその子の仕事ですよ?」

「「え゛……?」」


凍り付く二人、特に直哉。余りの衝撃に呼吸すら忘れてしまったようで、ぴくりともしない。

それを見たメイド達は、にんまりと笑いながら言った。


「朝風呂に入る方がいるから、その方のお手伝いをするんですよー」

「な……っ!」

「脱がせたり着せたり、必要があれば…キャー!」

「………」


直哉は確信した。


《メイドがシエルを染めようとしてるに違いない…》

『間違いねェ…はぁはぁ』

《息が荒いぞメタボリックシンドロームネズミ》

『黙れィ!何故貴様は正気を保てる!』

《だってさぁー》


そこまで念じて、不意に口を開いた。


「メイドさんの穴をシエルが埋め――」

「ナオヤも、手伝ってくれるんだったよね?」

「いや、だってさ、メイドさんの穴は人一人が埋めてぴったりだし――」

「酷いよぅ…手伝ってくれるって信じてたのに…シエル、独りじゃ頑張れないよぅ…」

「喜んで手伝わせてもらいます!あー楽しみだなぁあはははは!!」


最早シエルの手駒になってしまった直哉。上手に利用されている。

そんな直哉を見て、シエルは眉を潜めた。


「楽しみ…?…ナオヤ、ケダモノ…?」

「………」

「「「「………」」」」


流石のメイド達も憐れみを抱いたらしく、直哉に同情の眼差しを向けた。周りからの様々な視線が直哉を貫き、直哉は精神的に穴だらけにされてしまった。


「や、やると決めたからには…しっかりしなきゃいけませんね」


決意を新たにしたシエル。だが、ぷるぷる震えるのまでは隠せなかったようだ。

腕を掴まれたメイドが心配する。


「あの…私やりますよ?少し休めば――」

「ダメです!貴女は絶対安静!姫様命令!!」

「………」


シエルは頑なに譲ろうともせず、やるの一点張りだ。

メイド達は感激の意をシエルに伝える。


「私達のために、ここまでしてくださるなんて…」

「シエル様ぁ、反則ですよぅ…ぐすっ」

「シエル様ぁぁぁ!」

「え、ちょっと、どうしたの?!」


泣き崩れたり抱き着いて来たり奇声を発したり…メイド達が慌ただしくリアクションを取り始めた。対応出来ずに狼狽えるシエル。

不意に一人のメイドが言った。

「こんなにも素晴らしい姫様一人に仕事をさせようものなら、私達は一生後悔するでしょう…」

「ほぇ?」


宣誓っぽく語り始めたメイド。それを聞いた直哉は、ある可能性に全てを賭けた。


《「私達が頑張りますから、姫様達は遊んでてください!」…この流れだ、間違いない!》

『先に言っとく、御愁傷様』


ウィズが両手を合わせる錯覚が直哉を襲った。それと同時に、メイドが声を張り上げた。


「この素晴らしき姫様に、全負担を負わせたりしません!」

「この素晴らしき姫様を、全力でお手伝いします!」

「姫様だけにいい思いはさせません!あんな事のおこぼれは、私が…キャー!!」

「はぁ…」


メイド達が"手伝って"くれるようだ。最後のは別として、だが。


《そんな風に思うんだったら、いっそ代われよってんだ!》


直哉の賭けた5割の可能性"手伝わなくて大丈夫ですよ"は、無惨にも打ち砕かれた。

だが、まだ5割残って――


「そうと決まれば、早速向かいましょう、姫様!」

「私達、全力で手伝わせてもらいますね!」

「はぁはぁ、楽しみ…」

「そ…そうですね、よろしくお願いしますね?」


シエルとメイド達が歩き出した。直哉はその場に座り込んだまま動かないつもりだったが


「ぐふっ…」


シエルは直哉の首根っこから手を離さず、引きずっていく。


残りの5割"直哉は休んでていいよ?"もぶち抜かれ、その幻想はがらがらと崩れた。

引きずられていく直哉の目は、荷馬車に揺られる子牛の目さながらの哀愁を帯びていたとか。






楽しい時間は早く感じ、苦しい時間は遅く感じる。人間の定め(?)である。

そんな中、目の前にある大浴場を前に武者震いをする者が一人。


「ほらナオヤ、早くおいで!」

「うぅぅ…やっぱり行かなきゃ――」

「だーめ!」


直哉だ。

どういう訳か、大浴場までの道のりが物凄く短く感じた。その代わりなのかどうなのか、視界に大浴場を捉えてからの時間の流れが遅く感じる。例えるなら、自分にだけヘイストを何回も掛けたような感じである。

因みに、武者震いと言うのは微妙に違うらしく、ただ単に怖いだけらしい。


この大浴場の規模がこれまた凄いの一言で、大型の銭湯のようなモノが二つ(男湯・女湯が一つずつ)あるのだ。

だが、メイド達がいるのは女湯の入り口である。抵抗虚しく中に引きずられていく直哉をきらきらした目で見つめるのは――


「わぁ、男の子がいるよ」

「ほんとね…メイドさんに囲まれてるけど」

「もしかして…メイドさん達と一緒に…?」

「やだー、私お化粧してないわよ!」

「これからお風呂に入る人がよく言うわね」

「あっ…そうだった」

「「あははははっ」」


――半裸の女性達。

男性がいるにも関わらず、隠そうともしないのである。

因みに、入浴時に布を巻くのは王族用浴場だけらしい。


そんな女性を前に、まるでメドゥサに睨まれたかのように、直哉は石化していた。目はきつく閉じられていて、下を向いている。だが、このままでは仕事にならない。

意を決したのか、顔をあげる。すると、布を巻いたシエルにメイド達がいた。


「…あれ?」

「私達はこれを纏うんですよ」


そう言いながら、胸元の布を引っ張るメイド。ふくよかで見るからにふわふわな――


「待て待て待て待て、待つんだ、落ち着け、早まるな!」

「どうかしましたかぁ?」


視界を瞼で遮り、ニヤリと笑うメイドを薄目で睨んだ。もう布を引っ張ってないようで、ちゃんと目を開く。

直哉が明らかに初だと言う事を知ってるメイド達(情報源はセラがメイン)は、面白そうに直哉を弄る。直哉は顔を真っ赤にし、ぎゃーぎゃー騒いでいる。


「やめろー!仕事行け仕事!」

「それもそうですねぇ」

「それじやあ早速…」

「仕事に取り掛かりますかぁ」


メイド達が直哉を取り囲む。そして、じりじりと距離を詰めて来た。


「な、何だよ…」

「ナオヤ様、知ってますかぁ?」

「私達の仕事って――」

「服を脱がせたりする事も――」

「含まれるんですよー?」

「やっちゃえー!」

「「「「わーーーー!!」」」」


メイド達が掛け声と共に飛び掛かってきた。腕を掴まれ足を掴まれ、直哉を地面に大の字に転ばせた。

シエルはただ呆然と眺める事しか出来なかった。


両手足を拘束された直哉はひたすらもがいている。


「やめろー!対象が違うだろ、対象が!!」

「だってナオヤ様――」

「まだ着替えてないしぃ?」

「そ、それは今から――」

「待てませーん」


悪意の籠った笑顔で見つめてくるメイド達。直哉の服に手をかけ、ニヤニヤしながら囁いた。


「それじゃー、脱がしますね?」

「大丈夫です結構です自分で脱げま――」

「遠慮するなんてー」

「悪い子ですねー」

「これはちょっとー」

「お仕置きが必要ですかねー」

「ねぇこれなんて拷問?」

「さぁー」

「わかりませーん」

「それではー」

「一気にがばっとー」

「むいちゃいなさい!」

「あいあいさ――」

「だめー!!」


シエルが水を集めて、メイド達の頭上に雨を降らせた。直哉にはギリギリで当たらないようにされていた。


「うにゃぁぁぁぁ!」

「つめたっ、ぢべだぁぁあ!」

「姫様何を――」

「頭を冷やしなさい!」

「………」

「…はっ、私は何を…」


数秒間頭に冷たい雨を喰らい、メイド達もようやく我に返ったようだ。

だが、直哉にとっては返って大ダメージとなった。


「!!!」


メイド達の纏う布が肌に密着していて、ボディラインが露にされている。それも、周り全員。見ないようにしても視界に入ってしまうのだ。

前からだが、この世界の人はスタイルが良すぎるようだ。町も例外ではなく、そんな人達で埋め尽くされている。


直哉がお花畑に旅立とうか真剣に悩み始めた頃、シエルが叱るように言った。


「ナオヤは玩具じゃないです!」


それに食って掛かるメイド達。相手が姫様だろうと、こればかりは譲れないらしい。


「それじゃあ、ナオヤ様は姫様の何ですか?」

「えっ…」

「見知らぬ他人?」

「他人以上お友達未満?」

「お友達?」

「お友達以上恋人未満?」

「恋人ですかぁ?」

「いやいや、あいじ――」

「敢えての奴隷!!」

「ペットってのも――」

「うがぁー!!」

「「「「ひぃぃぃっ!」」」」


シエルの烈々たる雄叫び(?)に気圧され、悲鳴を洩らすメイド達。揃ってシエルを見上げている。

そんなメイド達を掻き分け、シエルは直哉を抱き起こした。当の直哉は


「わぁ…スイカがいっぱい浮いてるよぉ…実にけしからん…」


等と呟いている。どうやら完全に飛んでしまったらしい。

そんな事は露知らず、シエルはメイド達に言い放った。


「ナオヤは私の大切な人です、そんなに苛めないでくださいっ!!」

「「「「……!」」」」


メイド達が一斉に息を呑む。目を見張り、明らかに驚いているようだ。

シエルは怪訝な表情を浮かべ、メイド達の様子を伺っている。


すると――


「それは…」

「姫様にも…」

「ついに春が…」

「あの純情姫様が…」

「ついに大人の仲間入りを…」

「なっ?!」


感動の余り、満足に話せなくなってしまったようだ。

そして、喜ばしい口調で


「ついに、ついに!姫様が大人になるのね!」

「大丈夫ですよ姫様!私達が教えた通りに!」

「何食わぬ顔で腕を抱き締めて!」

「少し寄り掛かるように!」

「えっ、えぇっ?」


戸惑うシエルを気にも止めず、メイド達は続ける。


「引っ張ってもいいかな?」

「昼間は可愛らしくね!」

「晩御飯の時にお水とお酒をすり替えて!」

「夜は積極的に!」

「酔わせたところを――」

「押し倒して――」

「あとは流れに身を任せて…キャー!!」


メイド達はピンク色の異世界に集団移動してしまったようだ。シエルに伝えると言うより、自分達の中で確認していると言ったような感じである。


シエルは真っ赤になりながらも溜め息をひとつ吐き、ちょっぴり集中して頭上に水の球を作り出した。数はメイド達の人数分で、全員がもれなく喰らえるようだ。


大きく息を吸い込み


「ばかぁぁぁぁあああああ!」


力一杯叫んだ。

同時に、水の球が勢いよくメイド達にぶつかった。水が弾ける音と共に様々な悲鳴があがり、メイド達は頭を抱えて踞る。

そんなメイド達にシエルの怒声が飛んだ。心なしか恥ずかしそうな声色である。


「へっ…変な事ばっかり言わないでくださいっ!」

「あいたたた…姫様が聞いてきたのに――」

「じゃーかましぃ!!!」

「「「「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」」」」


全員が揃って土下座を開始した。横一列に並び、左端のメイドから頭を下げ、次はその右のメイド、その次はそのまた右のメイドが土下座…右端のメイドが土下座すると、次は左端のメイドが起きて、その次はその右のメイドが起きて…

綺麗な土下座ウェーブを見せつけられたシエルは、立ち上がって腕を組む。


「分かればよろしいのじゃ」

「ははーっ!」


今度は一斉に土下座した。息が揃ってるところを見ると、この土下座も手馴れたモノらしい。

土下座するような事ばかりやってるメイド達は、私達に精一杯の親しみをくれてるのだとシエルは考えている。ただ単に舐められてるだけなのだが、シエルは気付かない…と言うより、気付けない、気付いても何もしない。フレンドリーな関係が好きだからだ。


メイド達の反省を感じたのだろうか、シエルがメイド達に顔を上げさせた。


「ごほんっ!面をあげぃ!」

「ははーっ」


口調が時代劇調になったのだが、特に意識した訳ではないらしい。

こんな話をしたからか、口調が元に戻ってしまった。


「私達はお仕事に来てるのですよ!」

「「「「あ゛……」」」」


すっきりさっぱり忘れてるメイド達。シエルの水属性魔術で流されてしまったのだろうか、ただ単にドジっ娘なだけ――


「ドジっ娘じゃないもん!」

「ふぇっ?!ど、どうしたの急に…」

「今ね、私達を「ただのドジっ娘」って…邪悪な意思を感じたの」

「ひどーい!私達ドジっ娘じゃないよ!」

「そうだそうだ!躓いてお盆の上のコップをひっくり返したりするだけだもん!」

「花瓶割っちゃっただけだもん!」

「ふぅ~ん、花瓶割ったんですかぁ?」

「そう!遊んでたら、がしゃー……ん………って…………」

「そうなんですかー、知りませんでしたよー!」

「あ…いや、これには…その…訳が…」

「遊んでたから?」

「はいっ!…………あ」

「素直なのはいいことですよねー」

「で、ですよねぇ~…あは、あはははは…」

「うふふっ、後でゆぅぅぅぅ~っくりお話を聞きますね(はぁt」

「はぅぁ~…」


――ドジっ娘、間違いなしである。


そんなメイド…ドジっ娘達に溜め息を吐き、再び仕事だと言う事を言おうとするシエル。


「それと、私達は――」


ガララッ


「ふー!暖かかったねー!」

「いい湯でしたなぁ」

「「「「「………」」」」」


先程直哉をからかっていた人が、浴室から出てきてしまった。

もう一度確認するが、シエル達の仕事は"入浴する人達の世話"である。そして、目の前には湯上がり美女さんが屯している。

つまり――


「仕事放棄……」

「あちゃー、やっちゃいましたね」

「何他人事みたいな事言ってんのよ!私達の首が第三宇宙速度で渦巻銀河に突入しちゃうかもしれないのよ!」

「星の海へ大冒険ですかー、楽しそうでーす!」

「星の海なんて勿体ないわ、その辺に穴掘って水注いで、そこに埋めてあげる」

「大丈夫だよー、姫様は優しいから…ねっ?」

「………」

「……ねっ??」

「………………」

「ぐすっ…ね…、ねっ?」


メイドが泣きながらシエルにすがる。シエルは冷酷な眼差しをメイドに投げ付けていたが、やれやれと言った感じに溜め息を吐いた。仮に溜め息×1で幸せ-1だとすると、シエルは今頃奈落のドン底を掘り下がっているだろう。


「はぁ…私は、今日は何も見てません」

「ぃやっふぅぅい!」

「次はどうしましょうかね…一日遊んでもらいましょうか!」

「姫様になら連れ回されたいですー!」

「奴隷志願…?」

「…姫様に、なら…私…」

「それなら私だって…」

「私も…!」


シエルに詰め寄るどれ…メイド達。頬が赤らんでいる。


「また頭冷ましたいですか?」

「いやいいです」

「謹んでご遠慮します」

「遠慮しなくていいのに…」

「いやいや…はっ、はっ…」

「はっ?」

「「「「「はっくちょん!」」」」」


メイド達が揃ってくしゃみをし、ぶるぶると震え始めた。シエルの冷水攻撃を喰らい、体温が下がってしまったようだ。

シエルは慌てながら言った。


「大変!このままじゃ風邪ひいちゃいますね…お風呂で暖まってきましょうか」

「さんせー!」

「姫様も一緒に!」

「拒否権は無いよ!」

「えっ…そんな、私はナオヤを看なきゃ――」

「ナオヤ様もいれちゃえば?」

「妙案だぁ!」

「え…でも、起きてないし――」

「うぅ…寒いよぅ、シエル様ぁ…」

「震えますぅ…」

「身体が熱っぽいよぅ…」

「ふぁーくちゅん!」

「くぅ…」


寒いと言われるとシエルも弱ってしまう。寒くしたのはシエルの魔術…詰まり、シエルが悪いようなモノだ。

しかし、直哉を風呂に突っ込めるかと言われると素直には頷けない。


「うーん…ナオヤだけ、寝かせてあげれないかな」

「またまたー…姫様、ナオヤ様に甘いんだからー」

「そ、そんな事ないですよー!」

「なにおう!こいつぅっ!」

「ふぁっ、や、やめっ、きゃぅぅ!」


メイドの一人がシエルの脇をつつく。可愛らしい悲鳴をあげ、脇をつつく手から逃れるシエル。その姿は、メイド達にたいそう評判であった。


「あはっ、姫様可愛い~!」

「もぉ~っ!」


真っ赤になるシエルを半ば無理矢理浴室に連れ込むメイド達。直哉はその場に寝かされたまま放置された。


「ぶぁーっくしょい!」


独りになった直哉のくしゃみが、独りしかいない脱衣場に木霊した。

シエルが真っ赤な顔で涙目になって出てきたのは、だいたい二時間後…正午くらいであった。

脱衣場で眠る直哉は、夢の中で星になったおばあちゃんと会話していた。

いつものお花畑ではなく、和風な花が控え目に咲いている。近くを流れる巨大な川には睡蓮が浮かび、心が安らぐ場所だ。


「わ、ばーちゃん!」

「おやおや、私の可愛らしい愚息の底辺じゃぁないか」

「相変わらずだなチクショー!」


いつものおばあちゃんだったので、ちょっと安心したようだ。


「しかしすげーな、夢に生死の境目なんて関係無いんだなー」

「小説じゃしのぅ」

「言わない約束だろ?」

「ふぉっふぉっ…しかし愚息よ、女難の相が出ておるぞ」

「よく分かるな…」

「死者の勘じゃ」

「何それすげぇ、けど欲しくねぇ!」


神崎家はこんな感じの会話が日常茶飯事だ。久しぶりのおばあちゃんとの会話だから、テンションが上がってるのもあるだろう。


「金髪で空色の目の小さな女の子…この娘に苦労してそうじゃのぅ」

「死者の勘、恐ろしいな」

「舐めてもらっちゃ困るぞよ」

「舐めたくて舐めてた訳じゃねーぞ」

「まぁまぁ、仲良くなりなさいよ」

「あぁ、さんきゅ…うわっ!」


おばあちゃんが透けて、後ろの背景が見えた。


「そろそろ時間のようじゃ…ま、元気でな愚息」

「待てよばーちゃん!ば――」


不意に目の前が明るくなる。直哉は思い切り目を瞑った。

次に気がついたのは、目の前でメイド達が着替えてる時であった。

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